文字サイズ:

151.まぶたが重い

次の症例も、症例150の方です。
九味檳榔湯(くみびんろうとう)で、ずっと調子良かったのですが、平成21年2月3日来院された時に、「最近まぶたが重く、夕方から夜にかけて、体が疲れてくると下がってくるので漢方でなんとかしてほしい。」と、いわれました。
これにははっきり言って困りました。あまりよくある訴えではなかったからです。
しかし、ここはもう一度、基本に戻って舌とお腹をチェックさせていただくことにしました。
そうすると、初診時にははっきりしなかったのですが、舌が紫がかり、舌の裏側の静脈が膨れ、「瘀血」(おけつ)体質がはっきりとしておりました。元々下腿に細絡(症例91参照)を多数認めましたので、「瘀血」があるのは間違いなかったのですが、今回はよりはっきりと舌にあらわれておりましたので、九味檳榔湯に加えて桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)(症例2参照)を一か月分処方いたしました。
一ヶ月後の3月2日に来られた時には、「桂枝茯苓丸を飲みだしてから、目がしっかりしてきた。」と、いわれました。
さらに、一ヶ月たった3月30日に来られた時には、「あの薬は、本当に効いています。」と、いわれました。また、舌をみると、舌の裏側の静脈が細くなっており、やはり他覚的にも「瘀血」が改善していることが確認できました。

まぶたを持ち上げる筋肉を、ミュラー筋といいます。
このミュラー筋は、目を開いている時に働き、閉じている時には休みます。このミュラー筋の働きと連動しているのが、実は自律神経なのです。桂枝茯苓丸によって血液の流れが良くなり、ミュラー筋の働きがよくなったのでしょうか。

生活に支障をきたすような場合は「眼瞼下垂症(がんけんかすいしょう)」という病気と診断されます。

  • 眼瞼下垂症を進める原因
    夜更かしをする/涙もろい/花粉症(目をこする)/女性(化粧で目をこする)
  • 眼瞼下垂症の予防法
    目をこすらない/眉毛を動かす癖をやめる/ミュラー筋を休ませる

“ミュラー筋を休ませる”一番の方法は、目線を下げることです・・・読書・編み物・料理・画面を下げたパソコンやテレビ画面など

眼瞼下垂(がんけんかすい)については、こちらをクリック画像の説明gooヘルスケア

152.ストレスによる蕁麻疹

次の症例は26歳、女性です。
半年前より、蕁麻疹ががよく出るようになり、平成22年6月10日当院へ漢方治療を求めて来院されました。
他の症状として、体のむくみ(特に足や顔)がひどくて夜がよく眠れない(寝付きが悪く、眠りも浅い)・体がだるくて、疲れやすい・雨の前の日に頭痛が激しい・めまい・立ちくらみ・腰痛・肩こり・胃痛・吐き気などがあります。
舌の色は、淡く、薄い白苔と歯痕舌を認めました。
身長164cm、体重66kg、BMI24.5。
典型的な気虚と水毒の症状でしたので、蕁麻疹に対して、茵蔯五苓散(いんちんごれいさん;症例120参照)と気虚に対して六君子湯(りっくんしとう)を一ヶ月分合わせて投与しました。
一ヶ月後の7月6日に来られた時には、私はすっかりよくなっているだろうと期待しておりましたが、意に反してあまりよくはなっておりませんでした。胃の症状はかなりよくなっておりましたが、蕁麻疹は相変わらずでしたし、不眠は続くし、肩こりや体のだるいのも続いていました。
そこで、もう一度話をよく聞いてみますと、ストレスがたまると蕁麻疹出るといわれました。
そこで、お腹を診ますと(恥ずかしながら典型的な水毒による蕁麻疹と思い初診時にお腹を診ておりませんでした)、はっきりと胸脇苦満(=胸から脇(季肋下)にかけて充満した状態があり、押さえると抵抗と圧痛を訴える状態;抗ストレス作用のある柴胡という生薬を使うサイン。)を認めました。
やはり、ストレスがかかっているのは間違いないようです。
そこで、六君子湯はそのままにして、柴胡桂枝湯(さいこけいしとう;症例39、66、155、186参照)を足したところ、全身のむくみもとれ、蕁麻疹もでなくなり、夜もよく寝れるようになり、本当によくなられました。
今回の漢方は本当においしかったそうです。


蕁麻疹とストレス

突然蕁麻疹ができてかゆいので、食べたものが原因なのかと考えがちですが、実は、蕁麻疹は、そういったことだけで発症するわけではありません。
蕁麻疹は、疲れやストレス、酒の飲みすぎなどの不摂生から出る場合もあります。
つまり、生活の乱れによってストレスになり、内臓が弱って、その結果が皮膚に出やすいのです。
一度、何かとストレスが溜まりやすい今の自分のライフスタイルも見直す必要があります。

ストレスの多い生活を改善して、食事や睡眠に気をつけることでずいぶん改善されるはずです。
ストレス性蕁麻疹の治療の結果一度治ったからと言っても、生活が以前と変わらない場合は、また同じことを繰り返すことになります。
ストレスによる蕁麻疹と診断された場合は、生活改善をするのはもちろん、それを持続することがとても大切です。

漢方の大家の大塚敬節先生は、「蕁麻疹で特別な所見がないときに柴胡桂枝湯がよい場合がある。」と、いわれています。

153.人参湯が効いた蕁麻疹の一例

次の症例は8歳、女児です。
平成22年1月18日より、下痢・嘔吐があり、近医受診し、整腸剤のビオフェルミンと吐き気止めのプリンペランを処方されましたが、全く無効(下痢が続き、食欲がない)のため、1月21日当院へ受診されました。
五苓散(ごれいさん)1包をお湯に溶いてお尻から注入(症例3参照)し、人参湯(にんじんとう;症例8・87・110参照)を5日分処方したところ元気になりました。
その後、2月2日、夕食後に蕁麻疹出現、飲ませる薬がないため、残っていた人参湯を飲ませたところ、蕁麻疹がひいたそうです。
この時点では私は人参湯が蕁麻疹に効いた確信は持てませんでしたが、この子はもともと寒がりで胃腸が弱いということなので、人参湯を一か月分処方し、調子の悪い時に服用するように指示しました。
その後、蕁麻疹は出なかったそうですが、11月9日夕方、学校から帰ってきた時に、この日はとても風の強い、寒い日であり、体がとても冷えたそうです。そうすると、夜に久しぶりに真っ赤な蕁麻疹が全身に出て、その時人参湯を飲ませたところ、やはり蕁麻疹がひいたそうです。
翌日、来院されましたが蕁麻疹は見られず、また人参湯を一ヶ月分処方させていただきました。
二回とも、人参湯だけで、蕁麻疹が改善しており本方が蕁麻疹に効いたのは間違いなさそうです。


コメント

人参湯(人参・白朮・甘草・乾姜)は、胃腸(=五臓の脾に相当)の弱い乳幼児のファーストチョイスの薬方です。
風邪(鼻をぐずぐずさせる・鼻水・咳・軟便・食欲不振を伴う)、喘息性気管支炎、下痢、発育不良、アトピー性皮膚炎などに使用します。

  • 松橋俊夫先生によると、蕁麻疹に比較的よく使われる処方は、

温清飲、越婢加朮湯、加味逍遥散、桂枝加黄耆湯、桂枝加朮附湯、桂枝加竜骨牡蛎湯、桂枝茯苓丸、香蘇散、梔子柏皮湯、十味敗毒湯、消風散、当帰芍薬散、人参湯、半夏厚朴湯、白虎加人参湯、防己黄耆湯、補中益気湯、竜胆瀉肝湯、六味丸となっています。

これに、症例152のように茵蔯五苓散や柴胡桂枝湯も使われます。
私は知りませんでしたが、やはり、人参湯も蕁麻疹に使われるようです。勉強になりました。漢方はやっぱり奥が深いです。

154.脾気虚による鼻水

次の症例は39歳、女性です。
既往歴として約10年前に卵巣嚢腫の茎捻転の既往があります。
また、胃下垂も指摘されています。
鼻水(透明な鼻がズルズル出る;季節の変わり目とか、服の入れ替えでほこりが立った時などに多いそうです)が10年前から続き、肩こりもひどいため、漢方治療を求めて、平成22年10月2日当院へ来院されました(ずっと市販の薬局で当帰四逆加呉茱萸生姜湯(とうきしぎゃくかごしゅゆしょうきょうとう)を買って飲まれていましたがよくならなかったそうです)。
他の症状として、胃もたれ・お腹がはる・頭痛・耳鳴り・体がだるい・疲れやすい・手足が冷えるくせにのぼせる・寝つきが悪い・痔出血・青あざができやすいなどがあります。
身長165cm、体重57kg、BMI20.9。
この方の舌を見ると、厚くはれぼったい感じがし、また、両側の舌の縁に、歯型が波打つようについていました(歯痕舌(しこんぜつ))。
また、舌が紫がかり、舌の裏側の静脈が膨れ、腹診では、右下腹部に瘀血のしこりと圧痛を認め、「瘀血」(おけつ)体質がはっきりとしておりました。
脾気虚+瘀血体質と判断し、六君子湯(りっくんしとう)症例97参照桂枝茯苓丸加薏苡仁(けいしぶくりょうがんかよくいにん;症例67参照、薏苡仁は「脾」を強めます)を合わせて一ヶ月分処方しました。
一ヶ月後の10月25日に来院され、「鼻水は一週間でぴたっと止まりました。他の症状も、体がまだ少しだるく疲れやすいのと、寝付きが悪いのを除いてすべて症状がとれました。胃も調子いいです。」と、大変喜んでいただきました。
12月1日に来院された時には、「夜よく寝れるようになり、朝もすっきりと起きれるようになりました。ただし、2、3日薬が切れると体が寒く感じました」と、いわれました。


コメント

「脾」の運化機能(飲食物を消化して小さくてピュアな”栄養素”に変『化』させ、その“栄養素”と水分を全身に『運』搬すること)が衰えれば、水分や栄養分は不要な「※痰飲(たんいん)」として停滞し、脾の運化を邪魔してさらに「痰飲」を助長します。
その結果、食欲減退・軟便・悪心・嘔吐・おなかのはりや痛みが生じます。
そして、痰飲が上昇して五臓の「肺」を犯すと、「肺」の機能が失調し、咳、喘鳴、多痰、鼻水といった症状が現れます。
六君子湯には、半夏・陳皮という鎮咳去痰作用のある生薬が配されていることにより、呼吸器症状を改善します。そのため、六君子湯を喘息や鼻炎の治療にも使います。

五行学説でみると、脾は肺の母にあたります。母の病(脾気虚)が子に及んで肺気不足になると考えます。逆に母の臓腑の状態(脾気虚)が良くなれば、子の臓腑(肺)も良くなるわけです。

(まとめ)
六君子湯は、脾気虚の鼻炎・気管支炎・喘息の第一選択薬となります。
また、脾胃虚弱タイプの咳・痰・鼻水が長引く風邪にも適応が多いです。

「脾」の働きについては、こちらをクリック画像の説明すずき康仁クリニック

※中医学では、正常な水液代謝により保たれている有用な液体を「津液(しんえき)」と呼びますが、体内の水液代謝がうまくいかず、全身的、あるいは局所的に溜まってくる余分な病的な水を「痰飲」と呼びます。

155.15年来続いた腰痛症の漢方治療

次の症例は42歳、男性です。
約15年前より、腰のにぶい、だるいような痛みがあり、整形外科では、「特に、骨には異常ない。」と、いわれたそうです。
そのため、整体に通われていますが、治りきらず、「緊張が取れたら腰もよくなるだろうに。」と、いつも言われるそうです。
仕事のストレスが強いようです。
胃はもともと弱いそうです(胃カメラで十二指腸炎といわれたことあり)。
他の症状として、快便感がない・体がだるい・肩こりもあり、漢方治療を求めて、平成22年10月30日当院へ来院されました。
身長168cm、体重57kg、BMI20.9。
舌では大きな異常は認めませんでしたが、腹部触診により、胸脇苦満(きょうきょうくまん)を認めました(胸脇苦満とは、胸から脇(季肋下)にかけて充満した状態があり、押さえると抵抗と圧痛を訴える状態で、柴胡(さいこ)という生薬を含む柴胡剤を用いる重要な目標です)。また腹直筋も張っており、左天枢(てんすう)に圧痛を認めました(下記の解説参照)ので、柴胡桂枝湯(さいこけいしとう;症例39、66、152、186参照)を一ヶ月分処方いたしました。
次に11月20日に来院されましたが、「とても調子いいです。」と、いわれました。
仕事のストレスで、胃腸が悪く、それで腰も調子悪かったのだと思われました。
整体の先生もストレスが原因だと見抜いておられたようです。

柴胡桂枝湯は、消化器疾患の腹痛(症例39、66、186参照)以外にもいろいろな痛みに使えます。有持桂里(ありもちけいり)の『稿本方輿輗(こうほんほうよげい)』には「この方は疼みによく効く者なり。手足の痛みや、腰の痛みなどにも効ある者なり。何れ、大小柴胡の症にて身内どこかに傷みある者には柴桂湯を用いてよく効あるものなり。」とあるように、原因不明の四肢の痛み、神経痛、背中の痛み、腰痛などによい場合があります。


肝脾不和証

五臓で「脾」は「土」・「肝」は「木」の性質を持ちます
ここで五行学説を使って「肝」と「脾」の関係を説明します。
ではまず、自然界において「木」と「土」の関係を考えてみましょう。
「木」は成長したり生存するためには「土」から栄養分を吸い取らなければなりません。逆に言えば「土」は常に「木」に栄養分を奪われていると考えます。専門用語でいえば、「土」は「木」に克されている関係であるといえます。五行学説ではこういう関係を「相克」と呼び「土」と「木」の関係は『木克土』(もっこくど)といいます。
「肝」と「脾」の間にもこの「木克土」の関係が存在していて、「肝」が「脾」を克した時に現れるのがこの「肝脾不和証」です。証名に使われている「和」や「調」は「調和」の意です。
肝は正常であれば、「気」「血」の流れを円滑にする機能をしているわけですから、本来は「脾」と調和して「脾」が行っている飲食物を「気」や「血」に変えて、上方にある臓器(心・肺)に送る作用を補助しなければなりません。
しかし、ストレスなどの原因で肝が障害されれば、「脾」との調和が崩れてしまうのです。

症状としては「肝」の「気」が停滞してることによりガスが溜まりやすくなったり、お腹が張った感じや両脇がすっきりしないなどといた不快感が起きたり、イライラや怒りっぽくなったりもします。また気が停滞して熱化したことによる便秘も現れます。緊張やストレス・イライラで症状は増悪するのが特徴です。

下田先生の「肝脾不和証」に対するコメント

左天枢に圧痛があるのは肝と脾が争っている状態です。
右天枢に圧痛があるのは肝と肺が争っている状態です。
それを尺沢(しゃくたく)反応で確かめます。それぞれの天枢と同側の尺沢を抑えると痛がりますが、しばらく押した後、天枢を診ると、圧痛が減少ないし消失します。

そうすると天枢の内側に板状に張っている腹直筋攣急が解ります。
尺沢反応はまやかしではなく、真実です。そして芍薬・甘草が入っている処方の証が解る様になります。典型的なのは柴胡桂枝湯ですが、よく診ると葛根湯証や桂枝湯証でも腹直筋攣急が出ているのが解ります。しかし、やはり芍薬甘草湯と芍薬甘草附子湯の腹直筋の張りが一番強くて基本です。麻黄湯は芍薬が入っていません。したがって腹直筋攣急はありません。柴胡加竜骨牡蠣湯証は、ほとんど左腹直筋のみに攣急があります。

芍薬、甘草の入っている処方は両側の腹直筋攣急になります。この場合、脈診はあてになりません。舌診もあてになりません。

画像の説明

尺沢はひじの横じわの上にあります(左図参照)。ひじを軽く曲げると、ひじの手のひら側のほぼ中央に固いすじが出ます。このすじの親指側で、指を置くと脈が感じられるところです。

天枢の位置は、へその左右外側へ指二本分のところにあります(下図参照)。

&show(): File not found: "photo-1430916273432-273c2db881a0.jpg" at page "当院の漢方著効例4";


156.めまい、頭痛の漢方治療

次の症例は48歳、男性(当院の薬剤師さん)です。
平成22年11月20日朝より、めまい、左頭痛(下の方から突きあがってくるような頭痛)が出現し、診察前に相談を受けました。
舌を診ますと、腫れぼったく、白い苔が着いておりましたので水毒と判断し、苓桂朮甘湯(りょうけいじゅつかんとう;症例20参照)を3~4包一度に服用するように指示いたしました。
3包をお湯に溶いて飲んだところ、5分ぐらいで症状がやわらぎ普通に仕事ができるようになったそうです。
そして、お昼には全く症状は取れておりました。
最近、よく咳が出て、のどをうるおすために、頻繁に水分をとっていたのが原因と考えられました。

このように急性の症状に対しては、2~3倍量の漢方薬を服用するとよいようです。

157.月経(生理)不順(生理が一日か二日で終わってしまう)の漢方治療

次の症例は35歳、女性です。
今年の夏頃より、生理が一日か二日で終わってしまう(月経期間が2日以下を過短月経と呼びます)ようになった(生理痛は強い)ため、婦人科を受診され、薬剤の投与を受けましたが改善しないため、平成22年11月5日当院へ来院されました。
身長153cm、体重56kg、BMI23.9。
基礎体温を測定してみると、低温期と高温期がはっきり分かれていないそうです(正常では、大体が排卵日をはさんで低温期と高温期に分かれます。低温期が始まると同時に生理が始まり、低温期の最後で排卵となるのが一般的です)。
他の症状として、生理前にイライラする・動悸がする・手足が冷える・腰痛・立ちくらみなどがあります。
この方の舌を診ると、紫がかり、舌の裏側の静脈が膨れ、「瘀血」(おけつ)体質がはっきりとしておりました。
他の症状からも加味逍遥散(かみしょうようさん)(症例72、141、147参照)がぴったりでしたので、一ヶ月分処方させていただきました。
12月7日来院された時には、「生理が3~4日続くようになり、高温期・低温期もはっきりとしてきました。また、気持ちもおだやかです。」と、喜んでいただきました。

その後もずっと薬を続けておられ、平成23年10月18日に来られた時には、「薬が切れると基礎体温が乱れるんです。」といわれました。
薬がよく効いていると思われます。

平成24年1月18日に来られた時には、「すこぶる元気です。生理も順調で、低温期と高温期がはっきり分かれ、ちゃんと排卵日もわかるようになりました。」といわれました。

月経(生理)不順については、こちらをクリック画像の説明kampo view


158.生理の量が多い・生理痛

もう一例生理関係の症例を載せます。

症例は25歳、女性です。
生理の量が多い(過多月経)・生理痛のため、平成22年10月25日当院へ来院されました。
他の症状として、足のむくみ・頻尿・手足の冷え・冬になると皮膚が乾燥する(血虚の症状)などがあります。
身長158cm、体重61kg、BMI24.4。
舌の色は、淡く、薄い白苔と歯痕舌を認めました。また、舌の裏側の静脈が膨れ、枝分かれし、「気虚+瘀血+血虚」体質と考えられました。
冷えとむくみがありますので、当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)(症例14参照)を一ヶ月分処方させていただきました。
12月8日来院された時には、「足のむくみがとれてブーツが履きやすくなりました。生理痛も全くなかったです。ただ、まだ少し冷える感じは残っています。」と、いわれましたので、ブシ末(症例2参照)を追加させていただきました。
平成23年1月15日来院された時には、「今年は電気毛布がなくても寝れます。」と喜んでいただきました。


当帰芍薬散について

「当帰芍薬散」は婦人科でよく用いられる処方のひとつです。
当帰(とうき)、芍薬(しゃくやく)、茯苓(ぶくりょう)、白朮(びゃくじゅつ)、沢瀉(たくしゃ)、川芎(せんきゅう)、芍薬(しゃくやく)の6つの生薬で成りたち、組み合わせで次のような作用があるといわれています。

  • 当帰、芍薬
    ストレスや疲労で消耗する肝血を補い(血虚の治療)、肝の機能をスムーズにする
  • 川芎、当帰
    血液の流れを良くする
  • 白朮、茯苓、沢瀉
    消化機能を促進して、余分な水分を出す

普段から血行不良で生理痛や腹痛があり、むくみなどの水毒を伴うような、血や水のめぐりが悪いタイプは、「当帰芍薬散」がぴったりです。


159.生理がだらだらと2週間続く

続けてもう一例生理関係の症例を載せます。
症例は20歳、女性です。
生理が少量で、だらだらと2週間も続く(月経期間が8日以上を過長月経と呼びます)ようになったため、成22年9月25日当院へ来院されました。
問診表の上では、他の症状はありませんでした。生理痛もありません。
幼少期にアトピー性皮膚炎がありました。
身長162cm、体重59kg、BMI22.5。
この方の舌を診ますと、舌の色は紫がかり、舌の裏側の静脈が膨れ、「瘀血」(おけつ)体質を認めましたので、瘀血(おけつ)体質によく使う、桂枝茯苓丸加薏苡仁(けいしぶくりょうがんかよくいにん;症例67参照)を一ヶ月分処方いたしました。
10月25日来院された時には、「今回の生理は、1週間以内ですみました。」と、いわれました。
普通、「生理がだらだらと続く」という訴えを効いた場合、脾気虚によることが多い(下記参照)のですが、この方の場合、脾気虚を思わせる症状がないため、瘀血に最もよく使う桂枝茯苓丸加薏苡仁を選んだ次第です。

脾気虚による同じような症例を391、566に載せております。

脾虚については、症例97、159、291、339、391、423も参照してください。


脾気虚について

脾気虚による脾の運化機能(症例154参照)が低下すると、「気や血」の生成能率が低下し、以下のような症状が出現します。

  • 消化不良により栄養不足となり(やせた体型になる)、倦怠・無力を感じるようになる。
  • 胃・小腸・大腸の働きも低下し、その結果として腹部膨満感・腹鳴がおきます。
  • 水湿の運化能率が低下し、その影響で体内に水液の停滞をもたらします。結果として、「湿・痰飲」という病理的水分を生じ、浮腫の原因物質を生じます。
  • 脾の昇清機能(症例154参照)の低下が進行すると内臓下垂を生じます(症例607参照)。
  • 脾の統血機能の低下により、出血がおきます。

脾は「気血」を生成する源であり、「脾の運化機能」が正常ならば気血は満ち溢れ、気の固摂作用(血を血管外に漏らさないようにしたり、余分に尿や汗などの体液が漏れないようにする作用)によって血が血管外に漏れて出血することもありません。
このことから、血は気の存在のもとではじめて血液本来の機能を発揮すると考えることができます。

脾の運化機能が弱っていれば、気血を生成する源がなく、気血が不足し、固摂作用も弱まり、出血の症状がでてきますが、脾気はもともと昇る性質があるので、血便や血尿、不正性器出血など下部の出血が多くなります。
統血機能の低下では、「血」を留めておくべき月経前や月経後に出血があって、出血期間が長くなる(=つまり、だらだら出血する)ことが特徴です。

(まとめ)
「脾は統血をつかさどる」と言われ、脾の機能により、血が経脈中を流れ、外に漏れ出るのを防ぐとされています。
この、脾の統血作用は脾気の血に対する固摂作用によるもので、脾気が盛んであれば、血が経脈から漏れ出ることはありません。
この場合の出血は漏れ出るという程度なので、量はあまり多くなく、だらだらと続くのが特徴です。
これを「脾不統血(ひふとうけつ)」といいます。


160.下半身が水につかったように冷えて、節々が痛み、しびれる

次の症例は64歳、女性です。
下半身が水につかったように冷えて、尿が近く、足がむくんで節々が痛み、しびれると訴え、漢方治療を求めて、平成21年12月14日当院へ来院されました。
夏でも冷えますが、お風呂で温めると少しましになるそうです。
コンドロイチン、にんにく卵黄、香酢やビタミンCなどを試しましたが改善しなかったそうです。
身長152cm、体重59.4kg、BMI25.7とやや肥満傾向です。
この方の舌を診ますと、腫れぼったく、白い苔が着き「水毒」を認め、また舌の色は紫がかり、舌の裏側の静脈が膨れ、「瘀血」(おけつ)体質もはっきりとしておりましたので、苓姜朮甘湯(りょうきょうじゅっかんとう);症例75参照に、「瘀血」体質の神経痛や関節痛に使う、疎経活血湯(そけいかっけつとう;症例1参照)に、体を温め痛みをとる附子(ブシ;症例2参照)をあわせて二週間分処方させていただきました。
平成22年1月7日来院された時には、「症状は肩が少しこるぐらいで、下半身の冷えや、しびれはずいぶんましになりました。」と、喜んでいただきました。


苓姜朮甘湯について

「金匱要略」の「腎着病(じんちゃくびょう)」に記載されている方剤です。
腰から下が水風呂に入っているように冷え、小便が近く、腰から下が冷えて痛む場合に使用されました。組成は 茯苓・乾姜・白朮・甘草です。

温中散寒(お腹を温め冷えを除く)の乾姜と健脾利水(脾を丈夫にし、水をさばく)の白朮・茯苓・甘草の配合で寒湿を除去するとともに、脾の運化機能(症例154、159参照)を強めて内湿の産生を防止します。

腎着病の概念は、寒邪、湿邪の陰邪が腎の外腑の腰部に侵入(腰は腎の府、湿は陰の気、故に腰を氷の様に冷えさせる。)するために、

①腰部または腰より下に冷感を訴え(腰の冷えるさまは、水中に座っているよう)
②腰痛 
③五千銭を帯にしたように、腰が重い
などの陽気が阻まれるための証候と、

④浮腫という脾虚の証候が出現する病の概念です。

病は下焦(かしょう;臍から下を下焦と呼ぶ)に属するが腎の真臓ではなく外腑の腰部であるとする点が特徴で、その結果、

⑤頻尿
であるとする。


161.腎咳の一例

次の症例は52歳、女性です。
小さい頃より、咳や痰が多かったそうです。
今回、半年ぐらい前より、咳や痰が特に多く、特に朝方にひどかったそうです。近くの内科で撮ってもらった胸部X線検査は異常なかったそうです(薬はでなかったそうです)。市販の風邪薬や咳止めも全く効かないため漢方治療を求めて、平成22年12月1日当院へ来院されました。
身長154cm、体重48kg、BMI20.2。
他の症状として、腰痛・疲れやすい・便秘傾向などがあります。
この方の舌を診ますと、白い苔が少し着き、また舌の色は紫がかり、舌の裏側の静脈が枝分かれ、「瘀血」(おけつ)体質と思われました。
腹診では下腹部が軟弱無力で、圧迫すると腹壁は容易に陥没し、押さえる指が腹壁に入るような状態(小腹不仁(しょうふくふじん))をはっきりと認め、腎虚(症例42参照)と考えられました。
八味地黄丸(はちみじおうがん;症例216参照)桂枝茯苓丸加薏苡仁(けいしぶくりょうがんかよくいにん;症例67参照)を合わせて一ヶ月分処方いたしました。
12月20日に来院された時には、「すっかり咳は止まりました。」と言われ、その後、涙ぐまれました。よほど今までが辛らかったのだと推察され、お役に立てて本当によかった思いました。
平成23年1月19日に来院された時には、「毎年、冬はしもやけができるのに、今年は全くできません。」といわれました。
「瘀血」と冷えの改善が効果をもたらしたのだと思われました。


症例194に小児の腎咳の例を、他の症例238に成人の例を載せておりますのであわせてご覧ください。


腎咳について(下田 憲先生)

腎咳について、下田先生は次のように話されました。

肺と腎は、肺から腎に行く「水の道」を支配しているのです。
そして、腎は肺からもらった水を尿に出すか、脾に送って再循環させるかです。
腎が悪くなると、肺が水を下げられなくなり、水そのものがあふれてくる場合もあります。水を受けられないくらい腎が衰えてくると、肺は水を下げられないだけでなく、肺自身の働きも悪くなります。
要するにスムーズに水を下げられないということは、肺に負担をかけることにもなります。
このように、腎が悪いために生じる肺疾患は、喘息や肺気腫や慢性気管支炎等いろいろな病名でいわれていますが、それらを西洋医学ではうまく治療できないのです。
肺からきている呼吸器疾患は、呼吸器専門の先生であればきちんと治療できます。肺咳はよほど下手な医者ばかりにかかった人が私の所に来ます。「ああ、よい医者にめぐりあわなかったんだね。」と、いって一応治療します。
ところが、腎咳というのは、西洋医学では全く治療できません。そもそも、そういう概念が西洋医学にはないのです。それでしばしばステロイド漬けになったりして、それでもよくならないといって、私の所においでになります。もちろん鍼治療もよいとは思いますが、やはり、漢方治療が一番です。八味地黄丸で見事に改善していきます。一応親切のために麻黄剤等を加えたりもしますが、最終的には八味地黄丸だけで腎咳は治っていきます。
八味地黄丸のタイプというのは”未老先衰(未だ年をとってないのに衰えが先にきているという意味)”ということばがありますが、年をとったら八味地黄丸というのではないのです。そのため、90歳の方に白内障や骨粗しょう症が来ても八味地黄丸とは限りません。しかし、60歳の方に白内障や骨粗しょう症が来たらこれは八味地黄丸に間違いないのです。要するに年齢相応以上にどこかが年とっていて、そのために全身に異常を来たしているのが八味地黄丸の証なのです。肺や腎の関係が他人より早く衰えてしまったために喘息などがおきたりするのです。老人喘息といわれているのはほとんどがそうなのです。
西洋医学や、日本漢方(古方;五臓を考えに入れない)には腎咳の概念がないからどうしようもないのです(中医学では、『五臓六腑皆令人咳』の医理で、咳の原因は肺だけの疾病ではなく、体の五臓六腑のいずれかひとつが弱ったら咳となる、と考えます)。


肺の働きについては、こちらをクリック画像の説明花月クリニック

ここにも、以下のように腎咳について述べられております。

呼吸については、肺の粛降作用により降りてきた清気は、「腎」により納気(気を納める)されて、「肺」と「腎」の共同作業により完全な呼吸になります。
したがって「肺」と「腎」の共同作業がうまくいかないと気管支炎、喘息などの症状が出ます。したがって治療に当たっては、「肺」の治療と同時に、「腎」の治療に常に心を配らなければなりません。例えば、腎に陽気を与える八地味黄丸が喘息に有効なことがあります。


162.脊柱管狭窄症(2)の漢方治療

症例68に続いて脊柱管狭窄症の症例を載せます。
症例は63歳、男性です。
脊柱管狭窄症と右の坐骨神経痛で、近所の整形外科で、メチコバール(ビタミンB12製剤;末梢神経障害の治療薬)・デパス(抗不安作用があり、筋肉のこりをほぐす作用もある)・ロキソニン(消炎・鎮痛剤)・ムコスタ(胃薬)の投与を受けるも全くよくならないばかりか、食欲も落ちてきたために、広島県福山市より漢方治療を求めて、平成22年8月11日当院へ来院されました。
この方の舌を診ますと、白い苔が少し着き、また舌の色は紫がかり、舌の裏側の静脈が枝分かれ、「瘀血」(おけつ)体質と思われました。
腹診では下腹部が軟弱無力で、圧迫すると腹壁は容易に陥没し、押さえる指が腹壁に入るような状態(小腹不仁(しょうふくふじん))を認め、腎虚(症例42参照)もあると考えられました。
症例161のように八味地黄丸(はちみじおうがん;症例216参照)を使用するべき状態なのですが、西洋の痛み止めを長期に飲んだことが原因と思われる、裏寒〔裏(身体内部)が冷えている〕があると考え、人参湯(にんじんとう;症例8参照)に、ブシ末(症例2参照)と、「瘀血」体質の神経痛に使う、疎経活血湯(そけいかっけつとう;症例1参照)という方剤を合わせて一ヶ月分処方いたしました。
裏寒とは、内臓(とくに消化器)の機能が極度に低下している状態のことです(症例110参照)。
一ヵ月後の9月8日に来られた時には、「胃腸も、腰も調子いいです。」と、いわれましたので、さらに一か月分を処方させていただきました。

脊柱管狭窄症については症例68、233、281も参照下さい。


八味地黄丸について

八味地黄丸は、胃腸が弱く、食欲不振や吐き気、嘔吐や下痢などを起こしやすい人は慎重に用いるようにします。
八味地黄丸の主成分である「地黄」は、ゴマノハグサ科の植物の根又はそれを蒸したもので、身体の水分や血分を補う効果があります。その「地黄」の副作用として、胃部不快感・食欲不振・下痢などが起こる場合があります。そのため、胃腸の弱い人は、八味地黄丸を服用しないほうがよいのです。

「地黄」の薬理作用としては、利尿作用、遅効性の下剤作用、血糖降下作用、血流増加作用、血圧降下作用、免疫調節作用(マクロファージ細胞の活性化など)などがあるといわれています。


163.口のまわりのにきびの漢方治療

次の症例は29歳、女性です。
半年ぐらい前より口のまわりのにきび(写真参照)が出現し、皮膚科に通院するも改善しないため、漢方治療を求めて、平成22年11月9日赤穂市から当院へ来院されました。

画像の説明

身長158cm、体重55kg、BMI22.0。
他の症状として、胃がもたれる・胸焼け・胸がつかえる・薬で胃があれやすい・疲れやすい・手足の冷え・気分が沈む・眠りが浅いなどの症状もあります。
この方の舌を診ましたが、大きな異常は認めませんでした。腹診ではみぞおちが、少し硬くなっており(=心下痞硬(しんかひこう)という)、また右下腹部に瘀血のしこりと圧痛も認めました。
そこで、半夏瀉心湯(はんげしゃしんとう)(症例17、89、176、179、188、218、286参照)を一ヶ月分処方いたしました。
12月13日来院された時には、「にきびは、一週目でいったん増えてそれからよくなりました。胃もとても調子いいです。」と、いわれました。しかし、「手足が冷たく、体温も35℃前半ぐらいしかなく、生理の期間も短い。」と、いわれましたので、当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)(症例14参照)とブシ末(症例2参照)を一ヶ月分合わせて処方させていただきました。
平成23年1月12日来院された時には、「最近にきびは全く出ていません。胃も本当に調子よく、体温が時々36℃を超えるようになりました。」と、喜んでいただきました。しかし、生理の期間はまだ短いといわれましたが、3月22日に来院された時に聞くと、「生理も普通になりました。」と、いわれました。また、冷えもあまり感じなくなったようですので、ブシ末を中止させていただきました。

なお、にきびについては、症例6、67、182、306、320、336、337、392もご参照ください。



半夏瀉心湯について(平馬直樹先生・下田憲先生)

膈(横隔膜)で気の昇降が阻害され、心下(膈の下のこと)で気の流れが悪くなっている、これが「心下痞(心下部が塞がって、食物もよく通じないような感じ)」です。

心下はちょうど上焦と下焦の境に位置し、気の昇降流通の要所であるので、ここでは特に気の流通が阻害されやすく「心下痞」となります。
腹証は心下部を按じて圧痛なく軽い抵抗を感じる;心下痞鞭)。半夏瀉心湯はこのように脾胃のバランスがくずれて、昇降失調が起こっている場合(脾胃不和という)に使います。

「脾」(症例154参照)は乾いた状態の方が機能を発揮できます。水浸しになると機能が低下し、消化吸収がうまくいかなくなって下痢を起こします。逆に胃は潤った状態でないと機能を発揮できません。乾くと胃火(胃熱の程度の強いもの)が生じて胃気がうまく降りなくなり(火というものは気を上へ上らせる性質があります)、げっぷ・悪心・嘔吐・胃のもたれ・便秘などを引き起こします。

脾胃の昇清・降濁機能が失調すると運化作用(症例154参照)が減退し、痰飲(症例154参照)が生まれます。痰飲に化熱(明らかな熱象のみられなかった病変の経過に熱性の症状が次第に出現する病理的変化を伴う(湿熱)と、胸やけ・胃痛・口臭・口内炎などを自覚したり、舌苔が黄色くなったりします。
このように湿と熱が混じりあうと、胃には熱がこもり、脾は湿に侵され冷えた状態になります。

胃火を黄連・黄芩で瀉し、乾姜で脾を温めるという両にらみでやっているのが半夏瀉心湯なのです。もちろん瀉心湯という名がついているように心火を瀉す働きもかねています。

(まとめ)半夏瀉心湯は、発酵性下痢、消化不良、胃下垂、神経性胃炎、二日酔い、げっぷ、胸やけ、口内炎、神経症、つわり、不眠、口臭、しゃっくり、神経性嘔吐などに用います。
また、にきびについては、比較的食欲旺盛で食べることができるけども、排便時に軟便傾向にあって、口のまわりや顎を中心に多発するタイプに用います。この部位は経絡学では陽明胃経の支配領域であり、脾胃の機能失調があると湿熱の邪が上擾(上部をかき乱すこと)し、にきびを生じるとされています。

にきびについては、こちらをクリック画像の説明昌平クリニック


164.舌痛症の漢方治療

次の症例は42歳、女性です。
3年前頃より、舌がぴりぴりと痛み、違和感があり、耳鼻科で種々の検査を受けるも異常なく、また内科で受けた食道や胃の検査も全く異常がないといわれたそうです。市販のチョコラBBなどを試しましたが、全く効かないため、たつの市から平成22年11月1日当院へ来院されました。
身長162cm、体重51kg、BMI19.4。
特に熱いものや刺激物、炭酸飲料などを摂取すると症状が悪化したそうです。味覚障害はありません。
他の症状として、よくイライラする・手足が冷える・下肢のむくみなどがあります。
この方の舌を診ると、紫がかり、舌の裏側の静脈が膨れ、「瘀血」(おけつ)体質がはっきりとしておりました。
腹診では、左右の下腹部に瘀血のしこりと圧痛を認めました。
加味逍遥散(かみしょうようさん)(症例72、141、147参照)と、舌痛症は加齢により、五臓の「腎」が虚した状態に多いといわれているため、牛車腎気丸(ごしゃじんきがん)(症例47参照)を合わせて11月29日に来られた時には、「症状が半分ぐらいになりました。最初漢方薬がまずくて、続けて飲めるかなぁと思いましたが、慣れるものですね。日々よくなっていく自分がうれしいです。」といわれました。
12月24日に来られた時には、「舌は少し違和感があるくらいで本当によくなりました。」と大変喜んでいただきました。

舌痛症については、症例375、429も参照してください。


舌痛症について

舌痛症についての西洋医学的な解説は、こちらをクリック画像の説明踊る歯科心身症ネット

舌痛症についての東洋医学的な解説は、こちらをクリック画像の説明ツムラ・メディカル・トゥデイ


165.痒疹・自律神経失調症

次の症例は34歳、女性です。
元々は3年前より体調不良があり、近くの心療内科を受診されましたが、一向に元気にならないとのことで、たつの市から平成22年1月9日漢方治療を求めて当院へ来院されました。
心療内科では、デパス(抗不安薬)を朝夕でもらっておりましたが、体がだるくなるだけでよくならなかったそうです。
身長166cm、体重50kg、BMI18.1と、やせを認めます。
症状は、吐き気・胃のもたれ・薬で胃があれやすい・足がむくむ・頭痛・肩こり・体がだるい・疲れやすい・イライラする・動悸・めまい・立ちくらみ・手足の冷え・寝付きが悪い・眠りが浅く、途中で目が覚める・青あざができやすいなどがあります。何年か前にパニック障害(下記参照)をおこしたこともあるそうです。
この方の舌を見ると、厚くはれぼったい感じがし、薄い白苔と歯痕舌(しこんぜつ)を認め、脾虚(症例97・154参照)があるのは明らかでしたから、人参湯(にんじんとう);症例8参照と、めまい・動悸がつらそうなので苓桂朮甘湯(りょうけいじゅつかんとう)に、体を温めるブシ末を併用して治療を始めました。
3月19日に来られた時には、「全体的にはよいが、ストレスがかかると調子が少し悪くなります。」といわれましたので、苓桂朮甘湯に変えて、加味逍遥散(かみしょうようさん)(症例72、141、147参照)を使用したところ、4月26日に来られた時には、「顔のピリピリした感じ(これは最初は聞いていなかった症状です)がなくなりました。今月は子供の学校行事が立て込んでいましたが調子よく、冷えもましです。」といわれました。
5月31日に来られた時には、「天気の悪い日には、体がだるくなり、下肢がむくみます。」といわれましたので、人参湯とブシ末を防巳黄耆湯(ぼういおうぎとう);症例76参照に変えたところ、7月9日に来られた時には、「足のむくみは引きましたが、頭がもやもやし、首がこり、好きなことをしたも気が晴れません。冷えはありません。」といわれましたので、防巳黄耆湯を五苓散(ごれいさん);症例3参照に変えたところ、7月9日に来られた時には、「調子いいです。結構ハードな旅行をしましたが、すぐに回復できました。」と、いわれました。

次に、痒疹ですが、7月中ごろに虫にさされてから、背中と両前腕を中心に発疹が出て、近くの皮膚科で痒疹と診断され、セレスタミン(ステロイドが配合されている抗ヒスタミン薬)とアレロック(アレルギー性疾患の治療薬)とステロイドの塗り薬をもらうも、一向に改善しないため、これも漢方薬で治療してほしいと希望されましたので、10月19日により、五苓散に変えて、十味敗毒湯(じゅうみはいどくとう);症例107、306参照を使ったところ、11月25日に来られた時には、すっかりよくなっていました。
12月27日現在、加味逍遥散とこの十味敗毒湯を続けておられますが、「夜もよく寝れて、冷えもなく、非常に調子いい。」といわれております。

パニック障害についての解説は、こちらをクリック画像の説明医療法人和楽会

痒疹についての解説は、こちらをクリック画像の説明ヤフーヘルスケア


166.気虚発熱(2)

症例15に続いて気虚発熱の症例を載せます。
症例は82歳、男性です。
元々、肺気腫で近くの病院の内科に通院中でしたが、食欲不振、全身倦怠感を訴え、平成22年2月16日入院されました。入院後も原因不明の食欲不振が続き、栄養状態悪化のため、胃瘻造設(下記参照)をされて、7月に退院され、その後当院に往診依頼された患者さんです。
舌が紫がかり、舌の裏側の静脈が膨れ、「瘀血」(おけつ)体質がはっきりとしておりました。体重は最近測れていませんが、かなりやせが目立ちます。
脾虚(症例97・154参照)が明らかでしたので、人参湯(にんじんとう;症例8・87・110・153参照)を処方して様子を見させていただいておりました。
11月頃より、デイサービスやショートステイに行くと(本人は行くのをいつも嫌がるそうです。気虚発熱は精神的・肉体的な疲労の後に発症するとされ、これが負担になっているのかもしれません。)、きまって38~38.5℃の発熱が出るようになりました。
胸部のレントゲン写真や採血では大きな異常はなく、気虚発熱が疑われました。
熱は解熱鎮痛薬の坐薬ですぐに下がりますが、11月10日より、補中益気湯(ほちゅうえっきとう)を処方したところ、それ以来、平成23年1月19日に至るまで、一度も熱は出なくなりました。

気虚発熱は、症例15で述べましたが、37~38℃程度の微熱が一般的で、高熱を呈することは稀でありますが、本症例は38~38.5℃とかなり高い熱が出ました。
また、抗生物質・解熱剤は全く無効、ないしは悪化を招く(解熱剤などを服用しても、熱は下がらない)とされていますが、解熱剤によく反応するなどちょっと典型例と違った気虚発熱の症例でした。

症例15、267、285にも同じような症例を載せています。


胃瘻について

胃瘻は長期に渡り経口摂取ができない患者や、食べてもむせ込んで誤嚥などを起こす患者に対し使用され、腹壁と胃腔の間に造られた孔(瘻孔)にチューブを通して、直接胃の中へ栄養を注入する方法です。
画像の説明


167.インフルエンザ様疾患の病初期に葛根湯の短時間頻回投与法が著効した症例

次の症例は57歳、女性です。
平成23年1月24日朝から、ゾクゾクと寒気がし、咽頭痛・倦怠感・首筋の凝り・頭痛もあるため、午後からの診察に来院されました。
身長158cm、体重55kg、BMI22。
熱を測ると38.1℃でした。
インフルエンザの患者さんが毎日4、5人来られている時期でしたので検査をするかどうか迷いましたが、早すぎると判断して検査はせずに、葛根湯(かっこんとう)を出しました。
飲み方は、1回2包を2時間毎に、市販の生姜湯に溶かして飲むよう指示しました。
帰宅後1回目を飲んで、ふとんに入りましたが大きな変化はなく、2時間たったので2回目を飲まなければと思ったそうですが、寒気が強くてふとんから出たくなかったそうです。
がんばってまた2包を生姜湯に溶かして飲んだところ、しばらくしてからじわっと汗ばんできて、体がスーッと楽になってきたそうです。
そのまま寝てしまい、朝になったら全く昨日のような症状は消失していたそうです。
しかし、インフルエンザだったら困ると、朝来院されましたので、インフルエンザの検査を行いましたが、陰性でした。体温は35.3℃に下がっていました。

同じような症例を、症例7、344にも載せております。



葛根湯について

  • ゾクゾクっと寒気がする
  • 首筋や背中がこる
  • 頭痛や筋肉の痛みがある

このような風邪の初期症状の段階で威力を発揮するのが、葛根湯なのです。このタイミングでお湯に溶いて飲み、消化の良い熱いお粥などを食べ、早く寝れば、じわっと汗をかき、翌日には身体もすっきりとし、「葛根湯」の効果を実感できると思います。

これは「葛根湯」の発熱を助けるという働きと、ウイルスが弱ったことを察知すると、発汗作用によって熱を下げる、という二つの働きからくるもので、言い換えるとすでに汗をかいていたり、熱が上がってきてから飲んでも、正しい効果は出ないということなのです。


168.しゃっくり・嘔吐の漢方治療

次の症例は77歳、男性(症例125の方)です。
平成23年1月24日、定期の通院に来られた時には、血圧も134/76mmHgと調子よかったのですが、翌日の夜に大好きな硬い”するめ”をたくさんとって寝たところ、1月26日朝からしゃっくりが頻回に出現し、また嘔吐も何度もして、パーキンソン病の薬も飲ませられないため、午後診に奥さんが連れて来られました。
症例61、163で使った、しゃっくりによく使う半夏瀉心湯(はんげしゃしんとう)甘麦大棗湯(かんばくたいそうとう)を2包ずつをお湯に溶いてお尻から注入(症例3参照)しました。そして、朝から何も口に入ってないので、500mlの点滴をして帰宅したところ、1時間ほどしてしゃっくり・嘔吐がとまり、夜はぐっすりと寝ることができたそうです。
次の日の朝、奥さんがお粥を炊いたのにそれを食べず、スクランブルエッグを食べたところ、また同じようにしゃっくり・嘔吐が始まり、1月27日の朝に再度来られました。
昨日と同様の処置をして、今度は必ず消化のよいものを摂るように指導して帰宅させたところ、すぐよくなったそうで、次の日の朝一番に奥さんから「すっかりよくなりました。」との電話がありました。
普段大人では漢方薬の注腸(お尻から薬を入れること)はやりませんが、今回はやむを得ず行いましたが、よく効いたのでよかったです。

169.片頭痛・腰痛・腹痛・生理痛・その他多彩な症状

次の症例は35歳、女性です。
普段から冷え性で、冬はしもやけができます。
また、片頭痛・腰痛があり、生理の量も多く、生理痛もつよいため、平成22年11月26日漢方治療を求めて当院へ来院されました。
その他にも多彩な症状があり、便秘傾向・腹がはる・吐き気・胃がもたれる・胸やけ・腹痛・薬で胃が荒れやすい・肩こり・イライラ・動悸・耳鳴り・めまい・立ちくらみ・手足の冷えなどがあります。
身長166m、体重48kg、BMI17.4と、やせを認めます。
この方の舌を見ると、厚くはれぼったい感じがし、また、両側の舌の縁に、歯型が波打つようについていました(歯痕舌(しこんぜつ))。
これらの症状でも頭痛が一番つらいとのことでしたので、呉茱萸湯(ごしゅゆとう;症例51、199、213、261、288、293、304、388、400、450、505参照参照)と、イライラ・動悸に注目し、加味逍遥散(かみしょうようさん;症例72、141、147、165参照)を合わせて処方しましたが、12月28日に来院され、「手足が冷えて、しもやけができています。」といわれました。あまり大きな改善は見られていないようです。
かなり、冷えが強いと判断し、加味逍遥散に変えて、当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)(症例14、158参照)と、ブシ末(症例2参照)を投与したところ、これが劇的に効いて、平成23年1月25日に来院され、「頭痛もずいぶん楽になり、今月は、何十年来で初めて生理痛がありませんでした。また、生理の量も多くなかったです。腰痛・腹痛も全く感じません。」と、大変喜んでいただきました。
しかし、まだ手足は冷たく、しもやけは相変わらずでしたので、ブシ末の量を0.5gから倍の1gに増やせていただきました。


片頭痛について

片頭痛は、頭の片側からこめかみにかけて脈打つように「ズキズキ」、「ガンガン」と痛み、ひどいときには日常生活が妨げられるほどの強さの痛みや、吐き気を伴うとてもつらい頭痛です。目がチカチカしたり,中心や片側が見えなくなったり、半身にしびれ感が出ることもあります。

片頭痛は、疲労や睡眠不足、ストレスによって誘発され、

  • 空腹時に頭痛は起こりやすいので、食事は3食しっかり食べる。
  • チョコレートや赤ワインなどの飲食物は避ける。
  • 寝過ぎや寝不足は避ける。

などの注意も必要です。

男女別にみると女性に多く、患者さんの数は男性の約4倍といわれています。

特徴は、

  • 脈に合致したズキンズキンとした痛みである。
  • 痛みは頭の片側の時が多いが、両側の時もある。
  • 頭痛は、数日~数週間の間隔をおいて発作性に現れる。
  • 一回の頭痛は数時間から3日で治まる。
  • 頭痛発作の時に、吐き気や嘔吐などを伴うことがある。
  • 頭痛発作の時に、強い光や大きな音、不快なにおいで頭痛が強まることがある。
  • 明け方から目覚めの時に頭痛発作が起こることが多い。
  • 頭痛の強い部分を手で圧迫すると、その間は痛みが和らぐ。
  • 遅くとも30歳までに発症する。
  • 頭痛発作の時、またはその直後に下痢や発熱などの症状があらわれることがある。
  • 血縁者の中に似たような頭痛を訴える人がいる。

などです。

西洋医学では片頭痛を、症状が出始める前に、脳の中の血管やその周辺の血管が収縮し、次いで拡張して起こる血管性の頭痛と見なしています。このことから、血管収縮作用をもつ薬や精神安定剤を用いて治療に当たります。

一方、漢方医学では、片頭痛は、「水」の体内でのめぐりが悪く、水がたまるために起こる「水毒」によるものと考えます。
実際、胃の中に水がたまっていたり、尿の出方が悪かったり、手足の冷えなどがみられる人が多いです。 

呉茱萸湯は、疲れやすく、手足の冷えがある虚証タイプの人で、吐き気を伴う頭痛に用いられます。強い痛みを伴う頭痛発作を繰り返し、じっとしていられない片頭痛によいといわれています。

さらに、一般に、「痛みの発作が起こった時に上腹部の胃のあたりが膨満し、つまった感じを訴えることが多かったり、発作の際に,頭が痛む側のうなじの部分の筋肉が収縮して、肩から首にかけて凝りがひどいときにもよい。」といわれています。

また、この薬には,発作を抑えるだけではなく,長期にわたって連用すると,発作が起こらなくなる効果もあるといわれています。

生薬”呉茱萸”の薬理作用は、

  • 鎮痛作用
  • 筋弛緩作用
  • 昇圧作用
  • 血流増加作用
  • 体温上昇作用
  • 胃腸蠕動運動亢進

などがいわれています。


170.しもやけ、冷え性の漢方治療

次の症例は35歳、女性です。
体が冷える、特に足先が冷えるとの訴えで、平成21年11月26日漢方治療を求めて当院へ来院されました。
毎年、しもやけもできるそうです。また、むくみ体質で、特に下半身がよくむくむそうです。
この方の舌を見ると、厚くはれぼったい感じがしました。
当帰四逆加呉茱萸生姜湯(とうきしぎゃくかごしゅゆしょうきょうとう;症例92,93参照)を一ヶ月分処方させていただきました。
しばらく間隔があいて、平成22年2月6日に来られたときに、「当帰四逆加呉茱萸生姜湯を飲んでいると冷えはとてもよかったです。しかし、薬がきれるとしもやけができました。」といわれましたので、また処方させていただきました。
平成22年11月19日、だんだん冷えてきたので、また薬取りに来られました。当帰四逆加呉茱萸生姜湯が合うのはわかっておりましたので、今度は二ヶ月分処方させていただきました。
平成23年2月8日来られた時に、「今年は昨年に比べはるかに寒いのに、全くしもやけができていません。冷えもいいです。」と、いわれました。
やはり、症例93で述べたように、しもやけに当帰四逆加呉茱萸生姜湯とよくいわれますが、できてしまってからはなかなか効きません。本症例のようにしもやけのできる前から予防的に飲んでいただくのがよさそうです。

171.通年性鼻アレルギーの漢方治療

次の症例は13歳、男児です。
小学校の低学年の頃から、一年中(特に季節の変り目に悪化する)、鼻アレルギー(鼻水の方が、鼻閉より多い)が続いているそうです。
最近、知り合いの耳鼻科の先生が、「治してやるから、連れてこい。」と、豪語(患者さんのお父さんの言葉)されたので、何ヵ月か通ったそうですが、全く良くも悪くもならなかったそうです。
そんな時、インターネットで当院を知り、漢方治療目的で、平成23年2月5日姫路市から来院されました。
気管支喘息かわかりませんが、咳や痰も多いそうです。目の症状はないそうです。冷えもあまり感じないようです。
身長156m、体重45kg、BMI18.5。
舌は特に異常は認めませんでした。
そこで、小青竜湯(しょうせいりゅうとう)麻杏甘石湯(まきょうかんせきとう)の合方を2週間分処方したところ、2月16日、来院され、お父さんが、「先生、完璧!」と、お褒めいただきました。とてもよく効いたようです。お役にたててよかったです。


熱証型アレルギー性鼻炎について

アレルギー性鼻炎も発病当初はクシャミ・鼻水・流涙で始まることが多いですが、長く治らないと分泌物は少なくなり、粘膜が浮腫状に赤く腫れて鼻閉を訴えるようになります(熱証型)。
熱証型は体があたたまると症状が強くなり、冷たい空気を吸うと軽くなります。
熱証型には麻杏甘石湯(TJ-55)がよく効きます(症例4参照)。
しかし、実際の臨床では熱証型は少なく、寒熱混合型となることが多いので小青竜湯+麻杏甘石湯の合方をよく用いるとされています。
また、この組み合わせは、小児喘息の発作時の発作止めとしてもよく用いられます(下田 憲先生)。


172.小児気管支喘息の漢方治療(2)

次の症例は10歳、女性です。
3、4歳の頃から、喘息があります。
アレルギー検査では、カモガヤ、ブタクサ、ヨモギ、スギ、ヒノキ、ネコ皮屑、ハウスダスト、ヤケヒョウダニなどが陽性です。
特に、ハウスダスト1が60.65UA/ml(クラス5)、ヤケヒョウダニが61.79UA/ml(クラス5)と高値を示しておりました。

特異的IgE抗体のクラス判定の解釈については、こちらをクリック画像の説明シー・アール・シーグループ

現在、西洋薬のフルタイド吸入(この吸入薬の主成分は、ステロイドの一種です。ステロイドには強い抗炎症作用があります。気道の炎症がおさまると、過敏性が低下し発作が起こりにくくなります)と、キプレスチュアブル(ロイコトリエンの作用を抑えることにより、気管支の収縮を抑制します。気管支喘息に伴う咳や喘鳴、息苦しさなどの症状を起こりにくくします)を他院で処方されておりますが、なかなか咳がおさまらなかったそうです。
そんな時、当院通院中の方に、漢方治療がよいとすすめられて、平成23年1月11日来院されました。
身長140m、体重34kg、BMI17.3。
舌は特に異常は認めませんでした。
神秘湯(しんぴとう);症例74参照)を2週間分処方したところ、1月24日に来院され、飲み始めて3日間くらいは、この方は軽いアトピー性皮膚炎もあるのですが、体のかゆみが増したように感じたそうですが、すぐにおさまり、バレーボールをした時だけ(この方は、バレーボールの選手です)少し咳が出るぐらいになったそうです。
そこで、さらに一カ月分処方したところ、2月21日にお母さんがこられ、「もうバレーボールをしても、全く症状がでなくなりました。西洋薬もいつの間にか本人が勝手にやめてしまって、今は漢方薬だけです。苦しい発作の日がうそのようです。」と、大変喜んでいただきました。またまたお役に立つことができてよかったです。

同じような症例を症例74、446にも載せております。


症例74で触れましたが、ここでもう一度小児気管支喘息について下田 憲先生のコメントをのせておきます

小児の喘息は特に漢方薬の効果が早く出る場合が多く、又副作用の点でも安全性が高いので、もっと多く使われるべきだと私は思っています。
神秘湯が、小児気管支喘息の漢方治療の第一選択薬です。

私が神秘湯を小児喘息治療の中心にするのは、気管支拡張作用があり、気を動かす作用があり、抗アレルギー作用もあるからです。
麻杏甘石湯と柴朴湯を合わせたものから、余計なものを取り除いたら神秘湯になるのです。大人は一応、柴朴湯を基本にするのです(発症してあまり長くない人は神秘湯でやる)が、小児の場合は、ほとんど神秘湯です。
子供の喘息は、神秘湯で、だいたい二年でほとんど治ります。子供の喘息は、もうほとんど神秘湯で終わってしまいます。だから子供の喘息患者はちっとも増えません。」

本当にこのコメントのとおりです。
今まで頻繁に風邪や喘息発作で病院に来ていた子供さんが漢方薬に切り替えた途端、まったく症状が出なくなり、また風邪もひかなくなり、お母さんが薬だけ一カ月に一回取りに来る、というパターンばかりです。
病院の経営という面ではつらいものがありますが、これも患者さんのためだと思ってこれからも漢方治療を続けていこうと思います。


173.非結核性抗酸菌症の漢方治療(3)

次の症例は52歳、女性です。
7、8年前に、非結核性抗酸菌症と診断されたそうです。排菌量がかなり多く、大阪の有名な呼吸器専門の総合病院で、治療を受けられております。
喀血されたことが一度あり、3年前より、リファンピシン(リファマイシン系抗生物質の仲間で、結核菌に対し強い抗菌力を発揮する)・エタンブトール(結核菌の発育を阻止するように合成された薬)・クラリシッド(マクロライド系抗生物質といわれるもので,細菌の発育を抑制する作用がある)・ビオフェルミン(乳酸菌を配合した整腸薬)・セルベックス(胃薬)の薬になって、今まで続けているそうです。
ストレプトマイシン(結核の治療に用いられた最初の抗生物質)は難聴になり中止されたそうです。
陰影は、右肺の三分の一を占め、左肺にも少し陰影があるそうです。
治療を続けるも、陰影は改善せず、咳や痰が多く、また痰の切れも悪くて困っておられた時に、当院のホームページの非結核性抗酸菌症の症例をご覧になられて、漢方治療を求めて、大阪府より平成22年11月30日来院されました。他の症状として、手足の冷え・下痢しやすい・夜間頻尿・顔がむくみやすい・くしゃみ・鼻づまり・耳鳴り・腰痛など、脾(=胃腸)や腎の弱りが示唆される症状があります。
身長158m、体重54kg、BMI21.6。
この方の舌をみると、腫れぼったく、歯痕舌を認め、舌の中央に深い溝がありました。舌の中央部は脾の状態を表すので、胃腸機能の弱りが示唆されました。腹診は異常ありませんでした。
非結核性抗酸菌症によく使う、人参養栄湯(にんじんようえいとう)を、遠方のため2カ月分処方したところ、平成23年2月23日に来院され、「咳は薬を飲み始めて次の日から軽くなってきて、今とても体調がいいです。」といわれました。そして、ここに来る直前に胸部のX線写真を撮られたところ、なんと今までで初めて陰影が減ってよくなっているといわれたそうです。
そして、体調がいいので薬を減らしてくれと頼まれたそうですが、主治医は、「今度また悪くなったら使う薬はないのでそれはできない。」といわれたそうです。
私としては、一日も早く抗結核薬を中止して頂きたいのですが‥、こればかりはどうしようもありません。
このまま薬を続けていただいたらよさそうなので、近所で同じ漢方薬を出していただくことにして当院での治療を終えました。

非結核性抗酸菌症については症例30、142も参照して下さい


ここでもう一度、下田憲先生のお言葉を載せます。

非結核性抗酸菌症は抗結核剤もあまり効かないし、放っておいてもどんどん他人に感染するとか、本人の命にかかわるといった病気ではないのです。本人の体力をあげて、病気と平和共存して生きていけばいいはずなのに、西洋医学的スタンスだったら、感染症というものは絶対なくならなければいけないのです。だから何が何でも、とにかく副作用が出ようが何であろうが抑えようとしますが、非結核性抗酸菌症は延々とやってもうまくいかないことが多いのです。でもうまく体力を上げて肺の働きを高めてあげると、それはそれとして、あってもたいしたことにはならないで暮らしていけるのです。
東洋医学的というのは、なにがなんでも病を無くさないといけないとは考えていないのです。病があっても病気でない状態で過ごさせればよいのです。

つまり漢方薬で、人間に備わっている菌に抵抗する力=免疫力を高めることで十分対応できるということです。

174.航空性中耳炎の漢方治療

次の症例は私自身です。
私は以前より、飛行機に乗ると必ず耳が痛くなり、詰まった感じがします。一種の耳管狭窄症状らしいのですが、医学用語で航空性(飛行機)中耳炎というそうです。
飛行機が上昇しているときには、大気圧よりも中耳(鼓膜の向こうの部屋が中耳。こっちの穴が外耳道)の内圧のほうが高いので、鼓膜は外耳道のほうへ張り出します。反対に飛行機が下降するときは、中耳の内圧が低くなるので、鼓膜が中耳のほうに引き込まれ、痛みを感じるのだそうです。

画像の説明
図は”健康・医療館”より転記

あくびや嚥下(飲み込み)することで耳管は開放されるので、圧の急変する離着陸時に、意識的に唾を飲み込んだりして耳管を開放させ、中耳内外の圧差を解消するようにすればよいらしいのですが、いつもうまくいかず、耳がキーンとしたり詰まった感じになり、航空機を降りた後も耳閉感が半日ぐらい続き、その後も2、3日間耳痛が続くので困っておりました。
そんな時、安井廣迪先生の、『航空機上昇時の耳痛が五苓散で軽快する患者』という症例報告を読み、今回平成23年3月4日、飛行機に乗るときに試してみました。
それによると、搭乗30分から1時間前と、着陸30分から1時間前に五苓散(ごれいさん;症例120参照)を飲めばよいとのことでしたが、飲む間がなくて座席に着席してから飲みましたが、上昇時には全く耳閉感や耳痛が起きませんでした。そして、安定飛行になってシートベルトをはずしてよいとのアナウンスがあってから、念のためもう一方を飲みました。そうすると、その日は悪天候で、一時間半の飛行時間の予定が3時間15分にもなり、しかも一度着陸に失敗し、再度上昇し20分後に着陸をやり直すという過酷な状況でしたが全く症状は出ませんでした。
気を良くして、帰りは搭乗口の前で一方飲んだだけで試してみましたが、一時間半の飛行時間の間全く症状は出ませんでした。
航空性中耳炎はなった人しかわかりませんでしょうが、大変つらいものです。しかも西洋医学的には十分な治療法がなく、なんとひどい症例は手術をするらしいのですが、こんなに簡単に予防でき快適な空の旅を楽しめるなんて本当に夢のようです。
なお、五苓散が奏功するメカニズムとしては、耳管の浮腫が急速に消退するため、普段は中耳内に入りにくい空気が容易に中耳に入るためとされているようです。
とにかく座席に着いてからでも間に合うのですから、五苓散の速効性が改めて証明された旅行でした。

YOMIURI ONLINEに次のような質問が載っておりました

新婚旅行中、飛行機の中で夫が耳が痛いと言い出しました。
飛行機が降下しているときです。降りるとだんだん痛みがとれたそうです。
2回目に乗った際は、数日は痛みが残ってしまい、夫はもう飛行機はこりごり。乗らないと言い出しました。
旅行は好きだけどあの痛みはもう嫌だと言います。
結婚したら夫と旅行に行くのを楽しみにしていたので残念です。
私は旅行が好きで独身の頃から何度も飛行機に乗っていますが、一度も耳が痛くなった事はありません。
夫は特に耳に持病はありません。普段弱音を吐かない夫だけに、余程痛かったのだと思いますが、自分で経験がなく想像もできません。でも隣で見ていても夫は本当に辛そうに耳を抑え、可愛そうでした。私は何もできずおろおろするばかりで申し訳なかったです。
友人からは飛行機の乗り方が悪いと言われたそうです。
耳が痛くならない正しい乗り方があるのでしょうか?
いい方法があるなら是非教えて下さい。お願いします。

記事はこちらをクリック画像の説明YOMURI ONLINE

航空性中耳炎の西洋学的な解説については、こちらをクリック画像の説明笠井耳鼻咽喉科クリニック

画像の説明

175.原因不明の上腹部痛

次の症例は76歳男性です。
既往歴として、49歳時にS状結腸癌で切除術を、平成22年1月には急性胆のう炎に対して胆のう摘出術を、平成22年12月には腸閉塞解除術を受けておられます。
胆のう摘出術を受けた平成22年1月の入院時に急性膵炎を発症し、点滴治療を受けましたが、その後から時々上腹部痛が出現するようになり、痛みの程度は軽いときもあれば、ペンタジン(痛みをおさえる強力な作用がある。特に持続する鈍痛に効果が高く、一般的な鎮痛薬が効きにくい各種がん痛に用いられる。作用メカニズムは、痛みの抑制系を亢進するオピオイド受容体と結合することによる)の筋肉注射を要するような強い痛みの時もあります。
そのため、患者さんはいつまた強い上腹部痛が出現するかもわからないという不安を感じておられます
もちろん各種の検査をされておりますが、特に異常所見は認められておりません。
そこで、漢方治療がよいであろうとのことで、平成23年1月11日に、手術を受けた総合病院外科の主治医より紹介され、当院を受診されました。
この方の舌を見ると、辺縁が、分厚く赤く(この赤みは肝の熱を表しています)、中央に白苔を認め、気滞(症例64、102参照)の舌と診断しました。
腹は、度重なる手術のため、所見がとれませんでした。
痛みは、食事とは無関係で、突然痛み出すそうです。
昼間は比較的痛みは気分的にまぎれているそうですが、夜間に痛くなることが多いそうです。
冷えはあまり感じないそうです。
内服薬は、膵炎の薬である、フォイパンや、整腸剤のビオスリー、普段便秘気味なので、酸化マグネシウムや、胃潰瘍薬のタケプロン、漢方薬の大建中湯;症例44参照、痛み止めとしてロキソニンなどが処方されておりました。
気滞によく使う半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう;症例64参照)と、腹痛を伴う消化器疾患に効果のある柴胡桂枝湯(さいこけいしとう;症例39、66参照))を一ヶ月分処方いたしました。2月4日来院された時に、「飲み始めてすぐの頃は痛みがなかったのですが、しばらくして夜中から朝方にかけて強い痛みが出現して、また入院していました。」といわれましたので、半夏厚朴湯はそのままにして、四逆散(しぎゃくさん;症例63、102参照)を合わせて1ヶ月分処方したところ、3月9日に来院され、「今度は一度も痛みませんでした。」と大変喜んでいただきました。


コメント

四逆散は、肝気欝結(症例24参照)に使う処方です。

自律神経失調症のことを漢方では、「肝気欝結」などと言います。「気」が「滞っている」状態です。「肝気」、「胃気」、「腎気」と言うように、内臓は「気」という一種のエネルギーによって動いていると考えています。「気」が「滞る」と、内臓にエネルギーが届かず、うまく動かなくなります。
その中でも「肝気」とは、「肝」だけではなく五臓六腑の働きをコントロールする働きがあると同時に、情志活動の変化(喜、怒、憂、思、悲、恐、驚を七情という)を受けやすいという特長を持っています。
ですから「肝気の滞り」の症状とはまさに、ストレスを受けて全身のコントロールが乱れる、現代医学の自律神経失調症そのものに相当するわけです。

肝気欝結には、他に加味逍遥散などを使います。


176.逆流性食道炎の漢方治療

次の症例は38歳男性です。
5年前より逆流性食道炎で、治療を受けております。
パリエット(プロトンポンプ阻害薬;逆流内容の主なものである胃酸を抑えることによって胸やけなどの症状を抑え、食道炎を治癒させる)、ガスモチン(弱った胃腸の運動を活発にして、食べ物を胃から腸へ送り出すのを助け、吐き気や嘔吐、食欲不振や膨満感、胸やけなどの症状を改善する)、ムコスタ(胃の粘膜を丈夫にする)、漢方薬の四逆散(しぎゃくさん;症例63、102参照)などが処方され、現在は、オメプラール(プロトンポンプ阻害薬)、ガスモチンを内服されています。
それらの薬をきっちりと飲み、また禁煙しても、胃酸が上がってきて胸やけし、げっぷが止まらなくなるそうです。特に車の運転中など緊張した時に症状が強くなるそうです。
そこで漢方治療を求め、姫路市より平成23年2月2日当院へ来院されました。
他の症状として、下痢しやすい・腹がはる・胃がもたれる・胸がつかえる・イライラする・気分が沈むなどの症状があります。
身長165m、体重54kg、BMI19.5。
この方の舌を見ると、辺縁が、分厚く赤く(この赤みは肝の熱を表しています)、中央に白苔を認め、気滞(症例64、102参照)の舌と診断しました。
腹診では、腹診ではみぞおちが、少し硬くなっていました(=心下痞硬(しんかひこう)。
半夏瀉心湯(はんげしゃしんとう;症例17、89、163、179、188、218、286参照)を1ヶ月分だしたところ、3月9日当院へ来られ、「胸やけもせず、げっぷも出なくなり、下痢もしません。大変調子よくなりました。」といわれました。

逆流性食道炎については、症例201、463、515もご参照下さい。

近年、逆流性食道炎の方は増加してきていますが、その原因としてさまざまなことが挙げられています。

  • ストレス、飲酒による胃酸過多
  • 食べすぎ飲みすぎ(胃内圧が上昇し、逆流しやすい)
  • 食事が欧米化して、脂肪分が多い食事で胃酸分泌を刺激している
  • 姿勢の悪い状態がつづく(デスクワークの方)
  • 食後にすぐ横になる、前屈する等
  • 喫煙による機能低下
  • 妊娠、肥満、便秘による腹圧の上昇
  • 腹圧を高める運動や衣服の着用

以上のこと等が原因となって、逆流性食道炎がおこるといわれています。

逆流性食道炎の西洋学的な解説については、こちらをクリック画像の説明エーザイ


177.不安神経症・パニック障害

次の症例は46歳、女性です。
32歳の頃より、上記疾患(パニック障害については症例165参照)で年に2回ぐらい心療内科を受診し、セディール(不安や緊張感をやわらげ、気持ちを落ち着かせる)・ドグマチール(脳の活動をよくして、気持ちが前向きになるのを助け、うつを治す)といった薬の投薬を受けられています。
最初の頃は、動悸や不安感が強く、電車内で気絶したこともあるそうです。
最近、頭痛・頭重感・首の後ろや肩・背中の凝り・目の疲れ・ほてり・多汗・のどがつかえる・口の中が苦い・頻尿・便秘(3日に1回程度)・口が渇く・手足の冷え・疲れやすい・食後眠くなる・イライラする・気分が沈む・生理の出血量が多いなどがあり(赤線の症状がとくにきついそうです)、体調がすぐれないため、漢方治療を求めて平成23年2月12日当院へ来院されました。
なお、漢方薬も、当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)(症例14参照)や加味逍遥散(かみしょうようさん)(症例72、141、147、165,169参照)、最近では芎帰調血飲(きゅうきちょうけついん)(症例143、308参照)を市販の薬局で買って飲まれたそうですが、あまり効かなかったそうです。
身長160cm、体重59kg、BMI23.0。
舌は、薄い白苔がまだらに付着(地図状舌)し、また歯痕舌も認めました。また、舌の裏側の静脈が膨れ、枝分かれし、気虚+瘀血、そして自覚症状から気滞体質と考えられました。
のどがつかえるという症状から、半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)(症例64、102参照;パニック障害にも使います)を選び、またイライラして怒りっぽい・のぼせやほてりがある・口が苦い、口が渇く・頭痛や肩凝りなどの症状は、漢方でいうところの「肝」という、自律神経にも関連した機能が滞り、ヒートアップしたために上半身に熱がこもっているような状態と考えられ、瘀血もあるため加味逍遥散(かみしょうようさん)を合わせて一ヶ月分処方させていただいたところ、3月11日当院へ来られ、「随分気持ちのゆれが浅くなってきました。また、のどのつかえや肩凝りや背中の痛みも消えました。とても調子いいです。」といわれました。
ただ、便秘に関しては続けて出る時もあれば、3日間出ない時もあるとのことでしたので、下剤のダイオウ末を極少量追加させていただきました。

加味逍遥散は次の10種類の生薬から成り立っています。

  • 当帰(とうき)、芍薬(しゃくやく)…「血」を補い、血行を良くする
  • 柴胡(さいこ)、薄荷(はっか)…柴胡がオーバーヒートした肝の働きをスムーズにし、うつうつとした症状を解消し、薄荷がその働きを助け、気のめぐりを良くし、ほてりを鎮める。
  • 朮(じゅつ)、茯苓(ぶくりょう)、甘草(かんぞう)…脾(胃腸)を丈夫にして、気や血の原料の質を高める。朮+茯苓で余分な水分を出す。
  • 生姜(しょうきょう)…胃の働きを高め、薄荷と一緒に気のめぐりを良くする
  • 山梔子(さんしし)、牡丹皮(ぼたんぴ)…消炎作用や止血作用のある山梔子と、熱を冷まし、血液浄化作用のある牡丹皮が加わることで、亢進した肝の機能を抑え、のぼせなどの熱症状を緩和する

このなかで“気のめぐりを良くするもの”がよく登場しますが、実は更年期のトラブルも、この気のめぐりの悪さ(=気滞)によるものが多いのです。
なお、気が滞りなく体内をめぐるようにコントロールするのが肝の役目でもあります
自律神経の働きにも関わり、ホルモンや月経を調節したり、消化促進を促す働きもあるので、「加味逍遥散」のなかにも肝の造血機能を補ったり、亢進した部分を鎮めたり、胃腸の調子を整える生薬がバランスよく入っています。

なお、本症例で薬局で買った加味逍遥散が効かなかったのは、薬局で売られている漢方薬は病院で出すものと比べて生薬の量が少なくなっているためかも知れません。


178.胃痛、 更年期障害

次の症例は43歳、女性です。
既往歴として、20歳の頃神経性胃炎を患ったことがあるそうです。
現在、更年期障害と診断され、婦人科で低用量ピル(下記参照)を処方されております。
今回、2週間前より、胃が痛むため、漢方治療を求めて姫路市より平成23年1月29日来院されました。
他の症状として、便秘(毎日出るがすっきり出ない感じ)・胃がもたれる・みぞおちが痞える・口の中が苦い・自分の口の臭いが気になる・寝汗・夜間の口渇・頭痛(特に朝方)・肩こり・夜間の咳・くしゃみ・鼻水・食後眠くなる・イライラする・冷えのぼせ(冷えのぼせとは、上半身に熱が昇った状態になる冷え性です。冷えのぼせによる冷え性では、下半身より上半身に血液が、かたよった状態になっています。そのため、心臓や脳に負担がかかるため、精神状態にも負担がかかります)・動悸がする・たちくらみ・寝つきが悪い・いやな夢をみて眠りが浅い・生理がだらだら続くなど多彩な症状があります。
身長165cm、体重48kg、BMI17.6と、やせを認めます。
この方の舌を診ると、舌中央に亀裂を認め(裂紋)、白い苔がついていました。色はやや紫がかり、舌下静脈がやや怒張しておりました。
腹診では、胃内停水音(動いた時や胃の辺りを叩いた時などに、胃の所でチャプチャプと音がするような状態を、漢方では胃内停水といい、その音を振水音という。これは胃に余分な水分が溜まってしまった状態をである)を聴取しました。また、下腹部が軟弱無力で、圧迫すると腹壁は容易に陥没し、押さえる指が腹壁に入るような状態(小腹不仁(しょうふくふじん))を認め、腎虚(症例42参照)もあると考えられました。
胃腸症状に対しては、問診から気虚(脾虚;症例97参照)があると考えられ、胃内停水音もあることから、六君子湯(りっくんしとう;症例97、154参照)を選びました。
また、更年期障害には、問診から加味逍遥散(かみしょうようさん)(症例72、141、147、165,169、177参照)がぴったりと考えました(下記のコメント参照)。両者を合わせて一ヶ月分処方させていただいたところ、2月25日当院へ来られ、「胃の痛みは2日で消えました。便秘もよくなっていましたが、2月15日からまた便秘気味になってきました。他の症状はほとんどありません。」と、いわれました。
そこで、同じ薬と、便秘にごく少量のダイオウ末を足して処方させていただところ、3月23日に来られ、「ダイオウ末は、4、5日使っただけで、すぐに便秘はなくなりました。胃も調子いいです。また生理がいつもはだらだら続く(「脾」の統血機能の低下では、「血」を留めておくべき月経前や月経後に出血があって、出血期間が長くなる(=つまり、だらだら出血する)ことが特徴です;症例159のコメント参照)のに今回は4日で終わりました。」と、大変喜んでいただきました。


加味逍遥散について(矢数 道明先生)

自覚症状が極めて強烈で、身体熱感・灼熱感・さむけ・のぼせ・顔面紅潮・足冷・心悸亢進(動悸)等の血管運動神経症状と頭痛・耳鳴・めまい・不眠・嗜眠(放っておくと眠ってしまい、刺激に対する反応も鈍く中々目覚めない状態)・怒りやすく・不安・動揺等の精神神経障害様症状があり,また悪心・食欲不振・便秘・口が苦い等の消化器症状があり、かつ疲労感・脱力感を特に自覚するものである。
本方は肝気の欝滞といわれていた自律神経失調症を調整し、いわゆるトランキライザー(精神的興奮をしずめ不安などを緩和する薬の総称。精神安定剤)のごとき作用を有するものと考えられる。



加味逍遥散について(山田 光胤先生)

虚弱な体質の婦人が手足が冷えやすいのに、ときどき全身が熱くなり、よく肩がこり、疲れやすく、頭痛、頭重感、めまい、心悸亢進(動悸)、不眠などを訴えて、精神不安、ゆううつ感などの精神神経症状があり、あるいは微熱がつづき、大抵の場合は月経異常を伴うものである。
月経異常としては、月経不順、月経寡少、暗赤色の血塊やコーヒー残渣様の経血が下りるものなどがある。
患者は痩せ型の婦人が多いが、中には肥満型の人もある。しかし、肥っていても筋肉は軟弱で、いわゆる水ぶとりのような形である。脈も腹部も緊張が弱く、腹証としては軽度の胸脇苦満がみられることも少なくない。


低用量ピルについては、こちらをクリック画像の説明ladys home


179.胃痛の漢方治療

次の症例は65歳、女性です。
平成22年1月下旬より、胃痛(夜眠れないぐらい痛む)・胃のもたれ・胸やけ・みぞおちがつかえる・口の中が苦い・食欲不振・腹が鳴る・げっぷなどの症状があり、近くの内科で採血検査や胃カメラの検査を受けられましたが異常なく、この主治医は、「僕は漢方もくわしいから。」といわれ、六君子湯(りっくんしとう;症例97,154、178参照)芍薬甘草湯(しゃくやくかんぞうとう;症例32参照、芍薬甘草湯は胃けいれんを含め胃痛や腹痛、胆石や尿路結石による疝痛、筋肉のつっぱり・こわばりを伴う筋肉痛や神経痛、さらには腰痛や肩こり、生理痛などの痛みに広く用いらます)に加え、ブスコパン(内臓の平滑筋のけいれんを抑えたり、胃酸の分泌を抑える作用があり、胃炎や下痢、胆管炎、胆石などによる腹痛に広く用いられる)とデパス(抗不安薬;精神安定剤)を処方されたそうですが、2週間ほどたっても全く痛みが改善しないため、2月25日佐用町から当院へ来院されました。
他の症状として、体がだるい・イライラする・夜中に目が覚める・眠りが浅いなどがあります。
身長150cm、体重49kg、BMI21.8(平成21年8月の台風9号に伴う豪雨災害により、家が全壊し、その時のストレスで体重が62kgより今の49kgになってから現在に至っておられます。胃はその頃からあまり調子はよくなかったそうです)。
舌の色は紫がかり、舌の裏側の静脈が膨れ、「瘀血」(おけつ)体質がはっきりとしておりました。また、薄い白苔と歯痕舌も認めました。腹診では、みぞおちが少し硬くなっていました(=心下痞硬(しんかひこう)。
そこで、半夏瀉心湯(はんげしゃしんとう)(症例17、89、163、176、188、218、286参照)を一ヶ月分処方いたしました(症例178と同様、加味逍遥散を併用するか迷いましたが、不眠やイライラは痛みによるところも大きいのではないかと考え、単独で処方することにしました)。
3月18日来院された時には、「胃の痛みは1週間ですっかりとれました。他の症状もよくなりました。」といわれました。
次に5月9日に来院された時には、「あれから一度も胃は痛みませんでした。調子がいいので、薬は一日一回だけにしています。ごはんもおいしいので、体重も52kgに増えました。」といわれました。

六君子湯が効いた胃痛症例(症例178)と、効かなかった本症例、漢方はやっぱり奥が深いです。


六君子湯と半夏瀉心湯の使い分けのポイント

六君子湯は、胃のもたれ、食欲不振などがあって、胃内停水音(みずおちでポチャポチャいう音)がある人に対して第一選択となる漢方薬です。
ゲップや吐き気のように、胃の中のものが上がってくるような症状があり、みずおちにつかえがあれば、半夏瀉心湯が適しています。
みぞおちの重い感じ、つかえる感じのときに、これだけを目標にして半夏瀉心湯を投与したところ、九割の方に有効であったという報告もあります。
下の表は「症例でわかる漢方薬入門(新井 信著)」に載っているものです。

六君子湯半夏瀉心湯
体格やせた細身タイプ比較的がっしりタイプ
上腹部症状胃もたれ・食欲不振・食後の眠気胃もたれ(つかえ感、張り感)
下腹部症状あまり訴えない下痢(軟便程度)
みぞおちの状態胃内停水心下痞硬
手足の冷え強く訴える ほとんど訴えない

膈(横隔膜)で気の昇降が阻害され、心下(膈の下のこと)で気の流れが悪くなっている、これが「心下痞(心下部が塞がって、食物もよく通じないような感じ)」です。

心下はちょうど上焦と下焦の境に位置し、気の昇降流通の要所であるので、ここでは特に気の流通が阻害されやすく「心下痞」となります。
腹証は、心下部を押さえて圧痛はなく、軽い抵抗を感じます;心下痞鞭)。

半夏瀉心湯は脾胃のバランスがくずれて、昇降失調が起こっている場合(脾胃不和という)に使います。
脾は胃と表裏の関係にあるため、胃の機能と脾の機能は互いに適度な協力と抑制の関係にあります。
胃の降濁作用によって降ろされた食物を小腸が「清」と「濁」(役立つものとカス)に分別し、「清」の部分と「水液」を脾が吸い上げます。
これが脾胃の調和であり、脾胃不和が発生すると胃が降濁した水穀を脾が昇清できないため下痢が発生したり、胃の降濁作用が低下するために腹部脹満,腹痛,悪心・嘔吐,腐臭のあるゲップ(→口臭)が発生します。


180.股関節痛の漢方治療

次の症例は66歳、女性です。
5年前、左腰からお尻にかけての痛みが出現し、平成23年1月中旬からは寝返りも打てなくなり総合病院の整形外科へ入院されました。
腰部のX線や、MRI検査の結果、「大きな異常はない。」といわれて加療を受け、腰痛は少しましになったそうですが、左股関節からお尻にかけての痛みが残り、2月に同じ病院のペインクリニック(”神経ブロック”を始めとする、手術以外の方法で 、 痛みの治療をする疼痛専門外来)で神経ブロックをされたそうですが、腰には効いたが、股関節の痛みは全く改善しなかったそうです。仕方がないので、ロキソニンという消炎鎮痛剤を処方されたそうですが、全く効かないので、主治医に、「もうロキソニンはいりません。」と断ったそうです。
そんなとき、当院へ通院中の患者さんから紹介され、漢方治療を求めて平成23年3月1日来院されました。
既往歴として、子宮筋腫の手術をされています。なお、現在C型慢性肝炎と肝臓癌で総合病院内科に通院中です。
その他の症状として、口内炎ができやすい・頻尿・夜間尿・のどが渇く・足が夜になるとむくむ・冷え症・夜中に目が覚める・眠りが浅い(西洋の睡眠薬、ロゼレム内服中)などがあります。
身長155cm(以前に比べ7㎝縮んだそうです)、体重55kg、BMI22.9。
この方の舌を診ると、腫れぼったく、舌中央に亀裂を認め(裂紋)、白い苔がついていました。色はやや紫がかり、舌下静脈がやや怒張し、枝分かれも見られました。また、舌先が赤くなっていました。「気虚」・「瘀血」体質と考えられました。
腹診では、下腹部が軟弱無力で、圧迫すると腹壁は容易に陥没し、押さえる指が腹壁に入るような状態(小腹不仁(しょうふくふじん))を認め、腎虚(症例42、58参照)もあると考えられました。
腰冷痛、腰股攣急(症例36参照)によく効く五積散(ごしゃくさん)(症例36、37参照)と腎虚に使う牛車腎気丸(ごしゃじんきがん)(症例47参照)を併用し、一ヶ月分処方いたしました。一ヶ月後の3月29日来院されたとき、「すっかり痛みがとれました」といわれ、大変喜んでいただきました。

なお、牛車腎気丸(ごしゃじんきがん)は、腎虚を治す基本処方である八味地黄丸(はちみじおうがん)に、水をさばく、車前子(しゃぜんし;オオバコ科オオバコの種子)と、婦人の月経不調や「瘀血(おけつ)」を治す要薬で、利尿作用があり、関節の疼痛・痳痺に応用される牛膝(ごしつ;ヒユ科イノコズチ)を加味し、腎より膀胱を通じて尿を排泄する働きを一層強めた処方です。

股関節痛の原因は色々ありますが、患者の中には腰痛もうったえる方が少なくないようです。腰痛は、重いものを持ったりして痛めてしまう(ぎっくり腰など)印象がありますが、一日同じ姿勢でいるデスクワークや、ドライバーにも多い病気であり、一日同じ姿勢というのが腰に負担がかかるそうです。腰、骨盤、股関節は人間の上半身と下半身を支える中心ですから、どれかに支障をきたすと、すべてに悪い影響を与えてしまうのだそうです。
脱臼や骨折、骨頭壊死や腫瘍など、外科的手術が必要とされる股関節痛もあります。
しかし、たいていの股関節痛は骨盤と太ももの骨で作られる関節周囲の筋肉や皮膚の痛みといわれています。
股関節は、立っている時も座っているときも、常に前後の筋肉のストレスにさらされています。
さらには現代の社会では歩くことが少なくなりました。その為、関節を動かさないようになってきたり、股関節を構成する筋肉のアンバランスが多く見られるようになることで、関節は次第に硬くなっていきます。そういったことの繰り返しで、歩行時・運動時に痛みが走ったり、階段の昇り降りが困難になったりという症状が出てくるといわれています。
とにかく筋肉や皮膚が引きつったり、つっぱったり、血流が悪くなったときに痛みますので、この状態では、温める治療が必要と考えられ、漢方薬が一番よい治療法だと思われます。


181.八味地黄丸による花粉症(アレルギー性鼻炎)の漢方治療

次の症例は私です。
実は私はおかげさまで、特に体の調子の悪いところはなく過ごさせております(症例174に書きましたが、飛行機に乗ると悲惨なことになりますが‥)。
私は、平成17年より、漢方薬の勉強をし始めましたので、何か自分でも飲みたくなり、ある講演会で、講師の先生が、「40歳を過ぎたら何の症状がなくても八味地黄丸(はちみじおうがん;症例42、58、161参照)を飲めばよい。」と言われていましたので、平成17年の秋からずっと今に至るまで八味地黄丸を飲み続けておりました。
体の調子はよいといいましたが、実は春先になると、朝方だけくしゃみと水様性の鼻汁がでることが多く、症例49に記載したように私も少し体が冷えているのかなと考え(しかし、私は冬スキーもしますし、特に冷えがあるとは全く考えてはおりませんでした)、麻黄附子細辛湯(まおうぶしさいしんとう、症例49参照)を飲んだところよく効きましたので、特に検査もせず、花粉症とも考えておりませんでした。
私の記憶では、平成21年の春までは、同様の症状がありました。
ところが、平成22年度と23年度(平成22年度は花粉の量は少なかったですが、平成23年度は花粉の量が記録的で姫路市は昨年の10~15倍という猛烈な飛散量です)は全くといっていいほど症状は出ず、「5、6年もを飲めば冷えもよくなって来るんだな」と、考えておりました。
実は、私は年に2回ほど採血検査をしておりますが、何を考えたか3月30日に、「スギとヒノキも見とこかな。」と考え、アレルギー検査の項目にもチッエクをしていたところ、驚いたことに、スギが14.10UA/ml、ヒノキが5.45UA/ml(どちらもクラス3)のかなりの陽性ではありませんか。そこで初めてそれまでの症状が花粉症であったのだと気付きました。
下に載せております、昭和薬局の先生も書いておられますが、私も漢方の教科書、資料などで、『八味地黄丸が花粉症(アレルギー性鼻炎)に有効である』と、いう記述は見たことがありません。
ですから、今まで私も患者さんに花粉アレルギーに対して、八味地黄丸を勧めたことはありませんでした。
私の場合、花粉症が根治するのに約5年かかったと考えられ、根気よく漢方薬の八味地黄丸を飲み続ければ、特に冷え性の40歳以上の方はが根治する可能性が示唆されました。

昭和薬局の先生は、原典通り製造した「ウチダ和漢薬の八味丸」がよいといわれておりますが、私の飲んだのはもちろん調剤用の八味地黄丸料(エキス剤)であり、効果には全く問題はないようです。


特異的IgE抗体のクラス判定の解釈については、こちらをクリック画像の説明シー・アール・シーグループ

同様の報告については、こちらをクリック画像の説明昭和薬局


182.にきびの漢方治療

次の症例は31歳、女性です。
平成22年10月頃より、にきび(特に頬と口のまわり。少し膿むタイプ)が出現し、総合病院の皮膚科で、抗生物質の内服薬と、外用薬を処方されるも一向に改善しないため、平成22年12月27日漢方治療を求めて当院へ来院されました。
身長161cm、体重50kg、BMI19.3と、やせを認めます。
他の症状として、手足が冷える・足がむくむ・生理不順・イライラする・めまい・立ちくらみ・口内炎ができやすい・肩凝り・手足があれる・便秘傾向(薬を飲まずに3日に一回程度)があります。
この方の舌を見ると、全体に腫れぼったく、歯痕舌地図状舌舌診についての気虚の項を参照)を認め、舌の辺縁に瘀斑も認めました(舌診についての瘀血の項を参照)。また、舌の裏側の静脈が膨れ、枝分かれし、気虚+瘀血と診断し、加味逍遥散(かみしょうようさん)(症例72、141、147、165、169、177、178、193、195参照)と、六君子湯(りっくんしとう;症例97,154、178参照)を一ヶ月分処方しました。
1月24日に来られ、「にきびは、新しいのは出ませんが、治るところまではいきません。生理は順調です。」と、いわれましたので、もう一ヶ月分同じ処方を続けさせていただきました。
次に、2月25日に来られ、「体調はすごくよいが、口のまわりにやっぱり、少しにきびがでてきます。」と、いわれましたので、症例163と同様に考え、六君子湯を半夏瀉心湯(はんげしゃしんとう)(症例17参照)に変え、一ヶ月分処方いたしたところ、12月13日来院された時には、「にきびはすっかり治り、痕だけになりました。」と大変喜んでいただきました。
やっぱり、口のまわりのにきびには半夏瀉心湯ですね。

なお、にきびについては、症例6、67、163、306、320、336、337、392もご参照ください。

六君子湯によるにきび治療については、こちらをクリック画像の説明にきび大学


183. 腰痛症・左坐骨神経痛の漢方治療

次の症例は72歳、女性です。
約一ヶ月ぐらい前より、腰から左の臀部にかけての痛みが出現(痛みはお風呂で温めると楽になり、立っている方が楽で、座ったり、横になると痛みが増強するそうです)し、総合病院の整形外科を受診したところ、腰部X線撮影の結果、「軟骨がすり減っている。」といわれ、非ステロイド性抗炎症薬と胃薬を処方されましたが、痛みが改善するどころか、かえって胃の調子まで悪くなったため、平成23年1月28日漢方治療を求めて当院へ来院されました。
身長151cm、体重51kg、BMI22.4。
この方の舌を診ますと、舌の色は紫がかり、舌の裏側の静脈が膨れていました。また、臍の右下に瘀血の圧痛としこりをふれました。
そこで、腰冷痛、腰股攣急(症例36参照)によく効く五積散(ごしゃくさん)(症例36、37、180参照)と、「瘀血」体質の神経痛に使う、疎経活血湯(そけいかっけつとう;症例1参照)という方剤をを合わせて一ヶ月分処方しました。
平成23年2月25日に来られたときに、「痛みはほとんど感じなくなってきました。薬は苦いけどおいしいです。」と、いわれました。このまましばらく続けていただく予定です。



症例87でも触れましたが、大事なのでもう一度、下田 憲先生のコメントを載せておきます。

慢性炎症は痛みと冷えがあり、しばしば血行障害があり、場合によっては水の停滞があります。
西洋医学ではこれに非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs:Non-Steroidal Anti-Inflammatory Drugs)を使ってしまう。そうすると炎症に対してはよいが、体はますます冷えます。一番冷えるのは胃で、しばしば胃潰瘍を作り、血行不良を起こし、手足のむくみをもっとひどくする。これに対しては西洋医学ではステロイドしか持ってない。
そしてしばしば強いステロイドを使っておかしくしてしまうのです。
非ステロイド性抗炎症薬、あれだけ体を冷やす薬を延々と使い続けたら、東洋医学的に考えたら必ず気血の巡りを損ないます。気血の巡りが何年にもわたって損なわれ続けたら、何か他の病気が出てきます。それがNSAIDsの副作用ということは、そのときには全然言われないでしょう。“目先の治療をして、別の病気を作る”、医療に携わる者は、本当は絶対やってはいけないことなのです。              



非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs:Non-Steroidal Anti-Inflammatory Drugs)とは

抗炎症作用、鎮痛作用、解熱作用を有する薬剤の総称で、広義にはステロイドではない抗炎症薬すべてを含みます。一般的には、疼痛、発熱の治療に使用される“解熱鎮痛薬”とほぼ同義語として用いられています。


184. 熱証タイプの変形性膝関節症の漢方治療 

当院では100例近くの変形性膝関節症を治療してきましたが、ほぼすべてが症例2、111、131、137のように、お風呂で温めると痛みが和らぐ冷えタイプ(寒証)の変形性膝関節症です。
しかし、今回初めて熱証タイプと思われる変形性膝関節症を経験しましたので報告させていただきます。
症例は58歳、女性です。
平成22年の初めころより、両方の膝(特に左側)が痛み、整形外科で加療を受けるも改善しないため、当院通院中の方(この方も漢方で膝の痛みがとれた方です)の紹介で、平成22年8月13日加西市から当院へ来院されました。
身長156cm、体重67kg、BMI27.5とやや肥満傾向です。
この方は、とにかく暑がりで、冬でも、「暑い。暑い。」というのが口ぐせだそうです。そのため、お風呂が苦手で、長湯できないそうです。また汗かきで、足の裏もよくほてるそうです。
この方の舌を診ますと、歯痕舌を認め、舌の色は紫がかり、舌の裏側の静脈が膨れ、枝分かれしていました。また、臍の左右両下に瘀血(おけつ)の圧痛としこりをふれました。
足もよくむくむとのことで、「水毒」+「瘀血」体質と判断し、水毒体質の膝の痛みによく使う防已黄耆湯(ぼういおうぎとう;症例76参照)に、瘀血体質によく使う桂枝茯苓丸加薏苡仁(けいしぶくりょうがんかよくいにん;症例67参照)を合わせて一ヶ月分処方いたしました。
一ヶ月後の、9月10日に来られましたが、痛みは全くよくならなかったそうです。相変わらず、「体が暑くて、汗がよく出る。」と、いわれましたので、桂枝茯苓丸加薏苡仁に変えて、越婢加朮湯(えっぴかじゅっとう;症例109参照)を使用したところ、10月18日に来られ、「だいぶ痛みがましになりました。」と、いわれましたので、そのままつづけたところ、平成23年1月28日にこられた時には、「一日中歩き回ったときに少し痛むぐらい。」になりました。
4月15日に来られた時には、「2週間ぐらい薬を飲まなかったら、また痛くなってきました。」と、いわれましたので、この漢方薬の組み合わせが効いているのは間違いないと考えられました。

変形性膝関節症の漢方治療については症例2,76,111,131,207,209,227,228,245,268,269,282,283,300,311,319,334,355も参照して下さい。
また同じ熱証タイプの変形性膝関節症を症例245に載せております。


変形性膝関節症の漢方治療(首藤孝夫先生)

  • 膝関節水腫の時‥防已黄耆湯単独投与
  • 膝関節痛や関節水腫の改善が思わしくない場合‥防已黄耆湯+薏苡仁湯+ブシ末(症例111参照)
  • 局所に熱感や腫脹がある場合‥防已黄耆湯+越婢加朮湯(本症例)
  • 局所が冷えて改善しない場合‥防已黄耆湯+桂枝加朮附湯や麻黄附子細辛湯(症例49参照)や五積散(症例36、37、180、183参照)
  • 瘀血がが絡んでいる場合‥防已黄耆湯+桂枝茯苓丸(症例2参照)
  • 膝の裏が突っ張る場合‥防已黄耆湯+芍薬甘草湯(症例32参照)

越婢加朮湯について

越婢加朮湯は、後漢の時代の書物、金匱要略(きんきようりゃく)にある処方です。
6つの生薬で構成され、浮腫、口渇に効く麻黄と石膏を主体とし、胃腸の調子を整える生姜・大棗・甘草が配合された「越婢湯」に、朮を加えた処方です。
越婢加朮湯は、体内の水分代謝異常(水毒)のもたらす種々の症状を改善する便利な漢方方剤です。
関節が腫れて熱を持つタイプの四肢の関節の腫脹・疼痛、慢性関節リウマチ、変形性膝関節症、痛風などによく使います。
また、アトピー性皮膚炎、腎炎、ネフローゼ、脚気、湿疹、目の充血やにごりの改善など幅広い用途にも用いられます。


185.小児の不眠症の漢方治療

症例147で、「朝が全く起きれない子供」を載せましたが、今度は、小児の不眠症です。
症例は6歳、女児です。身長118cm、体重19kg。
最近、夜寝つきが悪く、イライラして、夜何回も目が覚めるようだと、平成23年2月18日漢方治療を求めて当院へ来院されました。
舌や腹は特に異常は認めませんでしたが、眉間に青筋(症例144参照)がはっきりとしておりました。
「肝」の高ぶりが明らかでしたので、抑肝散加陳皮半夏(よくかんさんかちんぴはんげ)を一ヶ月分朝・夕の2回処方したところ、3月16日お母さんが来られ、「よく寝れています。イライラもよくなりました。ただし、眉間の青筋はそのままです。」といわれました。

小児の不眠症については、安全性(長期連用で薬物耐性や依存性を示す)と有効性のデータが存在しないままで「睡眠薬」と「向精神薬」が適応外で処方されている事実が問題になっているということも聞きましたが、すべてではないでしょうが、本症例のように漢方薬で簡単に治る症例もあることも事実です。


抑肝散加陳皮半夏について

江戸後期の目黒道琢は、「抑肝散(症例24,25,144参照)は大人の半身不随にも効果がある。その証は左側に攣急(れんきゅう;筋緊張が強いこと)があり、みぞおちから腹部正中線上に攣急と動悸がある。これはみぞおちに気が集中しており、腹診しても心下痞(しんかひ;症例179参照)を触知しないが、患者は痞えるという証に効果がある。この証には怒りを覚えるかと問診し、それがあれば必ず効く。また不眠症にも応用でき、やはり上述の腹証と症状を目標とすべきで、特に癇癪もちの不眠症に効果がある。」と、述べています。

現在最も良く用いられている抑肝散の加味方が抑肝散加陳皮半夏で、抑肝散より応用範囲が広いと言われています。これは抑肝散に陳皮と半夏を足した処方で、このため停滞した痰飲(たんいん;症例154参照)を去る作用が抑肝散より強くなっています。

効能又は効果は、虚弱な体質で神経がたかぶるものの次の諸症:
神経症、不眠症、小児夜なき、小児疳症となっています。

比較的体力の低下した人で、神経過敏で興奮しやすく、怒りやすい、イライラする、眠れないなどの精神神経症状を訴える場合に用い、

  • 抑肝散に比べ、より体力が低下して症状がより慢性化していることが多い
  • おちつきがなく、ひきつけ、夜泣きなどのある小児
  • 眼瞼痙攣や手足のふるえなどを伴う場合
  • 腹直筋の緊張している場合

などによいとされています。

小児の不眠については、神山 潤先生が、日本臨林67巻8号(2009-8)に書いておられるので参考にしてください。
こちらをクリック画像の説明不眠症の臨床的分類と概念


186.小児の腹痛(心腹卒中痛)・頭痛の漢方治療

次の症例は9歳、男児です。
身長140cm、体重30kg。
2、3年前より、臍周囲の腹の痛みが頻繁に起こり(痛みのため、学校を早退して帰ってくることも月に2、3回あるそうです。下痢や、便秘はありません。また、本人は神経質で家以外のトイレでは用を足せないそうです)、今年の春休みになってからは、2、3日に一度くらい頭痛(場所はいろいろ)起こるため、平成23年4月8日漢方治療を求めて当院へ来院されました。
舌は特に異常は認めませんでしたが、腹部触診(触れると大変くすぐったがりました)により、胸脇苦満(きょうきょうくまん)を認めました(症例39参照)。また腹直筋も張って、中脘(ちゅうかん、下図参照)と左天枢(てんすう;症例155参照)に圧痛を認めましたので、柴胡桂枝湯(さいこけいしとう;症例39、66、152、155参照)を、2週間分処方しました。
4月21日、お母さんが来られ、「途中で、おたふくかぜに罹りましたが、頭痛も腹痛も全くいわなくなりました。」と、いわれました。
6月17日にお母さんが来られた時には、「今は、一日一回だけ飲ませていますが、腹痛は一度も起こしていません。頭痛は忘れた頃に、軽いのが月に一回ある程度です。」と、いわれました。


画像の説明


心腹卒中痛について(下田 憲先生)

柴胡桂枝湯は子供から大体20歳代まで(特に中・高校生)に使うことが多いです。
やや遷延する炎症性疾患で消化器症状を来たしたもの(上気道炎・胃十二指腸潰瘍・ストレス性膵炎など)の他、心身症(その身体疾患の症状発現や、症状の消長にこころの問題の関与が大きい身体疾患の総称)にもよく使います。特に起立性調節障害の児童で突発する腹痛を訴え(これを心腹卒中痛という)、登校拒否に陥る者によく奏効します。
ある時突然ぐっと痛くなる。しかし、これは決して詐病(さびょう;意図的に病気にかかったふりをすること)ではありません。それが証拠に本剤を飲めば数分して症状がとれます。

なお、小児の習慣性頭痛については、岩間正文先生が、漢方研究(2010年3月号)という雑誌に、「学校はストレス社会の縮図で、繊細な生徒はなんらかの心理的な影響を受ける。過緊張により血管は収縮し、後頭・側頭部が痛む。本剤の柴胡は、芍薬と相まって張りつめた心をほぐし、桂枝は血行を改善させる。いずれも一ヶ月前後で即効が認められます。作用は下半身にも及び、腹痛や下肢痛にも奏功します。小児の習慣性頭痛は柴胡桂枝湯が第一選択剤になります。」と、書いておられます。


187.神秘湯が有効であったアレルギー性鼻炎の一例

次の症例は、症例172の10歳、女性です。
アレルギー検査では、カモガヤ、ブタクサ、ヨモギ、スギ、ヒノキ、ネコ皮屑、ハウスダスト、ヤケヒョウダニなどが陽性と聞いていたんですが、喘息だけだと思い、神秘湯(しんぴとう)だけを処方していたところ、平成23年4月15日に来られた時に、お母さんが、「毎年この時期は、アレルギー性鼻炎で大変なのに今年は全く症状(鼻水・くしゃみ)が出ません。」と、いわれました。
アレルギー検査の結果を改めて見直してみると、スギが19.37UA/ml(クラス4)、ヒノキが16.12UA/ml(クラス3)のかなりの陽性でした。

特異的IgE抗体のクラス判定の解釈については、こちらをクリック画像の説明シー・アール・シーグループ

平成23年度は花粉の量が記録的で、姫路市で昨年の10~15倍という猛烈な飛散量ですから、今年症状がでないというのは明らかに薬が効いているとしか考えられません。


コメント

神秘湯は、気管支喘息に用いられることが多いのですが、アレルギー性鼻炎に有効であったという報告は、調べ得た範囲では、漢方臨床 第51巻第2号(2004年)の”神秘湯が有効であったアレルギー性鼻炎の一例”(古谷陽一、他)しかありませんでした。その症例は28歳男性の成人例でした。

文献の考察を見てみると、「神秘湯(麻黄5.0g 杏仁4.0g 柴胡2.0g 紫蘇葉1.5g 厚朴3.0g 陳皮2.5g 甘草2.0gから組成)は、麻黄と柴胡を含有することから、麻黄剤と柴胡剤の性格を併せ持ち、かつ紫蘇葉・厚朴・陳皮の気剤が含まれているのが特徴である。」とされている。
また、「慢性鼻炎やアレルギー性鼻炎の治療として、葛根湯・小青竜湯・麻黄湯・麻黄附子細辛湯など麻黄含有剤が用いられる他、小柴胡湯・四逆散・抑肝散加陳皮半夏などの柴胡含有剤も使用されている。したがって、麻黄と柴胡の両者を含有する神秘湯は、アレルギー性鼻炎の治療方剤ともなりえる。」と結論されている(下の図参照;図は文献より転記)。

画像の説明

また、本処方には気剤が含まれており、「気鬱(体のエネルギーである“気”がうまく循環せず停滞しているために、精神的に不安定で抑うつされている状態)と神経症的傾向をおびている者に有効である」と、矢数道明先生や細野八郎先生がいわれています。
しかし、本症例は普段からバレーボールをする明るい子供で、これは当てはまらないと考えられました。

下田 憲先生は、「麻杏甘石湯(麻黄含有剤)と柴朴湯(柴胡含有剤)を合わせたものから、余計なものを取り除いたら神秘湯になるのです。大人は一応、柴朴湯を基本にするのです(発症してあまり長くない人は神秘湯でやる)が、小児の場合はほとんど神秘湯です。」と、いわれています。

下田先生は、神秘湯とアレルギー性鼻炎については何もいわれていませんが、今後、小児のアレルギー性鼻炎や、大人で、気鬱の方のアレルギー性鼻炎には、神秘湯を積極的にを使っていこうと考えております。


188.慢性胆のう炎・不整脈(心房細動・心室性期外収縮)の漢方治療

次の症例は59歳、男性です。
当院ホームページの症例175を見て、自分とよく似ているため、漢方治療を求めて姫路市から来院されました。
慢性胆のう炎・高血圧症・高脂血症は近所の病院で加療を受け、腹痛時(痛みは、右の肋骨下部あたりが鈍く痛むそうです)には、シプロキサン(細菌のDNA合成を阻害して、殺菌的溶菌作用を示すニューキノロン系の抗菌剤)という抗生物質を投与され、心房細動・心室性期外収縮の不整脈は姫路循環器病センターで、サンリズム(Naチャネル抑制作用により、心臓の刺激伝導系の異常を抑制して不整脈を改善する。通常、頻脈性不整脈の治療に用いらる)という薬で加療されています。
それ以外にも症状は多彩で、腹がはる・快便感がない・腹が鳴る・胸やけ・のどが痞える・口の中が苦い・食欲不振(食事を前にすると気分が悪くなる)・肩こり・体がだるい・疲れやすい・イライラする・動悸がする・耳鳴り・手足の冷え・腰痛・気分が沈む・夜中に目が覚める・いやな夢をみるなどがあります。
なお、近くの病院では、精神的な緊張による種々の症状(不安・いらだち・緊張など)や、精神緊張のための筋肉のこり・不眠を改善するジアゼパムという薬も処方されています。
身長154cm、体重56kg、BMI23.6。
舌の色は紫がかり、白苔と軽い歯痕舌を認めました。また、舌の裏側の静脈が膨れ、枝分かれしていました。
腹診ではみぞおちが、少し硬くなっていました(=心下痞硬(しんかひこう)。また、腹直筋も張って、中脘(ちゅうかん、症例186参照)と左天枢(てんすう;症例155参照)に圧痛を認めましたので、柴胡桂枝湯(さいこけいしとう;症例39、66、152、155、186参照)と、半夏瀉心湯(はんげしゃしんとう)(症例17、89、163、179、218、286参照)を合わせて一ヶ月分処方しました。
そうすると、4日後の4月30日に電話がかかってきて、「調子がとてもいいです。また、漢方薬を飲むと不整脈もおさまるんです。」といわれました。
腹部症状がよくなるであろうことは期待しておりましたが、不整脈まで落ち着くのは、やはりストレスが背景にあると思われました。
5月16日来院されましたので詳しくお聞きすると、「7時間以上連続で仕事をしたら、不整脈が出たが、それ以外には全然出ない。また休日には全く出なくなった(なお、右の肋骨下部あたり鈍い痛みは、不整脈と連動しており、不整脈の出ないときには、痛まないそうです)。」とのことでした。他の症状は、耳鳴り・肩こり・左背中のしびれ・胸やけが少々だけになったそうです。なお腹診もしましたが、緊張が取れ、とても軟らかくなっておりました。


コメント

柴胡桂枝湯と半夏瀉心湯は、普通合わせて処方するということはあまりないと思います。
下田憲先生は、「両者の違いというのは、腹証で明確に違う。」といわれております。
つまり、柴胡桂枝湯は、中脘の圧痛と腹直筋の緊張(腹皮拘急;ふくひこうきゅう)。半夏瀉心湯は、自発痛と心下部の張り(心下痞硬;しんかひこう)ということです。
しかし、本症例の場合、自覚症状的にも、腹部の所見的にも両者の要素が見られ、結局合方させていただきました。


不整脈と漢方については、こちらをクリック画像の説明BPnet


189.過敏性腸症候群の漢方治療(通勤電車に乗るとお腹が痛くなる)

次の症例は51歳、男性です。
この方は自宅のある加古川市から、会社のある神戸市の灘区まで毎朝電車で通勤されていますが、「電車に乗ると必ずお腹が痛くなり便をしたくなるのが困る。」と、平成23年1月15日漢方治療を求めて当院へ来院されました。
会社の健診では、胃カメラ検査でピロリ菌陽性を指摘され、除菌療法を受けられましたが、それ以外には特に異常は指摘されておりません。
他の症状として、腰痛・肩こり・体だるくて疲れやすい・いびきが大きいなどがあります。
身長169cm、体重70kg、BMI24.5。
舌は特に異常を認めませんでしたが、腹診で、みぞおちから左右の胸から脇(季肋下)にかけてガチガチに硬くなっており、押さえると抵抗と圧痛を訴え、腹直筋攣急もあり、腹に2本の棒を立てたように触れました。
念のため、胸部を見せていただくと、やはり予想どおり、前胸部中央に少量の胸毛を認めました(症例63参照)。    
そこでもふれましたが、前胸部中央は、心の反応する場所で、ここに毛がはえることは、常に心へのストレスがかかっている現われと考えてよいのです。
そこで、四逆散(しぎゃくさん)を1ヶ月分処方したところ、2月12日に来院され、「電車にに乗っても全く症状が出なくなりました。」といわれました。
経過から考え、過敏性腸症候群と考えられた症例です。
突発的に下痢が襲ってくる場合もあるので、『過敏性腸症候群のひどい人は電車にも怖くて乗れなくなる』そうなので、漢方薬がお役に立ててよかったです。

過敏性腸症候群の症状は、下痢型、便秘型、下痢と便秘を交互に繰り返す交替型に大きく分けられます。
下痢型は、通勤電車の中で腹痛が起こり、駅のトイレに駆け込む、というのが典型的です(具体例;出社しようと通勤電車に乗り込むと、腹痛が起きるようになりました。目の前は真っ暗、次の駅までは永遠に長い時間帯に感じられ、額からは汗が滲んできて、気が遠くなってきます。この症状は、毎朝のように通勤電車の中で出るようになりました)。
大事な商談中でも我慢できない便意が起こって、中座せざるをえなかったり、営業車の運転中に腹痛が起こったりというケースもあります。

ではそもそも、なぜ下痢が起こるのでしょうか?
そのメカニズムとして口から入った食べ物は、まず胃に送られ、胃酸によって消化され、ドロドロの状態になります。それが十二指腸を経て小腸へと進み、体内に吸収されます。その残りのカスが大腸へと進み、適度な水分が吸収されたものが便となり、排泄されのです。ところが、何らかの原因で、大腸での水分吸収が十分に行われないと、水分量の多い便が排泄される、つまり、下痢になるのです。

過敏性腸症候群の場合は、大腸のぜん動運動が盛んになるため、腸の内容物の水分が十分吸収されず、下痢状態で排泄されるケースが多いといいます。

便秘はその逆で、大腸のぜん動運動が減少することで、内容物が腸内にとどまる時間が長くなり、その間に水分が吸収されて、硬く小さな便となります。さらに、大腸のS状結腸という部分に異常な収縮運動が起こり、便がせき止められるため、便が出にくく、出てもウサギの糞のようなコロコロとした便になってしまのです。

下痢と便秘、症状は正反対ですが、どちらも、腸の運動異常が原因というわけです。

貝谷 久宣先生(ゲイナー 第16号 P176-178 2005年9月号)


190.小児の便秘の漢方治療

次の症例は4歳8ヶ月、女児です。
当院ホームページの症例26を見て、自分の娘にぴったりだということで、お母さんが平成23年4月28日連れて来られました。

  • 過緊張による便秘。
  • 食が細い。間食が多い。甘い物を好む。食べても肥えない。
  • 目が大きい(=疳(かん)が強い)。
  • まつげが長い(=過敏性体質の子供が多い)。
  • 腹を触るとくすぐったがる。
  • 子供のくせによく、「足がだるい・痛い」という
  • 口唇がかさかさ乾燥し、ひび割れる
  • おねしょ
  • 汗をかきやすい。寝入りばなの頭汗

の症状があり、唯一鼻血はないそうです。このうち、一番の悩みはコロコロとした固い便が少ししか出ないことです。
身長 105.3cm、体重17.1kg(標準身長 104.5cm、体重17kg)。
舌診では特に異常を認めず、 腹診では腹直筋緊張(;症例279参照)を認め、お腹をくすぐったがりました。お母さんの言われるように典型的な小児の虚弱体質なので、小建中湯(しょうけんちゅうとう;症例26、29、109、145、192、321参照)を一ヶ月分処方したところ、5月18日に来られ、「バナナのようないい便がでるようになりました。」と、喜んでいただきました。また、お腹を触診しても、くすぐったがらず、軟らかくなっていました。また、口唇の乾燥もとれていました。しかし、おねしょはまだ続いているようです。

小児の便秘については、症例192、279、631、647も参照下さい。

小建中湯は、症例26のように下痢に使うこともありますが、便秘にも使えます。
「血」・「水」が乱れて腸管の潤いが低下した『便の水分の消失による便秘』には「麻子仁丸(ましにんがん)」・「潤腸湯(じゅんちょうとう)」などとともに、「小建中湯」も用いられます。

小建中湯は、小児の習慣性腹痛(症例145参照)や痙攣性便秘(症例78・192参照;便意はあっても少ししか排便できず残便感がある)のファーストチョイスです。


191.若い男性の不定愁訴症候群の漢方治療

次の症例は28歳、男性です。
約1年前ぐらいから、便秘と下痢の繰り返し・口内炎ができやすい・頭痛・肩こり・体がだるい・疲れやすい・めまい・寝つきが悪い・うつ気味などの症状があり、平成23年5月2日漢方治療を求めて当院へ来院されました。
愛知県豊田市の会社でデスクワークをされており、今回ゴールデンウィークでこちらに帰省されたついでに来院されました。
身長175cm、体重60kg、BMI19.6と、やせを認めます。
この方の舌を見ると、舌先が紅くなっており(舌尖紅潮;症例72、141参照)、口内炎がここによくできるそうです。
腹診では腹直筋が張って、中脘(ちゅうかん、症例186参照)と左天枢(てんすう;症例155参照)に圧痛を認めましたので、柴胡桂枝湯(さいこけいしとう;症例39、66、152、155、186、188参照)を一ヶ月分処方したところ、5月21日お母さんが薬を取りに来られ、その時、ご本人と携帯電話で話をさせていただいたところ、「とにかくいい感じで調子いいです。」といわれましたので、今度は2カ月分処方させていただきました。


不定愁訴症候群について

不定愁訴症候群(自律神経失調症ともいいます)、これは患者さんが頭痛・めまい・動悸・息切れ・ふらつき・腹痛・下痢・しびれ・痛み・全身倦怠感・不眠などの多彩な症状を訴えますが、西洋医学的検査をしてもなんの異常も見出されない時に便宜上使われる疾患名です。環境や季節の変化、蓄積疲労、ストレスなどにより自律神経が乱れる(自律神経失調)ことによって引き起こされると考えられています。
この不定愁訴症候群の患者さんの数は大変に多い(ある統計では外来を受診する患者さんの3割ほどがこうした原因のわからない不定愁訴症候群であるといいます)ですが、残念なことにこの疾患に対して西洋医学はほとんど無力であります。なぜなら病気の原因が不明だからです。
西洋医学では、「病気の原因を突き止めてこれを治療することによって病気全体を治す。」という発想ですから、原因がわからない病気に対しては対処のしようがないのです。

それでは東洋医学ではどうでしょうか。
東洋医学は病気の原因というものを考えず、結果からものをいいます(東洋医学では、患者さんの舌、お腹などを詳細に観察し、「こういった漢方の診察方法を参照)にはこのくすりを。」というように治療方針を決めます。すなわち西洋医学が原因を重視するのに対し、東洋医学は症状という結果を重視するのです)。ですから原因が不明で、とにかく結果としていろいろな症状がでる不定愁訴症候群は東洋医学にはうってつけといえます。
つまり東洋医学では体のバランスが崩れているためにさまざまな症状が起こってくるととらえて、そのバランスを整える治療を行っていきます。ですから本症例のように、複数の症状に対して 一剤の漢方薬ですんでしまうことも少なくないのです。


192.小児の排便困難(過敏性腸症候群の便秘型)の漢方治療

次の症例は10歳7ヶ月、女児です。
問診票にお母さんが書かれた通りに記載させていただきますと、「幼少期より、便秘がひどく、便の状態がとても大きく、排泄が大変困難です。便の臭いも普通でない(臭い)。口臭も気になります。」ということで平成23年4月4日漢方治療を求めて姫路市から当院へ来院されました。
他の症状として、のどが痞える・汗をかきやすい(特に手のひら)・咳が夜間によく出るなどがあります。
身長 147cm、体重35kg(標準身長 139.6cm、体重42kg)。
舌診では、子供では珍しく舌先が紅くなっていました(舌尖紅潮;症例72、141参照)。また、腹診では腹直筋緊張を認めました。
問診や、舌の状態から精神的なストレスの関与が疑われましたので、桂枝加芍薬湯(けいしかしゃくやくとう)を一ヶ月分処方したところ、5月24日お母さんが来られ、「最初のうちは漢方薬を嫌がっていましたが、今は普通に飲んでくれるようになり、毎日いい便が出るようになりました。」と、喜んでいただきました。

小児の便秘については、症例190、279、631、647も参照下さい。


痙攣性便秘について

症例78でも記載しましたが、痙攣性便秘は一般に「神経性便秘」と言われています。過敏性腸症候群の便秘型に相当します。
決して硬い便は出ず、細い便が細切れに出たり、ウサギの糞のようなコロコロの便になります。そして、残便感・下腹部の膨満感・腹痛などを伴います。
治療は精神的なストレスの改善と痙攣して細くなった大腸機能を緩めることを考えます。
一般には桂枝加芍薬湯(けいしかしゃくやくとう)・桂枝加芍薬大黄湯(けいしかしゃくやくだいおうとう)・小建中湯(しょうけんちゅうとう)を使用し、精神的ストレスが強ければ、加味逍遥散(かみしょうようさん)・四逆散(しぎゃくさん)・柴胡桂枝湯(さいこけいしとう)などを併用します。



桂枝加芍薬湯と小建中湯について

過敏性腸症候群(症例17、189参照)に、漢方薬では「建中湯類」がよく用いられます。この建中湯の「中」とは、体の真ん中、つまりお腹のことで、その名の通り”お腹を整える処方”です。
建中湯の成り立ちは、桂枝湯(桂皮・芍薬・生姜・大棗・甘草)という風邪のお薬に「芍薬」の量を増量した処方、桂枝加芍薬湯がベースになっています。
「芍薬」には筋肉の緊張を和らげる効果と自然な腸の動きを取り戻す作用とがあって、便秘と下痢のいずれにもよく使われます。
この桂枝加芍薬湯は、腹部膨満・しぶり腹・腹痛のお薬で、過敏性腸症候群の症状にあっています。
桂枝加芍薬湯に膠飴(こうい;もちごめ粉、うるち米粉、小麦粉に麦芽を加えて加工製成した飴)が加わりますと小建中湯という処方になります。膠飴には滋養強壮効果があり、普段から虚弱で疲労し易いもの、または本来は頑丈であっても、無理を重ねて、ひどく疲労しているような時に応用の機会があります。


193.不眠症の漢方治療

次の症例は30歳、女性です。
仕事上のストレスが強く、不眠(寝つきが悪い・夜中に目が覚める・嫌な夢を見る)になり、食欲も低下してきたため、心療内科を受診したところ、エチセダン(=デパス。不安や意欲低下を改善し、筋肉のこりをほぐす作用もあります。したがって、精神的な緊張による種々の症状(不安、不眠など)を改善します。また、催眠作用、抗うつ作用などもあります)を寝る前に飲むように処方され、ストレスの強い時には昼間も飲むようにしていたが、あまりはっきりとせず、このまま薬を続けるのも不安なため、平成23年4月21日漢方治療を求めて当院へ来院されました。
身長158cm、体重44kg、BMI17.6と、やせを認めます。
他の症状として、下痢しやすい・吐き気・食欲不振・肩こり・にきび・体がだるい・イライラする・気分が沈む・生理不順などがあります。
この方の舌を診ると、歯痕舌 を認め、舌先が紅くなっていました(舌尖紅潮;症例72、141参照)。また紫がかり、舌の裏側の静脈が膨れ、「脾気虚(症例97参照)」、「瘀血(おけつ)」体質と考えられました。
加味逍遥散(かみしょうようさん)(症例72、141、147、165、169、177、178、182、193、195参照)を一日2回、加味帰脾湯(かみきひとう;症例45参照)一日一回寝る前を合わせて一ヶ月分処方したところ、5月24日に来られ、「寝つきがよくなりました。また、エチセダンもほとんど飲まずにすんでいます。下痢しやすい・吐き気・食欲不振・肩こり・にきび・生理不順はなくなりました。体がだるい・イライラする・気分が沈むは少し残っています。」といわれました。


加味逍遥散と加味帰脾湯について(下田 憲先生のコメント)

  • 加味帰脾湯の人は、基本がうつです。うつで静かな人です。それが一生懸命がんばって、ストレスから具合が悪くなりますから、なかなか訴えはあまりしません。ずっと聞いているとだんだん沈んだことを言ってきて、「ああ、疲れているのだ。」、「ああ、大変なのだ。」というような感じなのです(つまり、うつが先行し、緊張が加わる)。
  • 加味帰脾湯は、精神症状をちゃんと訴えてくることはないのです。そしてまだ社会生活を送っています。身体症状を必ず訴えてきます。要するに疲れやすいだとか、頭が重いだとか、眠れないだとか、食欲がなくなっただとか、口の中が苦いだとか、あるいはあちこちが痛いと言ってくる方もいます。
  • 加味帰脾湯は、ちょっと五臓の「脾」が衰えていて、軽いうつがある人に、「胃腸にいい薬で、元気がでますよ。」と言って出します。
  • 加味逍遥散は、似ているようで出発が逆です。つまり、緊張が先行しうつが加わるのです。
    加味逍遥散の人を外来で診るのは大変です。しゃべらせておけば、30分でもとりとめもなくしゃべっています。もう1つ特徴的なのは、たいていたくさんメモをしてきます。
    それで延々ととりとめがなく、話があっちへ飛びこっちへ飛び、もう全然まとまりがないのです(加味逍遥散については、症例141を参照してください)。
  • 両者とも、舌苔があるのは同じですが、加味逍遥散の場合は舌質がきれいな赤です。訴えやあるいは見た感じは結構似ているのですが、舌が全然違うのです。
    きれいな赤い舌の上に薄い黄色や緑の苔が乗っているというのが加味逍遥散ですし、暗赤色の上に同じような苔が乗っているというのが加味帰脾湯です。

本症例の場合、鑑別が難しく、ちょっとずるいやり方ですが、加味逍遥散をメインにし、加味帰脾湯を少し眠前に足してみました。
ストレスが先行ているので、加味逍遥散単独でもよかったかもしれません。


194.小児腎咳の一例

症例161で、成人の腎咳の症例を載せましたが、今回小児の腎咳症例がありましたので、報告します。
症例は9歳7ヶ月、男児です。
4歳頃より、咳(一日中)が多く、ハウスダストにアレルギー反応が陽性で、「喘息の気がある」といわれています。治療を受けても咳は改善せず、加古川市にある漢方専門のクリニックを受診をしたところ、煎じ薬で漢方薬を出され(薬の内容の詳細は不明)ましたが、一向に改善せず、平成23年5月16日漢方治療を求めてお隣の太子町から当院へ来院されました。
他の症状として、口内炎ができやすい・汗をかきやすい(暑がりの寒がり)・かぜに頻繁にかかり、中耳炎もよくおこす・鼻づまり・鼻水の他、疲れやすい・立ちくらみ・腰痛・肩こり・寝つきが悪い・眠りが浅い・手足が冷えるなどおよそ子供とは思われないような症状があります。
舌は特に異常はありませんでしたが、腹診では上腹部は緊張が強くガチガチでしたが、下腹部は逆に軟弱無力で、圧迫すると腹壁は容易に陥没し、押さえる指が腹壁に入るような状態(小腹不仁(しょうふくふじん))をはっきりと認め(小児でこのようなはっきりとした小腹不仁を診たのは初めてです)、腎虚(症例42、58参照)と考えられました。
身長 124.7cm、体重30.6kg(標準身長 134.1cm、体重24.9kg;標準よりかなり身長が低いです;お母さんによると、4歳ころから、他の子供に比べ成長が遅いな‥と感じだしたそうです)。
冷えはそれほどでもなさそうなので、六味丸(ろくみがん;症例128参照)を一ヶ月分処方したところ、5月26日にお母さんが別の用事で来られ、「飲み始めて2、3日は、体がどっと疲れたようになり、ぐっすりと寝れたそうです。それとともに咳も改善している。」と、いわれました。
まだ、10日しかたってませんが、調子よさそうです。一ヶ月後の経過はまた報告させていただきます。

(ここから続報です)

さて、一ヶ月後は、6月13日に来られましたが、「薬を飲みだして12日目から咳は全く出なくなりました。また、体も軟らかくなった感じ(足首など関節が固かったそうです)で、夜もよく眠れるようになりました。また、普段の生活をしていても、手足がよくだるいと言っていたのが、全く言わなくなりました。」と、大変喜んでいただきました。
なお、加古川の漢方医の所へは、3年間通い続けたそうですが、何の薬をもらっているかわからず、病態の説明もなく、とにかく薬を3年続けなさいといわれていたそうです。しかし、全くよくならなかったそうです(きっちりと腎咳と診断できれば11日間で治るものを…残念です)。

(ここから続報です)

一ヶ月後は、7月20日に来られましたが、「今まで眉毛が薄く、女子に間違えられたりしましたが、最近眉毛が濃くなってきました。」と、お母さんがいわれました。

(ここから更に続報です)

10月3日に来られた時に、「先月、9月に学校で身重を測りましたが、127.7cmと、4ヵ月で、約3cm伸びました。今までで一番伸びています。」と、お母さんがいわれました。

(ここから更に続報です)

平成24年1月16日に来られた時に、「身重は、129.0cmとさらに伸び、体重は34.2kg(標準身長 137.3cm、体重27.3kg)です。学校でマラソン大会がありましたが、昨年よりかなり成績が良かったです。それと、永久歯が今までなかなか生えて来なかった(小学校2年生の時に前歯が生え変わって以来、後は乳歯のままだったそうです)のが、最近すごい勢いで生え変わっています。」と、お母さんがいわれました。

「腎」は、西洋医学でいうところの「婦人科(女性)・泌尿科(男性)の生殖器」、「精神科の恐怖心・不安症・ショック状態」、「耳鼻科の耳」、「尿道と肛門」、「整形外科の骨」、「歯科の歯」、「皮膚科の髪」、「脳外科や脳神経科の脳」、「内科や精神科の睡眠」などをつかさどります。

腎虚の症状(症例58参照)をみますと、中年の方やお年寄りに多いような印象を受けますが、要は「腎」の機能が低下している状態ですから、子供や成人にも見られます。
小さなお子さんが虚弱気味で発育が悪いとか、または中高年になって往年ほどの元気がなくなり、疲れやすいといったことは、漢方では「腎」が虚していると考えます。

腎虚はふだん元気な人でも心身を過酷にすり減らしたときとか、ある種の慢性的な病気でもその基盤に腎虚が見られることがあり、疲れやすくて、口が渇く、皮膚がかさついてかゆい、夜間も多尿になったり尿の出が悪い、といったこともその一つの現れです。「六味丸」はこの「腎虚」を改善する漢方薬です。
六味丸は、その名が示すよう、以下の6種類の生薬からなります。地黄(ジオウ)・山茱萸(サンシュユ)・山薬(サンヤク)・茯苓(ブクリョウ)・沢瀉(タクシャ)・牡丹皮(ボタンピ)。下肢が疲れやすく、疲れると手足がほてり、口が渇くものに使います。これにさらに体をあたため痛みをとる附子(ブシ)・桂皮(ケイヒ)の2味を加えると、八味地黄丸(症例42、58参照)になります(つまり、八味地黄丸は冷えのある人に使われます)。
六味丸は、小児の発育促進に使用します。腎陰が不足すると骨や知能の発育に影響するためです。


195.帯帽感(頭帽感)の漢方治療

次の症例は48歳、女性です。
今年2月頃から、めまい(ふらっとする感じ)・動悸・息切れが出現し、総合病院耳鼻科を受診したところ異常なく、「自律神経失調症でないか。」といわれました。
そこで同じ病院の内科を受診したところ、心電図や胸部X線検査に異常なく、「喫煙が原因でないか。」といわれ、禁煙外来にまわされ、薬は加味逍遥散(かみしょうようさん)(症例72、141参照)が出たそうです。
禁煙外来に通い、無事禁煙できましたが、症状は全く改善しないため、平成23年3月9日漢方治療を求めて当院へ来院されました。
身長163cm、体重48kg、BMI18.1と、やせを認めます。
他の症状として、両肩にだれかが乗っているような重だるい感じと、頭帽感(上から押さえられたような、帽子か何かを乗せているような感じ)と、不眠(寝付きが悪い・夜中に何回も目が覚める)・体のだるさがあります。
この方の舌を見ると、厚くはれぼったい感じがし、また、両側の舌の縁に、歯型が波打つようについていました(歯痕舌(しこんぜつ))。
また、舌が紫がかり、舌の裏側の静脈が膨れ、「気虚」+「瘀血」体質と診断し、補中益気湯(ほちゅうえっきとう;症例15参照)加味逍遥散(かみしょうようさん)を合わせて一ヶ月分を処方しました。なお、前医で無効だった加味逍遥散をあえてもう一度処方した理由ですが、飲み方がお湯で溶かずに、水のまま飲まれていたのでそのため効かなかったと考えたからです。問診からも、舌診からも加味逍遥散はピッタリだと考えました。
一ヶ月後の、4月4日に来られた時には、「頭帽感はすぐにとれました。まだ時々ふらっとする時はありますが、全体的によく効いています。」と、いわれました。
さらに一ヶ月後の5月2日には、「体のだるいのはとれました。以前は買い物に外へ出ることもできませんでしたが、今は半日くらい外へ出れるようになりました。まだ少し、肩の重いのはあります。」と、いわれましたので、補中益気湯に変えて葛根加朮附湯(かっこんかじゅつぶとう;症例12参照)を処方させていただきました。次に5月30日に来られた時には、「肩こりもとれました。時々まだ夜中に目が覚める時がありますが、以前に比べるとずいぶんましです。」と、いわれました。
7月25日に来られた時には、「もう長時間買い物に行っても、めまい(ふらっとする感じ)が全くしなくなりました。夜もよく寝れますし、今は全く調子の悪いところはありません。」といわれました。


帯帽感(頭帽感)について(下田 憲先生のコメント)

帯帽感というのは、本当に後ろから帽子をかぶせられているような感じです。これを訴えるのは加味逍遥散加味帰脾湯(症例45、193参照)だけなのです。加味逍遥散や加味帰脾湯の人に必ずあるというわけではありませんよ。でもそれがある人はたいていこのどちらかなのです。そして、非常にわかりやすいのは、一服飲んで20~30分もしないうちに、長年かぶっていた帽子を脱いだというくらい劇的に改善されます。

脱ぐ事の出来ない帽子
その辛い“帯帽感(頭帽感)”の原因を漢方では体内を巡る「気」が頭部で滞った状態、「気鬱」と考えます。

加味帰脾湯による帯帽感(頭帽感)の漢方治療は、症例239に載せています。

196.頭痛(低気圧が近づくとひどくなる頭痛)の漢方治療

次の症例は42歳、女性です。
平成22年5月22日、生理痛・頭痛・肩こりの漢方治療を求めて姫路市から当院へ来院されました。
そのほかにも多彩な症状を認め、便秘、下痢の繰り返し・腹がはる・腹が鳴る・胃がもたれる・口内炎ができやすい・汗をかきやすい・口が渇く・肩こり・にきび・手足が荒れる・体がだるい・疲れやすい・耳鳴り・手足の冷え・腰痛・夜中に目が覚める・眠りが浅い・生理不順・出血量が多い・青あざができやすいなどがあります。
身長165cm、体重58kg、BMI21.3。
この方の舌を見ると、厚くはれぼったい感じがし、また、両側の舌の縁に、歯型が波打つようについていました(歯痕舌(しこんぜつ))。また、舌が紫がかり、舌の裏側の静脈が膨れていました。
腹診では、みぞおちが少し硬くなっていました(=心下痞硬(しんかひこう)という)。また右下腹部に圧痛としこりをふれ、「気虚」+「瘀血」体質と診断し、人参湯(にんじんとう;症例8参照)加味逍遥散(かみしょうようさん;症例72、141、147、165、169、177、178、182、193、195参照)を合わせて一ヶ月分を処方しました。
6月26日に来られた時には、頭痛と肩こり以外は、ほぼよくなっていました。特に生理痛はなかったそうです。
そこで、肩こりによく使う葛根加朮附湯(かっこんかじゅつぶとう症例12参照)と加味逍遥散を処方しましたが、7月24日に来られた時には、「ほとんどかわりない。」とのことでした。よく話を伺うと、毎年梅雨になると、頭痛・肩こりは特にひどくなるそうです。そこで、五苓散(ごれいさん;症例3、22、120、174、215参照)と加味逍遥散を処方しましたが、8月21日に来られた時には、意に反して、「五苓散は少しましかな、という程度であまり効いた感じがしない。」といわれました。
そこで、呉茱萸湯(ごしゅゆとう;症例51、169参照)と、加味逍遥散にしたところ、頭痛・肩こりともに症状は軽快してきました。
平成23年1月15日に来られた時には、「以前は毎日頭痛薬を飲んでいましたが、最近はめったに飲まなくてよくなりました。胃も生理痛もとても調子いいです。」といわれました。
2月19日に来られた時には、「生理前に少し頭痛がおきて、今月は2錠だけ頭痛薬を服用しました。」といわれました。
そんな具合で調子良かったのですが、5月14日に来られた時に、「前額部がずっと重い感じ(「水滞(水毒)」の痛みの特徴は、重だるい痛みで、湿気や低気圧で悪化し、粘着性で同じ部位にとどまりやすい;症例1参照)で、肩こりもひどく、低気圧が近づくと特にひどくなるんです。毎年、梅雨時分は最悪なんです。」といわれました。5月10日から12日の3日間は大雨が続き特にひどかったようです。
やはりどう考えても五苓散しかないと考え、呉茱萸湯に変えて五苓散を処方したところ、6月11日に来られ、「梅雨時期なのに今年はとっても楽です。」と大変喜んでいただきました。
前回投与した五苓散が無効だったのは、よく考えると処方したのが7月24日で、梅雨が終わっていたからだと考えられました。


同じような症例を症例294に載せております。
また、加島 雅之先生も同じような症例を載せられておりますので紹介します。

症例は44歳女性。 
主訴は頭痛です。20代から雨の前の日になると頭痛が出現する。拍動性と締めつけられる感じが混ざった痛みで、片側も両側もどちらもある片頭痛です。頭痛時はロキソプロフェンナトリウム(商品名ロキソニン)3錠/分3に加えて、痛みが強い時にはジクロフェナクナトリウム(商品名ボルタレン)坐剤25mgを併用せざるをえない。看護師の方ですが、これを使わないと仕事にならないとおっしゃる方でした。
この病態は、「水滞(水毒)」といって体の中の水分の異常が頭に影響すると考えますが、そのときに五苓散が効きます。
最初に「だまされたと思って、痛いと思ったら飲んでみなさい」と言って渡しておきました。1服飲んだら痛みが軽くなるような感じがし始めて、10分ぐらいで効き始めたと言っていました。ロキソプロフェンナトリウムが1錠で済むようになったそうです。だいたい片頭痛の人は痛くなりそうな感じがわかると言います。そこで、頭痛が始まりそうになったら3包/分3で飲んでいただきました。頭痛がひどいときには2包を一気に飲んでいただくよう言いました。そのようにしたら、頭痛が著明に軽快して,鎮痛薬なしで過ごせるようになったということです。

名古屋百合会というグループが、五苓散が頭痛に効くのはどういうときかという疫学調査をして、最も相関性が高かったのは、雨の前日の頭痛であるというデータを出しています。湿度など、ほかの要素についても調べられていますが、一番は気圧の変化という要素のようです。人間の体にとって、気圧の変化は思っているほど甘くはありません。気圧による生体変化については、西洋医学的にも研究されていますが、私は気圧の低下に伴う水分失調が、ある程度影響しているのではないかと考えています。具体的には、頭頸部の筋の収縮に組織間の浮腫が関与して頭痛を誘発する。五苓散は、その組織間浮腫を調整することによって頭痛を改善しているのではないかという推測です。

漢方医薬学雑誌(vol.16,2008)


197.過敏性腸症候群の便秘型の漢方治療

次の症例は17歳、女性です。
小学校高学年の頃より、ストレスがたまると便秘になるため、平成23年5月9日漢方治療を求めてお隣のたつの市から当院へ来院されました。
そのほかの症状として、快便感がない・腹がはる・足がむくみやすい・汗をかかない・生理不順(生理が遅れる)などがあります。
身長159cm、体重51kg、BMI20.1。
舌は異常ありませんでしたが、腹診で、中脘(ちゅうかん、症例186参照)と左天枢(てんすう;症例155参照)に圧痛を認めましたので、柴胡桂枝湯(さいこけいしとう;症例39、66、152、155、186、188参照)を使おうかとも考えましたが、腹痛がなく、腹直筋も張っておらず、また生理不順があるため、加味逍遥散(かみしょうようさん;症例72、141、147、165、169、177、178、182、193、195、196参照)を使うことにしました。
また、念のため、加味逍遥散だけで便がでない時のためにごく少量のダイオウ末も処方しました。

ダイオウ末について詳しく知りたい方は、こちらをクリック画像の説明帝京大学薬学部

一ヶ月後の6月14日、お母さんが来られ、「最初のうちはダイオウ末を使っていたが、そのうち使わなくても便が毎日あるようになってきました。またストレスもあるにはあるが、それもだいぶ感じなくなってきたようです。」といわれました。
しばらくこのまま加味逍遥散を続けていく予定です。

症例190・192と同様、痙攣性便秘の症例です。
痙攣性便秘は、一般に「神経性便秘」と言われています。過敏性腸症候群の便秘型に相当します。決して硬い便は出ず、細い便が細切れに出たり、ウサギの糞のようなコロコロの便になります。そして、残便感・下腹部の膨満感・腹痛などを伴います。治療は精神的なストレスの改善と痙攣して細くなった大腸機能を緩めることを考えます。一般には桂枝加芍薬湯(けいしかしゃくやくとう)・桂枝加芍薬大黄湯(けいしかしゃくやくだいおうとう)・小建中湯(しょうけんちゅうとう)を使用し、精神的ストレスが強ければ、加味逍遥散(かみしょうようさん)・四逆散(しぎゃくさん)・柴胡桂枝湯(さいこけいしとう)などを併用します。

藤平 健先生、小倉重成先生とともに”千葉古方の三羽烏”といわれた伊藤清夫という先生は、「君たちは便秘というとすぐにダイオウやダイオウが入ったものを考えるけれど、それが効くのは最初のうちだけだよ。人参や芍薬などをうまく使って便通をつける方法をもっと考えなさい。」と、いわれたそうです。
人参の入っている製剤は、大建中湯・補中益気湯・人参湯などがあり、芍薬は加味逍遥散・四逆散・柴胡桂枝湯すべてに入っています。芍薬は腸管の過緊張の状態を解除して便通をスムーズにします。
なお、人参湯を用いて便秘を治療した症例を症例200に載せておりますのでご覧ください。


なお、下図は、芍薬・甘草を含む過敏性腸症候群によく使う処方です。(痛みと漢方Vol21.pp16から抜粋)

画像の説明


198.成人の気管支喘息の漢方治療

次の症例は52歳、女性です。
患者さんは、バレーボールを指導されていますが、自分の教え子が喘息で、当院の漢方治療で、目に見えてよくなっているのをみて、自分の喘息(ハウスダストにアレルギーがあるそうです)も漢方で治療したいと、平成23年6月3日来院されました。
現在パルミコートというステロイドの吸入剤と、メプチンという発作止めの吸入剤を近くの内科で処方されていますが、不安なため、どうしてもメプチンの吸入量が増えてしまうのが悩みの種だそうです(メプチンを多用すると、心臓の負担が大きくなり、突然死の危険を伴うとされています)。
身長155cm、体重64kg、BMI26.6。
そのほかの症状として、汗をかきやすい(冷えはない)・のどがかわく・頭痛・肩こり・めまい・腰痛などがあります。なおこの方は通年性のアレルギー性鼻炎も合併されており、くしゃみ・鼻づまり・鼻水などの症状もあります。
この方の舌を見ると、色が紫がかり、舌の裏側の静脈が膨れ、「瘀血」体質と考えられました。
症例171にならって、小青竜湯(しょうせいりゅうとう)麻杏甘石湯(まきょうかんせきとう)を一ヶ月分処方したところ、6月20日に、この方と同じ職場の方で、当院で漢方治療をされている方が来院され、「吸入も全くいらなくなり、とても調子よさそうです。」と教えてくださいました。まだ、2週間ちょっとしかたってませんが、調子よさそうです。
一ヶ月後の経過はまた報告させていただきます。

(ここから続報です)

さて、一ヶ月後は、6月30日に来られましたが、「薬をもらった次の日の夜から呼吸がうそのように楽になり、また鼻も楽です。今までは何だったんだろう、という感じです。」と、いわれました。
また、「私は歌もやっているんですが、歌の語尾まで声がよくでるようになったんです。」と、大変喜んでいただきました。
そして、同じような喘息と鼻炎の患者さんを、漢方がいいからといっしょに連れてきて下さいました。感謝です。

気管支喘息については、症例73も参照下さい。

199.薬物乱用頭痛の漢方治療(2)

症例51に続き薬物乱用頭痛(薬物乱用頭痛については症例51に詳しく記載しておりますのでご参照下さい)の症例を載せます。
症例は60歳、女性です。
頭痛がひどいため、平成23年1月15日漢方治療を求めて広島県福山市から当院へ来院されました。
片側の頭痛が一日中続きますが、特に朝方にひどいようです。肩こりもあり、吐き気を伴います。毎日頭痛薬(ナロンエース)が必要で、多い日には一日4回飲むそうです。
そのほかの症状も多彩で、便秘・快便感がない・腹がはる・口の中が苦い・薬で胃が荒れやすい・汗をかきやすい・口がかわく・手足が荒れる・咳が出る・痰がきれにくい・くしゃみ・鼻水・食後眠くなる・耳鳴り・めまい・立ちくらみ・腰痛・手足がほてる・気分が沈む・手足が荒れるなどがあります。冷えはあまり感じないといわれましたが、体温を測ると、35.5℃でしたので、冷えは確実にあると思われました。
身長152cm、体重56kg、BMI24.2。
この方の舌を見ると、厚くはれぼったい感じがし、また、両側の舌の縁に、歯型が波打つようについていました(歯痕舌(しこんぜつ))。また、舌が紫がかり、舌の裏側の静脈が膨れていました。
腹診では、下腹部は軟弱無力で、圧迫すると腹壁は容易に陥没し、押さえる指が腹壁に入るような状態(小腹不仁(しょうふくふじん))をはっきりと認めました。
「気虚」+「腎虚(症例42、58参照)」+「瘀血」体質と考えられました。
そこで、呉茱萸湯(ごしゅゆとう;症例51、169、213、261、288、293、304、388、400、450、505参照)と、腎虚に使う代表である八味地黄丸(はちみじおうがん;症例42、58、161参照)を一ヶ月分合わせて投与しました。
一ヶ月後の5月17日に来られた時には、「最近はナロンエースを飲まなくてよくなりました。」といわれました。
さらに、6月20日に来られた時には、「ナロンエースは一度も飲んでません。また、今までしょっちゅうぎっくり腰になってたのが起こらなくなり、朝方だけ少し腰が痛む程度です。」といわれました。八味地黄丸が効いているようです。また、その他の症状もほとんどとれたようです(胃腸の不調はナロンエースの副作用と考えられました)が、便秘はまだ続いているようです。便秘に対しては瘀血の薬が必要かもしれません。
また、咳や痰も改善しているようなので、症例161や194と同じ腎咳と考えられました。

薬物乱用頭痛について方は、こちらも参照してください画像の説明山口県薬剤師会

ここにも、「予防に漢方薬が使われることもあります。」と、記載されております。
しかし、私に言わせれば、「こともあります。」ではなくて、積極的に漢方薬で治療すべきだと考えます。本症例のように、長年の鎮痛薬の服用で、かなり、体に弊害をきたしている(解熱鎮痛薬の弊害については、症例87を参照下さい)と考えられるからです。


200.冷え症を伴う便秘の漢方治療

症例は59歳、女性です。
10年ぐらい前より、高血圧症で近くの内科で治療を受けられております。
今回、冷え症(外の気温が28℃ぐらいがちょうど快適で、夏でも長袖で過ごされるそうです。手足とともに、お腹も冷えるそうです。)と、便秘(3日に一度くらい少ししかでない)の漢方治療のため、平成23年5月18日、お隣の太子町から当院へ来院されました。
身長160cm、体重52kg、BMI20.3。
そのほかの症状として、薬で胃が荒れやすい・頻尿・夜間尿・汗をかかない・肩こり・痰がきれにくいなどがあります。
この方の舌を見ると、白苔を認め、色が紫がかり、舌の裏側の静脈が膨れていました。
腹診では、下腹部は軟弱無力で、圧迫すると腹壁は容易に陥没し、押さえる指が腹壁に入るような状態(小腹不仁(しょうふくふじん))を認めました。
裏寒(症例92参照)と、「腎虚(症例42、58参照)」+「瘀血」体質と考えられました。
この方に腎虚の薬を使うのは、胃に障る(腎虚の代表的な方剤の八味地黄丸は、人によっては、胃の不快感やもたれ感、食欲不振、吐き気などを催す)と考え、治療を見送り、人参湯(にんじんとう);(症例8、87、110、153参照)と、体を温める附子(ブシ;症例2参照)を合わせ(=附子理中湯といいます)、冷えの瘀血体質に使う当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)(症例14、158参照)といっしょに一ヶ月分処方したところ、6月22日に来られ、「今までに比べ、倍ぐらいの量の便が毎日出るようになりました。体の調子もとてもいいです。ただ、やっぱりまだ冷えます。」といわれましたので、附子の量を倍にして処方させていただきました。
なお、余談ですが、帰り間際に患者さんが舌の裏側を見せて、「随分血管が細くなったでしょう。」と、うれしそうに見せて下さいました。瘀血も少しずつ改善しているようです。

症例197で、伊藤清夫という先生が、「君たちは便秘というとすぐにダイオウやダイオウが入ったものを考えるけれど、それが効くのは最初のうちだけだよ。人参や芍薬などをうまく使って便通をつける方法をもっと考えなさい。」と、言われたと載せましたが、それを受けて、この症例は”人参”を使いました。

「ダイオウ末」は、タデ科大黄の3年以上の根茎を乾燥し粉末にしたものです。寒性の瀉下薬として、熱積(腸と胃に熱がたまっているタイプ)の便秘に適用します。大黄の性質は寒のため、瀉下作用を寒証のタイプ(≒冷え症)に使用する場合は細辛、附子、乾姜などの温裏去寒薬(消化管を温め、寒を除く生薬)を配合して使用範囲を拡げます。
また最初からダイオウを使わず、伊藤先生が言われたように芍薬や人参をうまく使って便秘の治療をすることを優先すべきだと思われます。