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201.逆流性食道炎の漢方治療(2)

症例176に続いて、逆流性食道炎の症例を載せます。
症例は41歳女性です。
平成22年12月より、吐き気・胸やけが出現し、近くの内科で治療を受けるも改善しないため、平成23年1月19日姫路市の有名な胃腸科専門の医院を受診し、胃カメラと腹部超音波検査を受けたところ、逆流性食道炎と診断されました。
パリエット(胃酸の分泌を抑えて消化性潰瘍を治療する新しい薬。”プロトンポンプ”という機能を阻害して、その分泌を抑制します) が処方されましたが全く効かないため、3月15日からは、ガスター(ヒスタミンH受容体拮抗薬;胃酸の分泌を強力に押さえる)と、漢方薬の安中散(あんちゅうさん;症例11、113、684参照)が処方されましたがやはり全く効きませんでした。
4月19日からは、アビリット(強い不安や緊張感をやわらげ、気分を安定させます。また胃腸の動きを活発にして、吐き気やもたれの症状をよくします)とガスターを処方されましたがやはり全く効きませんでした。
5月2日からは、再びガスターと安中散に戻りましたが効かず、5月16日からは、パリエットと安中散を処方されましたがやはり全く効きませんでした。主治医は、「なぜ薬が全然効かないのだろう。」と頭をかかえておられたそうです。
そんな時当院のホームページの症例176をご覧になり、6月14日漢方治療を求めてお隣のたつの市から来院されました。
そのほかの症状として、のどがつかえる・口内炎ができやすい・頻尿・汗をかかない・イライラする・耳鳴り・手足が冷える・寝付きが悪い・手足が荒れるなどがあります。
身長166cm、体重58kg、BMI21.0。
この方の舌を見ると、辺縁が、分厚く赤く(この赤みは肝の熱を表しています)、中央に白苔を認め、気滞(症例64、102参照)の舌と診断しました。また舌の裏側の静脈が膨れて「瘀血」体質もあると考えられました。
腹診では、みぞおちが、少し硬くなっていました(=心下痞硬(しんかひこう)。また、右下腹部に圧痛としこりをふれ「瘀血」体質は間違いありませんでした。
半夏瀉心湯(はんげしゃしんとう;症例17、163、176参照)加味逍遥散(かみしょうようさん;症例72、141、147、165、169、177、178、182、193、195、196参照)を1ヶ月分だしたところ、7月8日当院へ来られ、「朝少しだけ吐き気がするだけで、胸やけもせずお腹は大変調子よくなりました。」といわれました。またそのほかの症状もすべてとれていました。本当に漢方薬が劇的に効いた症例でした。
なお、姫路市の胃腸科専門の医院で安中散が出ていましたが、もちろん舌や腹を診て処方されたものではなく、「胃の痛み、胸やけ、胃もたれ、食欲不振などを改善する」という効能書きだけで処方されたもので、これでは漢方薬も効くはずはありません。

逆流性食道炎については、症例463も参照して下さい。

安中散について

安中散という処方名の由来は、”中”を安らかにするという意味からつけられたものです。中とは中焦つまり胃腸を表し、その”中”を調える意味のある処方で、主に胃部症状に用いられます。
「和剤局方」という書物には、「慢性・急性問わず胃が痛み、嘔吐し、口から酸っぱい水を吐くものがあるが、これらは寒冷の邪気が胃内に停滞して、食べたものが消化せず、胸腹が張って、腹部が刺すように痛み、悪心嘔吐を起こすのである。病人の顔色は悪く黄ばみ、栄養が衰え、四肢が倦怠する場合に使う処方である。また、婦人の気鬱血滞による神経性の疼痛が、下腹より腰に連なって牽引性の疼痛を訴える者にも奏効することがある。」と載っています。
つまりは、胃腸を温めて、内部にある寒冷を散らし、胃痛、嘔吐または月経痛(症例11参照)を治す処方といえます。
安中散は嘔吐よりも痛みに主眼がおかれています。嘔吐があっても痛みが主症状で現れている場合に有効な処方です。
安中散の腹診は腹力軟弱で、心窩部に圧痛や胃内停水、時に腹部動悸が認められます。
同じストレス性の胃腸障害でも実証で胃熱がある場合には、半夏瀉心湯を使用します。

 

202.つわりの漢方治療

症例は35歳女性です。
妊娠6週頃よりつわりがひどくなり、唾液の分泌が過剰になり、胃がもたれ、胸やけもあり食欲もないため、平成23年6月11日妊娠17週で、漢方治療を求めてお隣のたつの市から来院されました。
そのほかの症状として、便秘傾向・口の中が苦い・足がむくむ・のどや口が渇く・のぼせる・立ちくらみ・手足の冷え・夜中に目が覚め、眠りが浅いなどがあります。
身長161cm、体重50kg、BMI19.3と、やせを認めます。
つわりによく使う、小半夏加茯苓湯(しょうはんげかぶくりょうとう)を2週間分処方(普通漢方薬は熱湯に溶かして飲みますが、吐き気があるときは冷水か、氷を口に含み内服させます)させていただいたところ、6月25日に来られ、「つわりはかなりましになりましたが、立ちくらみがして足が冷えます。」と、いわれましたので、小半夏加茯苓湯に加えて、苓桂朮甘湯(りょうけいじゅつかんとう;症例20参照)を合わせて2週間分処方しました。
7月9日に来られた時には、「唾液の過剰分泌は全くなくなり、立ちくらみもおさまりましたが、今度は胃もたれと足の冷えがつらいです。」といわれました。
この方の舌を見ると、舌の色は、淡く、薄い白苔と歯痕舌を認め、ところどころ苔がはげる地図状舌も認めました。気虚と考え、六君子湯(りっくんしとう;症例97,154、178、179、182参照)を一ヶ月分処方しました。このように妊娠中は次から次と体の不調が続く人には続くようで、今後も続報はまた報告させていただきます。

つわり

つわりになる妊娠初期は妊娠4週~7週の「絶対過敏期」と言う、一番敏感な時期と重なり、薬の出しにくい時期とほぼ重なっています(7週以降もまだまだ注意が必要です)。
そのため、西洋薬は使いにくく、代わって漢方が出されることがあります。

通常は胎盤が完成する妊娠3、4カ月ほどで自然に治ることが多いです。治療が必要になった場合は妊娠悪阻(おそ)といわれます。

つわりの漢方治療については、こちらをクリック画像の説明kampo view

 

203.腱鞘炎の漢方治療

症例は63歳女性です。
仕事が調理関係で、重たい鍋などを持つために約5年前より両手首(左>右)の腱鞘炎になり、最近それが特に痛むようになったために近くの整形外科を受診したところ、「どうすることもできない。」といわれ、消炎鎮痛剤のロキソニンだけ処方されたそうです。
そこで、以前手足の冷えで、当帰四逆加呉茱萸生姜湯(とうきしぎゃくかごしゅゆしょうきょうとう;症例93参照)を出してもらったことのある、姫路市の内科(漢方もされるそうです)で相談したところ、防已黄耆湯(ぼういおうぎとう;症例76参照)が処方されたそうですが、全く効かなかったそうです(本剤を使う関節痛は、腰より下にあらわれやすいのが特徴)。
そこで知人の紹介で、平成23年6月6日漢方治療を求めて姫路市から当院へ来院されました。
身長158cm、体重54kg、BMI21.6。
そのほかの症状として、手足が冷える・体がだるい・疲れやすいなどがあります。体温も35.6℃しかなく冷えは確実にありそうです。
この方の舌を見ると、舌が紫がかり、白苔と歯痕舌を認め、舌の裏側の静脈が膨れ、「気虚」と「瘀血」(おけつ)体質がはっきりとしておりました。
そこで瘀血(おけつ)体質によく使う、桂枝茯苓丸加薏苡仁(けいしぶくりょうがんかよくいにん;症例67参照)と冷えによる関節の腫れや痛みをとる桂枝加朮附湯(けいしかじゅつぶとう;症例23、104、124、206、319参照)を合わせて一か月分処方したところ、7月11日に来られ、「6月14日朝、腫れが引いたのと同時に痛みがとれていました。」といわれました。
5年間苦しんだ腱鞘炎がわずか8日間で治癒するなんて本当にミラクルです。
「両手でこのように拍手することもできるようになりました。」ともいわれました。大きな音をたてて力強い拍手でした。

腱鞘炎の西洋学的な考えについては、こちらをクリック画像の説明goo ヘルスケア

腱鞘炎の漢方的な考え方は、

1.局所は水毒と瘀血
2.そのため治療は、虚実に応じて駆瘀血剤と利水剤を組み合わせる。
3.中間証から実証は桂枝茯苓丸と五苓散で始める。
4.虚証は当帰芍薬散と桂枝加朮附湯あたりから始める。
5.病悩期間が長い症例には加味逍遥散、柴胡加竜骨牡蛎湯、四逆散、半夏厚朴湯や香蘇散などの理気剤(気の機能停滞である「気滞」を改善する薬物)が必要となる。
本症例も病悩期間が長いのでこれらの処方も考えましたが、肝気鬱結(症例24・72参照)を思わせる症状がなかったので見送りました。
6.局所の炎症が強い場合には熱を冷ます、清熱剤(=越婢加朮湯)を短期間使用する。

と、平田道彦先生(症例72参照)はセミナーでポイントを言われました。

 

204.体調不良

症例は53歳女性(47歳で閉経)です。
平成23年4月までは元気だったそうです。
3月にご主人が急性心筋梗塞に罹られたそうです。
看病疲れからか、4月に風邪をひき3週間ほど咳や痰が続き、それ以後体調不良となったそうです。
5月に鼻出血が続き、近くの耳鼻科で治療を受けられましたが2週間ほどかかり、あまりに体調が悪いので、総合病院の内科を受診されました(白血病を心配されていたそうです)が、採血検査等特に異常ないため、主治医の先生より、「症状があちこち多彩でありますし、西洋医学的対症療法より漢方薬の方がいいような印象をうけましたので…」と、6月15日当院を紹介していただきました。
そのほかの症状として、頭のしめつけるような痛み・顔がほてる・口内炎の繰り返し・肩こり・疲れやすい・寝つきが悪いなどがあります。
頭痛・肩こりは4年ぐらい前からだそうですが、頭部CT検査では異常を認めなかったそうです。
身長153cm、体重50kg、BMI21.4。
この方の舌を見ると、辺縁が、分厚く赤く(この赤みは肝の熱を表しています)、中央に白苔を認め、「気滞」(症例64、102参照)の舌と診断しました。また舌の裏側の静脈が膨れて「瘀血」体質もあると考えられました。
腹診では、右肋骨弓下部の腹壁筋群の軽い緊張亢進(胸脇苦満(柴胡剤を用いる重要な目標))を認め、また右下腹部に圧痛としこりをふれ「瘀血」体質は間違いありませんでした。
加味逍遥散(かみしょうようさん;症例72、141、147、165、169、177、178、182、193、195、196、201参照)と、肩こりによく使う葛根加朮附湯(かっこんかじゅつぶとう);症例12参照)を合わせて1ヶ月分だしたところ、7月12日当院へ来られ、「ずいぶん楽になりました。疲れが出たときに少し軽い頭痛が起こるぐらいで、あとは何も症状はありません。口内炎も一度も出ませんでした。」と、喜んでいただきました。

205.小児アトピー性皮膚炎の漢方治療

症例は3歳10ヵ月女児です。
症例147、「朝が全く起きれない子供」の妹さんです。
平成22年8月頃より、肘(ひじ)や膝(ひざ)の内側を中心にアトピー性皮膚炎出現。
イヌ上皮と卵白にアレルギーがあるそうです。
お姉ちゃんと同様、漢方で治療したいと平成23年6月20日、お母さんが連れて来られました。
他の症状として、ねつきが悪い・眠りが浅い・汗をかきやすいなどの症状もあります。
舌や腹は特に異常ありませんでした。
補中益気湯(ほちゅうえっきとう;症例15参照)を一ヶ月分処方したところ、7月7日お母さんが来られ、「すっかりよくなりました。」と、いわれました。
実はこのお母さん(36歳)も、おばあちゃん(66歳)も当院で漢方薬を飲まれており、皆さん調子よく、お母さんが、「これで一家全員、漢方家族になってしまいました。」と、いわれました。

アトピー性皮膚炎の西洋学的な考え方については、こちらをクリック画像の説明マルホ

小児アトピー性皮膚炎について(丸山修寛先生)

小児、特に2~3歳までのアトピー性皮膚炎は食物アレルギーが原因のことが多い。
彼らは漢方的に言って大半が脾虚;症例97参照(腎虚を合併する場合もある)である。
この場合補中益気湯を用いると掻痒感とともに皮疹も改善することが多い。
また、補中益気湯を服用していると、それまで食物アレルギーの原因となっていた食べ物を食べても皮疹が悪化しなくなる。
小児の場合、早期に補中益気湯を用いることにより全部ではないが、かなりのアトピー性皮膚炎がこじれてしまう前に改善すると思われる。
脾虚の人で治りにくいアトピー性皮膚炎の患者さんの皮膚には、顕在的な風邪症状がなくても風邪のウイルスが持続して感染を起こしていたり、ヘルペスなどのウイルスや細菌の持続感染が起こっている可能性が高い。
補中益気湯を服用し、消化器機能を改善することにより、アトピー性皮膚炎の患者にみられる痰飲(症例154参照)を作らせないようにすること、また皮膚免疫能力のアップにより不顕性の感染や新たな感染を起こさせないようにすることで、アトピーが改善すると思われる。

(実地医家のためのTHE KAMPO,No9,2000. p12-p13より)。

 

206.右肘から先の痛みの漢方治療

次の症例は、症例41の方です。
ずっとお腹は、桂枝加芍薬大黄湯(けいしかしゃくやくだいおうとう)で調子よいのですが、右肘から先の痛みがあり、姫路市の整形外科で診てもらったところ、「使い痛みでしょう。」といわれ、痛み止めをもらうも、全くよくならず、平成22年3月19日来院された時に相談を受けました。
身長153cm、体重41.5kg、BMI17.7の華奢な方で、冷え症もある方なので、痛み止めは当然合うはずもなく、桂枝加苓朮附湯(けいしかりょうじゅつぶとう;症例23、104、124、203、319参照)を処方したところ、4月19日来院された時には、「痛みがましになってきました。」といわれ、6月25日来院された時には、「完全に痛みがとれました。」といわれましたので、一日三回から二回に減らし、8月3日からは、一日一回に減らして、現在までずっと続けておられ、痛みは全くありません。

桂枝加苓朮附湯について

江戸時代の古方派を代表する漢方医吉益東洞が著した「方機」に、神経痛や関節痛の薬方として記載されている「桂枝加朮附湯」の処方に、利水作用のある茯苓(ぶくりょう)という生薬を加えたものです。
手足がしびれて冷たく、あるいはこわばったり、時には関節に水がたまったり、腫れて痛みの激しい症状の場合に使われます。
本方は、神経痛・関節痛・関節リウマチ・変形性関節症・肩関節周囲炎などに効果があり、特に冷え性の人、体力のない人の場合に使われます

 

207.変形性膝関節症の漢方治療

症例は56歳女性です。
変形性膝関節症は、症例2、76、111、131、184でも書いたように簡単に治るため、わざわざここで載せなくてもよいのですが、9月に大阪で「疼痛疾患の漢方治療」で講演するため、そのスライド用に一番新しい症例としてあえて載せます。
2年前に旅行した時に重い荷物を持ち、その時に左膝が”くきっ”となりそれ以来痛みが続いています。特に膝の内側が痛む(特に動き始め)そうです。水も何回もたまっては注射器で抜くということを繰り返されています。
整形外科で、リハビリや内服薬をまじめに続けましたが一向に改善しないため、知人の紹介で、平成23年6月28日漢方治療を求めて、たつの市から当院へ来院されました。
身長162cm、体重65kg、BMI24.8(やや肥満傾向)。
お茶をされていますので、正座ができないのがつらいということです。
既往歴として、乳がんと下肢静脈瘤の手術をされています。
他の症状として、便秘傾向・手足が荒れる・疲れやすいなどがあります。冷えはありません。
舌は、色が紫がかり、腫れぼったく、白い苔が厚く付き、舌の裏側の静脈が膨れ、「水毒」+「瘀血」(おけつ)体質と診断いたしました。
腹診では、下腹部が軟弱無力で、圧迫すると腹壁は容易に陥没し、押さえる指が腹壁に入るような状態(小腹不仁(しょうふくふじん))を認め、腎虚(症例42、58、194参照)もあると考えられました。
瘀血体質に使う代表的な方剤である桂枝茯苓丸加薏苡仁(けいしぶくりょうがんかよくいにん;症例67、159参照)と水毒体質の膝の痛みによく使う防已黄耆湯(ぼういおうぎとう;症例76参照)を合わせて開始したところ、7月27日に来院され、「薬を飲み始めて最初の2週間は、一日に3~4回、疼くような痛みがずしっとありましたが、10日ぐらい前から、随分楽になり、今は一日一回くらい、軽くぴりっと感じる程度の痛みになりました。それと足が重くだるかったのがなくなりました。」といわれました。
このようにほとんど一ヶ月たたずに膝は治りますので、苦しまれている方はぜひ漢方を試してみてください。

変形性膝関節症の漢方治療については症例2,76,111,131,184,209,227,228,245,268,269,282,283,300,311,319,334,355も参照して下さい。

208.心身症の漢方治療

症例は33歳男性です。
2年ぐらい前より、様々な心身の不調があり、心療内科を受診し、心身症と診断されました。
処方された薬は、ワイパックス(不安や緊張感をやわらげ、気持ちを落ち着かせる)・レンドルミン(睡眠薬)を寝る前に飲み、それにソラナックス(ワイパックスと同様の作用)を追加される時もあるそうです。
また、昨年の胃内視鏡検査で逆流性食道炎を指摘され、近所の医院よりパリエット、ガスモチン(以上症例176参照)、ラックビー(ビフィズス菌)の処方も受けておられます。
これらの薬を服用しても、不眠(寝つきが悪い)、目が疲れる・イライラ・便秘・快便感がない・腹がはる・腹が鳴る・吐き気・胃がもたれる・腹痛・喉がつかえる・口内炎ができやすい・汗をかきやすい・肩こり・にきび・手足が荒れる・体がだるい・疲れやすい・気分が沈む・嫌な夢をみるなどがあり、とにかくこれらの心身の不調の改善目的で、平成23年5月20日漢方治療を求めて、姫路市から当院へ来院されました。
身長165cm、体重67kg、BMI24.6。
舌は腫れぼったく、腹診で、みぞおちが硬くなっており(心下痞硬という)、胸脇苦満(=胸から脇(季肋下)にかけて充満した状態があり、押さえると抵抗と圧痛を訴える状態)と腹直筋攣急もあり、腹に2本の棒を立てたように触れました。
心療内科の薬はそのまま続けていただき、それに半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)と、四逆散(しぎゃくさん)(症例63、102参照)を1ヶ月分処方したところ、6月11日に来られ、「腹痛は1回だけでした。食欲もアップし、肌荒れもしなくなりました。」といわれました。心療内科の薬は、ワイパックスとロゼレム(メラトニンという脳内ホルモン受容体を刺激して、その作用を増強して眠りを促すという新しいメカニズムの薬。メラトニンとは睡眠の数時間前より脳内で分泌され、脳の神経活動を抑えることによって、睡眠の状態を誘導、維持する物質の1つと考えられている)になったそうです。
調子よさそうなので、同じ処方をさらに1ヶ月分処方したところ、7月6日に来られ、「腹痛はなくなりました。家族から『最近調子よさそうだよ』といわれたんです。」といわれました。ただ、「体がだるくて疲れやすいのは取れません。」といわれましたので、半夏厚朴湯に変えて、補中益気湯(ほちゅうえっきとう;症例15、205参照)を処方したところ、7月25日に来られ、「とても体調がよい。」といわれました。このまま同じ処方をしばらく続けていく予定です。
なお、今まで、心療内科で半夏厚朴湯・補中益気湯・半夏瀉心湯(はんげしゃしんとう;症例17、163、176、201参照)は処方されたことがあるそうですがその時は全く効かなかったそうです。
その理由として、この方には四逆散が一番合う薬で、これがあって初めて、半夏厚朴湯・補中益気湯も効果を示したのではないかと私は考えます。

209.変形性膝関節症の漢方治療

症例207でも書いたように変形性膝関節症は簡単に治りますが、また最近症例がありましたので、紹介させていただきます。
症例は72歳女性です。
1年前から左膝の痛みがあり、頻繁に水を抜く治療を受けているようです。
今まで3ヶ所の整形外科に通院されましたが、三ヶ所とも手術を勧められています(内側だけ悪いから手術でとったらいいといわれるそうです)。
また、痛み止めをもらっていますが、食欲がなくなり体重が6kgも減ってしまったそうで、怖くなり勝手に中止したそうです。
困っていた時に当院で変形性膝関節症の治療を受けている人の紹介で、平成23年7月13日漢方治療を求めて、たつの市から当院へ来院されました。
身長160cm、体重55kg、BMI21.5。
舌は、色が紫がかり、白い苔が厚く付き、舌の裏側の静脈が膨れ、「水毒」+「瘀血」(おけつ)体質と診断いたしました。
症例207と同様に、瘀血体質に使う代表的な方剤である桂枝茯苓丸加薏苡仁(けいしぶくりょうがんかよくいにん;症例67、159参照)と水毒体質の膝の痛みによく使う防已黄耆湯(ぼういおうぎとう;症例76参照)に、風呂で温めると痛みが和らぐとのことでしたので、冷えがあると判断して体を温める附子(ブシ;症例2参照)を合わせて開始したところ8月9日に来院され、「痛みがよくなりました。水も全く溜まりません。」と言われましたのでしばらくこの組みわせで続けていく予定です。

変形性膝関節症の漢方治療については症例2,76,111,131,184,207,227,228,245,268,269,282,283,300,311,319,334,355も参照して下さい。

漢方もされる整形外科の先生が次のように言われています

大半の整形外科医は手術にしか興味がありません。もちろん手術は大事なことですが、必ずしもそれが奏功するとは限らないのです。
手術がうまくいった症例でも、症状が残ったり、手術前にはなかったような症状が新しく出てきたりすることがあります。
強い麻痺があった人は、麻痺が治っても今度は耐え難いしびれが出たり、凝りがひどかったり、冷えを自覚する場合が少なくありません。
西洋医学で育った整形外科医は、だいたい消炎鎮痛剤・筋弛緩剤・ビタミン剤などで対応しようとしますが、そのバリエーションは乏しく行き詰まりがちです。
結局うやむやになったままで、治りきらないケースがたくさん出てしまいます
(大田原赤十字病院 第一整形外科部長 吉田祐文先生)


また、漢方医の日笠久美先生が次のように言われています

変形性膝関節症には水を抜く以外の治療は、痛み止めの飲み薬、湿布、温熱療法くらいしかない。どれも 根本治療にならない。
痛みは年を追うごとに強くなり、変形も進行する。医者は「体重を減らしなさい、膝の筋肉を強くしなさい」と注意するが、簡単に体重が減るはずもなく、運動もままならないから膝は変形し続ける
痛くて歩けないから膝のまわりの筋肉が痩せて関節がフシくれだってくる。細い足の真ん中に膝の関節が目立つようになる。鶴の足のようだからこれを”鶴膝風”と呼ぶ。
片方の足が痛くなればそれをかばって反対の足に体重をかける。だから必ず良いほうの膝も変形を起こして両方とも悪くなる。高齢になれば骨も痩せるし筋肉も落ちてくるから症状はますますひどくなる。変形のひどい関節は人工関節にするしか方法が残っていない。だが手術をしても正座はできないし、リハビリのために長期の入院が必要だ。とても想像するようないい結果 は得られないことが多い。
老化で悪くなったものはしかたないと諦めずに治療をしてみることだ。レントゲンで骨がかなり変形していると言われた人でも歩けるようになることが多い。西洋薬が効かない分野で、これほど漢方が 効く病気も少ない。膝を悪くすると立ったり座ったりすることもままなくなり、寝たきりになる可能性が高い。だから少しでも早いうちから治療を受けることをお勧めする。「老化でちびてしまった骨が良くなるはずはない。」といった先入観をもたずに治療を試してみるとよい

 

210.むずむず脚症候群の漢方治療

症例は44歳女性です。
13年前、第1子出産の時に、「夜になると、足がむずむずして眠れない。」という症状が出現。一時治まっていたが、最近またその症状が出てきたため、平成23年6月3日漢方治療を求めて、姫路市から当院へ来院されました。
身長155cm、体重56kg、BMI23.3。
そのほかの症状として、便秘傾向・腹がはる・足がむくむ・尿が出にくい・汗をかかない・肩こり・体がだるい・夜中に目が覚めるなどがあります。最近、仕事上のストレスが強いそうです。
この方の舌を見ると、舌が紫がかり、白苔と歯痕舌を認め、舌の裏側の静脈が膨れ、「気虚」と「瘀血」(おけつ)体質がはっきりとしておりました。
まず、東京女子医科大学東洋医学研究所の永尾幸先生が「むずむず脚症候群に対する加味逍遥散の使用経験」と報告されているのを知っていましたので、「瘀血」に対しては、加味逍遥散(かみしょうようさん;症例72、141、147、165、169、177、178、182、193、195、196、201参照)を選び、気虚で下肢のむくみを治療する防已黄耆湯(ぼういおうぎとう;症例76参照)を足して、1ヶ月分だしたところ、8月10日当院へ来られ、「漢方薬がまずくて飲みにくく、今まで薬がありました。しかし、足のむずむずした感じはいつの間にか消えて、夜もよく寝れるようになりました。」と、言われましたので、同じ処方を続けさせて頂きました。

むずむず脚症候群については、症例614も参照下さい。

弘前大 内科学第一の中畑元先生も、「加味逍遥散が奏効したRestless legs syndrome(むずむず脚症候群)の1例」と題して、論文を「日本東洋心身医学研究」に載せられています。

抄録を抜粋させて頂きます。

Restless legs syndromeの治療法は最近確立されてきているが、加味逍遥散が有用であるとの報告はなく、今回,興味深い症例を経験したので報告した。
症例は62歳、女性である。
X-10年,夫が倒れた後から不眠が出現し、X-5年から脚のむずむず感を自覚、徐々にしびれを伴い増悪していった。X-2年5月、D病院麻酔科にて神経ブロック療法を受け一時的に軽快したが、その後再燃した。
X-1年10月、K病院整形外科にて精査し、軽度の異常を認めるが、症状との関連は否定された。睡眠薬の服用によっても、夜間に症状が増悪し、常に歩き回っており、じっとしていられないとのことで、X年7月、弘前大学心療内科外来を紹介受診し、Restless legs syndrome(むずむず脚症候群)と診断した。
Dosulepin(商品名 プロチアデン錠、第二世代の三環系抗うつ薬)を投与し、さらに加味逍遥散を追加した結果、約1週間後から急速に症状が改善し、若干残る症状に対してはlevodopaの投与により完全に症状は消失した。

そして、不定愁訴と痛みに有効である加味逍遥散は、むずむず脚症候群に対しての効果が期待できるものと考える、と結論されています。また、仮にむずむず脚症候群と診断できなくても、不定愁訴として、加味逍遥散を投与すれば軽快する可能性があり、加味逍遥散の臨床的な有用性が1つ追加されたものと考えるとも書かれております。

むずむず脚症候群については、こちらをクリック画像の説明むずむず脚症候群と睡眠障害

 

211.疲れやすい・不眠(頑固な心配症)の漢方治療

症例は57歳女性です。
昨年夏頃より悩み事があり、体調が優れなくなりました。
それと共に、自分は「癌にかかっている」と思うようになったそうです。内科で胃カメラ・大腸内視鏡検査・そのほかの検査を受けられましたが何も異常なかったそうです。
そこで、心療内科にかかり、病名ははっきり言われなかったそうですが、安定剤のリーゼ(不安や緊張を取り除いて睡眠を誘う)を一日2回と、デパス(抗不安薬)を寝る前に処方されたそうです。しかし、状態は一向に改善されず、今年3月の東北の地震以後はさらに調子悪くなり、物事に驚きやすくなったそうです。
症状は、疲れやすい・眠れないのほかには、下痢しやすい・胃痛(鈍痛)・動悸・息切れ・食欲不振・やせ・寝汗・体がだるい・気分が沈む・お腹が冷える(常にカイロをお腹と背中にしています)などがあります。
不眠は、寝つきが悪く、やっと寝れたと思っても夜中に目が覚め、眠りも浅いそうです。
平成23年4月22日漢方治療を求めて、たつの市から当院へ来院されました。
身長157cm、体重44kg、BMI17.8とやせを認めます。
舌は、厚い白苔と歯痕舌を認めました。
腹診で、みぞおちが冷たく、少し、硬くなっていました(=心下痞硬(しんかひこう)という)。人参湯(にんじんとう;症例8参照)に、体を温めるブシ末;症例2参照を合わせ、加味帰脾湯(かみきひとう;症例45、193、195参照)を寝る前に一回併用して治療を始めました。1ヵ月後の5月19日に来られた時には、「胃の調子が少し楽になり、下痢がなくなりましたが、他はあまり変わりません。夜も寝れません。」と、言われましたので、加味帰脾湯を一日三回に増やしました。途中5月27日に来られ、「やっぱり全然寝れない。」と、言われましたので、他の心療内科の受診を勧めました。
6月17日に来られ、「別の心療内科に行ったところ、うつというより、”頑固な心配症”と診断されました。薬はワイパックス(抗不安剤)1錠が寝る前と、とベタマックス(胃や十二指腸潰瘍の薬ですが、応用として抗うつ剤として処方されます)1錠が夕方に処方されました。」と言われました。この時に、「左足がだるいんです。」と言われましたので、人参湯に変えて、牛車腎気丸(ごしゃじんきがん;症例47参照)を処方しました。
7月14日に来られた時には、「状態がとてもよくなってきました。食事も食べられるようになったし、お腹の痛みもなくなりました。体重が3kg増えました。夜もよく寝れるようになり、主人からもずいぶん元気になったといわれました。」と言われました。
8月19日に来られた時には、「この一ヶ月は、心療内科の薬は全然飲んでませんが、よく寝れます。」と言われました。

本症例では、加味帰脾湯が効いたのか心療内科の薬が効いたのか微妙ですが、状態の悪いときには、併用は仕方ないと考えます(漢方薬が効いてくるのにも少し時間がかかります)。その内に西用薬がいらなくなることが多いです。

うつ病の漢方治療については、こちらをクリック画像の説明なかおクリニック

 

212.手足のほてりの漢方治療

症例は40歳女性です。
2~3ヶ月前より手がほてる(足も少しほてる)ため、自分で更年期障害のためだろうと考え、婦人科を受診されましたが、「年齢的に更年期障害ではない。」と、いわれ何も薬を出してもらえなかったそうです。
そこで知人の紹介で、平成23年7月22日漢方治療を求めて姫路市から当院へ来院されました。
他の症状として、ストレスがかかると下痢しやすい・足がむくむ・肩こり・風邪が治りにくい・疲れやすい・イライラする・のぼせやすい・立ちくらみ・気分が沈む・青あざが出来やすい・生理が早めに来る(2週間ぐらいで)などがあります。
この方の舌を診ると、色が赤っぽく乾燥し、特に舌先が紅くなっていました(舌尖紅潮;症例72、141参照)。
加味逍遥散(かみしょうようさん;症例72、141、147、165、169、177、178、182、193、195、196、201、204、210参照)と、三物黄芩湯(さんもつおうごんとう)を合わせて1ヶ月分だしたところ、8月24日当院へ来られ、「漢方薬がまずくて飲みにくかった(三物黄芩湯はとても苦い)ですが、2週間ぐらいして効いてきました。今は全く症状がとれています。」と、喜んでいただきました。
最初あった症状も一つ一つ聞きましたが、すべて取れているようですので、同じ処方をまた1ヶ月分出させて頂きました。

三物黄芩湯の3種類の配合生薬(苦参・黄芩・地黄)は、いずれも熱や炎症を鎮める効果のある生薬です。
3薬が協力して四肢煩熱(ししはんねつ;手掌や足の裏がほてる症状)を主徴とする血熱血燥を治します。手足がほてるのをさますためには最も良い方剤です。

同じような症例を、症例714に載せております。

三物黄芩湯について(下田 憲先生コメント)

独特な薬で他にあまり使えないです。苦参は他にあまり使わない薬です。黄芩が苦参と生地黄を運びます。特に、苦参は皮膚の熱を冷ますような作用をもっています。そして、熟地黄は内分泌腺など腺の血行を改善する作用を持っているんですが、生地黄は表面の熱を冷ますします。
特徴的に手足のほてり、特に更年期女性に出てくる手足のほてりに非常に良く効く感じがあります
要するに、血の流れが悪くなれば普通は冷えるんですが、なぜか手足がカサカサになって火照ってる女性は確かにいるんです。血虚、血瘀でなく、しいて言えば血燥というのですが、血が乾燥してしまう。
やはり血の流れの悪い所に何か熱を生み出すものがあって、手足に熱を生んじゃうみたいなんですが、これも病態はよくわかりません。更年期に似た状態を自分で経験できないためかもしれませんが。
三物黄芩湯の状態は、ほとんど更年期前後の御婦人しかない。どちらかといえば、桂枝茯苓丸を飲むようなタイプの御婦人なんですが、桂枝茯苓丸みたいな急迫症状は出さないで、ただ手足のほてりがあるだけで体の芯も熱いことが多い。
体の芯が冷えてて手足が熱ければ温経湯なんかですね。通常は、手足が火照るだけでは来院されないのですが、手足が火照るために眠れないというぐらい強い症状になることがあるみたいなんですね。男性は経験できない症状と思うんですね。確かに手を触ると温かいんですが、本人が言うほど灼熱した感じではないんですよ。

 

中高年に多いほてり感・煩熱に効く漢方薬については、こちらをクリック(ひぐちクリニック)

 

213.頭痛の漢方治療

症例は40歳女性です。
小学校の頃より頭痛があり、市販のバファリンをよく飲んでいたそうです。高校生になると、病院で消炎鎮痛剤のロキソニンをもらい、それを飲んでいたそうです。
頭痛は左の前頭部や側頭部(後頭部が痛むことはない)が痛むことが多く、拍動性。特に夏場に強いそうです。現在は、ロキソニンやボルタレンSRをほぼ毎日飲まれているそうです。処方されたドクターは、「心の病以外すべてに効く魔法の薬ですよ。」といって出されたそうです。
平成23年3月からは漢方薬局で、婦宝当帰膠(ふほうとうきこう)を購入し服用したところ、最初は効いていたのにだんだん効かなくなったため、7月に韓国へ渡り、医師から漢方薬(中身は不明)を処方してもらい3週間服用されましたが、頭痛は良くならなかったそうです。
元々胃腸が弱く、下痢しやすい・胃がもたれる・薬で胃があれやすいなどの症状がありましたが、婦宝当帰膠も韓国の薬もやはり胃に障ったそうです。
そこで、平成23年8月8日当院通院中の方の紹介で、漢方治療を求めて姫路市から当院へ来院されました。
他の症状として、上半身のみ汗をかきやすい・体がだるい・疲れやすい・手足の冷え・生理が春と秋に50日に一回ぐらいに遅れる・生理痛が強い・背中ににきびができるなどがあります。
また子宮筋腫があるそうです。
身長164cm、体重48kg、BMI17.8とやせを認めます。
この方の舌を見ると、舌が紫がかり、歯痕舌を認め、舌の裏側の静脈が膨れ、枝分かれしており、「気虚(脾虚;症例97参照)」と「瘀血」(おけつ)体質がはっきりとしておりました。
加味逍遥散(かみしょうようさん;症例72、141、147、165、169、177、178、182、193、195、196、201、204,210参照)と、呉茱萸湯(ごしゅゆとう;症例51、169、199、261、288、293、304、388、400、450、505参照)を合わせて1ヶ月分だしたところ、9月1日に当院へ来られ、「頭痛は、天気の悪い日に一回だけありました。胃もたれもなく、こんなに胃が調子いいのは何年かぶりです。」と、大変喜んでいただきました。
そこで、同じ処方と、頭痛時に頓服で飲むように五苓散(ごれいさん;症例196、低気圧が近づくとひどくなる頭痛参照)を出させていただきました。
次に9月26日に来られた時には、「軽い頭痛が2回あり、それも五苓散がよく効きました。」といわれました。

婦宝当帰膠について

婦宝当帰膠(ふほうとうきこう)は、「血虚(けっきょ)体質;症例54参照」を改善する四物湯(しもつとう)というお薬と、「気虚体質」を改善する四君子湯(しくんしとう)が基本となった漢方薬です。
その結果、”頭痛・肩こり・貧血・腰痛・腹痛・めまい・のぼせ・耳鳴り・生理不順・生理痛・冷え症(冷え性)”などの諸症状が改善されます。
また、胃腸を活発にする漢方生薬である、黄耆(オウギ)・茯苓(ブクリョウ)・甘草(カンゾウ)・党参(トウジ)が配合され、胃もたれなどを起こさないように配慮されているのですが、地黄(ジオウ)という生薬が含まれているため、やはり、元々胃腸の弱い方は本症例のように胃もたれを起こしたり下痢をしたりすることがあります。

 

214.加味逍遥散の男性への使用例

症例は50歳男性です。
平成23年8月2日漢方治療を求めて、姫路市から当院へメモ(症例141、典型的な加味逍遥散の症例参照)を持って来院されました。
メモには次のように書かれておりました。
10年以上前から糖尿病で4種類の薬をもらっているそうです。また、糖尿病によると思われる白内障の手術を両目とも受けられています。
最近気になる症状は…と、以下のように記載されておりました。

  • 足先が常に冷たい。
  • 足がよくむくむ(特に朝方)。
  • 以前から睡眠が浅く熟睡できない。
  • そのため疲れがなかなかとれない。
  • イライラすることが多々。
  • 体がだるい・重たい。
  • 腰痛(椎間板ヘルニアの持病あり)。
  • ため息がよく出る。気分のムラがある。
  • 男性機能の低下を感じる。

最後に自身の不調のために家族にあたりがちで、申しわけなく思いますが、年齢と仕事柄(バス運転士)なかなかコントロールできません。自身もつらく思います。
日々、明るく元気に家族と過していきたいと願っています。よろしくお願いいたします(以上原文のまま)。

身長180cm、体重100kg、BMI30.9と肥満を認めます。
そのほかの症状として、実に問診票に44個もの印がついておりました。
この方の舌を見ると、舌が腫れぼったく、白苔と歯痕舌を認め、舌の裏側の静脈が膨れ、「気虚」と「瘀血」(おけつ)体質がはっきりとしておりました。
腹部では、胸脇苦満(=胸から脇(季肋下)にかけて充満した状態があり、押さえると抵抗と圧痛を訴える状態)と下腹部で、軟弱無力で、圧迫すると腹壁は容易に陥没し、押さえる指が腹壁に入るような状態(小腹不仁(しょうふくふじん))をはっきりと認め、腎虚(症例42、58、194参照)もあると考えられました。
加味逍遥散(かみしょうようさん;症例72、141、147、165、169、177、178、182、193、195、196、201、204、210、213参照)と、牛車腎気丸(ごしゃじんきがん;症例47参照)を合わせて1ヶ月分だしたところ、9月3日にまたメモを持って当院へ来られ、メモには、

  • むくみなし
  • 足のだるさなし
  • 腰の痛みましになった
  • 睡眠度が以前に比べましになった

とあり、非常に調子良くなっておられました。
ただ少し、以前に比べ便が少しゆるくなられたようですが、体調は本当によさそうなので、そのまま、また1ヶ月分処方させていただきました。

加味逍遥散は瘀血(症例2参照)による不調の改善に活躍する処方です。
女性の子宮に血液が充満し、出血する生理は瘀血そのものと考えられ、生理に伴う種々の不調は、瘀血を改善する駆瘀血剤によって治療されてきました。加味逍遥散はそんな駆瘀血剤の代表的な処方なのです。
しかし、加味逍遥散は単なる生理に伴う不調にとどまらず、それも含めてとらえようのない訴えの多いもの(不定愁訴症候群)によく効きます。加味逍遥散が更年期障害の薬のようにいわれるのは、訴えが非常に多い更年期障害の患者さんに、よく効き目を発揮するからです。
このように加味逍遥散は女性に使用されることが多いのですが、もちろん男性にも使用されることはあります。
本症例のように典型例であれば、加味逍遥散を男性に用いてもよく効くのです。

 

215.乗り物酔いの漢方治療

次の症例は、症例208の方です。
平成23年7月25日に、来られた時に、「今度飛行機に乗るが、いつも乗り物酔いするので、市販の酔い止めを使うが、眠くなり困るので漢方でなんとかならないか。」と、相談を受けましたので、五苓散(ごれいさん;症例3・22・120・174・196参照)をお渡ししました。
飲み方は、症例174で書いたとおり、私の経験から搭乗口で待っている間か、最低飛行機の座席に着いてからでも間に合う旨お話しいたしました。
8月29日に、来られた時に、「とてもよく効きました。眠くもならず本当によかったです。」と、いわれました。
この方の舌は腫れぼったく、「水毒(水毒については、漢方体質診断の水毒の項と、症例120を参照下さい)」傾向にあるため、乗り物酔いしやすいのだと思われました。

楽しいはずの旅も、車や船、飛行機などで乗り物酔いになると苦しさに替わります。

乗り物酔いは、平衡感覚を掌る“三半規管”が乗り物の連続する動揺、振動によって刺激を受け、自律神経を失調して起こると考えられています。
最初は頭重感、あくび、生唾などの症状がみられ、そのあと顔面が蒼白になり手足の冷感、ふらふら感、頻脈がおこり、最終的に嘔吐となります。

西洋医学では酔い止めに、抗ヒスタミン薬、副交感神経遮断薬などを使いますが、いずれも眠くなる、口が渇くなどの副作用があります

東洋医学では乗り物酔いの症状を「水毒」と捉えます。
「五苓散(ごれいさん)」、「小半夏加茯苓湯(しょうはんげかぶくりょうとう)」、「苓桂朮甘湯(りょうけいじゅつかんとう)」、「半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)」などの利水剤(症例3参照)を処方します。

五苓散は、口が渇き、尿の出が悪く、水を飲むと直ぐに吐出し、また水を飲み、再度、水を吐くという水逆の嘔吐(症例3参照)を目標とします。
「沢瀉(たくしゃ)」「猪苓(ちょれい)」「茯苓(ぶくりょう)」「蒼朮(そうじゅつ)」の利水剤が四つ含まれ、いずれも体液を調整する働きがあり、胃内停水(症例120参照)を去り、尿の出を良くすると考えられています。
沢瀉、猪苓はさらに口渇を改善させ、茯苓とともに鎮静作用を示します。
桂枝は、汗を出させからだの表面を調えます。のぼせを治す効果もあります。

 

216.腰痛症の漢方治療

症例は54歳女性です。
既往歴として、22年前にも腰痛症になり、漢方専門の医院で煎じ薬を処方してもらい良くなったことがあります。
今回、昨年より腰痛症が再発し、平成23年2月より、痛みがひどくなってきたため、平成23年7月22日漢方治療を求めて、姫路市から当院へ来院されました。
身長160cm、体重53kg、BMI20.7。
この方の舌を見ると、舌が紫がかり、白苔と歯痕舌、舌尖紅潮(症例72、141参照)を認め、舌の裏側の静脈が膨れ、枝分かれしており、「気虚(脾虚;症例97参照)」と「瘀血」(おけつ)体質がはっきりとしておりました。
「汗をかきやすく、冷えはあまり感じない。」といわれましたが、風呂で温めると楽なので、やはり冷えはあると考えられました。
そこで、上熱下冷、腰冷痛、腰股攣急(症例36参照)によく効く五積散(ごしゃくさん)(症例36、37、180参照)と、加味逍遥散(かみしょうようさん;症例72、141、147、165、169、177、178、182、193、195、196、201、204、210、213、214参照)を合わせて一ヶ月分処方しました。
しかし、8月17日に来られたときに、「腰痛は全くよくならない。手もしびれる。」といわれました。
そこで、腹診をしてみると、上腹部は緊張が強く固かったですが、下腹部は逆に軟弱無力で、圧迫すると腹壁は容易に陥没し、押さえる指が腹壁に入るような状態(小腹不仁(しょうふくふじん))をはっきりと認め、腎虚(症例42、58、194参照)と考えられました。
五積散を八味地黄丸(はちみじおうがん;症例42参照)に変え、さらに一ヶ月分処方したところ、9月16日に来られ、「腰痛や手のしびれはとれました。」といわれました。
ただし、「少し、吐き気がします。」といわれました。八味地黄丸に含まれる、地黄(じおう)という生薬が胃に障ったようですが、せっかく効いていますので、食後に服用してもらうように指示しました。
八味地黄丸で食欲がなくなったり、吐き気を催すようでしたら食後に服用してもらうのがポイントです。

それにしてもどんなに忙しくても、腹診はしないといけませんね。反省です。

八味地黄丸について

八味地黄丸は、超高齢時代を迎える日本には欠かせない「抗老化薬」として知らています。
漢方医学でいう五臓のうち、「腎」の代表的な治療薬です。老化によって、呼吸機能や水分代謝などをつかさどる腎の機能が落ちた時に発症する病気に処方されています。

飯塚病院東洋医学センターの三潴(みつま)忠道先生らが行った研究でも、腎機能障害、腰痛、気管支喘息、脳血管障害の後遺症などに効果があったそうです。
手足や腰の痛みなどを訴える患者に4週間投与したところ、60歳以上の患者では6割が改善したそうです。
八味地黄丸はその名のとおり、以下の八種類の生薬からできています。
補血・強壮作用のある地黄、瘀血を取り去る牡丹皮(ぼたんぴ)、気の流れをよくしてのぼせを解消する桂枝(けいし)、水の流れをよくする茯苓(ぶくりょう)と沢瀉(たくしゃ)、体を温める山茱萸(さんしゅゆ)、精気を滋養する山薬(さんやく)、冷えを取り去る附子(ぶし)です。
これらがとてもうまく調和して、中高年者の強壮、疲労回復、体力増強効果をもたらしてくれます。

八味地黄丸についてさらに知りたい人は、こちらをクリック画像の説明ツムラ・メディカル・トゥデイ

 

217.喉の詰まり(梅核気、咽中炙臠)の漢方治療

次の症例は、症例201の方です。
7月26日に来られた時に、「胃の方は調子いいのですが、のどが詰まって変な感じがします。また少し吐き気もします。」といわれましたので、半夏瀉心湯に変えて、半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)(症例64、102,103参照)を処方させていただきましたが、8月23日に来られ、「のどの詰まりは全く変わりません。」といわれました。
そこで、軽度の咽喉・胸部痞塞感、頭痛や神経症に使う香蘇散(こうそさん)(症例293参照)を使用したところ、9月14日に当院へ来られ、「のどの詰まりはとれました。」といわれました。

普通、喉がつかえや詰まりは、症例102,103で述べたように半夏厚朴湯を使いますが、今回は全く効かなかったため同じ気滞に使う香蘇散を試してみました。
香蘇散は香附子(こうぶし)、紫蘇葉(しそよう)、陳皮(ちんぴ)、生姜(しょうが)、甘草(かんぞう)の5種の生薬からなっています。味も良く、飲みやすい漢方薬です。
服用すると気持ちが晴れますし、風邪の初期や魚のアレルギーなどにも効きます。

「梅核気(ばいかくき)」、「咽中炙臠(いんちゅうしゃれん)」について

梅核気とは、のどの気の流れが滞って(=気滞(症例102,103参照))、梅の種がのどにつまったように感じる症状です。あるいは「咽中炙臠(いんちゅうしゃれん)」とも言います。これは”のどに炙った肉片がある”という意味で、梅核気と同義です。
精神科の古い教科書には、「ヒステリー球」として、ヒステリーの一症状として記載されています。ヒステリーでなくても、ストレスに弱い人にはよくみられる症状なのですが、一般的にはあまり知られていません。
この症状によく使われるのは、半夏厚朴湯です。
本方は、半夏(はんげ)、厚朴(こうぼく)、生姜(しょうきょう)、紫蘇葉(しそよう)、茯苓(ぶくりょう)の五つの生薬からなります。
生姜と紫蘇葉については食卓でお馴染みですね。生姜は、胃腸の蠕動運動をたかめて吐き気をとめます。また風邪の薬として汗をかかせる作用もあります。紫蘇葉にも同様の作用があり、また鎮咳去痰薬としても用いられています。半夏は嘔吐を治す薬で消化管に作用します。気分を静める作用は、厚朴と茯苓にありますが、ごく軽いものです。それが組み合わせの妙で、この五味が一緒になるとのどの不快感をとる強力な作用がでてくるのです。のどの違和感に悩む人には劇的に効きます

以下は下田憲先生のコメントです。
半夏と厚朴の組合せは、気を動がす代表的な組合せです。
そして大事なのは、この半夏と厚朴の組合せを持っているものは、全部半夏厚朴湯の性質を持っているという事です。
半夏厚朴湯そのものが入っていなくても、気を動がす代表的なこの二つの薬が入っていると、半夏厚朴湯の意味合いのある作用を示します。
のどの違和感は、ヒステリー球と言ってしまうのはちょっと難しいのです。本当にヒステリー的であるものならば何か原因があって、その原因が無くなれば消えるはずなのですが、どうも違うのです。逆にそういうものを気にしやすい体質と言うものがあるのかも知れません。
環境の変化がいくらあっても、咽中炙臠がある人は若いときからずっとあるのです。それがあるからすごく内気になって、引っ込み思案になって、時々イライラします。他人にはあたらないのです。
桃核承気湯や桂枝茯苓丸の人は他人に当たるのです。血が気を動かすほうが強いのかもしれません。
半夏厚朴湯の人は、気だけがうっ滞していて意外に他人には当たらないのです。本当にヒステリーと言われる激しいものだったら、周囲に当たるはずなのですが、いつも自分の中にしまいこみます。
逆にこれ以上のひどい事になったら本当のうつ状態になってしまいます。自分の中に閉じこもって全然動かないという状態になります。
そこまでいかないで他人に接しているとき、すこし不安になったり、少しおどおどしたり、何かあると自分の中に引きこもってしまう場合があり、話を聞くとこの附近(のどから上胸部)につっかえると訴えます。

そして実は精神的なもので喘息発作を起こす人はやはり同じ症状です。要するに精神的なもので、他人に当たるのではなくて、自分の中に取り込んでいって肺が損なわれてしまうと、喘息発作になって行くのです。その一番代表的な状態に使う処方として柴朴湯(小柴胡湯+半夏厚朴湯)などというのが作られているのです。そして半夏、厚朴が組合せとして入っている処方にはいろいろなものがあります。全部この特徴(咽中炙臠)があると思います。この附近に何かひっかかっているという感じの訴えがあったら、半夏、厚朴を含む製剤を使ってまず間違いは無いです。

 

218.げっぷの漢方治療

症例は16歳女性です。
「げっぷが止まらない。」とのことで、平成23年9月7日、お母さんに連れられて来院されました。
食欲があまりなく、便は軟便だそうです。
診察中も何度もげっぷが出ていました。
身長144cm、体重44kg、BMI21.2。
この方の舌を診ましたが、大きな異常は認めませんでした。腹診ではみぞおちが、少し硬くなっておりました(=心下痞硬(しんかひこう)という)。
症状からも半夏瀉心湯(はんげしゃしんとう;症例17、89、163、176、179、188、286参照)がぴったりと考え1週間分処方させていただいたところ、9月12日に来られ、「少しはましになりましたが、胃に何か病気がないか心配です。」とお母さんがいわれましたので、9月17日に胃カメラをすることにしました。
当日来院された時にはげっぷは治癒しており、もちろん胃カメラの検査結果も異常ありませんでした。
しつこいげっぷも10日間で完全に治ったことになります。

げっぷについて

症例163の”半夏瀉心湯について”の所で詳しく記載しておりますが、げっぷは、漢方では「噫気(あいき)」と言い、本来は下へ向かっている「胃」の「気」(=胃気)が、上逆、すなわち上の方へ逆行してくることで発生すると考えられています。もともと「胃」に入った食べ物は、胃から小腸、大腸へと下の方に送り込まれますが、これは「胃」の「気」のエネルギーによる作用で、その「気」が逆行して「気」のかたまり=ガスの状態となって、口から出てくるのが「げっぷ」であるという考え方です。
このように、胃気は下に向かうことで正常な働きを維持していますが、胃気の流れを邪魔するものがあったり、胃そのものが弱っているなどして下に降りられないと、げっぷとして上がってきてしまうのです。

げっぷは五臓(=肝・心・脾・肺・腎)のうち、「脾」と「肝」が関与したものが多く見られます。「脾」は「胃」と協力して消化吸収を行っており、「肝」はそれを助けています。したがって、これら臓器の乱れ(=肝脾不和といいます)はげっぷの原因となります。


肝脾不和について

肝と脾の関係は、相剋(そうこく)関係です。
肝が脾を剋する関係になっています。
つまり、肝が脾の働きを規制しているわけです。
この時、肝の働きが強すぎると、脾の働きが必要以上に制限されてしまいます。
この状態を肝脾不和といいます。
肝脾不和の主な症状は、ストレスがあるとすぐ下痢する、緊張すると吐き気がする、便秘したり、下痢したりする。お腹が張り痛む。げっぷやガスが多く出る、などの症状です。

 

219.湿疹の漢方治療

症例は83歳女性です。
高血圧症、C型慢性肝炎等で当院通院中の患者さんです。
平成23年9月6日頃より、両方の大腿部に湿疹出現し、様子をみられていましたが治らないため、9月9日来院されました。
身長142cm、体重39kg、BMI19.3。
普通の湿疹と考え、ザイザルという新しく発売された抗アレルギー薬(比較的速効性で、よけいな中枢神経抑制作用や抗コリン作用が弱く、眠気や口の渇きの副作用が少ないといわれている)を1週間分処方しました。
簡単に治るだろうと思っておりましたが、9月16日に来院された時には、治るどころか、病変は両大腿部から両足先まで広がり、そこから背中・両わき腹にまで真っ赤な発疹が広がり、強いかゆみを伴っていました。
夏に増悪するジュクジュクして、発赤したりかさぶたをつくったりして、かゆみの強い皮疹によいとされる、消風散(しょうふうさん;症例16参照)を基本薬にし、発赤、熱感が強いため、黄連解毒湯(おうれんげどくとう;症例31、105,294参照)を合わせて1週間分処方したところ、9月27日に来られた時に、「おかげさまで3日目から、湿疹が引き始めて今はすっかりよくなりました。」といわれました。

黄連解毒湯について

体の熱を抑え、落ち着かせる効能がありますので、赤くなって痒い病変によいとされています。
炎症を抑えて解毒してくれる「黄連(オウレン)」や熱を冷ます「黄柏(オウバク)」、同じく炎症を抑え鎮静する「山梔子(サンシシ)」などの生薬が含まれています。


湿疹の漢方治療について

西洋医学の湿疹の治療は痒みをとることが中心ですが、漢方の湿疹の治療は皮膚の状態をよく観察して、その原因を取り除く治療をします。
たとえば、

  • 皮膚が赤く炎症の強い湿疹には、身体の熱をさまし炎症をとる薬
  • 皮膚がグジュグジュして水がでるような湿疹には、水分を取り除く薬
  • 逆に皮膚がカサカサしたり、ひどくなるとフケのような角質がはげ落ちるような湿疹には、皮膚を潤す薬
  • ストレスによって湿疹がひどくなる方は、ストレスを和らげる薬
  • 体力がおちて疲れやすい方には、体力をつける薬

を使ったりします。

 

220.じんま疹の漢方治療

症例は40歳男性です。
平成23年7月頃より、顔を除く全身にじんま疹(小円形~地図状の膨疹)が出現。
二ヶ所の皮膚科に通ったが、原因不明といわれ、一ヶ所の皮膚科では、「大学病院でも行ってもらわないと原因はわからない。」といわれたそうです。
結局ダレンという抗アレルギー薬を処方してもらいましたが、全く効かなかったそうです。
そんな時、当院のホームページのじんま疹の症例を見て、平成23年9月9日漢方治療を求めて三木市より来院されました。
他の症状として、便秘(2~3日に1回)・のどがつかえる・口内炎ができやすい・口の中が苦い・夜間頻尿・足がむくむ・汗をかきやすい・のどが渇く・体がだるい・疲れやすいなどがあります。
身長171cm、体重68kg、BMI23.3。
この方の舌を診ると、腫れぼったく、厚い白苔と歯痕舌を認めました。
症例9、120と同様、「水毒(すいどく)」によるじんま疹と考え、茵蔯五苓散(いんちんごれいさん)と「気虚」の症状に対して六君子湯(りっくんしとう)を2週間分合わせて投与しました。
しかし、途中の9月17日に来院され、「じんま疹は、かえってひどく、真っ赤になり、痒くてしかたない。それに六君子湯を飲むと胃が痛くなる。」といわれましたので、症例219と同様、夏に増悪(この方のじんま疹は7月に入って出現している)するジュクジュクして、発赤したりかさぶたをつくったりして、かゆみの強い皮疹によいとされる、消風散(しょうふうさん;症例16参照)を基本薬にし、発赤、熱感が強いため、黄連解毒湯(おうれんげどくとう;症例31参照)を合わせて2週間分処方したところ、9月30日に来られた時に、「じんま疹は、ほとんど出なくなりました。」といわれました。右の前腕部の所に少しだけじんま疹があるだけで、痒みもほとんどないとのことでした。
そこで、同じ処方で今度は1ヶ月分処方させていただきました。

じんま疹については、症例9、107、120、153、305も参照してください。

じんま疹について

じんま疹はかゆみを伴って突然に出現し、境界明瞭な円形から地図状の隆起した膨疹を特徴とする疾患です。
通常は一過性であり数時間以内に消失します。
しかし、慢性的に反復して出現するじんま疹もあり、一ヶ月以上続く慢性の場合は、原因が分からないものが多くなります。

じんま疹の原因

  • 食事性:魚介類、卵、牛乳、肉類、酒
  • 薬剤性:解熱鎮痛剤、色素、造影剤を摂取した時
  • 生活環境因子:ハウスダスト、ダニ、カンジダ
  • 物理的原因:ひっかき・圧迫などの機械的刺激、温熱、寒冷、光線刺激
  • 病巣感染性:扁桃炎、副鼻腔炎、う歯(虫歯)
  • コリン性:運動不可が加わった時、発汗した時

西洋医学的治療は、原因の除去と抗アレルギー薬や抗ヒスタミン薬などが用いられますが、一ヶ月以上続くものは治療困難な場合が多いとされています。

 

221.肥満症に防風通聖散

次の症例は62歳、男性です。
平成12年より、高血圧症・高脂血症・逆流性食道炎・便秘症で当院通院中の患者さんです。
身長160.5cm、体重74㎏(標準体重56.7㎏)、BMI28.7、腹囲88.2cm(まさに太鼓腹)で、肥満症・メタボリックシンドロームを認めます。
いつものように平成23年9月9日通院されたときに、「防‥何とか言う、やせる漢方薬があるいうて聞いたんやけど‥。」といわれましたので、防風通聖散(ぼうふうつうしょうさん;症例18参照)を1日2回で処方させていただいたところ、10月6日に来られ、「2kgやせて、72㎏になった。」といわれました。興味深く思ったのは、「今までなら、焼きそばでもなんでも2人前食べないと気が済まなかったのが、食欲がないわけではないのに、1人前で満足できるようになった。」といわれたことです。
防風通聖散には食欲中枢を正常にする作用もあるのでしょうか。
また、便秘薬の酸化マグネシウムを飲まずに、毎日便も出るようになったそうで、酸化マグネシウムは中止させていただきました。
今後、体重の推移を順次記載させていただきます。

  • 11月4日通院されたときに、「1kgやせて、71㎏になった。」といわれました。

なお、肥満症については、症例18もご参照ください。

222.アトピー性皮膚炎、足のむくみの漢方治療

症例は26歳女性です。
15歳頃より、首筋、腹部、手足などにアトピーがあるため漢方治療を求めて、平成22年9月10日来院されました。
身長157cm、体重46kg、BMI18.7とやせを認めます。
そのほかの症状として、快便感がない・胃がもたれる・口内炎ができやすい・肩こり・体がだるい・足がむくむなどがあります。
この方の舌をみると、紫、舌先が紅くなっていました(舌尖紅潮;症例72参照)。また、舌の裏側の静脈が枝分かれして、「瘀血」(おけつ)体質も認めました。
腹診では腹直筋緊張(腹直筋攣急;触診で腹直筋を触知したときに、肋骨弓付着部~恥骨結合部まで、全長にわたって緊張の強いもの)を認めました。
アトピーと気虚に対して黄耆建中湯(おうぎけんちゅうとう;症例379参照)と、皮膚がかさかさしていたので、血虚(症例54参照)に使う、四物湯(しもつとう)を合わせて2週間分処方したところ、9月27日に来られ、「胃の調子がずいぶんよくなりました。皮膚のかさかさもましです。」といわれました。さらに一カ月分処方させていただいたところ、11月12日に来られ、「肌もきれいになりました。」といわれましたので、治療を終了させていただきました。
すると、次に平成23年6月29日にまた来られ、「1週間ほど前より、尿量が少なくなり足がむくむ。」といわれましたので、再び黄耆建中湯と、四物湯に変えて牛車腎気丸(ごしゃじんきがん;症例47参照)を一カ月分処方させていただいたところ、7月27日に来られ、「最初のころ尿量が増えたと思ったら、むくみがすっかりとれました。」といわれました。その後同じ処方を続けておられ、皮膚もむくみも調子のよい状態が続いております。

小建中湯(しょうけんちゅうとう;症例26、109、145、190、192参照)は、虚弱な小児の、いわゆる体質改善によく用いられる漢方薬ですが、これに「黄耆(おうぎ)」という生薬を加えたのが『黄耆建中湯』です。
利尿作用免疫機能の強化、疼痛効果、老化防止、血圧降下作用がありますので、胃腸虚弱者の疲労回復、関節痛、多汗、浮腫、手足の倦怠感、湿疹、腰痛、慢性下痢、そして子供のアトピー性皮膚炎などに用いられます。

小建中湯に黄耆が加わると、「脾・肺・腎」の経絡に作用します。
この場合、東洋医学的な意味合いでの「肺」は皮膚と呼吸器を整える作用があります。よって、アトピー性皮膚炎、気管支喘息などに体の中心から効いてゆくのです。

 

223.夜間頻尿、下腿のむくみの漢方治療

次の症例は79歳、男性です。
既往歴として腎癌のために左腎の摘出術を受けられています。
また現在、高血圧症、高脂圧症、逆流性食道炎、大動脈弁閉鎖不全症などで、内科で加療を受けられています。
下腿の浮腫があり、ダイアートという利尿剤をもらっているにもかかわらず改善せず、また夜間に3回もトイレに行くのがつらい(夜間頻尿)ため、平成23年9月1日漢方治療を求めてお隣のたつの市から来院されました。
身長160cm、体重58kg、BMI22.7。
腹診をしてみると、上腹部は緊張が強く固かったですが、下腹部は逆に軟弱無力で、圧迫すると腹壁は容易に陥没し、押さえる指が腹壁に入るような状態(小腹不仁(しょうふくふじん))をはっきりと認め、腎虚(症例42、58、194、216参照)と考えられました。
牛車腎気丸(ごしゃじんきがん;症例47、222参照)を一カ月分処方させていただいたところ、9月27日に来られ、「むくみは完全にひきました。夜中も一度もトイレに行かなくて済むようになりました。」と、大変喜んでいただきました。

高齢者に現れる頻尿の症状として、最もよく見られている症状は、夜間頻尿です。
夜間頻尿は冷えが関係していることが多いため、本症例のように八味地黄丸牛車腎気丸などの漢方薬が効果的です。

「頻尿がある – お年寄りの病気」については、こちらをクリック画像の説明goo ヘルスケア

 

224.動悸の漢方治療

症例は50歳女性です。
胸痛や動悸のため、姫路市の循環器病センターで精査されましたが、不整脈(心室性期外収縮)は認めるものの、大きな異常はないといわれました。そのため、近くの内科で、ラニラピッド(心臓の収縮力を強くし、脈をゆっくりさせる作用がある)とデパス(不安や緊張感をやわらげ、気持ちを落ち着かせる)を処方されましたが、動悸はおさまらないため、平成23年7月7日漢方治療を求めて姫路市から来院されました。
身長171cm、体重58kg、BMI19.8とやせを認めます。
既往歴として、33歳の時、子宮筋腫をされています。
他の症状として、頭重感、目が疲れる、肩こり、ほてり、疲れやすい、体重減少、寝つきが悪いなどがあり、とにかく毎日元気がなく、体調がすぐれないそうです。血圧は、118/78と正常でした。
この方の舌を見ると、舌が腫れぼったく、紫色がかり、歯痕舌を認め、舌の裏側の静脈が膨れ、「気虚」と「瘀血」(おけつ)体質がはっきりとしておりました。
加味逍遥散(かみしょうようさん;症例72、141、147、165、169、177、178、182、193、195、196、201、204、210、213、214参照)と、「気虚」の症状に対して六君子湯(りっくんしとう;症例97,154、178、179、182参照)を一ヶ月分合わせて投与しました。
一ヶ月後の8月2日に来られた時には、「だいぶ調子良くなってきましたが、動悸と肩こりがとれない。」といわれましたので、六君子湯に代えて肩こりによく使う葛根加朮附湯(かっこんかじゅつぶとう;症例12参照)を処方したところ、9月17日に来られ、「肩こりはよくなったが、動悸がとれず、脈が飛ぶのが気になる。」といわれましたので、加味逍遥散に代えて桂枝加竜骨牡蠣湯(けいしかりゅうこつぼれいとう;症例57、286、431参照)を処方したところ、10月17日に来られ、「動悸も取れ、本当に調子良くなりました。」といわれました。

心臓は1分間に60回程度の規則正しい拍動をしています。
不整脈とは、何らかの原因によってこの心臓の規則正しいリズムに乱れが生ずる疾患です。
自覚症状としては、動悸すなわち、突然に「どきっ、どきっ」と感じたり、胸部が圧迫される感じなどがあります。
不整脈は健康な若い人にも、しばしば無害性の心室性期外収縮として起こることがあります。ほとんどの場合、これらは治療する必要はありません。しかし、不整脈が心臓病(急性心筋梗塞、心臓弁膜症、心筋症など)を伴う場合は、治療が必要となることがあります。

桂枝加竜骨牡蛎湯は、動悸、元気がない、疲れやすい、冷えに弱い、息切れ、胸苦しい、めまい感、不安感、汗をかきやすい、神経過敏傾向の方に用られます。
まさにこの患者さんにぴったりといえます。

他に柴胡加竜骨牡蠣湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)は、体力は中等度で季肋部に苦満感があり、精神不安などがある時に用いられます。

両者の使い分けは、どちらも不安感がベースになっていますが、随伴する症状が異なることです  (谷川醫院 谷川 聖明先生 講演スライドより)。

画像の説明

また、炙甘草湯(しゃかんぞうとう)は動悸や手足のほてり、口渇などがある時に用いられます。動悸や不整脈の第一選択薬とされています。

 

225.冷房による風邪の漢方治療

症例は64歳女性です。
高血圧症で普段通院されている方です。
平成23年9月5日来院され、「クーラーの効いた部屋にずっといたら、寒気と頭痛・鼻水・くしゃみが出て風邪をひいたようだ。」といわれました。
冷房が契機になっていますので、冷房病に使う五積散(ごしゃくさん;症例36、37、40参照)と、麻黄附子細辛湯(まおうぶしさいしんとう;症例49参照)を合わせて1週間分処方させていただきました。
10月1日に血圧の薬をとりに来られた時に聞くと、「薬を飲んだら体がすぐにあたたまり、気持ち良くなりました。2日ほどで風邪症状はすっかり治りました。」といわれました。

地球温暖化といえど電車や会社の中ではまだまだかなり低い温度で冷房がかかっています。
室温が必要以上に低くなると体温を維持し、身体を温める機能が衰え、身体が冷えやすくなります。
また、この時期どうしても冷たいものに手がいってしまうのでさらに身体を冷やすことにもなります。
身体が冷えると免疫力が低下し、風邪や膀胱炎、胃腸炎などの病気にかかりやすくなり、さらに冷えは血行を悪くするため、生理痛や頭痛、筋肉痛、関節痛、肩こりなどの症状も引き起こします。
こんな時、東洋医学では五積散などで、温めて血行をよくするという方法を使っていきます。

五積散は、桔梗・枳実の去痰薬、半夏の鎮咳薬を含んでいるため、総合感冒薬としても用いることができます。
さらに平胃散加芍薬甘草が入っているので胃腸型の感冒にも用いられます。老人や冷え性の人の感冒、葛根湯や麻黄湯で胃腸障害をおこすものなどに適しています。

ただし、五積散単独では効力不足の面があるため、

  • 解表各疾患の漢方治療の「風邪の引き始め」を参照)の効果を強めたい時‥桂枝湯
  • 陽虚(冷えて、体力が衰えた状態)で元気がない時‥麻黄附子細辛湯
  • 咳嗽の強い時‥小青竜湯や参蘇飲

などと合方します。

なお、誰でも暑い夏は自然と発汗しているので脱水気味になっています。
冬風邪の特効薬である葛根湯は「麻黄+桂枝」を含み、さらに強力に発汗を促し、外邪を汗で洗い流し追放する薬なので、どんどん脱水が進行(脱汗)し、最悪の場合、心不全を引き起こし、かえって風邪をこじらすため夏には用いません(蔭山 充先生)。
麻黄附子細辛湯の、麻黄も附子も細辛も体を温める生薬ですが、「麻黄+桂枝」のペアー(発汗剤)と違い大量の汗を直接かかないところが利点です。
少量用いると冷房の中、ほんのり温まって気持ちがよいものです(蔭山 充先生)。

なお、西洋医学的にはよく、「冷房病と夏風邪は違います。しかし、出てくる症状が似ているので、注意しなければなりません。冷房病と夏風邪の症状が似てくるのは、冷房病も夏風邪も内臓機能の低下により引き起こされる症状が共通だからです。冷房病の場合いくら風邪薬を飲んでも治りません。」などと記載されていますが、漢方では今まで述べたようにどちらも同じ薬で治療することが出来るんです。

 

226.五積散による頭痛の漢方治療

症例は36歳女性です。
4年前より、頭痛(動悸がするような鈍い痛み)のため、だいたい一日おきに、ロキソニン(消炎・鎮痛剤)を一日に2~3回飲んでいたそうです。
きっかけは、子供を受験のため塾に通わせ、その迎えの時、いつも風呂上がりで行き、1時間程車の中で待っているとすごく体が冷え、それから頭痛がおこるようになったそうです。同時期に左上肢のしびれや痛みがあり、整形外科を受診したところ、頸椎ヘルニアを指摘され、「頭痛もそれが原因であろう。」といわれたそうです。
他の症状として、夏は氷で足を冷やさないといけないくらいほてるのに、秋になるとすごく冷える・首から上がのぼせる・頭に汗をよくかく・寒暖差で鼻炎(鼻づまり)がよく出る・生理痛が強い・手足の冷え・足がむくむ・2週間くらい前より腰痛(朝方中心、ストレッチするとよけに痛む、風呂でぬくめるとよい)などがあります。
既往歴として、平成5年に左卵巣のう腫の手術をされています。
平成23年10月14日、ホームページをみて、漢方治療を求めてお隣のたつの市から来院されました。
身長167cm、体重62kg、BMI22.2。
この方の舌を見ると、紫色がかり、舌の裏側の静脈が膨れ、「瘀血(おけつ)」体質がはっきりとしておりました。
五積散(ごしゃくさん)症例36、37、40、180、216、225参照)と、当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)(症例14、158参照)を合わせて一ヶ月分処方しました。
一ヶ月後の11月7日に来られた時には、「ロキソニンは、薬をもらった日に一度飲んだきりです。冷えがすっかりよくなり、夜間頻尿で夜何回かトイレに起きていたのがなくなり、朝までぐっすり寝れるようになりました。腰の痛みもありません。」と、大変喜んでいただきました。
なお、ロキソニンを飲むと、体にぶるっと寒気が走ったそうです。

本症例では、症例87で述べたように、明らかに解熱鎮痛薬(ロキソニン)の弊害により冷えが悪化し、体調不良を来していたと考えられます。
五積散は、気・血・寒・食・痰の5つの積を破るとの意味で五積散と名づけられています。
寒冷や湿気に侵されて、下肢や下腹が冷えて痛むのに、身体の上部は逆にのぼせて熱く、頭痛などの熱症状を起こしているような人に用います。
その他、婦人の月経不順にも用います。

 

227.鵞足炎(がそくえん)の漢方治療

症例は58歳女性です。
高血圧症・高脂血症で普段通院されている方です。
平成23年10月19日通院された時に、「一週間ほど前より膝下の内側(下図参照)が痛む。」といわれました。
細絡(皮膚上に表れる糸ミミズ状で赤紫色の毛細血管腫;症例91参照)を膝周囲に認めました。
身長151cm、体重52kg、BMI22.8。
膝の痛みによく使う防已黄耆湯(ぼういおうぎとう;症例76参照)に、鵞足炎に使う治打撲一方(ぢだぼくいっぽう)を合わせて1日2回で一ヶ月分処方させていただいたところ、11月15日に来られ、「膝は全く痛まなくなりました。」といわれましたので、1日1回に減らして、さらに一ヶ月分処方させていただきました。

変形性膝関節症の漢方治療については症例2,76,111,131,184,207,209,228,245,268,269,282,283,300,311,319,334,355も参照して下さい。

≪鵞足炎の痛む部位≫
画像の説明
膝の関節から5cm下あたりで歩くと強い痛みがあった場合、鵞足炎を疑います。

鵞足炎の漢方治療については、首藤孝夫先生が、漢方療法(Vol 9 No 1,p53,2005-4)で、「樸樕(ぼくそく)」という生薬が効き、「樸樕」を含む、治打撲一方がよいと書かれています。

「樸樕」はもともと「骨痛を去る」生薬で、鵞足炎を、縫工(ほうこう)筋、薄(はく)筋、半腱様(はんけんよう)筋の腱が脛骨内側に付着していることより、”骨の痛み”と拡大解釈してみてはどうかと考え使用されたそうです。

「鵞足炎」については、こちらをクリック画像の説明八王子整形外科

治打撲一方は、本来、打撲・捻挫・骨折のときの内出血や腫れに使う処方です。
これらに対して、いわゆる痛み止めはあまり効果がありません。そして腫れが引かなければ痛みもなかなか引かないのです。
この内出血や腫れは漢方では「瘀血」と捉えますので、血流を改善させる薬が選択されるのですが、この治打撲一方はさらに余分な血を体外に捨てる作用もあるので、外傷に打ってつけなのです。

ちなみに鵞足炎は、関節外に病変が存在するため、西洋医学的なステロイドやヒアルロン酸ナトリウムの関節内注射では疼痛が改善しない場合が多いそうです。
ここでも漢方が大活躍ですね。
なお、一般の変形性膝関節症の漢方治療については、症例184を参照して下さい。

 

228.鵞足炎(がそくえん)の漢方治療(2)

もう1例鵞足炎の著効例がありますので紹介させていただきます。
症例は81歳女性です。
この方も高血圧症・高脂血症で普段通院されている方です。
4、5日前より誘因なく左膝の鵞足部が痛み出し、歩きづらくなり足を引きずるようになったので、平成23年10月31日受診されました。
身長153.8cm、体重65.4kg、BMI27.6と肥満を認めます。
鵞足炎と診断し、防已黄耆湯(ぼういおうぎとう;症例76参照)に、鵞足炎に使う治打撲一方(ぢだぼくいっぽう)を合わせて1日2回で2週間分処方させていただいたところ、11月17日に来られ、「膝の痛みは完全にとれました。」と、喜んでいただきました。治療の開始が早かったのがよかったのでしょう。
なお、漢方薬はとてもまずくて、お砂糖を小さじ1杯入れないと飲めなかったそうです。

変形性膝関節症の漢方治療については症例2,76,111,131,184,207,209,227,245,268,269,282,283,300,311,319,334,355も参照して下さい。

229.筋緊張性頭痛の漢方治療

症例は33歳女性です。
2、3カ月前より頭痛・めまい・肩こりがあり、総合病院心療内科で診てもらったところ、血液検査やMRI等の検査の結果、異常を認めず筋緊張性頭痛と診断されたそうです。
ジアゼパム(不安や緊張などをしずめるベンゾジアゼピン系の薬。筋肉の緊張を緩和し、筋痙攣の症状を改善する)とトレドミン(憂うつな気分をやわらげ、意欲を高める薬。うつ病やうつ状態の治療に用いる)を処方されたそうですが全く改善しないため、当院通院中の方に紹介されて、お隣のたつの市から漢方治療を求め来院されました。
身長160cm、体重45kg、BMI17.6とやせを認めます。
そのほかの症状として、体がだるい・疲れやすい・イライラする・めまい・立ちくらみ・手足の冷え・気分が沈む・夜中に目が覚める・青あざができやすいなどがあります。
この方の舌を見ると、舌が紫がかり、白苔と歯痕舌を認め、舌の裏側の静脈が膨れ、「気虚」と「瘀血」(おけつ)体質がはっきりとしておりました。
加味逍遥散(かみしょうようさん;症例72、141、147、165、169、177、178、182、193、195、196、201、204、210、212、213、214、216、224参照)と、六君子湯(りっくんしとう;症例97,154、178、179、182、224参照)を一ヶ月分処方しました。
11月12日に来られ、「頭痛・肩こりもよくなり、夜もよく寝れます。ふらつきや吐き気もとれました。」と、大変喜んでいただきました。
ジアゼパムとトレドミンは、漢方薬を飲みだしてすぐに中止されたそうです。

筋緊張性頭痛について

筋緊張性頭痛とは、頭部(頭蓋骨)の周囲を取り巻く筋群の持続的な緊張によって引き起こされる頭痛です。
いわゆる「慢性の頭痛」の70%がこの筋緊張性頭痛といわれ、最も多いタイプの頭痛です。
通常、肩こりを伴い、ひどくなると上背部の筋肉痛(左右の肩甲骨の間)や吐き気、めまいを伴ってきます。
心理的なストレス、身体的過労、上肢の過度の使用などで生じてきます。
症状は、午前中から生じることもあれば、仕事に疲れる午後から生じることもあります。
ところで、このタイプの頭痛で、筋肉の明瞭な緊張亢進を伴わないと考えられるケースもあるということで、最近は正式名として「緊張型頭痛 」と呼ばれるようになりました。
痛みの特徴は、徐々にだらだらと頭痛が発生してきます。多くは左右両側のこめかみ部分や後頭部付近を中心に痛みが頭全体に広がります。「頭をしめつけられるような痛み」などとよく表現されます。

 

230.頭痛の漢方治療

症例は49歳女性です。
この方も頭痛(片頭痛)の起こる度に市販のイブクイックを飲まれていました。
イブクイックはほぼ毎日飲み、たまに1週間くらい飲まずにすむ時もあるそうです。
生理前はとくに頭痛がひどくなるそうです。
そのほかに、冷えのぼせ・胃がもたれる・口内炎ができやすい・頻尿(とくに夜間)・肩こり・疲れやすい・食後眠くなる・イライラする・動悸がする・手足が冷える・腰痛・眠りが浅い・生理不順などがあります。
実は、この方は漢方薬を求めてこられたのではなく、NHKのためしてがってんという番組(9月28日放送)の「不眠・めまい・耳鳴り 不快症状を解消せよ!」を見て、”トリプタノール(抗うつ剤)”という薬を求めて平成23年10月15日来られました。
この方の舌を見ると、舌が紫がかり、白苔と歯痕舌を認め、舌の裏側の静脈が膨れ、「気虚」と「瘀血」(おけつ)体質がはっきりとしておりました。
身長170cm、体重59kg、BMI20.4。
「そんな怖い薬を飲むより、漢方薬の方が体にやさしいし、よく効く。」とお話し、加味逍遥散(かみしょうようさん;症例72、141、147、165、169、177、178、182、193、195、196、201、204、210、212、213、214、216、224参照)と、呉茱萸湯(ごしゅゆとう;症例51、169、199、213参照)を合わせて1ヶ月分だしたところ、11月12日に当院へ来られ、「漢方薬を飲み始めて、10日目までは、イブクイックを1日2錠ずつ飲んでいましたが、それ以後は飲まなくてよくなりました。夜もよく寝れるようになったし、仕事の張りもでてきました。漢方薬がこんなに効くなんて、本当にびっくりです。」と、大変喜んでいただきました。
また、平成24年1月7日に来られた時には、「年末から正月にかけて大変忙しく、本来なら頭痛が頻繁に起こるはずなのに、全くありません。冷えもなく、体調の悪いところはどこにもありません。」といわれました。もちろんイブクイックは一度も飲まれていません。

ためしてがってんという番組の「不眠・めまい・耳鳴り 不快症状を解消せよ!」の内容

不眠、めまい、耳鳴りなど、多くの人を苦しめる不快な症状。
その多くは、病院に行っても「原因不明」「年のせい」などと片づけられ、放置されてきました。
ところが、そうした症状の原因の1つが最新の研究で明らかになってきました。
脳がささいな刺激に過剰に反応してしまう「脳の過敏状態」になっていることが問題だったのです。
そして、「脳の過敏状態」を生み出すのは、なんと過去に「片頭痛」を放置した結果だったことも判明!
推定患者840万人と言われる片頭痛。
不快な症状とサヨナラするための、超・最新情報をお伝えします!

という触れ込みで、女子医大のお偉い先生が登場して、なんと「抗うつ剤」と「抗てんかん薬」が聞くと脳波まで見せて説明するという、信じがたいような内容でした。
NHKがこんな放送するなんてちょっと信じがたいですね。

 

231.左腰から臀部にかけての痛みの漢方治療

症例は60歳女性です。
既往歴として、6年前に乳癌の手術を受けています。
5年くらい前より、左腰から臀部にかけての痛みがあり、整形外科では椎間板ヘルニアといわれたそうです。
治療を受けるも改善しないため、現在はカイロプラクティックに月1回通っているそうです。
そこでは、「炎症が起きているから、アイスノンで冷やせ。」と言われています。
しかし、本人に聞くと、「風呂に入って温めると痛みが少し楽になる。」そうです。また2、3年前には、のぼせることもありましたが、今は冷えが強く、特に冬はひどく冷えるそうです。それに冷えによると思われる朝起床時の鼻水(症例49参照)も認めます。
痛みがひどくなる一方なので、当院通院中の方に紹介されて平成23年9月30日姫路市から漢方治療を求め来院されました。
身長163cm、体重59.8kg、BMI22.5。
この方の舌を見ると、舌が腫れぼったく、紫色がかり、歯痕舌を認め、舌の裏側の静脈が膨れ、「気虚」と「瘀血」(おけつ)体質がはっきりとしておりました。
当帰四逆加呉茱萸生姜湯(とうきしぎゃくかごしゅゆしょうきょうとう;症例92、93、170参照)と、「瘀血」体質の神経痛に使う、疎経活血湯(そけいかっけつとう;症例1、183参照)を合わせて1ヶ月分だしたところ、10月28日に当院へ来られ、「全く痛みがとれました。」と、大変喜んでいただきました。冷えが悪さをしていたいたところに、カイロプラクティックで、さらにアイスノンで冷やせとの指導を受けたのが悪化の原因と考えられました。

当帰四逆加呉茱萸生姜湯は日頃から冷え症に悩み、体質が虚弱で寒冷によって血行障害をおこし、下腹部や四肢などに痛みを訴える人によく使います。
またこの患者さんは2、3年前には、のぼせを訴えておられましたが、当帰四逆加呉茱萸生姜湯は、気や水の流れをよくして冷えを改善する事により、結果としてのぼせを改善します。
当帰四逆加呉茱萸生姜湯は、ただ単に温める作用だけではありません。
どちらかというと、「通す」作用のある木通、細辛、桂枝、川芎などの生薬が含まれ、気、血、水の流れを良くします。
この結果、末梢の血流が改善され、のぼせが無くなると考えられています。

 

232.坐骨神経痛の漢方治療

症例は77歳女性です。
約10年前より、腰痛と股関節痛に加え、両足先にまで痛みが放散し、整形外科を受診したところ、坐骨神経痛と診断され、股関節も悪いといわれたそうです。
治療は、消炎鎮痛剤と骨粗鬆症の薬の内服とリハビリで電気をあてたり、牽引療法をしたり、腰にコルセットをはめたりなどをして来られたそうです。
しかし、痛みは消長を繰り返し、とにかく主治医からは、「やせなさい。痛いときは歩かないように。」とだけいわれたそうです。
当院では、平成15年より、高血圧症で通院されています。
平成23年11月5日、あまりに腰が痛む(夜間寝返りもうてないほど)のと、両足先まで、雑巾をしぼるような痛み(本人の弁;痛くて涙がでるくらいだそうです)があるため、「漢方薬でいいのがないか。」と、相談を受けました。
身長148cm、体重52kg、BMI23.7。
この方の舌を見ると、紫がかり、舌の裏側の静脈が膨れ、「瘀血」(おけつ)体質と診断いたしました。
風呂で温めると少し楽になるとのことでしたので、腰冷痛、腰股攣急(症例36参照)によく効く五積散(ごしゃくさん;症例36、37、40、180、216、225、226参照)と、「瘀血」体質の神経痛に使う疎経活血湯(そけいかっけつとう;症例1、68、160、231参照)に、体を温める附子(ブシ;症例2参照)を合わせて2週間分処方したところ、11月21日に来られ、期待に反し、「全く変化ありません。」といわれました。
あきらめずに、さらに2週間分処方したところ、12月6日に来られ、「朝方におしりのまわりが少し痛むだけになり、とてもよくなりました。本当に命拾いをしました。」と、今度は大変感謝していただきました。

坐骨神経痛について

坐骨神経痛については、こちらをクリック画像の説明所記念病院

 

233.脊柱管狭窄症(腰部脊柱管狭窄症)の漢方治療

症例は67歳女性です。
平成23年9月頃より、立位や歩行により腰から右足先にかけての痺れ・痛みが走り(痛くて痛くて本当につらかったそうです)、整形外科を受診したところ、脊柱管狭窄症(腰部脊柱管狭窄症)と診断され、神経の血流を促進する「プロスタグランジン製剤」と、痛みに対して消炎鎮痛薬、しびれに対しては「ビタミンB12製剤」が処方されましたが、湿疹が出たため薬を中止され、平成23年11月8日姫路市から漢方治療を求め来院されました。
身長150cm、体重55.5kg、BMI24.7。
この方の舌を見ると、厚くはれぼったい感じがし、また、両側の舌の縁に、歯型が波打つようについていました(歯痕舌(しこんぜつ))。
また、舌が紫がかり、舌の裏側の静脈が膨れ、「気虚」+「瘀血」体質と診断し、症例232と全く同じ処方である、腰冷痛、腰股攣急(症例36参照)によく効く五積散(ごしゃくさん;症例36、37、40、180、216、225、226参照)と、「瘀血」体質の神経痛に使う疎経活血湯(そけいかっけつとう;症例1、68、160、231参照)に、体を温める附子(ブシ;症例2参照)を合わせて1ヶ月分分処方したところ、12月10日に来られ、「今は1日2回ほど下腿にピリピリと極軽い痛みが走るくらいで、本当にあっけなく治ってしまいました。」といわれました。

脊柱管狭窄症については症例68、162、281も参照下さい。

脊柱管狭窄症について

脊柱管狭窄症については、こちらをクリック画像の説明ここからだ

 

234.歩行時のふらつき・頭重感の漢方治療

症例は78歳女性です。
高血圧症で普段通院されている方です。
血圧は安定しています。10月12日の血液検査でも全く異常は認めません。
1、2ヶ月前より、「元気がなく、頭が重く、ちょっと歩くとフラフラとなるような状態がある。特に午前中調子悪い。」といわれ、平成23年10月21日受診されました。
他の症状として、足元が冷える・あまり食欲がない・肩こり・イライラなどがあります。
身長153.8cm、体重38.9kg、BMI16.5とやせを認めます。
血圧126/70mmHg。
この方の舌を見ると、舌が腫れぼったく、紫色がかり、歯痕舌を認め、舌の裏側の静脈が膨れ、「気虚」と「瘀血」(おけつ)体質がはっきりとしておりました。
下記の、下田 憲先生のコメントにある、桂枝人参湯(けいしにんじんとうの証にぴったりと考え、一ヶ月分処方したところ、11月18日に来られ、「だいぶましになってきました。」といわれましたので、さらに一ヶ月分処方したところ、12月21日に来られ、「ふらつきがとてもよくなりました。頭の重いのもとれました。」と大変喜んでいただきました。

同じような症例を症例420にも載せております。

桂枝人参湯について(下田 憲先生のコメント)

桂枝人参湯は、人参湯(症例8参照)に桂枝が加わっただけです。ただそれだけなのですが、やはり全然違う薬です。
お年寄りが麻痺がないのに何となくフラフラして元気がなくなり、食欲がなくなるということがあります。脳の症状なのか、胃腸の症状なのか、何か訳が分からない状態です。胃腸が衰えて、全体的にも衰えて、脳もちょっと衰えた状態の時、そこで胃腸を持ち上げて胃腸の気を桂枝で更に廻らせてあげる、それだけの薬なのです。
はっきりした脳の病巣がなくて、びまん性に萎縮があって、いわゆる太陰だったらうつになるのですが、本来「五臓の心(しん)」にも作用する桂枝が加わっているので、その桂枝が人参湯そのものを脳に持っていってしまうのです。使っていて不思議なのです。
僕もまだ分からないのです。でも効くのです。どこを検査しても何でもない、だから西洋医学的にも使う薬がないという状態に使います。脳代謝賦活剤等を使うとかえっておかしくなってしまい、何となく食欲もなく、元気もなく、非常に激しい妄想を持つ様なものでもなく、少しボケたような症状を出し、ちょっと歩くとフラフラとなるような状態に桂枝人参湯は見事に効くのです
桂枝が加わっているだけなのですが、人参湯の全ての力を桂枝一剤で持っていくのです。人参湯に、もちろん桂枝や桂皮を末で加えても良いです。そんなに急ぎもしない様な気もするのです。急いで効かせたい時は、桂枝末を加えたら良いと思うのですが、エキス剤で揮発成分のない桂枝人参湯で充分な感じがします。附子理中湯に桂枝未を加えたりすることもあります。あるいは桂枝人参湯に炮附子を加えることもあります。

これは命名がすごいのです。人参湯に桂枝が加わっただけなのに、傷寒論では桂枝を先に人参湯を後に書き、人参湯と桂枝を対等に命名してあるのです。要するに桂枝の力が半分、人参湯の力が半分と言う意味です。人参湯の力の大部分は人参そのものです。

これ以外の病気で桂枝人参湯の状態になるのはお年寄りの風邪の時だけです。
普通の時、人参湯を使いたくなるお年寄りが風邪をひいたときだけ桂枝人参湯の状態になることがあります。お年寄りでちよっと頭痛がする、微熱が出る、ちょっと汗ばむなど強い症状を出さない時に桂枝人参湯を使います。その場合もエキス剤で大丈夫です。陰病の場合も陽病の場合も、エキス剤で効きます。わざわざ煎じ薬で強く効かせる必要のない状態です。
実は特別養護老人ホームがあるのですが、だまって出していると、患者さんの3分の1ぐらいはこの桂枝人参湯を飲んでいます。そして桂枝人参湯を飲ませるとだんだん元気が出てくるという事は、いつも見ている看護婦さんが分かるのです。最初車椅子だった人が、いつの間にか歩行器で歩いたり、ベッドでいつも寝ている人が起きていたり、食欲も出てきているとか、何よりも目が輝いてくると言うのです。
本格的なボケは治しません。例えばすごい妄想とか幻覚等があったり、徘徊したりする人が良くなるかと言ったらそうではないのです。そこになると始めから、脳から出発する何かがあるようです。とにかく何かわからないけれど元気がなくて、フラフラして、ボーツとしているというのに使います。

 

235.夜間頻尿の漢方治療

症例は70歳男性です。
他院内科で高血圧症と不整脈で通院されています。
夜間頻尿(3~4回)があり、総合病院の泌尿器科を受診したところ、特に異常を認めず抗コリン薬(抗コリン薬は閉塞隅角緑内障の人には用いることができないうえ、のどの渇き、ふらつき、便秘などの副作用が5~20%程度出現します)を処方されましたが、のどが渇いてしかたがなく、とても継続できなかったそうです。そのため一般の薬局に行ったところ、八味地黄丸(はちみじおうがん;症例42、216参照)を処方され、その時に当院を紹介され、お隣の赤穂市から平成23年11月7日受診されました。
身長174cm、体重76kg、BMI26.2と肥満気味です。
この方の舌を見ると、舌が腫れぼったく、少量の白苔を認めました。
腹診では下腹部が軟弱無力で、圧迫すると腹壁は容易に陥没し、押さえる指が腹壁に入るような状態(小腹不仁(しょうふくふじん))を認め、腎虚(症例58参照)と考えられました。
八味地黄丸をそのまま一ヶ月分処方(この方は元々胃が弱く(これは舌を見てもわかります)、胃酸の分泌が多いとのことでしたので、ランソプラゾール15mgを併用させて頂きました)したところ、12月1日来院され、「尿の回数は変化ありませんが、体が温まり、冷え(足が冷たく夜も靴下をはいてねていたそうです)がましです。」といわれました。そこでもう一ヶ月分処方したところ、12月28日来院され、「頻尿も改善し、とても調子がいいです。」といわれましたので、このまま処方を続けていく予定です。

頻尿・尿漏れについて

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236.小児の頻回の嘔吐の漢方治療

症例は1歳2か月の女児(体重8.2kg)です。
平成23年12月18日、午前1時頃より急に嘔吐が始まり、午前3時に夜間急病センターを受診。吐き気止めのナウゼリン座薬をお尻に一個入れてもらったが、全く改善せず、”急に起きては吐く”を繰り返し、朝一番で当院を受診されました。体温37.3℃。
合計10回くらい嘔吐を繰り返し、点滴を希望されましたが、症例3で述べたように、当院では小児が嘔吐や下痢で来院されても、ほとんど点滴することはありません。
症例3と同じように、五苓散(ごれいさん);症例215参照)1包をお湯に溶いてお尻から注入したところ、ぐったりしていたのが、2、3分もすると、待合室の机の上の物をつかんだりしていたずらをするようになりました。
元気が出てきたのでそのまま帰宅されました。
念のため翌日連れてこられましたが、全く症状は良くなっておられました。

同じような症例を、症例3、237、343にも載せております。

237.頻回の嘔吐の漢方治療(家族内感染)

まず、次男さん(5歳)が、平成23年12月27日朝に、夜中から嘔吐5回(下痢なし)し、来院(当院にかかられている人に、あそこへ行けばすぐに治してくれると紹介された)されました。顔面蒼白で、食欲は全くなし。
症例3と同じように、五苓散(ごれいさん);症例215参照)1包をお湯に溶いてお尻から注入したところ、当院を出てから車に乗り込んだ時、「おなかがすいた。」といい、家に帰り普通に食事をし、そのまま治ってしまったそうです。
お母さんは、以前同様の症状の時、他院で吐き気止めのシロップをもらったが、飲んでも飲んでも嘔吐が止まらず、病院に電話したところ、「繰り返し飲み続けなさい。」とだけ言われたそうです。それに比べて、「漢方の治りの早さは全く信じられません。」といわれました。
次に、長男さん(7歳)が、その日の午後診に来院。やはり、2・3回の嘔吐したそうです。
同様に処置したところ、やはり家へ帰るなり食事をし、治ってしまったそうです。
次に翌日、お母さん(36歳)がやはり嘔吐で来院。お母さんは五苓散を飲んで頂くことにしました。
ここで注意点は、決してお湯で溶いて飲ませないことです(お湯で飲ませると吐き気を誘発します)。自分の唾液で溶かしながら飲ませるか、氷をひとかけら口に含み、それで溶かしながら飲ませる事です。「治らなかったらまた来てください。」といっておきましたが、来られなかったので、すぐに治ったのだと思われました。

毎年10月以降、ノロウイルスが検出されるようになり、12月から1月にかけてノロウイルス による胃腸炎患者が多発する時期を迎えますので、注意が必要です。当院でもクリスマスの頃から、胃腸炎の方が急に増えだしました。

238.毎日ティッシュ一箱を要する痰・咳(腎咳)の漢方治療

症例は77歳女性です。
上記症状の漢方治療目的で、ホームページを見て神戸市から平成23年12月3日受診されました。症状は、4、5年くらい前から始まり、痰は透明な痰だそうです。
身長149.0cm、体重53.0kg、BMI23.9。
そのほかの症状として、下痢しやすい・快便感がない・腹が鳴る・口の中が苦い・口が渇く・夜間頻尿・足がむくみやすい・くしゃみ・腰痛・首や肩の痛み・手足のしびれ・夜中に目が覚める・眠りが浅い・疲れやすいなどがあります。
また、現在治療中の病気としては、慢性関節リウマチ・狭心症・脳梗塞後遺症・骨粗鬆症などがあり、たくさんの西洋薬を飲まれているそうです。
この方の舌を見ると、紫がかり、舌の裏側の静脈が膨れ、「瘀血」(おけつ)体質と診断いたしました。
腹診では下腹部が軟弱無力で、圧迫すると腹壁は容易に陥没し、押さえる指が腹壁に入るような状態(小腹不仁(しょうふくふじん))をはっきりと認め、腎虚(症例58参照)と考えられました。
症例161、194と同様に腎咳を疑い、足のむくみがあるので、牛車腎気丸(ごしゃじんきがん;症例47、222、223参照)と桂枝茯苓丸加薏苡仁(けいしぶくりょうがんかよくいにん;症例67参照)を合わせて一カ月分処方させていただいたところ、平成24年1月7日に来られ、「漢方を飲みだして、翌日には首や肩の痛みが取れ、咳や痰も少しずつ減り、今は全く出ません。体のだるいのも取れ、皆から顔色がよくなったといわれました。」と、大変喜んで頂きました。ただ一つ、夜間頻尿だけがまだ残っているそうですが、このまま続ければ、これも腎虚の症状(症例235参照)と考えられますのでそのうち改善するのではないかと考え、また同じ処方を出させて頂きました。

239.帯帽感(頭帽感)の漢方治療(2)

症例195に続いて、帯帽感(頭帽感)の症例を載せます。
症例は51歳女性です。
1週間ほど前より、「体の中から発熱している感じと、頭にヘルメットをかぶっているようで、何も考えられない感じが続く。」といわれ、平成23年10月5日漢方治療を求め来院されました。
身長157cm、体重46kg、BMI18.6とやせを認めます。
この方の舌を見ると、白苔と歯痕舌を認め、腹診で、みぞおちが硬くなっており(心下痞硬という)、胸脇苦満(=胸から脇(季肋下)にかけて充満した状態があり、押さえると抵抗と圧痛を訴える状態)と腹直筋攣急もあり、腹に2本の棒を立てたように触れました。
その他の症状として、便秘傾向・腹が鳴る・頻尿・汗をかかない・頭痛・肩こり・手足が荒れる・体がだるい・疲れやすい・いらいらする・動悸がする・手足が冷える・気分が沈む・寝つきが悪い・夜中に目が覚める・眠りが浅いなどがあります。
帯帽感を訴えるのは、加味逍遥散か加味帰脾湯なので(症例195参照)、気分が沈む・寝つきが悪い・夜中に目が覚める・眠りが浅いなどの症状から加味帰脾湯(症例45、193参照;加味帰脾湯の人は、ちょっと五臓の「脾」が衰えていて(脾虚体質;症例97参照)、軽いうつがある人)と、腹診から四逆散(しぎゃくさん;症例63参照)を合わせて一か月分処方したところ、11月14日に来られ、「帯帽感はすぐにとれました。しかし、軽いめまいと、はきけがあります。」といわれましたが、そのまま薬を続けられ、平成24年1月23日に来られた時には、「肩こりが少しあるのと、手足が少し冷える以外は症状はなく、とても調子いいです。夜もよく寝れます。」といわれました。

240.慢性下痢の漢方治療

症例は57歳男性です。
「10年ぐらい前より、1日何回も軟便や下痢便が出る。」といわれ、平成23年11月21日漢方治療を求め佐用町から来院されました。
身長164cm、体重50kg、BMI18.5とやせを認めます。
その他の症状として、胃がもたれる・口内炎ができやすい・体が冷える・夜間頻尿(2~3回)・のどが渇く・頭痛・鼻水・寝つきが悪い・夜中に目が覚める・眠りが浅いなどがあります。
夜間頻尿は泌尿器科で薬をもらっていますが、あまり改善しないそうです。
この方の舌を見ると、厚くはれぼったい感じがし、また、両側の舌の縁に、歯型が波打つようについていて(歯痕舌(しこんぜつ))、やせと合わせて(脾虚体質;症例97参照)と考えられました。
腹診では下腹部が軟弱無力で、圧迫すると腹壁は容易に陥没し、押さえる指が腹壁に入るような状態(小腹不仁(しょうふくふじん))を認め、腎虚(症例58参照)と考えられました。
啓脾湯(けいひとう)と、麻黄附子細辛湯(まおうぶしさいしんとう;症例49、80、81参照)を合わせて一か月分処方したところ、12月24日に来られ、「おかげさまで、下痢は良くなりました。また、冷えや夜間頻尿・鼻水もよくなり、夜もよく寝れるようになりました。しかし、月に1回ぐらい口内炎ができるのは変わりません。」といわれました。
なお、本症例では、腎虚を認めるため、本来なら八味地黄丸などを投与すべきなのですが、八味地黄丸などの腎虚に使う薬は、胃部不快感・食欲不振・下痢などの胃腸障害を起こしやすいため、本症例ではあえて使わず、麻黄附子細辛湯を処方しました。

啓脾湯について

啓脾湯の啓は、ひらく(=元気にする・力を促進させ)と読みます。すなわち「啓脾」とは、「脾(=胃腸)の働きをよくして消化を助け、下痢を抑える。」の意味と理解してよいと思われます。
本方は、人参・茯苓・蒼朮・甘草・山薬・沢瀉・陳皮・蓮肉・山査子の9味からなる方剤です。
啓脾湯はふだんから胃腸虚弱で、食が進まず、やせて顔色が悪く、しぶり腹を伴わない水様性の下痢(大便は泥状または泡の多い水様であることが多く、一日1~3回ほど下痢し、食事が胃に入るとすぐ下痢するというものもある。すこしく腹満、腹鳴りがあり、ガスがたまるが、腹痛はほとんどともなわない)をしやすいものに用います。

啓脾湯について(下田 憲先生コメント)

啓脾湯の下痢というのは、西洋薬では止まりません。たとえばロペミンなんかを飲むと、一時通じがつかなくなるけれど、また通じがついたらやはり下痢になります。なぜかというと、もちろん邪は入っているのですが、もともと四君子湯や六君子湯体質(症例97参照)という、邪の強さよりも太陰の弱さ(=脾や肺が弱い体質)があるから止まらないのです。邪が強い下痢だったら、西洋薬でも止められるのです。
この啓脾湯の状態というのは、面白いことに啓脾湯しか効かず、しかもこれで見事に下痢が止まっていきます

 

241.皮膚がかさかさして痒い・頭痛の漢方治療

症例は60歳女性です。
高血圧症、高コレステロール血症、糖尿病で他院通院中の患者さんです。
毎年、春と秋に皮膚がカサカサして、直径2~3㎝の斑状の発疹が出てとてもかゆくなり、近くの漢方薬局に行ったところ、4回ぐらい薬を変えてもらい、最終的に黄連解毒湯(おうれんげどくとう;症例31、105参照)茵陳蒿湯(いんちんこうとう;下記のコメント参照)に落ち着いたそうです。
しかし、皮膚もあまり改善しないし、体調も良くないため、お隣のたつの市から平成23年10月19日受診されました。
その他の症状として、糖尿病の薬であるベイスンを飲み始めてから胃がもたれる・胸やけの症状が出始めたのと、それ以外にはのどが痞える・顔がむくむ・頭痛・肩こり・体がだるい・疲れやすい・動悸がするなどがあります。
身長148cm、体重50kg、BMI22.8。
この方の舌を見ると、舌が腫れぼったく、紫色がかり、歯痕舌を認め、舌の裏側の静脈が膨れ、「気虚」と「瘀血」(おけつ)体質がはっきりとしておりました。
腹診では腹直筋緊張を認めました(子供の頃は、よく鼻血をだしていたそうです。症例145にも書きましたが、鼻血というのは小児の虚弱体質の診断基準にしてもよいくらいのものです)。
黄耆建中湯(おうぎけんちゅうとう;症例222参照)と、かさかさの皮膚でしたので、血虚(症例54参照)に使う、四物湯(しもつとう)を合わせて一か月分処方したところ、11月14日に来られ、「皮膚の調子はよくなりましたが、天気が悪くなると、頭痛(ピリピリとした神経痛のような頭痛)・肩こり・からだのだるさが出ます。」といわれましたので、症例196に書いたように、「水滞(水毒)」が影響していると考え、五苓散を四物湯に変えて投与しました。
しかし、12月17日に来られた時に、「あまりよくなりませんでした。前の薬の方がよかったです。」といわれましたので、四物湯をベースとした、当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)(症例14、158参照)を黄耆建中湯とともに投与したところ、平成24年1月18日に来られ、「頭痛は全くなくなりました。肩こりもずいぶんましです。皮膚も調子いい(たまにプツッと皮疹がでることがあるが、かゆみはほとんどない)です。」といわれました。
頭痛・肩こりは、「水滞(水毒)」ではなく、「瘀血」が主に関与していると考えられました。

なお、漢方薬局で出された、黄連解毒湯と茵陳蒿湯の組み合わせですが、下のコメントでもわかるように、「気虚」である本症例に使うにはあまりにも危険です。早く治してあげたいとの気持ちからでしょうが、本当に何も副作用が起こらなくてよかったです。
「気虚」には、瀉剤(攻撃剤;積極的に病気の原因を取り除いて捨て去ろうとするための薬剤)ではなく、当然補剤(免疫機能の賦活・全身栄養状態の改善をはかる薬剤)を使わなければなりません。
また、黄連解毒湯は燥性なので、乾燥するタイプの皮膚病変に使うなら、せめて四物湯と合わせた温清飲(うんせいいん)にすべきです。

黄連解毒湯について(下田 憲先生コメント)

黄芩(おうごん)、山梔子(さんしし)、黄柏(おうばく)、黄連(おうれん)の四味がすべて、冷やす薬味であり、これに歯止めをかけるものがない。これらの相乗作用から、本方は漢方随一の消炎・鎮痛・解熱剤・高アレルギー剤・自己免疫疾患治療剤と考えられ、薬効はかなり激しい(本方は100%瀉剤(攻撃剤))です。

瀉剤(攻撃剤)とは‥積極的に病気の原因を取り除いて捨て去ろうとするための薬剤のこと


茵陳蒿湯について(下田 憲先生コメント)

単独で使い続けるとかなり危険です。体力不足者には、全身衰弱を生じる可能性があります。現実にずっと使っている人は、他の薬、たとえば小柴胡湯と一緒に使ったりします。
小柴胡湯とを合わせて使うと、非常に強い胆管系の消炎作用(=肝胆道疾患、実質性黄疸、肝内胆汁うっ滞に使う)になります。
皮膚掻痒感、じんましん、ネフローゼ、口内炎等に用いても効果はありますが、本来の用い方ではありません。

 

242.頻回の急性下痢の漢方治療

症例は80歳男性です。
高血圧症と高脂血症で普段通院されている方です。
平成24年1月6日の深夜から、頻回(10回以上)の水様性下痢があり、朝に受診されました。嘔吐はありませんでしたが、吐き気はするそうです。腹痛はそれほどでもなかったそうです。
症例235でも書きましたが、12月から1月にかけてノロウイルス による胃腸炎患者が多発する時期を迎え、当院でもクリスマスの頃から、胃腸炎の方が急に増え出していましたので、黄芩湯(おうごんとう;症例88参照)五苓散(ごれいさん;症例215参照)を4日分出したところ、1月28日に定期の受診に来られましたので、話を聞いたところ、「おかげさまで、1日(2包;1包でほとんど下痢は止まり、念のためもう1包飲まれたそうです)ですっかりよくなりました。」といわれました。

症例88でも書いていますが、黄芩湯には体内水分の調節作用、消炎作用、抗菌・抗ウイルス作用、免疫賦活作用などがあり、対症療法しかない感染性胃腸炎にはきわめて有効です。
本当に激しい症状を短期間で治癒に導く事が出来ますので、重宝致します。
下痢だけでなく、構成生薬の芍薬は鎮痛作用があるので、お腹が痛いときにもよく効きます。

243.イライラ発作の漢方治療

症例は41歳女性です。
月の半分くらいは、イライラの発作が周期的に来るとのことで、ホームページを見て、平成23年11月22日漢方治療を求め姫路市から来院されました。
その他の症状として、下痢しやすい・腹が鳴る・足がむくみやすい・肩こり・疲れやすい・動悸がする・立ちくらみ・手足の冷え・腰痛・寝つきが悪い・生理不順などがあります。
身長160cm、体重47kg、BMI18.3とやせを認めます(標準体重56.3kg)。
この方の舌を見ると、厚くはれぼったい感じがし、また、両側の舌の縁に、歯型が波打つようについていました(歯痕舌(しこんぜつ))。
また、舌が紫がかり、舌の裏側の静脈が膨れ、「気虚(脾虚;症例97参照)」+「瘀血」体質と診断し、加味逍遥散(かみしょうようさん;症例72、141、147、165、169、177、178、182、193、195、196、201、204、210、213、214、224、229、230参照)と、「気虚」の症状に対して六君子湯(りっくんしとう症例症例97,154、178、179、182、224、229参照)を一ヶ月分合わせて投与しました。
一ヶ月後の12月16日に来られた時には、「おかげさまで、イライラと動悸は薬を飲み始めてすぐによくなりました。手足の冷えもなくなりました。」といわれました。
さらに一ヶ月後の平成24年1月26日に来られた時には、「寝つきもよくなり、ぐっすりと夜眠れるようになりました。他にも調子悪いところはありません。あと体重が1kg増えました。」と大変喜んでいただきました。

加味逍遥散について

症例72にも書きましたが、本症例も典型的な肝気鬱結(症例24参照)の症例です。仕事が保育士をされており、ストレスが多いのだと思われました。

  • 緊張しやすい
  • ストレスをためやすい
  • イライラして怒りっぽい
  • ため息をよくつく
  • 目が充血する
  • のぼせやほてりがある
  • 胸や脇が張る
  • 口が苦い、口が渇く
  • ゲップをしやすい
  • 頭痛や肩こりがある

これらの症状は、漢方でいうところの「肝」という、肝臓だけでなく自律神経にも関連した機能が滞り、ヒートアップしたために上半身に熱がこもっているようなイメージですが、血液を運行する心臓や、消化器系にも影響が出やすく、動悸を生じたり、下痢や便秘をくりかえすような場合もあります(本症例がまさにこれに当てはまります)

実は女性にもっとも密接な関わりを持つのがこの「肝」という臓器であり、肝の機能を養ったり調節することによって、婦人病の多くのトラブルを緩和するといっても過言ではありません。

 

244.左坐骨神経痛の漢方治療

症例は46歳女性です。
平成23年の年末ぐらいから左の腰から左下肢へかけての痛みが出現し、漢方治療を求めて姫路市より、平成24年1月16日当院へ来院されました。
身長158cm、体重56kg、BMI22.4。
婦人科で子宮内膜症のためピルを約5年前より服用されています。
そのほかの症状として、便秘・頭痛・肩こり・かなり強い手足の冷えがあります。
この方の舌を見ると、舌が紫がかり、舌の裏側の静脈が膨れ、「瘀血」(おけつ)体質がはっきりとしておりました。
そこで、「瘀血」体質の神経痛に使う、疎経活血湯(そけいかっけつとう;症例1、68、160、231、232参照)と、これも血行不良による強い冷えが原因で起こる頭痛・腰痛や座骨神経痛に使う、当帰四逆加呉茱萸生姜湯(とうきしぎゃくかごしゅゆしょうきょうとう;症例92,93、170、231参照)に、体を温める附子(ブシ;症例2参照)を合わせて一ヶ月分処方させていただきました。
一ヶ月後の2月4日に来られた時には、「おかげさまで痛みは2週間ですっかりとれました。便通もいいです。漢方ってこんなに早く効くんですか?」といわれましたので、私は、症例2(13年間治らなかった、膝の腫れや痛みが1日半で治った)の例を話させて頂きました。
漢方がお役に立てて本当によかったです。

なお、最近BMJ(イギリス医師会雑誌(British Medical Journal))に、「坐骨神経痛の鎮痛薬、効果不明」という論文が掲載されました(文献:Pinto RZ et al.Drugs for relief of pain in patients with sciatica: systematic review and meta-analysis.BMJ 2012;344:e497.)。

簡単に内容を説明すると、「坐骨神経痛患者への鎮痛薬を評価した無作為化比較試験に関する論文23本を対象に、鎮痛薬の効果をシステマティックレビューおよびメタ解析で検証したところ、非ステロイド性抗炎症薬、副腎皮質ステロイド、抗うつ薬などの効果を判断したエビデンスの質は中-低度であり、「坐骨神経痛への一般的な鎮痛薬の有効性および忍容性は不明である」と結論された。」というものです。

 

245.熱証タイプの変形性膝関節症の漢方治療(2)

症例184に続いて、熱証タイプの変形性膝関節症の症例を報告します。
症例184でも述べましたが、当院へ来られる変形性膝関節症は、ほとんどが冷えタイプ(寒証)の変形性膝関節症です。
症例は74歳女性です。
平成23年9月の終わりころより、左の膝の痛みが出現し、平成23年10月26日漢方治療を求めて来院されました。
身長155cm、体重52kg、BMI21.6。
お年寄ですし、特に暑がりでもないとのことでしたので、水毒体質の膝の痛みによく使う防已黄耆湯(ぼういおうぎとう;症例76参照)に、薏苡仁湯(よくいにんとう;症例40、111参照)と、体を温めるブシ末を合わせて一ヶ月分処方いたしました。
しかし、10日後の11月5日に来られ、「痛みがよけいにひどくなり、膝の外側が熱をもって腫れてきました。」といわれましたので、熱証タイプと判断し、薏苡仁湯とブシ末に変えて、越婢加朮湯(えっぴかじゅっとう;症例109、184参照)を使用したところ、11月22日に来られ、「だいぶ膝の痛みがとれました。」といわれましたので、さらに同じ処方を一カ月分出したところ12月17日に来られ、「今は足を蹴る時に少し痛む程度になりました。」といわれました。
さらに同じ処方を一カ月分出したところ、平成24年1月13日に来られ、「おかげさまで、膝の痛みを忘れるぐらい楽になりました。」と大変喜んでいただきました。

お年寄り=冷え症ではないことを改めて認識させていただいた症例でした。

変形性膝関節症の漢方治療については症例2,76,111,131,184,207,209,227,228,268,269,282,283,300,311,319,334,355も参照して下さい。

246.頭痛・肩こりの漢方治療

症例は33歳男性です。
数年前より、肩こりと頭痛(ドクン、ドクンする感じ)があるため広島県福山市から、平成23年8月12日漢方治療を求めて来院されました。
その他の症状として、下痢しやすい(仕事が営業で、ストレスがかかるとよくトイレにかけこむそうです)・吐き気・体がだるいなどがあります。
身長177cm、体重64kg、BMI20.4。
この方の舌を見ると、辺縁が、分厚く赤く(この赤みは肝の熱を表しています)、中央に白色の苔があり、また舌の裏側の静脈が枝分かれしており、「気滞」+「瘀血」(おけつ)体質と診断いたしました。
また腹診で、みぞおちが硬くなっており(心下痞硬という)、胸脇苦満(=胸から脇(季肋下)にかけて充満した状態があり、押さえると抵抗と圧痛を訴える状態)と腹直筋攣急もあり、腹に2本の棒を立てたように触れました。また、前胸部中央に少量の胸毛を認め(症例63参照;本人も毛深くもないのに、なぜだろうと大学の時から気になっていたそうです)、四逆散(しぎゃくさん;症例63参照)と肩こりによく使う葛根加朮附湯(かっこんかじゅつぶとう;症例12参照)を合わせて一ヶ月分処方いたしました。
次に9月3日に来られましたが、悪くはないが、いまいちという感じなので、四逆散はそのままにして、葛根加朮附湯に変えて瘀血(おけつ)体質によく使う、桂枝茯苓丸加薏苡仁(けいしぶくりょうがんかよくいにん;症例67参照)を一ヶ月分処方いたしました。
すると、これが大変よかった(本人の弁によると”ベストヒット”した)ようで、肩こり・頭痛その他も取れてとても調子良くなられました。

この方は、自分でもストレスが多いと普段から感じておられ、桂枝茯苓丸加薏苡仁で”血の浄化”を行い、四逆散で”肝の気滞(=肝気鬱結;症例24、72,243参照)の改善”を行った結果、ストレスに強い体になり、調子がよくなったと考えられました。

247.腰椎椎間板ヘルニアの漢方治療

症例は63歳女性です。
1年半ほど前より、腰痛と左股関節の部分から左足先までしびれてしまい、他人の足のような感じがしたそうです。整形外科を受診したところ、第4腰椎(L4)と第5腰椎(L5)の椎間(L4/5)板ヘルニアと診断されました。お風呂で温めると、症状はましになるそうです。種々の治療を受けましたが改善しないため、知人の紹介により平成23年9月6日、お隣のたつの市から受診されました。
身長156cm、体重63kg、BMI25.9。
その他の症状として、冷えたら下腹がはり、尿が近くなる・足がむくむ・手足が冷える・汗をかかないなどがあります。
この方の舌を見ると、紫がかり、舌の裏側の静脈が膨れ、白苔と歯痕舌を認め、「気虚」と「瘀血」(おけつ)体質がはっきりとしておりました。
風呂で温めると少し楽になるとのことでしたので、腰冷痛、腰股攣急(症例36参照)によく効く五積散(ごしゃくさん;症例36、37、40、180、216、225、226、232参照)と、「瘀血」体質の神経痛に使う疎経活血湯(そけいかっけつとう;症例1、68、160、231、232参照)に、体を温める附子(ブシ;症例2参照)を合わせて一ヶ月分処方いたしました。
10月8日に来られた時には、「だいぶましになりましたが、夜間に症状が残っています。また、重いものを持った時も症状が出ます。そして、体はまだ冷えます。」といわれましたので、附子を倍量に増やしました。
そのまま薬を続けられ、平成24年2月13日に来られた時には、「症状は全くなく調子いいです。ただ1日3回飲むと、胃に少し障るので、1日2回にしています。」といわれました。
これは、疎経活血湯が”地黄”という生薬を含み、これが消化器症状として、食欲不振、胃部不快感、悪心、嘔吐、下痢等を稀に起こすことがあります。
このように胃腸の弱い人はとても西洋薬は飲めないですね。

つらい坐骨神経痛に「疎経活血湯」

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248.手のほてり・手湿疹の漢方治療

症例は34歳女性です。
約7年ぐらい前より様々な体調不良があり、ホームページを見て平成23年11月16日大阪市より、漢方治療を求めて来院されました。
症状としては、下痢しやすい・汗をかかない・口が渇く・頭痛・肩こり・手湿疹・手のひらが熱い(実際触っても熱かったです)・咳がよく出る・鼻づまり・体がだるい・疲れやすい・イライラする・めまい・気分が沈む・寝つきが悪い・生理不順などです。
身長157cm、体重73kg、BMI29.6。
この方の舌を見ると、腫れぼったく歯痕舌を認め、色は紫がかり、舌の裏側の静脈が膨れ、「気虚」と「瘀血」(おけつ)体質がはっきりとしておりました。また口唇に乾燥がみられました。
気虚に六君子湯(りっくんしとう;症例97,154、178、179、182、202参照)を、生理不順と手湿疹・手のひらが熱いことに対して温経湯(うんけいとう;症例10、64参照)を合わせて一ヶ月分処方しました。温経湯(うんけいとう)は経験的に、手の湿疹にしばしば有効です。
一ヶ月後の12月24日に来られた時には、「手のひらの熱いのが改善し、湿疹もだいぶましです。体調もいいです。」といわれましたので、今度は二ヶ月分処方したところ、「湿疹が完全に治りました。他にも特に体調の悪い所はありません。」と、大変喜んで頂きました。
わざわざ遠方から来て頂いたので、漢方がお役に立てて本当によかったです。

温経湯は、全体に皮膚がかさかさし、さらに唇が乾き、手のひらも乾燥して熱っぽい人に用います。
手の指や手のひら・甲にのみに出来る湿疹を、手湿疹と呼びます。このような湿疹は家庭で家事を行う主婦に起きることが多く、主婦湿疹と呼ばれる場合もあります。
湿疹は冬に増悪することが多いようです。

249.冷え症の方の便秘の漢方治療

症例は59歳女性です。
10年前より、他院内科で高血圧症で通院されています。
とにかく冷え症が強く(外気温が28℃ぐらいが一番体調がよいそうです)、夏も長袖でないとだめだそうです。
知人の紹介により平成23年5月18日、お隣の太子町から受診されました。
身長160cm、体重52kg、BMI20.3。
他の症状として、薬で胃が荒れやすい・夜間頻尿・汗をかかない・肩こり・痰が切れにくいなどがあります。
この方の舌を見ると、紫がかり、舌の裏側の静脈が膨れ、白苔と歯痕舌を認め、「気虚」と「瘀血」(おけつ)体質がはっきりとしておりました。
人参湯(にんじんとう;症例8参照)と当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)(症例14、158、241参照)に、体を温める附子(ブシ;症例2参照)を合わせて一ヶ月分処方しました。
一ヶ月後の6月22日に来られた時には、「一回に今までの2倍量の大便が出るようになりました。しかし、体はまだ冷えます。」といわれましたので、附子の量を2倍にしてみたところ、8月12日に来られ、「調子いいです。」といわれました。そのまま同じ処方を続けられていましたが、10月22日に来られた時に、「附子を飲むと動悸がするようになりました。」といわれましたので、附子を中止させていただきました。その後寒い時期を迎えましたが、平成24年2月15日に来られた時に、「カイロを今までは背中と足裏の合計3枚張っていたのが、今は背中1枚だけでよくなりました。」といわれました。今までは30個入りのカイロがあっという間になくなっていたそうです。

附子の副作用について

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250.しもやけの漢方治療(2)

症例93に続きしもやけの症例を載せます。
症例は35歳、女性です。
毎年冬になるとしもやけに悩まされると、平成23年12月12日漢方治療を求めて来院されました。もうすでにしもやけはできていました。
その他の症状として、便秘・快便感がない・肩こり・手の荒れ・手足が冷える・疲れやすい・イライラする・立ちくらみ・生理の量が多いなどがあります。
身長163cm、体重52kg、BMI19.6とやせを認めます。
この方の舌を見ると、腫れぼったく歯痕舌を認め、舌尖紅潮(症例72、141参照)も認めました。
当帰四逆加呉茱萸生姜湯(とうきしぎゃくかごしゅゆしょうきょうとう;症例92,93、170、231、244参照)に加味逍遥散(かみしょうようさん;症例72、141、147、165、169、177、178、182、193、195、196、201、204、210、213、214、224、229、230、243参照)を合わせて一ヶ月分処方しました。
一ヶ月後の1月12日に来られた時には、「イライラがなくなり、冷えもずいぶんましですが、しもやけは治りません。また、便秘もだめです。」といわれましたので、体を温める附子(ブシ;症例2参照)を追加したところ、2月13日に来られ、「しもやけが治り、便秘も治りました。とても調子がいいです。」と喜んでいただきました。しもやけには積極的に附子を追加すべきと考えられました。

しもやけについては、症例360も参照して下さい。