舌診各論

左の症例は、63歳女性で、右膝の間節痛を訴え来院されました。
身長150cm、体重71.5kg、BMI31.7と肥満を認め、お風呂で温めると楽になるとのことでしたので、防巳黄耆湯(ぼういおうぎとう)と、体を温め、痛みをとるブシ末を合わせて処方しました。
全体に淡い色(=気血が不足している人や体が冷えに傾いているときは舌色が白っぽくなる)で、厚くはれぼったい感じがします。
舌が大きく厚みがある(=胖大舌)のは、水分代謝が悪く、体に余分な水分がよどんでいる証拠です。
そして、両側の舌の縁に、歯型が波打つようについています(歯痕舌)。
これは、疲れて水分の代謝が悪く、舌がむくんでいる証拠です。舌がむくんで収まらず、いつも下あごの歯に押し付けられているのが原因です。「気」は、「水」の生成や運行、排泄もつかさどります。このため、「気」の量が不足すると「水」の代謝にも支障が起こるというわけです。
水分代謝が悪いときや、胃腸の消化機能が低下している人や、水分を取りすぎている人によくみられます。

また左の写真(48歳女性)のように、地図状舌といって舌苔がまだらに付着している状態が見られることがありますが、この所見があるだけで「脾(気)虚」がある証拠となります。

左の写真は、同じ症例のもので、六君子湯(りっくんしとう)内服により地図状舌が大分改善した時のものです。

左の症例も、35歳女性で、やはり地図状舌の症例です。
腹が鳴る・胃がもたれる・みぞおちがつかえる・鼻づまりなどの症状があります。
身長161cm、体重44.0kg、BMI16.9とやせを認め、典型的な「脾(気)虚」の症例です。六君子湯で元気になられました。

2.気滞

辺縁が分厚く赤く(この赤みは肝の熱を表しています)、中央に白または黄色の苔があります。
舌が硬いので、舌の縁に歯の跡はつかないのが特徴です。


 

左の症例も、41歳女性で、やはり気滞の症例です。
気滞は西洋医学でいう自律神経失調症に近い状態です。
本症例では、イライラする・耳鳴り・手足の冷え・寝つきが悪い・のどがつかえるなどの症状に加え、吐き気・胸やけ・口内炎ができやすいなどの消化器症状があるため、加味逍遥散に半夏瀉心湯を足して治療しました。

3.血虚

他の体質に比べ、舌が薄く、小さめで、縮んで亀裂(=裂紋)がみられます。
これは、もともとそういう人もいますが、潤い不足になっているときによくみられます。
色は全体にピンク色より淡い色です。また、舌の苔も少ないです。

舌面に裂紋を認めた場合
舌の色が、
紅⇒陰虚
白⇒血虚
を表しています。
この症例は、74歳女性で、腰痛症の患者さんです。
腹診では下腹部が軟弱無力で、圧迫すると腹壁は容易に陥没し、押さえる指が腹壁に入るような状態(小腹不仁(しょうふくふじん))を認め、「血虚」、「腎虚」体質と考えられました。
そこで、「血虚」体質の神経痛に使う、疎経活血湯(そけいかっけつとう)に、「腎虚」に使う牛車腎気丸(ごしゃじんきがん)を足して治療しました。

4.瘀血

瘀血では、左の写真のように、舌の全体の色が暗い紫色(紫舌)になったり、一部分に瘀点(黒い点)や、瘀斑(チョコレート色のシミのような斑点)といわれる紫暗色の部分(下図参照)がみられます。



左の写真では、瘀点がはっきりとわかると思います。
これらは、血行の悪さを表しています。このような人は、顔や唇なども紫がかっていることが多いです。

イラストで示します。
図出典:yangshengtang123.com/
 

左の写真は別の症例(35歳、女性)ですが、舌辺縁に瘀斑がはっきりと出ているのがわかると思います。

また、左の写真のように舌の裏側の2本の静脈(舌下静脈)が太く(太さは1~2.5mmくらいで、張りや歪みがないのが正常)、枝分かれしている(これも正常ではみられない)のも瘀血の特徴です。この症例は、59歳女性で、右の坐骨神経痛を訴え来院されました。疎経活血湯と腹診で、小腹不仁(下腹部が軟弱無力で、圧迫すると腹壁は容易に陥没し、押さえる指が腹壁に入るような状態)をみとめましたので、牛車腎気丸を合わせて処方しました。

また、左の写真の症例は50歳女性で、子宮筋腫があり、生理の量が多い・イライラする・手足が冷えるなどの症状があり、加味逍遥散が著効した症例です。左の写真では、やはり舌辺縁に瘀斑が縦に筋状にはっきりと出ています。

舌の裏側の写真では、舌下静脈が太く、枝分かれしているのが見て取れます。

5.水毒(痰飲:たんいん、あるいは痰湿:たんしつ)

左の写真の症例は、43歳女性です。
平成22年8月11日に、一度嘔吐し、それ以後全く食事が摂れなくなり、8月13日来院。平胃散と五苓散(=胃苓湯)を合わせて処方した症例です。

滞りなく体中をめぐり、体に必要なうるおいを与える「水」。
その「水」のめぐりがいったん滞ると、体にとって有害な物質へと変化してしまいます。それを「痰飲(たんいん)」または、「痰湿(たんしつ)」といいます。

自然界と同じで湿気が多いところにはたくさんの苔がへばり付きます。人間でいえば内臓(特に胃腸)に未消化物や余剰水分が多いと、舌の表面に、舌の色が見えないくらいの分厚いベトベトした苔(コケ)がつきます(これを膩苔(じたい)といいます。”膩”というのは、苔が厚く、ねっとりして汚い状態を指します)。

原因はさまざまですが、もっとも多いのは、暴飲暴食やストレスなどで胃の消化機能が低下して、食べたり飲んだりしたものがうまく消化・吸収・排泄できず、「よどんで濁ったもの=痰飲・痰湿」が体の中にたまってしまう、というケースです。

寒湿タイプ(冷たい水分が停滞=冷え)では白い舌苔となり、苔が厚ければ厚いほど、湿気が多いと考えます。湿気のある部分によって、体が重くだるくなったり、むくんだり、湿疹が出たり、関節が腫れたり、胃腸の具合が悪かったりします。

そして苔の色が白から黄色、茶色へと、濃い色になるほど湿気に熱も加わっていると診断します(次の写真)。

 

熱タイプでは黄色い舌苔になりやすいです。
左の写真は82才女性です。
腰痛症で、ペインクリニックに通院中の方ですが、痛みがあまり改善せず、食欲もないため、点滴を希望され来院されました。
これは、体内に溜まった余剰水分に、お酒や辛いもの、高カロリーのものをとり過ぎて、慢性的に熱が加わった「湿熱(しつねつ)」を表し、消化器や口腔粘膜に炎症が起こりやすく、口内炎、胃・十二指腸潰瘍、胸やけ、ゲップ、口臭、口が粘る、口が苦い、酸が込み上げるなどの症状が起こりやすくなります。
ただし、ヘビースモーカーの人や、コーヒーの摂取後や、のど飴やチェルシーなども黄色い舌苔になりますので注意が必要です。

また、苔がぶ厚いからといって「タンクリーナー」のような器具を使って、せっせと苔を取っても、体内の状態が正常化しない限り苔は薄くなりません。そればかりか、こすりすぎると舌の表面にある味蕾(食べ物の味を感じる小さな器官。人間の舌には約10,000個の味蕾がある)などを傷つけることにもなりますのでおやめ下さい。

潤い不足になって、相対的に熱が生じている時、舌全体の色も赤っぽく(深紅色;健康な舌はやや赤みを帯びたピンクですが、体内に熱がこもり、水分が不足すると赤みが強くなる)なります。
「水」の不足から舌の苔は少ないか、ほとんどありません。舌の表面にひび割れ(裂紋(れつもん))がみられます。これは、日照が続いたあとの田んぼや地面にできたひび割れと同じで、体の水分が不足していることを示します。
若い人では、夜型人間や夜勤勤務者、不眠や寝不足の人に多く見られます。年配の人では痩せている人や、シワの多い人によく見られる舌象です。
ただし、生まれつき深い裂紋がある人がいます。このような時は、判断の材料にはなりませんので注意してください。
 

はなはだしい場合は表面に苔が全然なく、ブツブツ(=舌乳頭)が消えて、舌が鏡のようにてかって見える鏡面舌(きょうめんぜつ;左の写真)が現れることもあります。
これは、体力が消耗した時とか、病気が長引いて栄養が消耗した時(=気陰両虚)に多く見られます。かなり危険な状態といえます。

五臓と舌診の関係について

また、舌の変化が部分的に現れた場合に注意しておきたい五臓(肝・心・脾・肺・腎)とその病理変化についてご紹介しますと、

  • 舌の先(舌尖部)・・心・肺(下図の3の部位)
    心や肺(上腹部に位置する臓)の状態が反映されやすい部分です。舌の先が特に赤かったりすると、心や肺といった上腹部に位置する臓に熱を持った状態が疑われます。
  • 舌の中央(舌中部)・・脾・胃(下図の2の部位)
    脾や胃(臍周りに位置する臓)の状態が反映されやすい部分です。舌の中央部が特に黄色くなっていたり、苔がまだらになっていたりすると、脾や胃に負担がかかっている状態が疑われます。
  • 舌の根元(舌根部)・・腎(下図の1の部位)
    腎(下腹部に位置する臓)の状態が反映されやすい部分です。舌の根元だけが特別に変化することは少ないですが、病が深くなると、舌根部に症状が現れてきます。
  • 舌の横側(舌辺部)・・肝・胆(下図の4の部位)
    肝や胆(臍周りに位置する臓)の状態が反映されやすい部分です。舌の側面が特に赤くなっていたり、一方が強ばって曲がっていたりすると、肝や胆に負担がかかっている状態が疑われます。
  • 舌の裏側(舌裏)・・瘀血(おけつ)
    体内に「滞った血」の存在が反映されやすい場所です。舌裏の静脈が青黒く怒張していると、体内の「気」が巡らず、「血」が体内に滞り、滞った血が瘀血(おけつ)となって局所的な痛みが引き起こされている状態が疑われます。

舌の状態だけで全ての体の状態を知ることは難しいですが、その人の持つ体質や現在の病の状態を知るための重要な判断材料として用いることが可能です。
舌を見てみると、これまで気付かなかった体質や、未病(みびょう)(発症していない病気)がみつかる事もあります。皆様も舌を見て気になるところがありましたら、当院までご相談下さい。

参考:
舌診の基礎 (高橋楊子;東洋学術出版社)・舌診カラーガイド (ミクス社)・「舌診アトラス手帳」(メディカルユーコン)