当院の漢方著効例3

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101.片頭痛・腰痛・生理痛・便秘の漢方治療

次の症例は37歳、女性です。
中学校の頃より、睡眠不足の時や、生理前になると、目の奥の方が強く痛み、寝込むという発作が月に2~3回あり、その度に病院でもらったセデスやロキソニンといった解熱鎮痛剤を飲んでいたそうです。
また、生理痛も強く、腰痛もずっとあるそうです。冷え性で、その割りに顔がのぼせるようなこともあります。また便秘もありますが、市販の下剤は強すぎて下痢するそうです。
今回、左の後頭部の強い頭痛があるため(最近は頭痛の頻度が週一回ぐらいに増加)、漢方治療を求めて、たつの市から平成22年1月28日来院されました。身長161cm、体重52kg、BMI20。
舌診で、舌が腫れぼったく、また白苔がついており、「水毒」があると考え、当帰四加呉茱萸生姜湯(とうきしぎゃくかごしゅゆしょうきょうとう;症例92参照)を一か月分と、とりあえず、頭痛をおさえるために、マクサルトという西洋の片頭痛の薬(トリプタン系薬剤;血管の収縮とともに、痛みの伝達物質の放出を抑え、痛みを鎮める)を処方しました。
2月23日に来られた時には、「マクサルトを最初に2錠飲んだだけでその後全く頭痛は起こりませんでした。また便通もよくなり、夜間頻尿であったのが、夜中にトイレへ行かなくてすむようになりました。腰痛もなくなり、体も軽くなったようで非常に調子いいです。」と、にこにこと話して下さいました。
なお、マクサルトを飲んだとき、一時間ぐらいで頭痛はよくなったそうで、片頭痛だけなら、この薬でもよかったのでしょうが、漢方のよいところは、他の症状も一緒に取ってくれ、本当の健康を取り戻してくれるところだと思います。
3月26日に来られた時には、「今回の生理では、痛みは全くありませんでした。便も毎日あります。頭痛は一度だけありました。」と、いわれました。

片頭痛について

頭痛を訴える患者さんの大部分は、自らを「頭痛もち」と思っています。この頭痛もちの頭痛の中にはいくつかの種類がありますが、最も多く、しかも悩まされるのが「片頭痛」です。

片頭痛は頭の片側からこめかみにかけて脈打つように「ずきずき」、「がんがん」と痛み、ひどいときには日常生活が妨げられるほどの強さの痛みや、吐き気を伴うとてもつらい頭痛です。

片頭痛は思春期頃から発症することが多く、成人の約8%が罹患しています。
中でも女性に多く、患者さんの数は男性の約4倍といわれています。、片頭痛は一生の病気であり、現在の医学では完全に治すことはできません

片頭痛はその名の通り、片側の頭痛として現れることも少なくありませんが、痛みの現れる部位が左右変動する場合や、両側が痛むが左右で差がでる場合、両側が痛む場合など痛みの種類はさまざまです。
片頭痛は決まった片側のみに現れる頭痛ではなく、「偏った痛みがあらわれやすい」と理解していてください。 片頭痛の特徴は以下のとおりです。

1.ズキンズキンと脈打つような痛みである。
2.動かないでじっとしていたいような頭痛である
3.寝込んでしまうような頭痛である。
4.痛みは頭の片側の時が多いが、両側の時もある。
5.頭痛は、週2回~月1回ぐらいの頻度で生じる。
6.一回の頭痛は数時間から3日で治まる。
7.頭痛発作の時に、悪心(吐き気)、嘔吐などを伴うことがある。
8.頭痛発作の時に、強い光や大きな音、不快なにおいで頭痛が強まることがある。
9.明け方から目覚めの時に頭痛発作が起こることが多い。
10.頭痛の強い部分を手で圧迫すると、その間は痛みが和らぐ。
11.遅くとも30歳までに発症する。
12.女性の場合月経時に頭痛がひどくなる。
13.血縁者の中に似たような頭痛を訴える人がいる(この方もお母さんが片頭痛です)。

102.気滞(気うつ)の症例

次の症例は歳、男性です。
胸部圧迫感、のどの詰まった感じがあるため、総合病院の耳鼻科受診したところ、「異常なし。」と、いわれました。そこで翌日、その病院の内科を受診し、胸部CT検査、ホルター心電図、血液検査などを受けましたが、やはり、「異常なし。」と、いわれ、平成15年10月27日漢方治療を求めて来院された患者さんです。
舌は白い苔が付着しており、胸部圧迫感、のどの詰まった感じを、「気滞(気うつ)」ととらえ、半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう;症例64、373参照)を投与したところ、12月10日には、「走ったり、風呂に入ったりした時に少し息苦しく感じるだけで、だいぶいいです。」と、いわれました。
平成16年1月9日に来られた時には、「よくなりました。」と、いわれました。その後調子はよく、薬を続けられていましたが、平成20年2月29日を最後に来院されなくなりました。

平成21年3月13日、夜寝つきが悪い、息苦しい、のどがえへんむしのようだ、手足がよく冷える(しかし触ると温かい)、腹が張るなどと訴え来院されました。他院で、安定剤のメイラックスがでていました。
舌を診ると白い苔が付着しており、腹診で、みぞおちが硬くなっており(心下痞硬という)、胸脇苦満(=胸から脇(季肋下)にかけて充満した状態があり、押さえると抵抗と圧痛を訴える状態)と腹直筋攣急もあり、腹に2本の棒を立てたように触れました。
前回の半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)と、四逆散(しぎゃくさん;症例63参照)を1ヶ月分処方したところ、少しずつ状態よくなり、5月8日には「調子いいです。」と、いわれました。
メイラックスも1か月分出すと、3~4ヵ月はもつような状態となり、9月19日を最後に中止できました。
平成22年2月20日現在も同じ漢方薬を続けられ、よい状態を保っておられます。

気うつについて

1)病態の要点について

気うつは気の循環に停滞をきたした状態です。停滞した部位によって次のような症状を呈します。

気うつは身体のどこにでも起こり、通らないことにより痛みが発生します。痛みは張るように感じるのが特徴で、いろいろな場所に動き、その程度も、強かったり弱かったりと様々です。また、気滞の起こる部位により、その症状も色々です。

  • 脾の気滞 :摂食量の減少・腹が張って痛むなど
  • 胃:腹痛やお腹の張り。胸が詰まったり、胸焼けしたりする。
  • 肝の気滞 :胸脇痛・イライラ・怒りっぽいなど
  • 肺の気滞 :痰が多い・呼吸促進・咳嗽など
  • 経絡の気滞:経絡の循行部の疼痛・運動障害など

いずれの気うつにおいても、程度の差こそあれ抑うつ傾向を伴い、患者の訴えが執拗です。

症状は時間的に消長し、愁訴(寒気、冷え、のぼせ、めまい、頭痛、耳鳴りなどのはっきりと自覚できる症状を訴えること)の部位が移り変わることが多くあります。

2)気うつはなぜおこるのでしょうか

気うつは気滞(きたい)ともいい、「気」の下降・停滞によりあらわれます。

その原因としては、

  • 気が多く流入しすぎて詰まる。
  • 「水」や「血」の停滞により気の巡りがさえぎられる。
    血や水が滞りなく流れているのは気の働きによるものです。
  • 「肝」の機能の低下。
    怒りは「肝」の機能を失調させます。
    たとえば、心配ごとがあり、不快感や不満を解消できず、怒りをぶつけるところがないために悶々とした状態が続いたり、激しい怒りを覚えたりすると「肝」の機能が失われます。
    「肝」は、全身の機能が順調に働くように「気」や「血」、「水」の流れを調節するとともに、精神情緒の調節を行っているので機能低下が気うつにつながります。
  • 風邪、飲食など。
    風邪(ふうじゃ):六淫のひとつ。人体にはおもに皮膚から侵入し、衛気(えき;体表部をめぐる気)を乱す。

次のHPも参考にしてください
画像の説明ツムラ

103.気滞(気うつ)の症例(2)

もう一例気滞(気うつ)の症例を紹介いたします。
症例は55歳、女性です。
もともと高血圧症で、平成18年より当院通院中の患者さんです。
平成22年1月4日体調がすぐれないといわれました。
問診表でチェックのあった症状は、腹が張る・喉がつかえる・胸がつかえる・みぞおちがつかえる・口の中が苦い・汗をかきやすい・顔がのぼせる・手足が冷える(冷えのぼせ)・肩こり・体がだるい・動悸がする・気分が沈む(この方は一人暮らしで、特に夜になるとさびしくなり、気分が落ち込むそうです)・眠りが浅く、夜中に目が覚めるなどです。
身長158cm、体重51kg、BMI 20.4。
この方の舌を見ると、紫がかり、舌の裏側の静脈が膨れ、枝分かれしており、白い苔がべっとりと付着しており、瘀血(おけつ)体質と診断いたしました。
また問診から、容易に気滞(気うつ)と、判断されましたので、半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう;症例64参照)と、加味逍遥散(かみしょうようさん;症例72、141参照)を1ヶ月分処方したところ、少しずつ状態よくなり、3月2日には、「喉がすっきり通るようになり、おなかがすく感覚がでてきました。冷えのぼせもほぼなくなりました。気分が落ち込むこともなくなり、調子いいです。夜も寝れるようになりました。」と、いわれました。口がまだ少し苦いという症状以外はほぼとれたようです。舌の白苔もきれいにとれておりました。

104.右肩こり、腰痛、便秘の漢方治療

次の症例は67歳、女性です。
気分が悪くなるくらい右肩がこる、腰痛を主訴に、平成21年10月5日、岡山県備前市から来院されました。
その他の症状として、便秘・汗をかきやすい・疲れやすい・食後眠くなる・寝つきが悪い・眠りが浅いなどがあります。気虚体質があると考えられました。
この方の舌を診ると、地図状で、お腹はいわゆる蛙腹でした。
身長152cm、体重76kg(標準体重50.8kg)、BMI 32.9とかなりの肥満を認めます。
典型的な防已黄耆湯(ぼういおうぎとう;症例76、91参照)証でしたので、本方と、肩こりに使う。葛根加朮附湯(かっこんかじゅつぶとう);症例12参照を2週間分処方しました。
10月17日に来られた時には、「便通がよくなりました。しかし、肩と腰は変化ありません。」と、いわれました。
そこで、同じ処方をもう一か月分処方させていただきました。
11月20日に来られた時には、「腰が楽になりましたが、肩はまだよくなりません。」と、いわれましたので、葛根加朮附湯のかわりに、桂枝加苓朮附湯(けいしかりょうじゅつぶとう;症例23、104、124、203、206、319参照)+ブシ末に変えたところ、12月26日に来られた時に、「右肩の痛みが随分うすらいで、シップをしなくてよくなりました。」と、いわれました。
平成22年3月2日に来られた時には、「痛みは全くありません。ただし、薬が切れるとやっぱり便秘するんで、薬はやめられません。」と、いわれました。

症例266にも同様の症例を載せています。

防已黄耆湯について

防已黄耆湯は、体の水分循環を改善して、疲れや痛みを和らげ効果のある漢方薬です。
汗をかきやすく、疲れやすい、または色白で太り気味の人に向いています。
多汗症の治療のほかにも、肥満症、むくみ、関節炎で水がたまりやすいもの、腎炎やネフローゼなどの症状にも効果をあらわします。

体の水分循環をよくして、余分な水分を取り去り、痛みを発散して治す、防已(ぼうい)、水分循環をよくする、蒼朮(そうじゅつ)、滋養強壮作用や、汗を調節する作用がある、黄耆(おうぎ)、胃腸によい、生姜(しょうきょう)、大棗(たいそう)と甘草(かんぞう)が構成生薬の漢方薬 です。


参考:真武湯や防已黄耆湯を使う便秘 (下田 憲先生講義より)

真武湯(しんぶとう)には通じ薬は何も入っていません。
真武湯の便秘というのは便が硬いのではありません。便が出るとしたら軟らかいのですが真武湯の便秘は浣腸しても出ません。浣腸して出る様な老人の便秘だったら、麻子仁丸や潤腸湯の便秘です。腹を触ると腸管の中に水やガスでなくワセリンかグリースが詰まっていて、それをつかむような感じ、そういう感じで腹は冷たい(本人の訴えでも寒いという)。
これは何かと言えば潜在性の心不全なのです。消化管が浮腫状になって便秘になるのです。浮腫状ですからそこを下剤で無理に動かすと、その刺激で腸管からの水分が出てくるのです。問診で「出る時はウサギの糞みたいでコロコロですか?」と聞くと「いや、出る時は軟いです。下剤をかけたら本当に軟らかい便しか出ないのです。それでもすっきり出ないのです。」と言う場合はほとんど真武湯です。常用量の半分で効く人もいますが、2倍量出さないと効かない人もいます。

この真武湯が効く便秘と全く同じ状態が、ご婦人(特に若い女性)でもあります。
非常に頑固な便秘があり、放っておくと何日でも出ません。ただし特徴的なのは何日も出なくても本人は苦痛ではないのです。でも出ないと体に悪いのではないか、あるいは肌に悪いのではないかと思い無理やり下剤を飲みます。それも並みの量ではないのです。例えばコーラックなら一瓶買ってきて一週間に一度その全部を飲んだりしますが、すっきりしないけれど絞り出すように便がでるという状態です。
非常に頑固な便秘をして水ぶとりであることは真武湯と全く同じ状態です。腸管が浮腫状になって細くなっているから通じがつかないのです。この場合は防已黄耆湯で見事に改善します。ただし常用量では効きません。2~3倍量が必要になります(この方の便秘は常用量で改善いたしました)。

 

105.顔のほてりの漢方治療

次の症例は64歳、女性です。
既往歴として5年前に総合病院の外科で虫垂癌で手術されており、今も二ヶ月に一回通院されています。
若い時から、顔が真っ赤になって、ほてる(さわっても熱いくらい)と、平成22年2月8日、上郡町から来院されました。暖房の効いた部屋に入ると特にひどく、冬でも扇子が手放せないそうです。足の裏も真っ赤になるが、ほてりは感じないそうです。また、夏でも汗をあまりかかないそうです。
「今まで本当につらかった。」と、診察室で泣きだされました。
身長155cm、体重49kg、BMI 20.4。
この方の舌を見ると、紫がかり、舌の裏側の静脈が膨れていましたが、枝分かれは認めませんでした。なお、普段白い苔が付着していますが、歯ブラシで毎日とっているそうです。
お腹では、お臍の左下に瘀血のしこりを触れました。
瘀血(おけつ)と診断し、、桂枝茯苓丸加薏苡仁(けいしぶくりょうがんかよくいにん;症例67、91、95参照)と、黄連解毒湯(おうれんげどくとう;症例31、219、294参照)の半量を、一日二回で、一か月分処方いたしました。
3月8日に来られた時には、ニコニコとして、「顔がほとんどほてらなくなりました。」と、いわれました。そこで、同じ処方をもう一か月分ださせていただきました。
ここで、一度治療を中断されましたが、11月19日に来られ、全く同様の症状を訴えられましたので、また漢方薬を再開したところ平成23年3月15日には、「温風ヒーターにあたっても、こたつに入っても大丈夫になりました。」といわれました。
8月4日には、「夏暑くても、全然大丈夫です。風呂上がりでも全くほてらず、冷めるのも以前より、断然早くなりました。」といわれました。


黄連解毒湯について

黄連解毒湯を構成する漢方生薬は全て漢方で言うところの「苦寒」の薬味薬性であるため、寒冷解熱作用があり、炎症や充血などを伴った諸症状を治します。

適応症は、比較的体力があり、のぼせぎみで顔色が赤く、イライラする傾向のあるものの、

吐血、喀血、下血、脳出血後遺症、高血圧、のぼせ、心悸亢進、胃炎、自律神経失調症、ノイローゼ、皮膚掻痒症、鼻出血(症例31参照)、神経症、二日酔いの予防、口内炎、高血圧による不眠症、熱性疾患、脳卒中の予防、蕁麻疹、血の道症、めまい、酒さ鼻(あかはな)などです。

 

106.様々な治療に抵抗を示した高血圧症の漢方治療

次の症例は53歳、女性です。
既往歴として子供の頃、慢性の扁桃炎・中耳炎・副鼻腔炎をよくおこしていたそうです。
若いときはむしろ低血圧気味だったのに、平成16年頃より、コレステロールや中性脂肪とともに血圧が上昇し、また一日の変動幅が50くらいになったそうです。
平成16年3月に、引越しをしたため、勤務先まで車で一時間以上かかるようになり、朝早く出勤し、夜遅く帰る日々が続き、また職場も人手が足りず忙しく、ストレスが強くかかり過労気味になっていた頃、突然勤務中に頭痛・嘔吐・めまいが出現し、血圧が230/120mmHgにまで上昇し、救急車で病院に運ばれたそうです。
病院に着いてから、降圧剤のアダラートと精神安定剤のアタラックスPの投与を受けたところ、血圧が下がりすぎて、上の血圧が100mmHg以下になり気分不良となり、また後で下痢になったそうです。その後、総合病院循環器科に6ヶ月間くらいかかり、ペルジピン、ノルバスク(以上Ca拮抗薬)、ロプレソール、テノーミン(以上β遮断薬)などの血圧の薬を処方されたが、血圧が安定せず、また薬の副作用で嘔吐、下痢、頭痛などが起こり、とうとう主治医に、「あなたに合う血圧の薬はない。」と、いわれてしまったそうです。
平成16年秋には、48歳で閉経しました。
その後他の内科を受診し、ロプレソール、テノーミンを1/2や1/4量にしたりしてもらいましたが、やはり下痢、頭痛、ふらつき、吐き気、肩こりなどが起こって血圧が下がりすぎてしまい、また、精神安定剤をもらったりもしたが、飲むと一日中寝たきりになり、ふらつき・吐き気が起こり何もできなくなり、仕事にもいけなくなり、とうとう職場をやめてしまったそうです。
かといって薬を飲まなければ、血圧は180mmHgを超え、頭痛・肩こり・耳鳴りがして、少し歩くだけで動悸や息切れがして、休まないと歩けない状態になったそうです。
内科の通院はあきらめ、平成17年11月頃市販の七物降下湯(しちもつこうかとう)という漢方薬を買って飲んで、自分で量を調節して飲みはじめたそうです。初めて飲んだとき、耳鳴りがなくなり、頭痛と肩こりが楽になったそうです。
この頃ご主人の会社の検診を受けたところ、血圧が190/100mmHgあり、ドクターに「血圧が高すぎる。こんなところに来ている場合じゃない!」と、どなられたが、今までいろんな所で診てもらったともいえず、「はい。」といって帰ってきたそうです。
この後、自分で七物降下湯を買って3年ほど続けていましたが、やはり血圧は乱高下を繰り返していたそうで、いつどうなってもいいように身の回りの整理と、遺言状は書いておいたそうです。
平成20年になり、下の歯茎のところに、白い丸いものができて、8月に口腔外科へ行ったところ、「白板症」といわれ、「手術をするのにも病院に罹って血圧を下げてもらわないと困る。」と、いわれたため、同じ病院の循環器科へ紹介されて行ったが、患者さんが多く、主治医が話をする前からイライラしていて感じが悪く、結局検査だけ受けて通院はしなかったそうです。
それから、西洋の血圧の薬は絶対に飲みたくないので、漢方の病院をさがしたそうです。
11月6日、T女子医大病院の東洋医学研究所にかかったところ、柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれいとう;症例86参照)と、黄連解毒湯(おうれんげどくとう;症例105参照)が処方されたそうです。血圧は徐々に下がっていき、歩いても動悸やめまいがしなくなったそうですが、だんだん尿の色が紅茶のような色になってきて、平成21年4月の末頃から、何もしなくてもだるく疲れて食欲もなくなり、少し歩いてもめまい・動悸がしだしたそうです。主治医に話しても、「尿が濃縮しているだけでしょう。」といわれたそうです。5月になりようやく採血をしてもらったところ、肝機能がかなり悪く、黄疸が出ており、すぐに薬を中止するようにとドクターから電話がかかってきたそうです。
平成21年5月、他の漢方の病院に移ったところ、今度は四逆散(しぎゃくさん;症例63参照)を出されましたが、1包飲むと、10分後に嘔吐・めまい・頭痛・動悸がして、苦しくて吐き続けたそうです。ドクターに連絡すると、「しばらく何も飲まずに様子を見させて欲しい。いい薬はあるんだけど‥。」と、いわれたそうです。また、他のところでも、半夏厚朴湯、当帰芍薬散、加味逍遥散、桂枝茯苓丸などを試したがすべて合わず、「漢方薬を飲むのってこんなにも苦しいものなのか、私に合う薬はないんじゃないか。」と、ショックを受けたそうです。この時点でもうどうなってもかまわない、病院にはかからないようにしようと、心に決め、平成21年7月から平成22年3月まで全く薬は服用しなかったそうです。
しかし、依然として血圧は高いままで、200/100mmHg以上だったそうです。
しかも体調は最悪で胸部圧迫感や胸痛も出現(特に寒い日)し、リンパ節もはれ、顔や手のむくみがひどく、顔が熱くなったり、ふくらはぎのこむら返えりが起こったり、手や足が冷たくなったり、脈が急に弱くなったり、便秘や下痢が続いたり、舌がヒリヒリしたり、結局横になるしかないのでひたすら寝ていたそうです。
そんな時、知人より当院を紹介され、平成22年3月3日来院されました。身長162cm、体重60kg、BMI22.9。血圧180/122mmHg。
問診表では実に68の質問中、44にあてはまると、チェックされておりました。何が一番つらいかと聞くと、「めまいと動悸です。」と、答えられました。
この方の舌をみると、歯痕舌を認め、腹診では、臍の上で動悸を触れました。
水毒と診断し、苓桂朮甘湯(りょうけいじゅつかんとう;症例20参照)と、一応今まで飲めていた七物降下湯(しちもつこうかとう)を合わせて開始しました。
苓桂朮甘湯を飲むと、体にしみ渡る感じがして、すごくおいしく、体が気持ちいい感じで、体の中からあついものを感じたそうです。その夜、いつもならおしっこで1~2回目が覚めるのにぐっすりと眠れたそうです。
次の日の朝は、いつもなら顔がはれているのにすっきりとしていて、手のむくみもなく、血圧も120-160/80-90mmHgとかなり下がっていたたそうです。本当に今までに比べてぜんぜん違うと感じたそうです。体が楽になり軽くなったそうです。
3月8日時点で、体のむくみは全く引き、たまに根を詰めて無理をすると、血圧が180mmHgくらいに上がる時があるようですが、そんな時でも今までのように吐き気やめまいや胸部圧迫感やふくらはぎのこむら返りがおこらなくなったと大変喜んでいただきました。

本態性高血圧と苓桂朮甘湯について(下田 憲先生)

本態性高血圧なら、苓桂朮甘湯です(本態性高血圧のメカニズム:体の水分保持量はお腹の中にいる時が100%で、子供で80%ぐらいになり、年齢とともに少なくなり70%ぐらいになる。この水分保持量の切り替わりは案外短い期間に起こるので、ある時それまで80%に合わせて水・食塩を摂取していた人が、体のほうが70%しか水を保持できない状態に変わってきても、急に生活習慣を変えられないので、当然水があふれてきて体にたまり、少しずつ脈管に圧力を加える、というのが本態性高血圧の病態である)。

「今まで低血圧だったのに、今日はじめて血圧が高いと言われました」 この言葉だけで診断がつきます
降圧剤なしでも苓桂朮甘湯のみで非常によく下がります。

 

107.西洋医学の治療に抵抗を示した蕁麻疹

次の症例は65歳、女性です。
40歳代の時一度、蕁麻疹が一年ぐらい続いたことがあるそうです。
平成22年2月23日より、蕁麻疹が出現し、ぬくもるとかゆみがひどいため、2月25日より、近医で蕁麻疹の治療(ステロイド剤の内服と注射(詳細不明);蕁麻疹が重症の場合ステロイド剤の内用をさせますが、これが無効の場合、西洋医学ではお手上げということになります。)を4日間続けるも、どんどんひどくなり、夜もかゆくて眠れないため、3月1日当院を受診されました。
小は小豆大から大きいのは500円硬貨くらいの大きさの蕁麻疹が全身に拡がっており、掻破痕が多数ありました。
舌は黄色い苔が付着しており、先端が赤くなっていました。
十味敗毒湯(じゅうみはいどくとう;症例165、306参照)と、かゆみと熱をおさえる黄連解毒湯(おうれんげどくとう;症例105参照)をあわせて1週間分処方いたしました。また西洋薬の抗アレルギー剤であるアレロックも併用しました。
3月8日受診された時には、「飲み始めてからは、少しずつよくなってきています。」と、いわれましたので、さらに同じ処方を2週間分処方したところ、3月15日より、目に見えて改善してきて、3月20日受診された時には、ほぼ治癒しておりました。念のためもう1週間分薬を渡して治療を終了いたしました。

十味敗毒湯について

十味敗毒湯は、華岡青洲の創製による処方で皮膚病一般に用います。
十種の生薬の相乗作用で,内因、外因を除去し、血液や病変細胞組織の中毒症状を解毒し、体外に排出します。
十味敗毒湯は、急性蕁麻疹の第一選択薬として用いられることが多く、これで結構治ります。もちろん漢方を少し勉強すれば、他の見方や漢方診療から他の薬もあることはすぐに理解できます。でも病名投与も結構有効です。効能は皮膚の痒みや赤みを発散し、腫れや化膿を抑えるというものです。

他に、化膿性皮膚疾患・湿疹などに本方が適用されます。

 

108.月経不順・便秘・不眠の漢方治療

次の症例は49歳、女性です。
以前より、便秘があり、また眠りが浅く、夜中によく目が覚め、また生理も月に二回あったり、それも量が少なくだらだら続いたりするため、平成21年11月3日、たつの市より当院へ来院されました。身長165cm、体重65kg、BMI23.9(やや体重が重いのを気にされています)。
この方の舌をみると、舌先が紅くなっていました(舌尖紅潮;症例72で述べたように、舌尖紅潮があり、舌をいきおいよく出す人は、加味逍遥散の有効例が多いといわれております。)。
加味逍遥散(かみしょうようさん;症例72参照)と、肥満や便秘に使う、防風通聖散(ぼうふうつうしょうさん;症例18参照)を開始しました。
12月4日受診された時には、「よく眠れるようになりました。」と、いわれました。
平成22年1月18日受診された時には、「調子いいです。便秘も解消しましたが、生理はまだ不順です。」と、いわれました。
2月19日受診された時には、「今回の生理はきっちりありました。」と、いわれました。ただし、体重はまだ変化ないようです。
体の調子がいいようなのでこのまま続けていく予定です。

109.アレルギー性鼻炎・結膜炎(通年性)・小児虚弱体質・おねしょ

次の症例は8歳、男児です。少年野球をやっています。
3歳の頃より、アレルギー性鼻炎・結膜炎・気管支喘息で総合病院のアレルギー科へ通院していましたが、全くよくならず、最近は喘息以外の症状(鼻水・鼻づまり・くしゃみ・目の充血・目のかゆみ)が特にひどいため、平成22年3月19日当院を受診されました。
他の症状として、便秘気味で、胃がもたれたり、おなかがぐるぐるいって腹痛をよく起こし、また鼻血をよく出し、口唇がかさかさしており、「足がだるい。」と、よくいい、おねしょもあります。典型的な小児虚弱体質です(症例26参照)。
スギ・ヒノキ・ヨモギ・ハウスダスト・イヌ上皮その他たくさんのアレルギーがあります。身長127cm、体重24.2kg(標準身長 127.2cm、体重26.5kg)。
舌診では特に異常を認めず、 腹診では腹直筋緊張(;症例279参照)を認めました。小建中湯(しょうけんちゅうとう;症例26、29、145、190、192、321参照)越婢加朮湯(えっぴかじゅっとう;症例94、184参照)を足して2週間分出したところ、3月29日受診された時におかあさんが、「受診翌日の20日は、黄砂が多い日で、その中を朝から野球の練習で一日中外にいましたが、家に帰ってきたときに、本来ならひどい状態になっているはずなのに、少しくしゃみをするぐらいで、信じられないぐらい調子よかったです。その後もアレルギーの症状は目も鼻もほとんどなく、お腹も大変調子いいです。こんなことならもっと早く漢方薬を飲ませておけばよかったです。」と、いわれました。「こんなに小さいときからアレルギーがひどくてこの子の一生はどうなるんだろう。」と、本気で心配されていたそうです。
4月26日に来られた時には、「鼻血は一度も出ていませんが、おねしょは2回ありました。」とお母さんがいわれました。
6月1日に来られた時には、「ゴールデンウイークに2回鼻血はありましたが、おねしょは、一度もありませんでした。」といわれました。7月29日に来られた時には、「あれから、鼻血もおねしょも一度もありませんでした。」といわれました。
アレルギーは、6月1日より越婢加朮湯からアレルギー体質改善薬の柴胡清肝湯(さいこせいかんとう症例;55参照);に変えました。
8月30日に来られた時には、「朝方にくしゃみと鼻水が少しあります。」といわれましたので、、葛根加川芎辛夷(かっこんかせんきゅうしんい)を朝だけ飲んでいただいたところ、9月27日に来られた時には、「いつもは、稲刈りのときに秋の花粉症がひどいのに、今年は全く出ていません。」といわれました。
漢方がお役に立てて、私もたいへんうれしく思いました。本当によかったです。

越婢加朮湯について

一般的には、花粉症にはしばしば小青竜湯(しょうせいりゅうとう)が用いられています。
小青竜湯は身体の冷えと水の停滞が原因で起こる薄い痰、くしゃみ、鼻水などに有効であるとされ、その他、浮腫や喘息にも繁用されています。
小青竜湯がよく効く人は、身体の冷えや頭痛、悪寒を併せ持っています。
もし小青竜湯の服用で症状が緩和する人は、症状の裏には冷えと水の停滞が潜んでいますので、清涼飲料・サラダ・フルーツ・冷たいヨーグルトなど冷たくて水分を多く含んでいるものは控えた方がよいでしょう。
しかしながら、なかなか小青竜湯では症状が緩和しない人も多くいらっしゃるのが事実です。
私は小青竜湯はほとんど使わず、麻黄附子細辛湯(まおうぶしさいしんとう;症例49参照)を使っています。
さらに無効なら、越婢加朮湯を使用してよい結果が出ることが多いです。越婢加朮湯は、石膏、麻黄、蒼朮といった水をさばく(処理する)能力に長けた生薬を持ち、生姜、大棗、甘草は胃を守る三点セットと呼ばれている生薬群です。
つまり主役は前者たちになります。麻黄は身体を温める作用がクローズアップされがちですが、水をさばく作用も優れており、石膏と組み合わせるとその効果はとても強くなります。
この越婢加朮湯と小青竜湯の差は、越婢加朮湯は身体内部に熱を持っている場合が適応となる点です。
そのため、症状や患部に熱感を覚える人、つまり発赤や炎症が見られる場合に有効なことが多いです。特に目の症状が強い人によいようです。
もし、越婢加朮湯単独で効果が不十分な場合症例4のように、麻杏甘石湯(まきょうかんせきとう)と合わせればより効果的です(麻黄・石膏の量が増えるため)。
ちなみに薬の分類としては、小青竜湯は止咳平喘(咳を鎮める)であり、越婢加朮湯は利水消腫(水をさばき浮腫を消す)となっておりそもそもカテゴリーが異なっている漢方薬です。

 

110.口から泡をふく・水様の下痢が止まらない

次の症例は、明治41年生まれの102歳、女性です。
平成22年2月17日意識障害で発見され、総合病院内科に入院されました。原因は、高血糖による昏睡でした。治療を受け、3月16日に無事退院されました。
退院後往診を依頼され、3月19日に伺ったところ、床ずれがお尻りの上にできておりましたが、特に状態は悪くありませんでした。
3月26日、訪問看護の看護士さんから、「顔色やや不良で、活気なし。嘔吐はないが、泡沫状の唾液をしきりにはいている。」と、連絡がありました。当日はそのまま絶飲食で様子をみてもらったところ、翌日朝には朝食を全量摂取され、普段どおりの状態にもどられましたが、夕方より水様の下痢が続き、翌日に、下痢止めのビオフェルミンとタンニン酸アルブミンを合わせて出しましたが、4日たっても全く止まらないため、3月30日往診し診察したところ、腹診ではみぞおちが冷たく、少し硬くなっていました(=心下痞硬(しんかひこう)という)。舌はひび割れが見られ(=裂紋という)、薄く白苔がみられました。
また、患者さんを口をみてすぐにこれは、漢方でいう「喜唾」(キダ)だと気がつきましたので、人参湯(にんじんとう;症例8参照)を開始したところ、4月1日、ケアマネージャーの方から、「下痢が止まりました。」と、電話がありました。
4月2日往診したところ、「喜唾」もみられず、顔色もよく、食事も全量摂取できているとのことでした。

同じような症例を症例488に載せております。

「喜唾」(キダ)について

喜はしばしばの意で、しばしば泡状の唾液がたくさん出てきて、唾液が口腔内に貯溜する状態をさします。

漢方的には裏寒〔裏(身体内部)が冷えているとは、内臓(とくに消化器)の機能が極度に低下している状態のことです。裏に寒があると、下痢したり、腹が痛んだり、口に胃液が上ってきたり、うすい唾液が口にたまったり、手足が冷えたり、脈が沈んで遅くなったりします。人参湯(にんじんとう)、真武湯(しんぶとう)のような温補剤(病邪に対する抵抗力が低下している時や内臓や体内に寒がある時、身体を温め、体力強化をおこなう処方をいう)の必要な状態です。;症例92参照〕の症状の一つと考えられています。

人参湯(にんじんとう)の適応症状まとめ

  • 慢性水様性下痢
  • 薄い多量の尿
  • 薄い唾液(喜唾)
  • 手足の冷え

 

「脾(=消化器の働き)」の液は涎(よだれ)で、透明で水っぽい唾液です。口腔粘膜を保護し、口腔内を潤す働きがあり、涎は脾で作られ胃に溢れると考えられています。

透明な涎(よだれ)が多量に出るのは、脾胃虚寒(ひいきょかん)で、粘稠な涎で口の中が粘るのは脾胃湿熱です。
口角からひとりでに涎をたらすのは、脾気虚や小児の虫積(回虫など)です。
また、多量の唾を吐くのは、胃寒、食積、湿滞などが原因になっています。

脾胃が不調(=脾虚;症例87,97参照

 

111.両膝の痛み・高血圧症・便秘

次の症例は61歳、女性です。
30年前より、左膝が痛くなり、整形外科に通って薬をもらったり、リハビリをしたりしたがよくならず、最近は、左膝をかばうため右膝まで痛くなってきたため、たつの市から平成21年10月30日来院されました。身長156.5cm、体重53kg、BMI20。
整形外科では手術しか痛みをとる方法はないといわれています。寒い時期の方が痛みは強いそうです。
既往歴として平成元年に子宮筋腫の手術をされています。
この方の舌を見ると、厚くはれぼったい感じがし、また、両側の舌の縁に、歯型が波打つようについていました(歯痕舌(しこんぜつ))。また、色が全体に紫がかり、舌の裏側の静脈が膨れ、枝分れしていました。水毒+瘀血体質と判断し、水毒体質の膝の痛みによく使う防已黄耆湯(ぼういおうぎとう;症例76参照)に、薏苡仁湯(よくいにんとう;症例40、281参照)と、体を温めるブシ末を合わせ1ヶ月分処方したところ、12月4日受診された時に、「右膝は痛くなくなり、左膝もズキンという強い痛みはなくなりました。」といわれましたので、そのまま続けていただいたところ、平成22年4月6日に来院されてときには、「膝の痛みはほとんど気にならなくなりました。」と、いわれました。
以前にもふれましたが、膝の漢方治療は比較的簡単で、これだけでしたらわざわざ著効例にのせる必要は全くない(当院ではすでに100例以上の方の膝を治しています。)のですが、実はこの方はたつの市の内科で、高血圧症と高脂血症でかかっておられますが、西洋薬の血圧を下げる薬では下の血圧がどうしても95から100mmHg以下には下がらなかったのが、寒い時期にもかかわらず、漢方薬を飲み始めてから、上の血圧が100から110、下の血圧が60から70になり、薬をやめようかという話になっているそうです。
また、漢方薬を飲むと便通も非常にいいいそうです(症例104の真武湯や防已黄耆湯を使う便秘参照)。
このようにいつも思うことですが、薬で気・血・水を整えると、主症状だけでなく、思わぬ症状もよくなるというのが漢方のすばらしいところですね。

変形性膝関節症の漢方治療については症例2,76,131,184,207,209,227,228,245,268,269,282,283,300,311,319,334,355も参照して下さい。

112.体のむくみ・動悸・アレルギー性鼻炎

次の症例は33歳、女性です。
体がよくむくみ(特に足)、手足が冷えて、動悸がする、またアレルギー性鼻炎があり、とくに朝方、鼻水・鼻づまりが強いそうです。
また、体がだるい・疲れやすい・食後眠くなる・風邪が治りにくいなどの気虚の症状もあります。
それらの中でも動悸が一番つらいとのことで、平成20年2月19日来院されました。身長169cm、体重50kg、BMI17.5とやせを認めます。
この方の舌を見ると、厚くはれぼったい感じがし、また、両側の舌の縁に、歯型が波打つようについていました(歯痕舌(しこんぜつ))。
腹診では、臍の上で動悸を触れ、胃内停水音も認めました。
水毒による症状と診断し、苓桂朮甘湯(りょうけいじゅつかんとう;症例20参照)と、アレルギー性鼻炎には、麻黄附子細辛湯(まおうぶしさいしんとう;症例49参照)を開始しました。2週間後の2月27日に来られた時に、「すごくよく効きました。苓桂朮甘湯やめるとまた動悸がするんです。花粉症も調子いいです。」と、いわれましたので、同じ処方をもう1ヶ月分出しました。
それで、いったん治療を終了したのですが、今度は一年以上たった平成21年5月15日、体がだるい、下痢をする、冷える、食欲がない、イライラし、気分が沈む(動悸は治ったそうです。)など、脾虚(症例97参照)中心の症状で来院されました。
人参湯(にんじんとう)に、体を温めるブシ末を併用(症例8参照)して治療を始めました。1ヵ月後の、6月10日に来られた時に、「しょっちゅう風邪をひいて、市販の薬を飲むとすぐに口内炎ができるんです。」と、いわれましたので、「風邪の時には、参蘇飲(じんそいん;症例48参照)を飲むように。」と、わたしました。
7月7日に来られた時に、「だんだんよくなり、イライラや気分の沈むのもましです。」と、いわれました。
9月15日に来られた時には、「冷えとむくみが困ります。」と、いわれましたので、当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん;症例14、113、158参照)を足したところ、11月17日に来られた時に、「すべて調子よくなっていましたが、薬がきれるとだめです。」と、いわれました。

ここまででしたらありふれた症例なのですが、わざわざこの症例をだしたのは、実はここからが興味深かったからです。
しばらくこの組み合わせを続けていただいたところ、平成22年4月8日に来院されてときに、「いつもなら、毎年花粉症で大変な時期なのに今年は全く症状がでないんです。」と、いわれました。

漢方薬で体質改善をしたことにより、アレルギー性鼻炎の症状が出なかったのです。
漢方って本当にすばらしいですね。

漢方薬で花粉症の体質改善

花粉症の要因は、生活スタイルの変化や精神的ストレス、食事の不摂生、運動不足などによる体質の変化が考えられます。
東洋医学でも、原因は花粉ではなく、私たちの体の中にあると考えています。

漢方での対策方法は2通りあります。
鼻水や鼻づまり、目の痒みなどすでに出てしまったつらい症状を改善させるには即効性のある漢方薬が有効です。漢方薬の場合眠くなるなどの副作用が少ないのが特徴です。

そして、まだ症状がでていない時期には漢方薬を使ってコツコツと体質改善に取り組みましょう。皮膚粘膜が強くなり、花粉症だけでなく、風邪やインフルエンザにかかりにくい体作りができます。体質改善の場合は早めにとりかかることをお勧めします。

食べ物には炎症を悪化させるものもあるので、香辛料などのスパイス類や肉、揚げ物などの脂っぽいもの、洋菓子などの甘いもの、果物、アルコール・ジュースなどは控えめに。

また、花粉症の人には水分代謝の悪いタイプ、冷え性やストレスの強いタイプが多いですから、冷たいものや生もの、水分の摂り過ぎもよくありませんよ!

 

113.にきび、便秘、生理痛

次の症例は18歳、女性です。
にきび(部位は頬中心)を治したいと平成22年2月1日当院へ来院されました。問診表からはほかに、便秘(特に生理前にひどくなり、西洋薬の下剤はきつい)、出血量が多く、生理痛が強い、手足が冷える、胃が弱い、などの症状がありました。
この方の舌を見ると、厚くはれぼったい感じがし、また、両側の舌の縁に、歯型が波打つようについていました(歯痕舌(しこんぜつ))。身長160cm、体重50kg、BMI19.5とやせを認めます。
当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん;症例14、112、158参照参照)安中散(あんちゅうさん;症例11、201、684参照)を合わせて処方したところ、3月29日に来院され、「便秘もよくなり、にきびも薄くなってきました。生理痛も楽でした。」と、喜んでいただきました。
にきびは、症例6、67にも載せておりますが、それぞれ使っている薬が異なっています。つまり、にきびだからこの薬と1対1では決まらないということです。
また、肌をきれいにするには、体全体の調子を整える事が大切です。

当帰芍薬散とにきび

当帰芍薬散は、ホルモンバランスが崩れたり乱れたりしたときに生じるニキビに効果があります。
そのため、当帰芍薬散には、生理周期の悩みによるニキビや手足の冷えをお持ちの方に効果があります。
そして、血行をよくする働きがあるため、生理痛の緩和や基礎体温の安定化、むくみやシミの改善も期待できます。

本剤の合う方は、食べたものを消化吸収運搬する臓器(=;症例97参照)が弱い為に余分な水分をかかえています。
食べ方にむらがあり、足が冷えたり時にはほてることもあります。にきびはあまり赤くならず小さなにきびが特徴です
痩せ型で体力がない方向けの漢方薬です。

なお、安中散ですが、保険適用は胃薬ですが、差し込みの強い月経痛に神効があります。
「安中散」の原文には「婦人気血刺痛(婦人の血の巡りや内臓の動きが悪くなっておこる下腹部の痛み)」にも使えると書いてあります。つまり、生理痛に応用がきくのです(症例11参照)。
平素から甘い物好きの方によく効く場合が多いといわれています。

 

114.手足の冷え、胃が弱い、生理痛、花粉症(不妊症)

次の症例は35歳、女性です。
もともと胃が弱く(胃もたれ・薬で胃がよくあれる)、職場がよく冷えるためか、手足が冷めたく、また生理の量が多くて痛みも強く、不妊症もあるため平成22年1月30日当院へ来院されました。
この方の舌を見ると、厚くはれぼったい感じがし、また、両側の舌の縁に、歯型が波打つようについていました(歯痕舌(しこんぜつ))。
身長158cm、体重52kg、BMI20.8と、やせ気味です。
六君子湯(りっくんしとう;症例97参照)を1ヶ月分処方しました。
3月4日に来られた時に、毎年の花粉症の症状(鼻水・目のかゆみ・流涙)が出ているとのことでしたので、麻黄附子細辛湯(まおうぶしさいしんとう;症例49参照)を追加しました。
4月2日来られた時には、「胃も調子よく、冷えも感じず、生理痛もありませんでした。花粉症も大丈夫です。」と、いわれましたので、同じ処方をまた出させていただきました。
この調子で、一日も早くお子様が授かるのを祈るばかりです。

不妊症

妊娠をする為には、胎児を育てる子宮にエネルギーである『気』や『血』が充分に届き、循環する必要があります。また、子宮が胎児を保つ力を充分に持つことも必要です。これがうまくいかないと、妊娠出来なかったり、流産を起こすことになります。
『気』や『血』が少ない時は、子宮に充分届きませんので、『気』や『血』を増やす治療をします。『気』や『血』は、中医学でいう「脾(ひ)」、つまり胃腸で作られるため、まず、胃腸を丈夫にすることが一番大切です。不妊治療で有名な寺師先生は、「脾胃」は、根で、「根がなければ卵巣はしおれてしまう。」と、説明されております。四君子湯(しくんしとう)や六君子湯(りっくんしとう)などを使います。

 

115.めまい、不眠、頭痛、手足の冷え

次の症例は66歳、女性です。
毎年、春先と秋の季節の変わり目に、めまい(景色が、がぁーと動く感じでそのあと嘔吐してしまうと表現されました。)が起こり、近くの病院で頭部のMRI検査などを受けるも異常なしといわれ、メリスロン、トラベルミンのめまいの薬と吐き気止めのナウゼリンを処方されましたが全く無効のため、漢方治療を求めて平成22年4月9日当院へ来院されました。
めまいの他に、寝付きが悪く、眠りが浅く夜中に目が覚めたり、動悸・頭痛(わくわくする感じと表現されました。)がして疲れやすく、手足の冷えもあるそうです。
身長152cm、体重65kg、BMI28.1と肥満を認めます。
この方の舌を見ると、厚くはれぼったい感じがし、また、両側の舌の縁に、歯型が波打つようについていました(歯痕舌(しこんぜつ))。また、色が全体に紫がかり、舌の裏側の静脈が膨れ、枝分れしていました。
また、臍の右下に瘀血の圧痛としこりをふれ、水毒+瘀血体質と判断し、苓桂朮甘湯(りょうけいじゅつかんとう;症例20参照と、加味逍遥散(かみしょうようさん;症例72、141参照)を合わせて2週間分処方したところ、4月24日に来院され、「夜がよく寝れるようになり、めまいもよくなり(首を前に曲げたり後ろへそらしたりするとよくめまいを起こしていたがそれがなくなった。)、頭もわくわくしなくなりました。まだ少し肩こりが残っているぐらいです。」と、喜んでいただきました。
このように漢方の場合、多彩な症状であっても、「気血水の崩れ」から考え適切な方剤を処方すると、意外と簡単に治せることが多いものです。

116.妊娠中の便秘の漢方治療

次の症例は著効例というわけではありませんが、妊娠中の便秘の症例がありましたので紹介させていただきます。
症例は28歳、女性です。
妊娠4週目で便秘の治療目的で、平成22年3月29日当院へ来院されました。
妊娠する前から便秘はあって、ラキソベロンという下剤をもらったりしていましたが、すっきり出ず、そのまま妊娠されました。出る便はコロコロ便だそうです。身長151cm、体重42kg、BMI18.4。
麻子仁丸(ましにんがん;症例77参照)を寝る前に1包、一ヶ月分処方しました。
4月16日来院された時には、「最初の頃は調子よく便が出ていたが、だんだんすっきり出なくなってきた。」と、いわれましたので、2包飲むようにと指示したところ、5月22日来院された時には、「調子いいです。」と、喜んでいただきました。

妊娠中の便秘について

日ごろ、便秘とは無縁の生活を送ってきた人でも、妊娠中は便秘に悩む人は多いです。というのは、妊娠をすると、黄体ホルモンが活発になり、その間大腸の働きが鈍くなってしまうのです。また、水分も胎内の赤ちゃんに優先的に供給されるため、便が水分不足で固くなりやすいのです。その上、赤ちゃんの成長とともに子宮が膨らんできて、その分腸が圧迫されて、便通が悪くなることもあります。このように、妊娠中はいろいろな原因が重なり、通常よりも便秘になりやすくなるのです。
大黄(だいおう)は子宮収縮作用があり、また、刺激が強いため激しい下痢を起こして流産や早産の原因になることがあると書いてある書物もあるようですが、妊娠中でも大黄が入らないとなかなか便通はよくなりません。
実際、私自身も妊娠中の女性にとてもよく大黄を含む麻子仁丸を用いてますが、トラブルは全然ありません。
すっと排便できるようになるので、かえって母体や胎児に負担にならないと思います。
また、大黄甘草湯もよく使います。
ひどい便秘の人でも妊娠中だと大黄甘草湯ぐらいで出ます。胎児がいることで、お腹の中の、特に下の方の血流が変わり、妊娠していない時の便秘とはまた異なるようです。

 

117.冷え・生理痛(その他多彩な症状)の漢方治療

次の症例は23歳、女性です。
10ヶ月ほど前より、生理痛が強くなり、そのほかに、疲れやすい・食後眠くなる・イライラする・冷えのぼせ・耳鳴り・めまい・立ちくらみ・気分が沈む・夜中に目が覚める・いやな夢を見る・口が渇く・頭痛・肩こり・頻尿・足のむくみ・便秘気味などの症状があるため、姫路市の○○レディースクリニックを受診したところ、加味逍遥散(かみしょうようさん;症例72参照)を出され、「とにかくだまって3ヶ月続けるように。」と、いわれたそうです。しかし、1ヶ月飲んでもまったくよくならず、薬がきれたので、またもらいにいこうかと思ったが、この先生がとても怖い先生であったので、姫路市より平成22年3月27日、当院へ同じ薬をもらうために来院されました。
身長150cm、体重40kg、BMI 17.7と痩せを認めます。
この方の舌を見ると、厚くはれぼったい感じがし、また、両側の舌の縁に、歯型が波打つようについていました(歯痕舌(しこんぜつ))。腹診では腹直筋緊張を認めました。胃内停水音は認めませんでした。
むくみ(水毒)があり、冷えがありますので、当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん;症例14、112、113、158参照)安中散(あんちゅうさん;症例201参照)を合わせて処方したところ、5月22日に来院され、「生理痛はなくなり、冷えもよくなりました。肩こりだけが残っています。」と、いわれましたので、安中散のかわりに、肩こりに使う、葛根加朮附湯(かっこんかじゅつぶとう);症例12参照を足したところ、6月26日に来院され、「肩こりもよくなりました。ただ、安中散がないと、生理前にいらいらや、ねむけが強いんでまた出してください。」と、いわれましたので、また再開いたしました。

本症例に対するコメント

この症例は、症例113と同じ処方で、特に著効例というわけではありませんが、前医の先生が加味逍遥散の使い方を間違えておられると思いましたので、あえて載せました。
加味逍遥散は、症例72で述べたように肝気鬱結(かんきうっけつ)によく使う処方です。
「肝」は現代医学でいう肝臓をさすだけではなく、漢方では自律神経を調節する機能と考えられています。「気」が滞りなく体内をめぐるようにコントロールするのが「肝」の役目でもあります。

加味逍遥散の『逍遥(しょうよう)』は、「気持ちが落ち着かず、何となくイライラして心がゆれる状態」をあらわしています。そのため、訴えが多いだけでなく、その内容がどんどん変わるというのが特徴です。この症例は、多彩な症状ですが、訴えは一貫しております。

また、「肝気鬱結」の人は、四肢先端に冷えがありますが、逆に暖かいところがあります。おなかが暖かいのです。おなかが暖かいということは体が暖かいということです。体が熱いのですが、それにもかかわらず手足が冷えるのです。これはかなりストレス状態です。ストレスで緊張している状態です(下田 憲先生)。
この症例は、おなかも冷たく、冷えのため頻尿もあります。本当の冷えです。
また、患者さんをみればストレスで緊張している状態とはとても見えませんでした。逆にゆったりとした感じを受けました。

冷えとむくみ(水毒)の月経困難といえば、当帰芍薬散で決まりです。訴えが多い=加味逍遥散ではありません。

またこの先生は患者さんに、「とにかくだまって3ヶ月続けるように。」といっておられますが、漢方薬はだいたい2週間後に効果判定というのが常識です。

 

118.高血圧症・鼻出血・のぼせの漢方治療

次の症例は70歳、男性です。
平成21年10月19日初診の高血圧症の方です。
身長169cm、体重75kg、BMI26.2とがっしりとした体型の方です。
この方の舌を見ると、紫がかり、舌の裏側の静脈が膨れ、枝分かれしており、瘀血(おけつ)体質と考えられました。
初診時の血圧は196/126mmHg。最初1種類の降圧剤からはじめ、少しずつ薬を増やし、3種類(アテレック・セララ・フルイトラン)にしましたが、まだ上の血圧が150台でした。
平成22年4月28日、来院された時の後の血圧はまだ172/96mmHgと高く、それだけでなく、「最近よく鼻血がよく出て、のぼせる。」と、いわれました。また、顔も真っ赤に紅潮しておられましたので、。黄連解毒湯(おうれんげどくとう;症例31、105参照)を朝夕の2回、降圧剤に足して飲むように指導したところ、6月1日、来院され、「鼻血もすぐ止まり、のぼせなくなりました。」と、いわれました。顔の赤みもとれていました。
それだけでなく、血圧も130/72mmHgに下がっていました。

本症例に対するコメント

高血圧症の人の中で、身体ががっしりとして、活動的で、積極的な方は、漢方医学の観点からは、「陽証で実証」と分類されます。
そのなかで、それぞれの症状に合わせて、適切な漢方薬が選択されます。

たとえば、便秘・肥満し、肩がこりやすい、厚い乾いた舌苔があり、頭重感、みぞおちからその両脇にかけて張って苦しく、抵抗と圧痛がみとめられるとき(これを「胸脇苦満(きょうきょうくまん)」といいます)には大柴胡湯(だいさいことう)
顔が赤い、耳が赤い、気分がいらいらし、頭に血がのぼっている感じがする、みぞおちがつかえて気分が悪い、頭痛やめまい、耳鳴り、鼻血が出る、目に充血がある、眼底出血を起こしやすい、不眠、不安感があるような場合で便秘を伴う場合には、三黄瀉心湯(さんおうしゃしんとう)、便秘がない時は黄連解毒湯(おうれんげどくとう)
動悸、不眠、精神不安、精神過敏で興奮しやすく、ものごとに驚きやすい、胸脇苦満がみとめられるときには、柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれいとう;症例86参照)といったように、症状に応じて適切な漢方薬が処方されるのです。

 

119.片頭痛・両向こう脛の痛み・生理痛

次の症例は28歳、女性です。
高校生の頃より片頭痛があり、また、冷えると両方の向こう脛が痛み、また結婚して2年2ヶ月たつがまだ赤ちゃんができないと、お隣の揖保川町から平成22年5月17日来院されました。他に、肩こり・体がだるい・疲れやすい・手足の冷えもあります。
身長154cm、体重45kg、BMI18.9 と痩せを認めます。
舌診で、舌が腫れぼったく、また白苔がついており、腹診では、みぞおちが少し硬くなって(=心下痞硬(しんかひこう)という)、胃内停水音(いないていすいおん)(動いた時や胃の辺りを叩いた時などに、胃の所でチャプチャプと音がするような状態を、漢方では胃内停水と言います。これは胃に余分な水分が溜まってしまった状態です)を認めました。
「水毒」があると考え、呉茱萸湯(ごしゅゆとう;症例51、139参照)と、生理痛に、芍薬甘草湯(しゃくやくかんぞうとう;症例32参照)を合わせて2週間分処方したところ、6月3日に来院され、「上(頭痛)も下(向こう脛)も痛みが取れました。」と、大変喜んでいただきました。よく合っているようですので、このまましばらく続けていく予定です。

呉茱萸湯について(下田 憲先生)

うつ傾向(気がめいる)と脾虚(症例97参照)により、胃が痛い・冷える(全身の機能が落ちている)・頭痛がするという症状が出ているので、一番大事な生薬は、「人参」になります。
しかし、呉茱萸湯を飲みたくなるときの患者さんの訴え、医者の側も取りたい症状が「呉茱萸」に一番合致するので呉茱萸湯といいます。
「呉茱萸」が消化器・腹部を温め、「人参」がやはり胃腸機能を賦活し、「大棗」は軽い精神安定作用、「生姜」は吐き気を抑える作用を呈します。このため本剤は、胃腸系の方剤と考えられそうですが、病の主体は冷えにあり、これを去れば頭痛・腹痛・吐気等の消失が期待される状態に適応が多いです(直接の鎮痛作用や制吐作用は軽いのだが‥)。

本剤のキーワードは、激しい拍動性の発作性頭痛(片頭痛あるいは頭頂部の頭痛)・吐気冷えで、両肩から項部かけて詰まる感じを伴います。

 

120.水毒(すいどく)による蕁麻疹

次の症例は33歳、男性です。
2年ぐらい前より、背中や臀部を中心に蕁麻疹が出るようになり、皮膚科で抗アレルギー薬(商品名ジルテックやステロイドとの合剤であるセレスタミン)とステロイドの軟膏ををもらうが一向に改善しないため、加古川市の漢方専門のクリニックへいったところ、柴胡桂枝湯(さいこけいしとう;症例39参照)をベースにひどい時には、黄連解毒湯(おうれんげどくとう;症例31、105、118参照)を飲むように漢方薬を処方されたが、これも無効のため、お隣のたつの市から平成22年5月13日来院されました。
他の症状として下痢しやすい・鼻水がよく出る・みぞおちがつかえる・口の中が苦い・口内炎ができやすい・体がだるい・食後眠くなるなどの気虚を思わせる症状もあります。
身長172cm、体重88kg、BMI29.7と肥満を認めます。
この方の舌を見ると、厚くはれぼったい感じがし、また、両側の舌の縁に、歯型が波打つようについていました(歯痕舌(しこんぜつ))。

画像の説明

腹診では、軽い胸脇苦満(=胸から脇(季肋下)にかけて充満した状態があり、押さえると抵抗と圧痛を訴える状態)と右側のみ腹直筋緊張を認めました。胃内停水音は認めませんでした。
むくみ(水毒)体質による蕁麻疹(症例9参照)と診断し 、茵蔯五苓散(いんちんごれいさん;症例9、13参照)と気虚に対して六君子湯(りっくんしとう;症例97参照)を一ヶ月分合わせて投与しました。
6月10日、来院された時には、「蕁麻疹は、疲れのひどい時にたまに少し出る(この言葉でこの方のベースに気虚があるのがわかります。)くらいで、ほとんどでなくなりました(10日に一度出るか出ないかぐらい)。」と、大変喜んでいただきました。

水毒の原因ですが、この方は医療従事者(理学療法士)で、知り合いの循環器科のドクターの、「水を毎日2リットル冷やして飲むと体によい。」という指示を忠実に守っていたのと、果物や甘いものが大好きでよく摂っていたことが原因ではないか、と思わられました(症例133参照)。

治療には、漢方処方と同時に、食生活や生活習慣是正指導も重要なのです。

水毒について

水毒とは、漢方医学において、人体に水分が溜まり、排出されないことによって起こるとされる諸々の症状のことです。
冷え・めまい・頭痛・アトピー・鼻炎・喘息・疲労感・頭重感・むくみなどは水毒による症状であることがあります。

水分の摂取量が多いにもかかわらず1日の排尿量が極端に多かったり少なかったり、食間にお腹の辺りを軽く叩いてチャプチャプと水の音が聞こえる(=胃内停水音)ならば水毒が疑われます。

原因として水分の摂りすぎや運動不足で水分が排出されないことが挙げられます。
特に日本の気候は大気中の湿度が高いため、体内の水分が排出されにくい環境にあるといわれています。


水毒と五苓散について(下田 憲先生)

水の代謝に関係する臓腑は、「脾(消化器系)」・「肺」・「腎」(この3臓腑の関係を”水のトライアングル”と呼ぶ)である。

脾は、胃で消化吸収された、からだに必要な水分をさらに吸収し、上部にある肺に送り込み、
肺は、送られてきた水分を、皮膚や上気道に運び、そこを潤し、不必要なものを汗として排泄させます。
また肺は、高い位置にあることから、全身に水分を噴水のようにまいて(=宣発;せんぱつ:発散の意)、身体の内外を潤し、余分な水分は「肺」から「腎」へと降ろされて(=粛降;しゅっこう)、不必要なものが尿として排泄されるという流れです。

五苓散は最も代表的な利水剤で、口乾、自汗(自然発汗傾向)、尿不利(尿量減少)が主要な使用目標である。
構成生薬のうち、“朮”は主に「脾」に働き、“茯苓”が「脾」から「肺」に働き、“桂枝”は「肺」から「腎」に働き、“沢瀉”や“猪苓”が「腎」に働く。つまり”水のトライアングル”すべてに効く薬で構成されている。そのため、水の病証と判断したら、五苓散を目をつぶって出せば、どんな病気にも一定の効果があるはずである。

水の病証と判断するポイントは、
1)舌が白くぽってりと膨らんで、みずみずしい。ひどいと歯痕を認める

2)胃内振水音(脾がきちんと水を処理できていない徴候)を認める

が、代表的である。また、肺から腎にもっとも粛降を促すのは麻黄で、肺や脾の働きを活発にする主薬は葛根なので、五苓散に、葛根湯を加えると最強の利水剤になります。この場合五苓散も葛根湯もあまり多くはいらない。五苓散3.0、葛根湯2.0ぐらいで十分である。
例えば、メニエール病(内耳の水腫)の時など、半夏白朮天麻湯を主処方にして、頓服で五苓散と葛根湯の組み合わせを出しておいて、ひどい発作の時に飲ませるよい。

二日酔いの時や、婦人の特発性浮腫もこの五苓散と葛根湯の組み合わせが一番である。

また、慢性蕁麻疹の場合は、茵蔯五苓散と葛根湯の合方がよい(茵蔯蒿で脾への働きを強める)。水毒による蕁麻疹は西洋医学では治せないのです。これを飲ませれば、その日から蕁麻疹が出なくなります。

 

121.掌蹠膿疱症(しょうせきのうほうしょう)の漢方治療

次の症例は40歳、女性です。
約3ヶ月前より、手や足の皮膚が乾燥し、皮がめくれたり、皮膚に亀裂がはいるため、皮膚科を受診したところ、「水虫ではない。」といわれ、正式な病名は告げられず、オキサロール軟膏(表皮角化細胞に対する増殖抑制効果をもち、乾癬・掌蹠膿疱症・掌蹠角化症に適応あり)と、ステロイド軟膏のアンテベートとパスタロン軟膏(皮膚の角質層の水分を保持する作用のある尿素を含み、アトピー皮膚、進行性指掌角皮症(主婦湿疹の乾燥型)、老人性乾皮症、掌蹠角化症、足蹠部皸裂性皮膚炎、毛孔性苔癬、魚鱗癬足蹠亀裂性皮膚炎などに適応あり)を処方されましたが、2ヶ月間使用しても全く無効のため、岡山県美作市より、平成22年5月20日来院されました。
身長161cm、体重70kg、BMI27.0と肥満を認めます。また、便秘もあります。

来院時の所見
画像の説明

この方の舌を見ると、紫がかり、舌の裏側の静脈が膨れ、枝分かれしており、瘀血(おけつ)体質と診断いたしました。
そこで瘀血(おけつ)体質によく使う、桂枝茯苓丸加薏苡仁(けいしぶくりょうがんかよくいにん;症例67参照)と、桂枝加黄耆湯(けいしかおうぎとう)を合わせて一か月分処方いたしました。
6月14日来られたときには、下の写真のようにほぼ治っており、大変喜んでいただきました。それだけでなく、「体がなんだかとても軽く調子いい。」ともいわれました。
ただ、便秘は相変わらず(飲み始めて4日間ぐらいは調子よかったそうですがすぐにもとどおりになった)のようで、ダイオウ末を少量追加して、今度は処方させていただきました。

画像の説明

掌蹠膿疱症については、症例33、323も参照ください。

桂枝加黄耆湯について

桂枝加黄耆湯は、体の熱や腫れ、あるいは痛みを発散して治します。また、汗を調節し、皮膚の状態をよくする作用もあるといわれます。具体的には、寝汗やあせも、あるいはカゼのひき始めなどに使用します。
山梨市の雨宮修二先生が、「漢方研究」という雑誌の2009年10月号に、「掌蹠膿疱症に対して使用したところ、有効率83.6%であった。」と、報告されておられましたので使用いたしました。

 

122.帯状疱疹(ヘルペス)後神経痛(2)の漢方治療

次の症例は73歳、女性です。
普段、高血圧症や、高コレステロール血症で当院へ通院中の患者さんです。
平成21年12月14日、痛みを伴う皮疹(最初に左背部から始まりお腹の方へ拡がった)を訴え来院されました。
帯状疱疹と診断し、ヘルペスウイルスの増殖をおさえるバルトレックスという薬と、越婢加朮湯(えっぴかじゅっとう;症例94、109、184参照)を合わせて2週間分処方したところ、4日後の12月18日に、「痛みが全くひかない。」といって再度来院されました。
私が、「痛みはすぐにはひきません。1ヶ月しても半数の人は痛みが残っています。」と、話しましたが、回りの人の勧めもあって、そのまま総合病院の皮膚科に行かれたそうです。
皮膚科で入院し、点滴等の処置を受けましたが、結局痛みは全く引かず、麻酔科で1週間ブロック注射もしましたが、痛みは変わらず残ってしまい、平成22年3月23日当院へ戻ってこられました。
この方はもともと冷え症の方で、西洋の鎮痛薬などを長期に続けたために胃も悪くされ、顔色も悪かったので、気虚+血虚に使う当帰湯(とうきとう;症例5、71参照)と、体を温めるブシ末0.75gを開始しました。
2週間後の4月8日には、痛みが随分楽になったようで、笑顔がみられました。
5月14日には、「ほぼ痛みがなくなった。」と大変喜んでいただきました。
ただし、「まだ体は冷えて、今度は腰痛がでています。」と、いわれましたので、五積散(ごしゃくさん;症例36、37参照)を追加したところ、1ヶ月後の6月14日には、「腰の痛みもとれ、ヘルペスのところも痛みません。」と、いわれました。
やっぱり、帯状疱疹は急性期からきっちりと漢方薬で治療すべきですね。

帯状疱疹(ヘルペス)後神経痛については症例5、124、255も参照ください。

123.胃けいれん? 

次の症例は私の家内で、50歳です。
平成22年6月15日夜、のどが渇いたために冷蔵庫に冷やしておいた”飲むヨーグルト”を200ml一気に飲んだところ、5分ぐらいしてから急に右の背中かから激しい痛みが始まり、それがだんだん胃の方に移動してきました。痛みはひきつれるような痛みです。とにかく、”脂汗が出るような、胃に穴が開いたのではないかと思うような痛み”だったそうです。
お腹を触りますと冷たかったので、大建中湯(だいけんちゅうとう);症例44、396参照)を2袋お湯に溶いて飲ませたところ、5分ぐらいしてから少しずつ腸が動くようになり少しガスが出ました。そこで次に芍薬甘草湯(しゃくやくかんぞうとう);症例32参照)2袋をお湯に溶いて飲ませたところ、どんどん腸が動くようになり、ガスやげっぷが出てそれとともに痛みが10分ぐらいで半分ぐらいになり、約30分で全く痛みがなくなりました。
漢方を知らなければ救急車を呼ばないといけないところでした。

胃けいれん(病気の大辞典より)

古くから胃けいれんという病名がしばしば用いられていますが、これは俗語で、本当の意味の病名ではありません。
胃けいれんは、胃壁にある筋層が異常に緊張して痛むために、あたかも胃がけいれんしているかのように感じるものです。
胃けいれんといわれるものは、胃のあたり、すなわちみぞおちの部分が激しく痛みます。

この痛みは持続性ではなく、波の押し寄せるように変動します。
ほかには、吐き気、嘔吐を合併することも少なくありません。
はげしい痛みのために、転げまわることもあるようです。

したがって、胃けいれんというのは、いろいろな病気で起こる一つの症状と考えてよいでしょう。

大建中湯について

お腹の張りをやわらげ、また体をあたためて胃腸の調子をよくします。体力がなく冷え症の人に向く処方です。

  • 寒冷刺激によって蠕動亢進とか、痙攣がおき腹痛を生じ、それがウネウネと動いて、グルグルッとなるのを自覚する。
  • 痛みは痙攣性の強い痛みです。
  • 触診で臍のまわりが冷たい症例によく効きます。

 

124.帯状疱疹(ヘルペス)後神経痛(3)の漢方治療

次の症例は77歳、男性です。
平成20年9月、左の口唇から始まった水疱が、左顔面全体に広がり、帯状疱疹(ヘルペス)と診断され、総合病院に入院し、点滴等の処置を受けた後、鎮痛剤のロキソニン、抗てんかん薬で、三叉神経痛治療にも適応のあるテグレトールや、抗不安薬のデパス、睡眠薬のアモバンの投薬を受けるも、結局激しい痛みが残ってしまい、食欲不振のため60kg(身長161cm)あった体重が50kgと、10kg減ってしまい、人と話していても痛みのためふさぎこんでしまったりで、何かをしようという意欲までなくなってしまったそうです。そんな時、当院へ高血圧症で通院中(それ以外にひざの痛みがあり、それが漢方薬できれいに治った)の奥さんの勧めで、平成22年4月19日漢方治療を求めて来院されました。
とにかく、左の唇や歯茎と左の頬に強い痛みがあり、お風呂に入ったときだけ少し痛みがやわらぐそうです。
舌診で、舌が腫れぼったく、また白苔がついており、「水毒(+冷え)」があると考えました。
西洋薬はすべて中止とし、桂枝加苓朮附湯(けいしかりょうじゅつぶとう;症例23、104、203、206、319参照)+体を温めるブシ末(増量)を1ヵ月分投与しました。
1ヵ月後の5月27日には、左の頬の痛みが完全に消失していました。
さらに1ヵ月後の6月18日には、随分楽になったようで、笑顔がみられ、「左の唇や歯茎の痛みがごくわずかに残っているだけで、ほとんど気にならなくなりました。」と、いわれました。
奥さんも、「ごはんが以前のように、2杯ずつ食べれるようになり、田植えをすることもできました。」と、大変喜んでいただきました。
体重も53.4kgに増えていました。
このように漢方薬は、西洋薬の痛み止めのように、胃を悪くするどころか逆に良くしてくれるのです。やっぱり漢方薬はすばらしいですね。

帯状疱疹(ヘルペス)後神経痛については症例5、122、255も参照ください。

桂枝加苓朮附湯について

桂枝加朮附湯は、江戸時代の著名な医者、吉益東洞(よしますとうどう)が著した医書『方機(ほうき)』に収載されている薬方です。
関節痛、神経痛に効果があります。

体内の湿毒を除き、また全身の血行をよくし、体を温めながら痛みを緩和する漢方薬です。

 

125.低血圧症の漢方治療

次の症例は75歳、男性です。
パーキンソン病と低血圧症(上の収縮期血圧は、よくて90代、低いと60代だそうです)で姫路市の総合病院神経内科通院されていましたが、だんだん通院が大変となったため、平成20年5月16日当院を紹介されました。
身長166cm、体重58kg、BMI21.0。
パーキンソン病の薬はそのまま投与いたしましたが、低血圧症はメトリジン(選択的α1-受容体を直接刺激する作用により、末梢血管を緊張・収縮させ、血圧を上昇させる薬)という薬を飲んでいても98/66mmHgと低く、ふらつき等もあるため、補中益気湯(ほちゅうえっきとう;症例15参照)と、腹診で下腹部が軟弱無力で、圧迫すると腹壁は容易に陥没し、押さえる指が腹壁に入るような状態(小腹不仁(しょうふくふじん))を認め、腎虚(症例42参照)もあると考えられましたので、八味地黄丸(はちみじおうがん;症例58、216参照)も合わせて処方しました。
その後の血圧の推移は、
6月23日、126/66mmHg
7月29日、64/46mmHg
8月13日、76/56mmHg
9月25日、94/64mmHg
10月22日、98/66mmHg
11月21日、126/76mmHg
12月19日、122/76mmHgと、ずい分改善いたしました。

なお、この方は、現在に至るまで同じ処方を続けていただいておりますが、一番最近の平成22年5月27日も、132/76mmHgとよい状態が続いております。

低血圧症

低血圧は最高血圧が100mmHg以下のことで、低血圧に伴う症状がみられる場合を低血圧症といいます。

低血圧症にはいくつか種類があり、本態性低血圧症(原因がわからない低血圧)、症候性低血圧症、起立性低血圧症などがあります。

症候性低血圧症は何らかの疾患や薬などが原因で低血圧となることをいいます。症候性低血圧症の治療はその原因となる疾患を治すことが大切です。
起立性低血圧症は立ち上がると血圧が下がって低血圧の症状が見られます。
起立性低血圧症には原因が明らかな症候性起立性低血圧と、原因がわからない特発性起立性低血圧症に分かれます。

低血圧症の症状

本態性低血圧の場合は、めまい、失神、便秘、倦怠感、朝の調子が悪い、立ちくらみ、動悸、頻脈、食欲不振など様々な症状があります。

起立性低血圧症は、立ち上がると血圧が低下して、めまい、立ちくらみ、失神などの症状があります。

症候性低血圧症の場合は、内分泌疾患や神経疾患などによって低血圧が引き起こされているので、原因となっている疾患の症状が現われる可能性があります。

コメント

低血圧性めまいの治療には、補中益気湯を用います。
含まれる生薬の黄耆(おうぎ)を少量(15g以下)使うと、次第に昇圧が可能となり、30g以上の多量使うと降圧が可能で、気虚に属する高血圧症治療に用います。
日本のエキス剤の補中益気湯に含まれる黄耆は4gと少量で、長期の使用は、低血圧体質の改善に有効と考えられます(漢方診療日記p67(東洋学術出版社);風間洋一先生より)。

 

126.アルツハイマー型認知症

次の症例は86歳、女性です。
近くの内科クリニックで、アルツハイマー型認知症の薬であるアリセプトという薬と抑肝散加陳皮半夏(よくかんさんかちんぴはんげ;症例19、34、368参照)という漢方薬をもらわれていましたが、ごはんを食べたら下痢をし、食欲もないため、平成22年4月2日家族がつれて来られました。
発語もあまりなく、鬱々とした活気のない状態でした。
身長140cm、体重42kg、BMI 21.4。
舌診で、舌が小さく、舌が縮んで亀裂(=裂紋)がみられ、舌苔は認めませんでした。
腹診で、みぞおちが冷たく、少し、硬くなっていました(=心下痞硬(しんかひこう)という)。
西洋薬はそのままで、漢方薬を人参湯(にんじんとう;症例8参照)に変えて1ヵ月分処方しました。
1ヵ月後の4月30日には、「下痢はなくなり、食事もおいしく、大変元気になりました。」と、喜んでいただきました。
1ヵ月前と異なり、笑顔も見られ、積極的にしゃべられ、別人のようでした。


アルツハイマー型認知症と漢方

認知症の症状には、誰にでも見られる「中核症状」のほかに、人によって現れ方の違う「周辺症状」があります。
周辺症状は、お金を取られたと思い込む妄想や、あちこち歩き回って帰れなくなる徘徊、排泄物をいじる不潔行為などさまざまですが、こうした言動や行動につき合うのはとても大変なことです。介護をする人が疲れ果ててしまうことが少なくありません。

これまで、周辺症状に対しては抗精神病薬、抗うつ薬、抗不安薬などの西洋薬が使用されてきました。ところがこうした薬は症状を抑え込みすぎてしまい、食事をする、歩く、着替えるなどの日常の動きすらままならなくなることもあります。

それに対して漢方薬には、日常生活動作を低下させることなく困った症状だけを抑えていくという特徴があります。多く処方されているのは抑肝散というお薬で、神経の興奮状態を鎮めてイライラや不安を改善し、穏やかな生活を取り戻す手助けをしてくれます。
漢方医学では「肝のたかぶりは怒りや興奮などの精神神経症状をもたらす」と考えられており、このお薬はそれらを抑えることから抑肝散と名付けられました。もともと子どもの夜泣きや疳(かん)の虫を治すための漢方薬でしたが、現代では年齢を問わず、さまざまな精神神経症状に用いられます。西洋薬に比べると副作用が非常に少ないので、安心して長期間服用できるお薬といっていいでしょう。
また、漢方薬は上手に使用すれば西洋薬の量を減らしたり、副作用による転倒を抑えたりすることも可能です。長く薬を飲み続けなければならない認知症の患者さんには、非常に適したお薬といえるでしょう。

 

一方、認知症の人すべてが同じ薬を飲むわけではなく、「それぞれの体質によって薬の種類が異なる。」と、いうのも漢方薬の特徴です。

抑肝散がまるで西洋薬のように投与されているケースも稀にあるようで、少し気になります。漢方薬を画一的に投与することは、極力避けたい気持ちです。
確かに抑肝散適応のケースが多いようですが、私(風間先生)の場合、もの静かで抑うつタイプの認知症や脳梗塞の治療・予防には補中益気湯(ほちゅうえっきとう)当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)帰脾湯(きひとう)を用い、抑肝散は主に興奮や緊張タイプに用いています。
また、補中益気湯加減の服用で元気が回復し、逆に攻撃的な傾向が現れると、抑肝散に転方します。

(漢方診療日記p164(東洋学術出版社);風間洋一先生より)。

この症例のコメント

抑肝散加陳皮半夏は、漢方の古典といわれる中国の医書『保嬰撮要(ほえいさつよう)』に収載され、「抑肝散」という元々小児の、ひきつけに用いられている処方に、我が国での使用経験から陳皮と半夏という生薬を加えて、成人にも適応するよう工夫された薬方です。

陳皮・半夏の組み合わせは二陳組といい、二陳湯以下、六君子湯・抑肝散加陳皮半夏・竹茹温胆湯・参蘇飲・香蘇散・二朮湯・五積散などの方剤に配されています。

二陳組は、胃腸や呼吸器における水分過剰や喀痰過剰(=痰飲;たんいん)を去る効能があり、湿を乾かします。
また、陳皮には気を晴らす効果もあるためうつ状態にもよいのです。

しかし、胃腸を補う方剤ではなくむしろ刺激して働かせ、内部の水や食物を去る作用を持ち、ある面では攻める方剤とも言えます。
そのため、一定以上の胃腸虚弱者に用いると激しい下痢を生じることがあり、要注意です。
本症例がまさにこの状態であると思われます。

自然界と同じで湿気が多いところにはたくさんの苔がへばり付きます。
痰飲があれば、舌の表面に分厚い苔が現れ、ベトベトした苔がつきます(これを膩苔;じたいという)。
本症例は、舌に苔はまったく認めず、明らかに薬が合っていません。

抑肝散陳皮半夏がまるで西洋薬のように投与されているケースと思われ、ある意味本当に危険だと思われました。

 

127.光線過敏性皮膚炎の疑い

次の症例は28歳、女性です。
平成21年1月17日蕁麻疹のため初診。
西洋薬のタリオンを処方したところ、悪心・口渇・倦怠感が生じたため中止し、漢方治療をすることにしました。
特に疲れがたまったり、甘いものや塩辛いものを取りすぎるとでやすいそうです。
この方の舌を見ると、厚くはれぼったい感じがし、また、両側の舌の縁に、歯型が波打つようについていました(歯痕舌(しこんぜつ))。身長158.3cm、体重46.8kg、BMI 18.7。
症例120と同様水毒の蕁麻疹と判断し、、茵蔯五苓散(いんちんごれいさん;症例9、13、120参照)と甘い物が好きで、便秘もあることから防風通聖散(ぼうふうつうしょうさん症例18参照)を一ヶ月分合わせて投与しました。
3月13日来院され、「漢方薬がおいしく、顔のむくみが引いて、蕁麻疹もでず、便通もちょうどいいです。」と、いわれました。
その後、薬を適当に続けられて調子よかったのですが、今回、薬を飲んでいても、顔面(特に眼囲)、上肢などに、かゆみを伴う皮疹が生じ、平成22年5月22日来院されました。顔や腕の露出部位に、紫外線が強い時期になって皮疹が出現しているために光線過敏性皮膚炎を疑い、日光皮膚炎(いわゆる日焼け)によく用いる越婢加朮湯(えっぴかじゅつとう;症例94、109、184参照)と、皮膚の熱感を取り、眼瞼周囲の病変に特異的に用いられる梔子柏皮湯(ししはくひとう;症例276、314、443、588、686参照))を合わせて一ヶ月分だしたところ、6月25日に来院され、ごくわずかに眼の下にが残っているように見えましたが、痒みもなく、ほとんど治癒しておられました。

後日談ですが、9月10日来院された時に、「一週間ほど薬を止めたら、顔や足に発疹が出現し、自分の勤めている病院で処方された、西洋の抗アレルギー薬のアレロックを飲んだところ、全く効かないだけでなく、眠くてしかたなかった。そこで、漢方薬を飲んだところすぐよくなりました。漢方は確実に効いています。」と、いわれました。

 

光線(日光)過敏症については、こちらをクリック画像の説明河崎医院たより 「あけび」2009年5月 2号 特集『光線(日光)過敏症』

こちらもクリック画像の説明日光皮膚炎には気をつけて!

 

128.腎虚によるめまい

次の症例は76歳、女性です。
高コレステロール血症・胃潰瘍などで、当院へ通院中の患者さんです。
平成22年6月15日、この日は胃カメラをする予定の日でした。朝8時頃に電話があり、「朝からめまいがして、今日はできそうにありません。」と、予約をキャンセルされました。
メリスロンという手持ちのめまいの薬をのまれたそうですが、いっこうにおさまらず、6月21日家族といっしょに来院されました。左耳鳴りもするそうです。
身長142cm、体重58kg、BMI 26.7。
舌を診ると、写真のように真赤で、縮んで亀裂(=裂紋)がみられました。これは、もともとそういう人もいますが、潤い不足になっているときによくみられます。口の中が乾燥し、舌がうまく回らず、しゃべりにくそうでした。
画像の説明
腹診では下腹部が軟弱無力で、圧迫すると腹壁は容易に陥没し、押さえる指が腹壁に入るような状態(小腹不仁(しょうふくふじん))を認め、腎虚(症例42、58、128、131、161、194、216参照)と考えられました。
六味丸(ろくみがん;症例194参照)滋陰降火湯(じいんこうかとう)を合わせてを2週間分処方しました。
7月2日、来院された時には、「めまいもすぐおさまりましたし、口も渇かず、しゃべりやすくなりました。」と、にこにことしていわれました。
8月9日、来院された時には、「めまいもありませんし、耳鳴りもおさまりました。」と、いわれました。


知柏地黄丸について

知柏地黄丸は、漢方の古典・医宗金鑑に収載された方剤です。
中高年になってこの腎のはたらきが衰えてくると、体がだるく、あるいは腰痛が起こるなどして下半身のおとろえを感じ、また顔がほてる、あるいはのぼせて口のかわきを覚えながら、時に手足が冷たく感じるとか、トイレが近い、かすみ目、疲れ目、のぼせ、めまい、頭がボーッとする、頭がふらつく、思考力減退、耳鳴などといったことが起こることがあります。
これらは中医学で陰虚火旺(いんきょかおう)の症状といって、体の中の潤いをもたらす体液(陰液)が不足(虚)し、体の器官の働きがいわばオーバーヒートした状態(火旺)になっていることから起こる症状とみなします。
これは若い人でも過労などで体力・気力を過酷に消耗したあとにもみられる状態です。
知柏地黄丸は六味丸に、神経系の興奮をおさえるとされる知母(ハナスゲの根茎)と黄柏(キハダの樹皮)を加えた漢方薬です。
エキス剤では、六味丸に、滋陰降火湯や加味逍遥散(かみしょうようさん)を足して代用いたします。


腎虚

「腎(じん)」とは、腎臓・膀胱などの泌尿器官や生殖器、内分泌系などの総称で、全身にエネルギーを送ったり、水分の代謝を調整したりしています。

「腎は精を蔵し、精は髄を産む。」

この場合の髄は主として脊髄を指しますが、脊髄は脳と相通じます。
脳は「髄の海」と言われ、髄が満たされておれば、脳は正常な活動を維持できます。
しかし、腎精が不足して、髄海が空虚になると、めまい・物忘れ・耳鳴りなどの症状が現れるとされています(耳鳴り・難聴などの蝸牛症状が伴いやすい)。

 

129.うつ病の漢方治療

次の症例は28歳、男性です。
うつ病で心療内科に通い、サイレース(脳の神経をしずめる作用があり、不安や緊張感をほぐし気分をリラックスさせて、自然に近い眠りに誘う薬)、セルシン(抗不安薬)、ヒルナミン(気持ちを穏やかにするという作用で、うつ病によって引き起こされる不安感などを鎮めるために応用的に使われる)、メチコバール(ビタミンB12;手足のしびれや痛みを伴う末梢性神経障害の治療薬)の投与を受けているにもかかわらず、平成22年1月頃より、体がだるくて疲れやすく、肩こりや、体があちこち痛み、食欲もなく、3ヶ月間で体重が90kg(身長178cm)から61kgに減っため、平成22年4月13日当院へ受診されました。

舌はぼてっとして、症状とあわせて、「気虚(ききょ)」が疑われました。そこで、補中益気湯(ほちゅうえっきとう;症例15参照)を処方したところ、少しずつ状態がよくなり、7月2日には、体重が67kgと6kg増加し、それだけでなく、「イライラもとれ、肩こりや、体があちこち痛みもなくなり、体も大変元気になった。」と、喜んでいただきました。

コメント

うつ病は現在、気分障害の中に分類されています。
脳の中のセロトニンやノルアドレナリンといった神経伝達物質の代謝異常がその発病に関係しているということが最近の研究で明らかになってきました。
うつ病の症状として、はっきりとした原因がないのに気分がゆううつである、疲れやすい、何もする気が起こらない、朝は調子が悪いが午後から夕方にかけて調子がよくなる、考えがまとまらない、不眠、食欲不振などの症状をあげることができます。
西洋医学的治療としてSSRI、SNRI、三環系抗うつ薬に、必要に応じて抗不安薬、睡眠薬、抗精神病薬などが用いられます。

精神科の分野に漢方治療を用いる理由は、「活力を高め、生活の質を改善する」ということにあると考えています。
クオリティ・オブ・ライフ(ある人がどれだけ人間らしい生活を送り、幸福を見出しているかを尺度としてとらえる概念)の改善と言い換えても良いでしょう。精神科の分野に漢方治療を用いる理由はここにあるのではないでしょうか。

 

130.冷房病の漢方治療 

次の症例は37歳、女性です。
お弁当を作る会社でパートで働いておられる方です(そのため職場はガンガン冷房が効いているそうです)。
最近、体がだるい・疲れやすい・手足が冷える・頻尿・汗をかかない、そして一番困るのが、朝腰痛が起こる、腰から背中にかけて板を張ったようにこわばるという症状だそうです。
漢方治療を求めて、平成22年5月12日来院されました。身長152cm、体重53kg、BMI22.9。
舌診と腹診は特に異常を認めませんでした。
冷房病と考え、五積散(ごしゃくさん;症例36、37参照)に、体を温めるブシ末を加えて1か月分処方しました。
7月5日来院された時に、「腰痛もいいし、体の冷えもよくなり、すごく体調がいい。」と、喜ばれました。

冷房病について

もともと人間は、周囲の気温の変化に合わせて体の調節機能が働くのですが、長時間の冷房にさらされることにより、その調節機能が失調し、様々な健康障害を引き起こします。
体のだるさや疲れ、手足のしびれ、頭痛、腰痛、神経痛、食欲低下、下痢、女性では生理不順や生理痛などの症状が見られるものを冷房病といいます。

冷房病については、こちらをクリック画像の説明ツムラなるほどなっとく漢方薬

 

131.耳鳴り・両膝の痛みの漢方治療

次の症例は70歳、女性です。
平成21年春頃より、両方の耳鳴りが出現。「リーン」という高い音だそうです。
耳鼻科受診し、いろいろな薬を出されましたが、全く無効で、「もう治らない。」と、いわれたそうです。
それとともに膝の痛みもあり、整形外科で水を抜いてもらいましたが、痛みが引かないため、平成22年4月10日、高砂市より来院されました。他の症状として、食後眠くなる、汗をかきやすいという症状もあります。
舌を診ると、赤く、縮んで亀裂(=裂紋)がみられました。
腹診では下腹部が軟弱無力で、圧迫すると腹壁は容易に陥没し、押さえる指が腹壁に入るような状態(小腹不仁(しょうふくふじん))を認め、腎虚(症例42、58、128、161、194、216参照)と考えられました。
腎虚に使う牛車腎気丸(ごしゃじんきがん;症例47参照))と、変形性膝関節症によく使う防已黄耆湯(ぼういおうぎとう;症例76、111参照)を合わせて一ヶ月分処方いたしました。
一ヶ月後の、5月11日来られた時には全く変化ありませんでしたが、二ヶ月後の、6月12日来られた時には、「6月の初め頃に急に耳鳴りが消失しました。また、膝も調子よくなりました。」と、いわれましたので、今も同じ処方で続けていただいております。

変形性膝関節症の漢方治療については症例2,76,111,184,207,209,227,228,245,268,269,282,283,300,311,319,334,355も参照して下さい。

耳鳴りの漢方治療については、症例34、342、430も参照ください。

耳鳴り・難聴の漢方処方について

耳鳴り・難聴の漢方処方については、こちらをクリック画像の説明昌平クリニック

こちらもクリック画像の説明昌平クリニック

 

132.高血圧の随伴症状の漢方治療

次の症例は44歳、男性です。
2年前より、高血圧を指摘されています。
それだけでなく、頭痛・肩こり・イライラする・のぼせ・手足の冷え・耳鳴り・寝つきが悪い・体がだるい・下痢しやすい・尿の切れが悪いなどの症状もあり、ホームページを見て、平成22年4月15日当院へ来院されました。
身長162cm、体重68kg。血圧は、156/100mmHg。お母さんが高血圧症だそうです。
この方の舌を見ると、紫がかり、舌の裏側の静脈が膨れ、枝分かれしており、瘀血(おけつ)体質と診断いたしました。
加味逍遥散(かみしょうようさん;症例72、141参照)と、釣藤散(ちょうとうさん;症例60、274、324参照)を合わせて1ヶ月分処方したところ、5月7日来院され、随伴症状はかなり改善しました(のぼせが残る)が、血圧が154/106mmHgと高いままでしたので、アムロジピン5mgを追加したところ、6月16日来院され、血圧が132/84mmHgと下がりました。
7月17日来院された時には血圧が126/82mmHgとさらに下がり、随伴症状も、尿の切れが悪いという症状以外はすべて消失したと喜んでいただきました。以前泌尿器科で前立腺肥大症の傾向があるといわれたことがあるそうで、尿の切れが悪いのはそのためかもしれません。

同じような症例を、症例324、561に載せています。

高血圧の随伴症状

高血圧は「サイレントキラー」と言われているように、症状がほとんどない病気と思われています。確かに症状が出ないケースもありますが、実は症状があっても、本人が高血圧によるものだと気付いていないケースもあります。
こうした高血圧に伴って起こる症状を、高血圧の随伴症状と言い、次のようなものがあります。

頭痛・頭重感(頭が重い感じ)・のぼせ・耳鳴り・肩こり・動悸・夜尿(夜中のトイレ)・不眠・眼のかすみ・むくみ・手足のしびれなど。

このようなとき、漢方医学の出番です。漢方薬は一般に本態性高血圧を対象としており、特に高血圧に伴うさまざまな症状を改善させる作用があります。

柴胡加竜骨牡蠣湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)は、比較的体力があって、神経過敏・不眠・心悸亢進などの症状がある高血圧の人に用いられます。

また黄連解毒湯(おうれんげどくとう)は、体力があり、のぼせ気味で顔色が赤く、不眠や気分がイライラするなどの症状がある高血圧の人に用いられます。

大柴胡湯(だいさいことう)は、がっしりとした体格で比較的体力があり、便秘傾向の高血圧の人に用います。
特に肩こり、頭痛などを伴うときによく使われます。

このほか慢性的な頭痛、めまい、肩こりがある高血圧の人には,釣藤散(ちょうとうさん)がよく使われます。

また肥満傾向にあって、便秘がちな高血圧の人には、防風通聖散(ぼうふうつうしょうさん)が使われます。

体力が弱く、冷え症、肩こり、頭痛、頭重、耳鳴りがある場合には、七物降下湯(しちもつこうかとう)がよく使われます。

 

133.冷えによる胃痛

次の症例は24歳、女性です。
一ヶ月前より胃痛があり、腹も張るため、総合病院で胃カメラを受けましたが、胃炎のみと言われ、タケプロン(胃酸の分泌を強力におさえ、胃酸の悪い影響をなくす。結果的に、胃潰瘍の治りがよくなり、痛みや胸焼けもやわらぐ)とガスモチン(弱った胃腸の運動を活発にして、食べ物を胃から腸へ送り出すのを助けます。そうすることで、吐き気や嘔吐、食欲不振や膨満感、胸やけなどの症状を改善します)を処方されたが一向に改善しないため、漢方治療を求めて平成22年7月1日姫路市より来院されました。
その他の症状として、風邪が治りにくい・食後眠くなる・立ちくらみ・手足の冷えなどがあります。
体力はやや虚で、舌はやせ、腹診で、みぞおちが冷たく、少し硬くなっていました(=心下痞硬(しんかひこう)という)。
人参湯(にんじんとう;症例8参照)と、”冷えて痛む”がキーワードの大建中湯(だいけんちゅうとう;症例44参照)を合わせて一ヶ月分処方したところ、7月22日来院され、立ちくらみ以外の症状はとれたと喜んでいただきました。立ちくらみは血圧が102/64mmHgしかなく、低血圧が原因かもしれません。

織部 和宏 先生の人参湯症例

症例は、40歳 女性。

最近、知人に奨められ水を多く飲むようになった。夏に入り暑さに負け、栄養をつけようと、この1週間、柿や梨、スイカを連日食べ、昨日はかき氷をたべたところ、今朝より胃がつまって苦しくなり、シクシク痛むようになったので来院した。

体力はやや虚で、脈は沈細、舌は偏痰・歯痕・白滑苔、腹力は弱く心下痞硬を認め、しかも按じて冷たく感じられた。もともと冷え症タイプで胃弱の人が冷たいものを摂り過ぎた結果、起した胃寒証と思われた。こんな場合のファーストチョイスは人参湯である。

そこで、人参湯を1回2.5gずつ1日3回で与えたところ、1週間分の投与で快癒した。

最近は、西洋医学流循環器科医が、「血栓予防のため水をいっぱい飲め。」と、盛んに推奨し、体質に関係なくドンドン水分を摂る人か増えてきた。

欧米人のように肉食が中心で体力があり、漢方医学的には陽証、熱証で、また多血症傾向にあれば車で言えばラジエータの役割として水を多く摂ることは良い事ではあるが、日本人に比較的見られる虚証で冷え症人の場合はどうであろうか。

日本食の場合、御飯は水で炊くし、ミソ汁もお茶も飲む。それに更に大量の水をガブガブ飲んだら体のバランスはどうなってしまうのだろうか。
「ただでさえ日本人は水毒にからんだ病気が多い。」と、いわれているのにである。

(暑い夏にいかにもありそうな症例でしたので載せました。
私も、症例120でも述べましたが、水を強制的に飲むということの弊害を、漢方医は皆、危惧しております。)

 

134.夜間の咳、アレルギー性鼻炎

次の症例は4歳、女児です。身長107cm、体重23kg。
小さい頃より頻繁に、中耳炎や蓄膿症や扁桃炎を起こし、その度に抗生剤で加療を受けていたそうです。
また、一年中鼻アレルギーがあり、くしゃみ・鼻水・鼻づまりが続き、それに加えて、今回夜間の咳が、抗生剤のクラリスやシングレア(アレルギーの発症には、ヒスタミンやロイコトリエンなどいろいろな体内物質が関与しており、本剤は、選択的にロイコトリエン受容体に拮抗し、抗炎症作用、気管支収縮抑制作用を示し、気道過敏性の亢進が抑制され、喘息発作が起こりにくい状態になります。同様に、鼻粘膜においても抗炎症作用、過敏性抑制作用を発揮し、くしゃみや鼻水、鼻づまりを改善する)を処方されても全く改善されないために、体質改善目的で佐用町より平成22年5月22日来院されました。
舌診や腹診は特に異常ありませんでした。
一貫堂(いっかんどう)医学(症例27参照)、解毒証体質の小児期に用いる処方の柴胡清肝湯(さいこせいかんとう;症例55参照)と、小児喘息の第一選択薬、神秘湯(しんぴとう;症例74参照)を合わせて処方したところ、6月21日来院された時に、「咳はすぐによくなりましたが、透明や黄色の鼻水がよく出ます。」と、いわれましたので、神秘湯に変えて、葛根加川芎辛夷(かっこんかせんきゅうしんい)を出したところ、7月17日に来られ、「鼻もすっかりよくなり、調子いいです。」と、おかあさんに喜んでいただきました。

柴胡清肝湯について

柴胡清肝湯は、簡単に言えば、”小児のアレルギー体質改善薬”です。
いわゆる漢方の、「免疫系に働きかける、最強の消炎剤」です。
小児の慢性扁桃炎・咽頭炎・アデノイド・アレルギー性鼻炎・蓄膿症・滲出性中耳炎・アトピー性皮膚炎などに、証に関係なく広く使えます
アレルギー性鼻炎や滲出性中耳炎では、葛根加川芎辛夷との併用が効を増強します(以上、下田 憲先生)。

 

135.気管支喘息、アレルギー性鼻炎の漢方治療

次の症例は11歳、女児(症例134の姉)です。身長155cm、体重55kg。
5歳のころより気管支喘息が出て近医で加療を受けていました。また、最近通年性のアレルギー性鼻炎も出て、抗アレルギー薬のタリオン、痰や膿の粘りをとり、排出しやすくするムコダイン、抗生剤のクラリス、フルナーゼ(鼻の炎症をとるステロイド点鼻薬)、葛根加川芎辛夷(目いっぱい西洋薬を入れても効かないので、漢方薬も処方されています。)の投与を受けても夜間の咳や鼻水鼻づまりなどが改善しないため、平成22年5月22日来院されました。
症例134の柴胡清肝湯(さいこせいかんとう)と、神秘湯(しんぴとう;症例74参照)を合わせて処方したところ、6月21日来院され、「症状がすべてとれました。」と、大変喜んでいただきました。
やはり、小児のアレルギー疾患には柴胡清肝湯が必要ですね。
また、この症例で興味深いのは、葛根加川芎辛夷を単独で投与しても大人のようには効かないということです。やはり、基本薬として柴胡清肝湯が入らないと、小児アレルギー疾患の治療はできないということです。

136.感染性胃腸炎のあと続く下痢

次の症例は6歳、男児です。
生後6ヶ月より喘息があり、また胃腸も弱いそうです。
そのため、今までも感染性胃腸炎を起こすと、そのたびに3週間ぐらい下痢が続いたそうです。
今回平成22年7月29日より、下痢・食欲不振・発熱(38.3℃)が出現し、近くの小児科で抗生剤のホスミシンや止痢剤(ビオフェルミン、タンニン酸アルブミン)を処方されましたが、下痢と発熱が続くため、8月2日来院されました。
五苓散(ごれいさん)と人参湯(にんじんとう)1包ずつをお湯に溶いてお尻から注入(症例3、90参照)しました。
翌日(8月3日)の朝には、解熱しましたが、下痢がまだ続くため、再度同処方を注腸しました。
当日午後になり、食欲がでてきましたが、やはり下痢は続くため、もう一度注腸したところ、翌日の4日にはピタッと下痢が止まりました。
漢方の良いところは、この症例のように、下痢がまだ同じように続いていても、食欲が出てきて、患児が元気になっているのがよくわかるので、安心して経過を見れることです。
やっぱり、胃腸炎には漢方薬が最適ですね。

137.便秘・腹部膨満感・両膝の痛み

次の症例は、38歳 女性です。
両方の膝の痛みで整形外科に通いましたがよくならず、平成22年6月18日来院されました。
最近急に3Kgほど体重が増え、整形の先生から「とにかく体重を減らしなさい。」と、言われたそうです。身長160cm、体重54kg、BMI21.1。
その他の症状として、便秘・快便感がない・腹が張る・足がむくむ・頭痛・肩こり・手足の冷え・腰痛・生理不順(生理がよく飛ぶ)などがあります。
この方の舌を診ると、舌の全体の色が暗い紫色(紫舌)になっており、舌の両サイドに、瘀斑(黒いしみのような斑点)といわれる紫暗色の部分がみられました。また、舌下静脈の怒張と枝分れも認めました。
画像の説明
腹診では、右下腹部に瘀血のしこりと圧痛を認め、「瘀血」(おけつ)体質と、足がむくみやすいことから水毒体質もあると考え、大黄牡丹皮湯(だいおうぼたんぴとう)と、水毒体質の膝の痛みによく使う防已黄耆湯(ぼういおうぎとう;症例76参照)に、体を温めるブシ末を合わせて開始したところ、7月12日に来院され、「便が毎日出るようになり、両方の膝も痛まなくなりました。その他の症状もいいのですが、まだ少し足は冷える感じがします。」と、いわれましたので、そのままの処方で今も続けていただいております。
整形の先生は膝の痛い人によく”体重を減らしなさい”と、いわれますが、この方は全く肥満もなく、また一ヶ月で体重も変わらないまま膝の痛みがとれていることをみても、あまり体重と膝の痛みは関係ないと私は考えています。

大黄牡丹皮湯について

大黄牡丹皮湯は中国の後漢時代、3世紀初期に張仲景という人が著した医書に由来する『金匱要略』という書に初めて記載された処方です。
本書では腸癰(ちょうよう)への処方という記述があり、腸癰は今で言う虫垂炎であるというのが定説です。実はこの薬は昔から虫垂炎の特効薬としてしばしば用いられてきました。
それ以外に生理不順、生理痛、下腹部痛、痔の痛み、便秘などにも使われます。
生薬構成は牡丹の根皮である牡丹皮(ぼたんぴ)・桃の種子である桃仁(とうにん)、冬瓜(とうがん)の種子である冬瓜子(とうがし)・含水硫酸ナトリウムの別名である芒硝(ぼうしょう)、そして多くの漢方薬で用いられる大黄という構成です。

大黄牡丹皮湯について、下田憲先生は、次のようにコメントされています。

大黄牡丹皮湯には、桂枝・茯苓が入っていないということで、精神症状があまり認められないのです。
桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)の人は、やはり、少し何かあったらのぼせる、精神症状が出るかなという感じです。
桃核承気湯(とうかくじょうきとう;症例499参照)はもっと激しく、もう気がめぐらなくって本当にイライラしている感じがわかります。
それに比べて、大黄牡丹皮湯の人は、結構静かでゆったりとした感じを受ける(本症例はまさしくこのような感じの方です)のです。
本当に最近の若い女性に多いです。ゆったりとスポーツやっていておおらかな感じの若い女性に大黄牡丹皮湯証の人が多いです。
昔は、桂枝茯苓丸か加味逍遥散(かみしょうようさん)か当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)、この3つに婦人薬というのは分かれるといわれていました。
今、若い女性が来院したら、半分近くは大黄牡丹皮湯の人のような気がします。それだけ体質が変わってきているのだと思います。

 

138.イライラする(何でもないことで子供や夫に当たり散らす)

次の症例は、35歳 女性(症例134,135の母)です。
元々、気管支喘息と春の時期の花粉症があります。
今回、肩こりの漢方治療目的で平成22年4月30日来院されました。
身長167cm、体重75kg、BMI26.9。穏やかな顔をした少しぽちゃっとしたご婦人です。
舌やお腹は大きな異常は認めませんでしたので、葛根加朮附湯(かっこんかじゅつぶとう;症例12参照)を一ヶ月分処方しました。
5月22日来院され、「肩こりは楽になりました。」と、いわれましたので、さらに一ヶ月分処方しました。
6月21日来院され、実は‥‥と、話されました。「普段からですが、特に生理前になるとイライラして主人や子供にあたってしまうんです。」と、いわれました。ひどいときは、「主人が動いただけで、腹が立ちます。」といわれましたので、加味逍遥散(かみしょうようさん;症例72、141参照)を葛根加朮附湯に足して一ヶ月分処方しました。
7月17日来院され、「イライラはかなりよくなりました。全然先月と違います。」と、いわれました。
外見では、穏やかで、全然当り散らすような感じに見えなかったので、家庭円満のため漢方薬が効いて本当によかったです。

生理前のイライラについては、こちらをクリック画像の説明はてな

松田邦夫先生の同様の症例

症例は45歳、女性(中肉中背、色白で少しぽちゃっとした婦人。穏やかな顔をした上品な奥様)。

〔症状〕
月経が不順・急にかーっとのぼせてくると動悸がして、汗をかく・頭痛・めまい・肩こり・不眠・イライラする(何でもないことで子供を怒鳴りつけたり、夫と喧嘩する)・目の奥が痛む・便秘。

「大体そんなところですか」と尋ねたのがまずかった。堰を切ったように話し始めたのである。
この後、延々と話し続けた。(症状はどれ一つ取っても、命にかかわるものなし。また訴えは、くるくる変わる。)

やっと話が途切れた(終わったわけではない)のをとらえて私は診察を始めた。
腹力は中等度、心窩部に軽度の振水音があり、左下腹部に瘀血の圧痛点がある。

〔経過〕
加味逍遥散を飲んで数日後からよくなりはじめた。2ヵ月後の来診時には「体の具合はすべてよい。ここ何年か、こんなに調子のよかったことはなかった」と言って喜んでくれた。その後、1週間分を1ヶ月くらいで服用するペースであったが、1年ちょっと続けた。
症状はすべて消失し、イライラも消えて、家庭は再び円満になった

(症例による漢方治療の実際;創元社 症例番号254より)

 

139.慢性頭痛・肩こりの漢方治療

次の症例は37歳、女性です。。
頭痛(側頭部中心)・肩こりがあり、鎮痛剤のロキソニンを飲んでいましたが、元々胃腸が弱く、時々吐気があったり、舌が荒れやすかったりするため、胃薬のムコスタも飲んでいました。また、肩こりには湿布を使用していました。また、冷え性でもあるため、漢方治療を求めて、平成22年8月12日来院されました。
舌は特に異常なく、腹診では、みぞおちが冷たく、少し、硬くなっていました(=心下痞硬(しんかひこう)という)。
呉茱萸湯(ごしゅゆとう;症例51、119参照)と、肩こりに、芍薬甘草湯(しゃくやくかんぞうとう;症例32参照)を合わせて2週間分処方したところ、5日後の8月17日に、「調子が良いので、もう薬やめていいですか。」との連絡がありました。
「頭痛の起こりやすい体質を変えるために、今しばらく続けるように。」と、話させていただきましたが、そんなに早く効いたのかと驚いたのが正直なところです。
症例119のところでも述べましたが、呉茱萸湯は、疲れやすく、手足の冷えがある虚証タイプの人で、吐き気を伴う強い頭痛発作を繰り返し、じっとしていられない片頭痛によいといわれています。
さらに、一般に、痛みの発作が起こった時に上腹部の胃のあたりが膨満し、つまった感じを訴えることが多かったり、発作の際に、頭が痛む側のうなじの部分の筋肉が収縮して、肩から首にかけて凝りがひどいときにもよいです。
大塚敬節先生も、「発作の起こるときは、項部の筋肉が収縮するから、肩からくびにかけてひどく凝る。
このくびの凝り具合が、この処方を用いる一つの目標になる。」と、いわれています。
この薬には、発作を抑えるだけではなく、長期にわたって連用すると、発作が起こらなくなる効果もあるといわれています。
漢方薬は、ピタッとはまれば、こんなに短期間に症状を取ってしまうんですね。
すばらしいです。

140.神経因性膀胱・繰り返す膀胱炎の漢方治療

次の症例は72歳、女性です。
1年3ヶ月前より、神経因性膀胱(症状は、残尿感・排尿痛・夜間尿・尿がでにくい)で、近くの泌尿器科クリニックを通院中の患者さんです。
エブランチル(前立腺肥大症・神経因性膀胱による排尿障害改善剤)・バップフォー(尿失禁・頻尿治療剤)・パンテチン(ビタミンB5)とともに、頻繁に膀胱炎を繰り返すためにオーグメンチン(抗生剤)という抗生剤がほとんど切れ目なく、胃薬のガスモチンとともに投薬されている状態でした。
また、漢方治療を求めて近くの内科を受診し、六君子湯(りっくんしとう;症例97参照)と、清心蓮子飲(せいしんれんしいん;症例99参照)を、処方されましたが、無効のため、その内科クリニックの先生の紹介で、たつの市から平成22年8月7日来院されました。
身長145cm、体重55kg、BMI26.2。
この方の舌を見ると、薄く、亀裂が入り、「血虚」が疑われるとともに、紫がかり、舌の裏側の静脈が膨れ、「瘀血」(おけつ)体質もあると診断いたしました。
腹診では下腹部が軟弱無力で、圧迫すると腹壁は容易に陥没し、押さえる指が腹壁に入るような状態(小腹不仁(しょうふくふじん))を認め、腎虚(症例42,58、128参照)と考えられました。
その他の症状として、下痢しやすい・口内炎ができやすい・口が渇く・咳や痰がよく出るという症状もあります。
裏寒(症例92参照)が隠れている(膀胱炎は必ずといっていいほど「冷えた」ときに起こる)と考え、人参湯(にんじんとう;症例8参照)に、五淋散(ごりんさん;症例79参照)を合わせて、二週間分処方したところ、8月21日に来られた時には、「2週間の間おかげさまで、抗生剤を飲まずにすみました。他の症状もいいようです。」と、抗生剤を飲み続けることに強い不安感を持っておられましたので、大変喜んでいただきました。
この症例の場合、清心蓮子飲では弱すぎて症状を抑え切れなかったのと、裏寒の存在が、膀胱炎を繰り返させていたのではないか、と考えられました。
その後8月28日に、一度膀胱炎を起こしただけで、10月25日に来られた時には、久しぶりに検尿を受けたときに、泌尿器科の先生に、「こんなに尿がきれいになったのは初めてだね。」と、びっくりされたとうれしそうにいわれました。

後日談ですが、平成23年2月14日来院された時に、お孫さんから、「最近髪の色が濃くなってきた。」といわれ、また、以前は目がしょぼしょぼしていたのが、最近ははっきりと見えるようになってきたそうです。血虚の症状が漢方薬でよくなってきたのだと思われます。
このように漢方薬を続けていると、予期しないよいことが起こるのは珍しいことではありません。

(類似症例79、99も参照してください)。

神経因性膀胱については、こちらをクリック画像の説明goo ヘルスケア

141.典型的な加味逍遥散の症例

次の症例は58歳、女性です。
下のようなメモを持って、平成22年4月5日当院へ来院されました。
身長148.6cm、体重40kg、BMI18.1と痩せ気味です。
今まで、精神安定剤のセルシンや、めまいの治療薬のメリスロンなどが処方されていました。メモ以外の症状として、冷え性、特に手足の冷えがあります。
見えにくいかもしれませんので、書き出だしてみます。

  • 日常生活でバタバタしたら疲れやすい。
  • 少し胸が苦しくなり、大きく息をすって大きく吐くと少し楽になる。
  • 頭が少し重い。
  • 顔が少しほてる。
  • 食欲がなくなる。
  • もやもやする。
  • 頭が少しふらっとする。
  • 目も疲れやすい。
  • 気持ち悪くなる。
  • 精神的に不安。
  • 身体がだるくなる(気温が上がると)。
  • 肩こり。
  • 頭が痛くなり、目がさめるときがある。

    画像の説明

この方の舌をみると、やせて、舌先が紅くなっていました(舌尖紅潮;症例72参照)。また、舌の裏側の静脈が枝分かれして、「瘀血」(おけつ)体質と診断いたしました。
腹診では特に異常ありませんでした。

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加味逍遥散(かみしょうようさん);症例72参照)を一ヶ月分処方しました。
5月12日に来られた時には、「たまに頭が痛くなる程度で大変調子いいです。」と、いわれました。
さらに一か月分処方したところ、7月23日に来られ、「たまに軽い動悸がするくらいです。」と、いわれ相変わらず調子よさそうでした(一か月分の処方で二ヶ月以上薬がもっているのをみても、調子のよさがうかがえます)。

加味逍遥散について、下田憲先生は、次のようにコメントされています。

逍遥散とは、症状が固定せず逍遥する状態を治す方の意で、何らかの婦人病的要素が加わり、逍遥する自律神経症状・肝胆道症状・血の道症を呈するものに用います。

逍遥散は神経過敏なのです。加味逍遥散は、さらにちょっとヒステリックになって、脳の症状まで出てきます。
脳の症状とは、周りの人などがちょっと理解できないような、どこからそういう発想が出てくるのだろうというような状態が出てきます。

加味逍遥散の人を外来で診るのは大変です。しゃべらせておけば、30分でもとりとめもなくしゃべっています。
もう1つ特徴的なのは、たいていたくさんメモをしてきます
それで延々ととりとめがなく、話があっちへ飛びこっちへ飛び、もう全然まとまりがないのです。

加味逍遥散の人はかわいいです(竹久夢二の描く少女のよう;下の絵を参照)。かわいくて時間さえあればいつまでも話させていいなと思うぐらいかわいいのです。しゃべることも年齢より幼く、醜いことはあまり言わないのが特徴です。

画像の説明

 

142.非結核性抗酸菌症の漢方治療(2)

次の症例は67歳、女性です。
平成21年1月頃より咳が出現、しばらく原因がわかりませんでしたが、平成21年12月の喀痰の検査で、M.アビウムが陽性で、非結核性抗酸菌症と診断されました。
他の症状としては、日中眠くてとにかく体がだるい・鼻水・口内炎ができやすいなどがあります。
咳は夕方頃よりひどくなり、特にふとんに入ってからさらにひどくなりました。
咳止めのリン酸コデイン、イノリン(気管支を拡張することによってせきを止める)、C-チステン(気道の粘液の分泌をさかんにさせると同時に,たんの成分であるムコ蛋白を細断することにより,たんの切れをよくする)などを投与されましたが全く無効で、喘息の治療薬のホクナリンテープはさらに咳をひどくするなどお手上げの状態でした。
そんな時、東京の息子さんがインターネットで当院を検索してくださり、平成22年5月25日、加古川市より来院されました。
身長153cm、体重45kg、BMI19.2と痩せ気味です。
非結核性抗酸菌症によく使う、人参養栄湯(にんじんようえいとう)を開始しましたところ、6月21日に来院され、「日中の眠気が改善し、体のだるさがずいぶんましになりましたが、夕方4時頃より始まる咳はよくなりません。」と、いわれましたので、麦門冬湯(ばくもんどうとう)を追加いたしました。
しかし、7月23日に来院され、「あまり変化ありません。」と、いわれました。
もう一度話をよく聞くと、床に入ると同時に咳がひどくなるのですが、うすい水様の痰がでたら咳がましになるとのことでしたので、小青竜湯(しょうせいりゅうとう)を夕方に1包追加したところ、「痰が出る回数が極端に減り(3/10ぐらいに減ったそうです)、それとともに咳も減りました。」と、いわれましたので、眠前にもさらに1包追加させていただきました。

非結核性抗酸菌症の症例30、173も参照してください。

非結核性抗酸菌症の漢方治療

非結核性抗酸菌症では、抗生物質の無効な症例も多く、しばしば対応に苦慮するが、漢方薬が期待以上の力を発揮することがある。
体力・免疫力の増強がその理由と考えられる。

補中益気湯‥疲労倦怠感の強い虚証の人に対応しやすい。
人参養栄湯‥補中益気湯に似るが、これに咳嗽などの呼吸器症状を伴うときに用いる。

これは、広瀬クリニックの広瀬滋之先生が岡山で講演会をされた時に教えていただいたものです。
当院では、非結核性抗酸菌症の漢方治療例があと2例ありますが、いずれも人参養栄湯を使用し、よい結果を得ております。本当によく効きます。

なお、広瀬滋之先生は、かねてより病気療養されていましたが、平成22年7月16日(金)に享年67歳で永眠されたそうです。
ご冥福をお祈りいたします。


小青竜湯

鼻炎、気管支炎、気管支喘息、うすい水様性の痰を伴う咳などに用いられます。
冷え性体質が多く、くしゃみを連発し、鼻水も透明で量が多めなのが特徴です。
肺も脾(消化管)も冷えて、気虚・水滞状態となっているものを改善する方剤です。

 

143.胃腸神経症・自律神経失調症・月経前症候群(?)

次の症例は37歳、女性です。
約一年前より、便秘・胃がもたれる・腹がはる・吐き気・口内炎ができやすい・口の中が苦い・食欲不振などの胃腸症状があり(それ以外の症状として、ソワソワ感・気分が悪くなる・足がむくむ・頭痛・肩こり・体がだるい・疲れやすい・食後眠くなる・たちくらみ・手足の冷えなどがあります)、総合病院内科で、採血検査、腹部超音波検査、胃内視鏡検査、大腸内視鏡検査などを受けましたが、すべて異常なく、胃腸神経症と診断され、「内科では出す薬はない。」と冷たく言われ、心療内科を紹介されました。
そこで、森田療法(神経質に対する精神療法)を受け、ソラナックス(安定剤)とガスモチン(胃腸の働きをよくするお薬)を処方されましたが、全く無効でした。
また、一週間ぐらい生理がだらだら続くといった生理不順もあるため、婦人科を受診したところ、芎帰調血飲(きゅうきちょうけついん;症例308参照)という漢方薬を出されましたが、やはり無効で、「漢方薬は2~3ヶ月飲まないと効果は出ない。」といわれてしまい、平成22年6月26日、漢方治療を求め、当院を受診されました。
身長161.5cm、体重48kg、BMI18.4と痩せを認めます。
舌の色は、淡く、薄い白苔と歯痕舌を認め、腹診では、特に異常ありませんでした。
そこで、脾虚が中心の病態と考え、六君子湯(りっくんしとう)(症例97参照)と、当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)(症例14参照)を1ヶ月分処方しました。
すると、1週間後の7月3日に来られ、「ソラナックスとガスモチンを飲まなくてよくなりましたが、便秘が困ります。」と、言われましたので、麻子仁丸(ましにんがん)(症例77参照)を寝る前に1包追加しました。
すると、また、一週間後の7月10日に来られ、「ムカムカ吐き気がし、夕方になるとしんどいです。便秘はよくなりました。」と、いわれましたので、当帰芍薬散が、胃に障った可能性もあると考えて中止し、かわりに半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)(症例64参照)を投与したところ、7月31日に来られ、「胃がはります。特に生理前に調子が悪く、生理が終わるとましになります。」と、いわれましたので、月経前症候群(PMS)の可能性も考え、半夏厚朴湯を加味逍遥散(かみしょうようさん)(症例72参照)に変更しました。
一週間後の8月6日に来られ、「8月1日の夜下痢をしてから調子が悪い。」といわれました。よく話を聞くと、仕事は、ある会社の保健士をされており、職場の方に”うつ”の方が多く、その話を聞くのが負担になっているとわかりましたので、可能なら職場を離れるようアドバイスさせていただきました。
それで気が楽になったのか、一ヵ月後の8月30日に来られ、「吐き気もしなくなり、調子いいです。」と表情明るくいわれましたので、六君子湯・加味逍遥散・麻子仁丸をさらに一ヵ月分処方させていただきました。

月経前症候群については、症例371、388、390、419、478、508、521、554も参照下さい。

月経前症候群(PMS)

月経前になると、「イライラする」「気分が沈んでしまう」「からだの具合が悪くなる」というような症状は、 女性の約80%の方が経験していると言われています。
このような、月経の2週間ないし1週間位前からおこり、月経開始とともに消失する、周期性のある一連の身体的、および精神的症状を示す症候群を総じて、月経前症候群(PMS)といいます。

PMSの症状は、人によって実に様々です。
症状には大まかに分けて、
(a)イライラ、気分が落ち込むなど精神症状、
(b)乳房の症状(張り、痛み)
(c)その他、頭痛、めまい、むくみ、便秘、腹痛など

PMSは、排卵のある(妊娠が可能な)女性であれば、誰にでも起こり得る症状です。 決して、特別なものではありません。
しかしながら、PMSは、月経の周期ごとに反復して現れるのですから、非常にわずらわしいものでもあります。 また、症状の度合いも個人差が激しく、症状が現れても、それほど気にならない程度の人もいれば、 逆に日常生活でさえも困難になってしまう人もいます。


芎帰調血飲

産後は瘀血やストレスがたまりやすく、また疲れやすい、産後ならどんな症状に使ってもよいです。
それを応用して、疲れやすい女性のいろいろな症状に使えます。また、イライラをともなう諸疼痛に使えます。子宮内膜症や月経困難症で痛みの激しいものや、ストレスによる背中の痛みにもよく効きます。月経不順があり、貧血性で気がふさぐ方に用います。
芎帰調血飲の概念は「女性の薬。疲れやすく、イライラし、手足が冷える人」となります。

 

144.夜泣き・疳の虫(かんのむし)の漢方治療

症例は、11ヶ月男児です。
昼間でもすぐにキーキー、カーカーとなり、眠いくせに昼寝はあまりしないそうです。
また、夜は寝付いても、突然起き出したりする。いらいらすると、自分の顔をひっかいたりするそうです。ひどいので漢方薬でなんとかしてほしいと、平成22年9月2日当院へお父さんが連れてこられました。
顔をみると、蒼白な顔で、あちらこちらに青筋が立っていました。
画像の説明
お父さんに聞くと、泣き出すと、特に左右の眼の下にくっきりと、青筋が浮かんでくるとのことでした。
抑肝散(よくかんさん(症例24、25参照))1包を朝晩に2回に分けて飲んでいただきました。
一ヵ月後の9月2日に来られた時には、「いやー漢方は効きますね。飲んで2~3時間すると、親にもたれかかってすぐ寝るようになりました。」といわれました。
私はもうちょっとはやく効いた方がよいと思いましたので、朝は半分、夜は1包飲むように指示させていただきました。
一ヶ月後の9月30日に来られた時には、お父さんが、「本当におだやかで、寝付きもよくなりました。」と、いわれました。しばらく続けていただく予定です。

抑肝散

肝気の高ぶり、肝気鬱結(症例24参照)を取り除く薬方です。
肝は「怒」の感情を内在し、筋を主どりますので、筋のひきつり(こむら返りなど)に使います。
また、肝気が高ぶると、怒りやすくなります。
成人で目を吊り上げ、青筋を立てて(中国の五行説で、肝の色は青といわれています)怒る人、そして、怒りすぎると口や手がわなわなと震えるような人に使います。
そして、子どもではいわゆる「疳の虫」の薬として使います。
「落ち着きがなく、つねに体を動かす」「神経が過敏になってちょっとしたことに興奮する」「すぐ怒ったり、泣いたりする」などが代表的なもので、夜泣きもこの「疳」によって起こると考えられています。
は、この「疳」を静める処方があるので、それらを使うことで夜泣きを改善させていきます。
また、歯ぎしり、チックにもよく使います。

 

  • 夜泣きとは?

「夜泣き」とは生後2~3ヶ月から1歳半ぐらいの赤ちゃんが、夜中に理由もなく大泣きをして泣き止まない現象を言います。
時には、言葉を理解するようになる3歳くらいまで続く事もあります。
泣き出す時間帯や期間は赤ちゃんによりそれぞれで、一度泣き出すとなかなか寝付いてくれないので、お父さんやお母さん、家族にとっても悩みのタネになっています。
しかし、この「夜泣き」は、赤ちゃんにとって睡眠のリズムを作って行くひとつの過程なので、病気ではありません。
成長するにつれて、自然におさまってきます。

  • 疳の虫とは?

古来から日本では、「疳の虫が騒ぐ」という言い方があります。これは体の中に虫がいる訳ではなく、子供がわけもなく泣き叫んだり、「キーキー」といった声を発したりする、ヒステリーのような状態になる事で、「黄昏泣き」とも言われています。
生後半年くらいの幼児に良くみられる現象で、夜泣き、興奮、奇声を発する、不機嫌、かんしゃくなどの症状を起こします。
現代医学においては「小児神経症」と呼ばれる事もありますが、脳の発達が不十分なところに次々と新しい刺激がやってくるため、うまく対応できず、情緒不安定になることが原因と言われています。
殆どは、成長するにつれ、自然に治ってきます。

 

145.小児の鼻出血・頭痛・腹痛の漢方治療

次の症例は7歳11ヶ月、女児です。
鼻血(1、2歳の頃より、鼻血のためずっと耳鼻科に通っています)、頭痛(後頭部中心)の漢方治療を求めて、平成22年6月9日当院へ来院されました。
他の症状として、足がだるいとよく言う・お腹がよく痛くなるなどの症状もあります。
身長 127.0cm、体重26.0kg(標準身長 124.8cm、体重26.6kg)。
口唇がかさかさ乾燥し、ひび割れていました。舌診では特に異常を認めず、 腹診では腹直筋緊張(;症例279参照)を認めました。典型的な小建中湯(しょうけんちゅうとう;症例26、29、109、190、192、284、321参照)の証でしたので、一ヶ月分処方しました。
一ヶ月後の7月21日再診した時には、鼻血も頭痛も治っていましたので、もう一ヶ月分処方しました。
9月4日来られたときには、「薬を飲んでいるときには一度も鼻血が出なかったのに、薬をやめると、二週間の間に、二回も鼻血が出ました。」と、いわれました。
もうよくなったと思って薬をやめていたようです。
改めて漢方薬の効き目を感じてもらえたようですので、「体質改善を目的にしているので、最低2~3年は続けてください。」と、話させていただきました。
平成23年5月21日に来られた時には、「今は何の症状もない。調子いい。」といわれました。身長も132cmと5cm程伸びていました。

お母さんたちは鼻血がでたら耳鼻科に連れて行き、何ヶ月も通いますが、そういう子でも小建中湯をのませればその日から全く鼻血がでなくなります。鼻血というのは小児の虚弱体質の診断基準にしてもよいくらいです。
鼻をほじったりとかいう、外因が何もなさそうなのに鼻血が出るというのが特徴です(下田 憲先生)。

中医学で「脾不統血」という用語があります。
「統」は統制する、制御するの意味で、「脾」(=消化器の働き)には血液が血管から漏れないようにし、また順調に身体のなかを循行するように制御する働きがあります。
「脾」が弱ってくると、「気(=気は脾で作られる)」が不足し、血液を漏らしてしまう、というもの。

例えば、胃腸が弱ってくると、体の元気も無くなり、生理の出血がいつまでも止める事が出来なくてダラダラ続いたり、あるいは尿に血液が混じったり、鼻血が出るときもあります。
治療は、「気」を補って止血機能を増強することです。

小建中湯の“中”は体の中心部である胃腸をあらわし、胃腸を建立し丈夫にするという意味合いがあります。漢時代の「傷寒論」および「金匱要略」という古典書で紹介されている処方です。
適応証(体質)は、虚証(虚弱)、寒証(冷え)となります。

 

146.のどや胸にかけての詰まる感じ 、気滞(気うつ)の症例(3)

次の症例は54歳、女性です。
約一年前より、喉や舌にいぼのような物ができて(しかし、見た目には何もない)気持ち悪く、また、のどや胸にかけて詰まる感じがするため耳鼻科を受診するも、「全く異常なし。」と、いわれて、今度は内科を受診しましたが、やはり、「異常なし。」といわれ、うつ病の薬を処方されました。
飲み物や食べ物を摂ると、少し症状がましになるため、氷や冷たいものをたくさん摂取し、そのため少し体重が増えたそうです。また、背中をご主人にマッサージしてもらうと、一時間ぐらいは症状がましになったそうです。
いくら、つらい症状を主治医に訴えても相手にされないため、娘さんが当院のホームページを見られ、平成22年8月5日たつの市から受診されました。
他の症状として、口内炎ができやすい・のどや口が渇く、頭重感・肩こりなどがあります。
身長155cm、体重55kg、BMI22.9。
舌の色は、淡く、薄い白苔と歯痕舌を認め、腹診では、みぞおちが少し、硬く(=心下痞硬(しんかひこう)、胃内停水音を聴取しました。
そこで、のどや胸にかけて詰まる感じがするのを、「気滞(気うつ)」ととらえ、半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう;症例102参照))と、六君子湯(りっくんしとう;症例97参照)を合わせて2週間分処方しました。
8月17日に来院された時には、「朝は症状がよくなってきましたが、だんだん夕方にかけてまた症状が出てきます。」と、いわれましたが、初診時とは違い、全く表情が明るくなっておりました。
しかし、まだのどがよく乾くとの訴えがありましたので、六君子湯に変えて五苓散(ごれいさん)を処方したところ、四日後の8月21日に来られ、「また、最初のように調子が悪いです。」と、いわれ、表情も初診時のように暗くなっていました(舌の白苔も厚くなっていました;下の写真参照)ので、また六君子湯へ戻した所、9月10日に来られ、「のどのふさがる感じは半分ぐらいになりました。」と今度は明るい表情でいわれました。

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今回の症例は、口の渇きに良く使う五苓散を使用したところ、症状が悪化し、また六君子湯に戻すと症状が改善したことから、六君子湯がよく効いた症例と考えられますが、本剤は胃腸が虚弱タイプの心身症・神経症・不眠症にもよく使われます。
イライラ、クヨクヨ、耳鳴り、ふらつき、不眠、のぼせに適応が多いです。
六君子湯に含まれる、陳皮・半夏の生薬は、体内の余分な水分と同時に気の滞りをも排除する働きがあります。
対人関係に負けて、胃も痛い、食欲もない、肩も凝って夜も寝られない、という症状がでてくると六君子湯です。
半夏・厚朴は軽く気が廻ってない状態で、陳皮・半夏はもう少しうつ的になっている状態に使います。

 

147.朝が全く起きれない子供

次の症例は5歳、女児です。身長115cm、体重20kg。
「早く就寝させても、朝が全く起きれない。」、「夜熟睡できていないようだ。」との症状があり、平成22年9月3日、お母さんが漢方治療を求めて、太子町より連れて来られました。
また、1週間に1回くらい、1日5~6日回くらいの水様性の下痢が誘因もなく起こるそうです。
舌をみると、子供にはめずらしく紫がかり、舌先が紅くなっていました(舌尖紅潮;症例72・141参照)。
加味逍遥散(かみしょうようさん)(症例72参照)を2週間分処方しました。
9月27日に来られた時には、「朝すっきり起きれるようになりました。また、下痢も一度もありませんでした。」と、いわれました。それとともに、「漢方薬がおいしいと、喜んで飲むんです。」ともいわれました。よく合っている証拠だと思います。
「このような症例が来たときに、漢方を知らない小児科の先生だったらどうするんだろう。」と、ふと思いましたが、まさか睡眠薬を処方することもできませんでしょうし、本当に漢方をやっていてよかったと考えさせられた症例でした。

なお、後日談ですが、平成23年6月13日に来られた時に、お母さんが、「時々夜に飲ませるのを忘れる時があるんですが、そんな時は決まって、夜熟睡できず、朝すっきり起きれないんです。」といわれました。

148.土踏まずの痛みの漢方治療

次の症例は44歳、女性です。
約一ヶ月前より、左右の土踏まずが、朝起きたときにズキズキ痛み、また足もしびれるため、よろけて歩けないと、平成22年9月1日来院されました。症状は朝が中心でそれ以外の時間帯はそれほどでもないそうです。
湿布は全く効かないそうです。
身長154cm、体重67kg、BMI 28.3と肥満傾向です。
この方の舌を見ると、紫がかり、舌の裏側の静脈が膨れ、枝分かれしており、瘀血(おけつ)体質と診断いたしました。
そこで瘀血(おけつ)体質によく使う、桂枝茯苓丸加薏苡仁(けいしぶくりょうがんかよくいにん)(症例67参照)と、ちょうど土踏まずに、「湧泉(ゆうせん);位置は下の写真を参照のこと」というツボがありますが、これは五臓の「腎」の経絡のツボにあたることから、「腎」が弱っている可能性を考え、牛車腎気丸(ごしゃじんきがん)(症例47参照)を合わせて一か月分処方いたしました。
ちょうど一ヶ月後の9月29日に来られ、「右の痛みは全くなくなり、左はまだ少し痛みます。しびれはとれました。」と、いわれましたので、さらに同じ処方を一ヶ月分処方させていただきました。

画像の説明

 

149.左胸とそれと同じ位置の背部痛・耳鳴り

次の症例は62歳、女性です。
平成22年9月1日より、左胸とそれと同じ位置の背中の痛みが出現し、また耳鳴り(キーンという音)もあるため、お隣の太子町より漢方治療を求め、9月9日来院されました。
身長156cm、体重50kg、BMI20。
その他の症状として、肩こり・イライラ・動悸・手足の冷え・寝付きが悪い・夜中に目が2~3回さめるなどがあります。
この方の舌をみると、紫がかり、舌下静脈が怒張し、枝分かれしており、また舌先が紅くなって方ました(舌尖紅潮;症例72・141参照)。
腹診では特に異常は認めませんでした。
念のため、胸部のX線も撮りましたが、異常ありませんでしたので、加味逍遥散(かみしょうようさん)(症例72参照)と耳鳴りに対して、牛車腎気丸(ごしゃじんきがん)(症例47参照)を合わせて一ヶ月分処方しました。
一ヵ月後の10月6日に来られた時には、「痛みは3日ほどでなくなりました。耳鳴りは完全にとれていませんが、同じキーンという音でも気にならなくなってきました。また、夜中に2~3回目が覚めていたのが、1回もしくは0回になりました。」と、いわれました。
よく効いているようですので、また同じ処方を出させていただきました。

最近気になっているのですが、ストレス社会を反映してからか、舌の先が赤くなっている人が多いように思います。
そのような例には本当に加味逍遥散がよく効いてくれます。

150.頭痛・腰痛・肩こりの漢方治療

次の症例は57歳、女性です。
約25年前より、頭痛・腰痛・肩こりに悩まされ、特に頭痛はひどく、筋緊張性頭痛といわれ、消炎鎮痛剤・筋弛緩剤・安定剤などを常用されていました。
今回漢方で治療されたいと、平成19年7月3日、たつの市から来院されました。
他の症状として、便秘・腹が張る・腹が鳴る・胃がもたれる・みぞおちがつかえる・口内炎ができやすい・薬で胃があれる・足や顔がむくむ・汗をかかない・口が渇く・疲れやすい・食後眠くなる・気分が沈む・寝付きが悪い・夜中に目が覚める・眠りが浅い・冷え性(特に冬には手足が冷たくなる)などの症状があります。
舌や腹診では大きな異常はありませんでした。
ただ、下腿に細絡(症例91参照)を多数認め、症状と合わせて判断すると、水毒+気滞+瘀血があるのは間違いないと思われました。
九味檳榔湯(くみびんろうとう)を処方したところ、一進一退を繰り返しながら、平成20年9月頃には、軽度の頭痛以外の症状はすべて取れ、11月12日来られた時には、「この一ヶ月間は一度も頭痛がしなかった。」といわれました。
現在に至るまで(平成22年10月現在)、同じ処方を続けておられます。

九味檳榔湯について

水毒の症状は、むくみ(身体の部分的なむくみ、例えば顔が腫れぼったく、眼の周囲が腫れているとか、脚の脛の部分が腫れるとか、朝起きたら手が握りにくいとか、そのようなむくみ)、あるいは、全身の倦怠感、何となく身体が重く、動作が大儀いといった症状。その他、めまい、動悸、頭痛、頭重感、耳鳴り、あるいは、下痢、嘔吐、腹鳴、口渇なども起こすことがありますし、時には神経痛や関節痛も水毒がその背景になっていることがあります。

このような、むくみ、倦怠感、神経痛などという水毒の一部の症状は、実は脚気の症状とよく似ています。脚気様症候群と言ってもよいくらいです。
脚気という病気は、戦前はよく診断されていた病名です。
この脚気はビタミンB1の欠乏症であることが解明され、麦飯やB1の豊富な食品(米ぬかなど)を摂取するようになって、この脚気という病気は見られなくなりました。

このような水毒症状あるいは脚気様症候群を治す薬に、九味檳榔湯という処方があります。
檳榔子(びんろうじ)は、「気を破り、水を追払う」作用、橘皮(きっぴ)は、「気をめぐらし、湿を乾燥させる」作用、厚朴(こうぼく)には、「湿を去り、満を散ずる」、木香(もっこう)には、「諸気を降ろし、鬱を開く」作用、蘇葉(そよう)には、「諸気を降ろし、脹満を除く」作用、桂枝(けいし)には、「血脈を通じる」作用があるとされています。すなわち、主として、気滞(症例102、103参照)をめぐらし、水毒を去り、血滞を通じる生薬から構成されています。
また、瀉下作用のある大黄も含まれています(ただし、下剤としての作用は強力ではないです)。

龍野佐知子先生は、本剤の特徴を、「裏虚(消化器の働きが弱い)が背景にあるため、その結果として、上部の熱のこもりが頭痛・肩こりを形成する。」と述べておられます。

九味檳榔湯を服用すると、顔や目の周りの腫れや脚のむくみがひき、よくふくらはぎの筋肉の「こむら返り」が起こり易いのが消失します。また気のめぐりを良くする働きもあるので、色々な自律神経症状にも効果があるようです。

なお、基本的には温める薬なので、熱証には使わないようにします。